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TransSexual  作者: 風花
3/22

2.社交界デビュー


さて社交界ですパーティーです。


帰ってもよろしいでしょうかママン。


俺は諦めんぞ。最後まで何とかなると。


「さぁ私の可愛いレディ行っておいで」


パパンが恥ずかしいセリフと共に娘を送り出してきやがったよ。

助けてっと視線で訴えたがニコニコするだけでパパンはこくりと頷く。


違うのそうじゃないの。娘の背中を押す父親を演じてほしいんじゃないの。


「大丈夫。今日の君は最高に素敵だよ」


いやだから違げぇよ!


くっさいセリフしか量産しないパパンを俺は見捨て助けてくれそうな妹を見る。


「うんすっごく可愛いよお姉さま!」


天使は天使のままでした。はい。

わぁったよ行けばいんだろダンスフィールドに。えぇ行ってやらああっ


庶民の底力見せてやる!


コツンと白い靴で地面を鳴らし淑女たる俺は進む。

うっざい長いスカートを華麗に扱い、今夜デビューする淑女たちの輪へ突入。


同じような白いドレスと頭には花飾りが付いたティアラ。

違うところは皆の顔面偏差値が高いことくらいか……。


「うっ」


こらフリージアちゃん落ち着き給え。

君も普通に可愛いから、いいから劣等感とか引き起こすな。


俺はいまからのダンスの方が緊張してんだ。

無駄な張り合いは損しかないぞっだからどっかいけ胸の痛みよ。


「……」


くそ完全に乗り遅れた……。

いつの間にか、俺はただ自分の靴の足さっきしか見てなかった。


ざわつく会場の音は何処か遠く同い年くらいの少女達の声が聞こえる。


「あの子が第9階位エディフィールド家長女のフリージア様?」

「えぇ。今日が社交界デビューなんですって。私たちと同じね」


……はい。初めてなんで優しくしてね。

花も恥じらう乙女たちは笑顔で花を咲かせていた。


あ、俺?俺はさ男だからほいほい笑えんのよわかる?


男は無表情がデフォルトだから。

あぁ女の子の輪って良い匂いしそうとか思てたし居心地よさそうだったんだけど。


実際にいると窮屈で面白くもない。

良い匂いはするけど、楽しくないな。まっ俺は男だからな仕方ない。


「……はぁ」


おっとため息。こらこらダメじゃないか。

ってあれ?いつの間にかペアが出てきたぞ?


俺はハッと辺りを見回した。

白いドレスの女の子達は年上の男性からダンスを誘われていた。


あぁそうだったデビュー戦でしたねここ。


初めから相手が決まっている子に、誘われて応じるお嬢様までいる。


俺は誰とも踊る予定もないし誘われ待ちなのだが。


……まぁ可愛い白いドレスが似合う少女を選ぶよな。

地位はそこそこだけど俺ってば友達もいないし可愛くもないし……。


淑女たるもの。殿方を俺から誘うのはタブーだしなぁ。

その面倒なしきたりやめません?女の子から誘われたら嬉しいでしょ?


俺だったら浮足立ってヘラヘラしながらダンスを踊るわ。


っと俺が壁の花(笑)になりたいなぁっぼうっとしていると会場が少し湧き立つ。


え?なに??


本日の主役であるデビューを控えた少女たちは顔を赤らめている。

視線は同じところを向き、キラキラと輝いていたし会場の奥様もほぉっとため息。


旦那隣にいるのにいいのそれ?

あぁでもアイドルを見るような感じだからセーフなのか?


というかなになに?

社交界にも、貴族社会にも知り合いがいない俺を置いて行いでくれ。


視線を彼女たちと同じ方へ向ければ、先ほどの泣きべそジークフリード君がいた。


黒髪に銀色の瞳。片目は眼帯で隠されている。


「……」


いやその顔を見たときから知ってたけどな。

ジークフリード君がイケメン。いや美少年だってな。


男のくせに艶のある黒い髪に星を散りばめた銀色の瞳は一度見たら忘れんだろう。


はぁ……腹立つ。だからあえて無心でいたのに。

こうも女性たちが浮足立つのを見ると心が冷たくなるわ。


ひゅんっと冷たい風が俺の心に吹き抜けた。

馬鹿らしっと視線を外して、誰か俺を誘ってくれないかと周りを観察。


ダンスに誘った彼女が別の男に釘付けで自信をなくす少年を探そうか。


空いてますよ~ダンスは下手だけど。

いい感じの地位の女の子だよ~踊っとけばそれだけで一時は話題になるよぉ


妹を見て、俺を知ってがっかりだろう顔を晒そうが気にしないぜ。


俺は寛大な男。目を瞑って踊ってやろう。


「フリージア」


……。


「?どうして無視するんだ。さっき会っただろう」


貴様には悲鳴のような奇声を放つ少女達の声が聞こえんのか。

イケメンは耳が悪い覚えたぞ。じゃっ俺は忙しいのでこれで。


ふわぁ~っと俺は聞こえてませんよと無視。

ちょっと離れてみよう。固唾を飲み好奇心を燻ぶらせる少女達の視線から逃れるのだ。


「っ!フリージア」

「わっ」


ジークフリードの隣をすり抜けるとやや大きな声と腕を引っ張られた。


流石の俺氏、これにはビックリ。

でも相手もビックリ顔。なんなのお前意味わからん。


「やっとこっちを見た」

「……」


がっつり見てしまった。いやまだ間に合うか?

無言でジークフリードを眺め周囲が何事?っと怪しまれていく。


第11階位のジークフリードと揉め事を起こすわけにはいかない。


これ以上の注目は浴びたくもないし俺は諦めた。


「……なに」


酷く低い声が出ていた。

ジークフリード少年は掴んでいた腕を放してくれた。

少し背の高いジークフリードは俺とがっつり目を合わせてきた。


「避けないでくれ……」


少し潤む少年の瞳は真剣で懇願しているみたいだった。


え?なんで避けたらいかんの??


「それは私の勝手では?」


俺は声を潜めながら、誰にも聞こえないように呟く。

不機嫌さを隠しもしなかったが、顔面の筋肉はにこやかに笑っていた。


カモフラージュじゃボケ。

だから変人を見るような目で俺を見るんじゃない少年。

いいか?世の中はこうして表と裏で出来てんだ学習したまえ。


顔は笑顔、しかし言葉は辛辣。さらに畳みかける。


「ジークフリード様と一緒にいると目立ちます。

 用はないでしょうから声を掛けないでください」


君へのお節介はさっき済ませたの。

俺の優しさは期限付きで、そして俺は今が修羅場中なのだ。


君といることで余計に俺と踊ってくれそうな少年が消えていくだろうが。


さっさと離れて俺は戦場へ戻る。

一回でも誰かと踊らないとお家の恥になるではないか。


そして俺も目立つじゃねぇか止めろください。

静かに生きたいのです。未だに男なのに女の子に慣れてないんだからな。


テンション高めに生きなければちょっと心折れそうなのよ。


さぁ再びジークフリードから離脱しようと動こうとした時。


「フリージア。僕を避けたこと後悔させてあげる」


あれ?弱弱しいジークフリードたんはどこ?

いい笑顔を浮かべた彼は、恭しく俺の小さな手を握った。


「僕とダンスを踊って頂けませんか」


会場はうるさくはないが人々の声で賑わっていた。

しかし少女である俺の手に唇を寄せて上目遣いのジークフリードは目立った。


やや大きめな声で誘われ、正式なダンスの申し込みをされてしまった。


「……なん、ですって」


ぼそりと動揺を滲ませる俺に目の前の少年はにやりと笑った。

それも俺にしか見えないように。なん、だと?


先ほどの吹けば折れそうな繊細な少年はどこへ行った???


はっとざわつく人々の視線は俺たちに降り注いだ。


「ぅ……よ、喜んで御受け致しますわジークフリード様」


断 れ ね ぇ !


ちくしょー!!やりやがったなこの野郎っ


勝ち誇る顔を晒す野郎を俺は殴りたくなった。


が、ふとこれで社交界デビューの任は解けたと理解する。

なんかプレミアム君と踊ることになったけどいいかのこの際。


今のこの瞬間の注目度を我慢すればいいんだから。


さぁ落ち着け俺の心臓。

今か今かと音楽が始まろうとしていた。


ジークフリードは俺に腰に手を回した。

自然な動きだ。スマートな動きに腹が立ってきたぞ☆


って違う。落ち着け今はそれどころではない。

俺もダンスのスタイルを取らねば……ふぅ危ない。


「フリージアはダンスが苦手?」


音楽が始める刹那の時間。

慌ててポジションを確認する俺に含み笑いでジークフリードは問いかける。


……野郎。勝ち誇ってやがる。


「えぇそうよ。悪い?」

「あ、いや……今のは失言だった許してくれ」


音楽が始まり俺たちはダンスを開始した。

さっきの自慢に満ちたジークフリードは今は気まずそうに目が泳ぐ。

ステップはそれでも完璧で、俺が足を踏みそうになる度にうまく避けていた。


うま……えっとすまんありがとう。

足を踏んで転倒を回避でたわ。うん、すげぇ。


「……ごめんなさい。踊りづらいでしょう」

「いや大丈夫だよ。それよりどうして僕を避けたの」


根に持つねぇ~……何がそんなに気になるんだが。


「あなたはとてもイケ……かっこよくて注目を浴びるわ。

 私はね静かにこのデビューを終わらせたかったの」


くるくると視界は回る。

ダンスはジークフリード君に預けて俺は楽をする。


「でも、そうね今だから言うけど……。

 私のような子を誘う男の子っていないわ」


俺もフリージアも人見知りだ。

しかも中身は男の俺。誘われても断っていたかもしれん。


だからちょっと素直に大人な俺は思うわけ。


「……避けてごめんなさい。

 あと誘ってくれて、助かったわ」


硬い声は小さくともここまで相手と近ければ聞こえただろう。

まぁ確かめるつもりもないから、視線は宙を漂う。


「よかった」

「ん?」


頭上から安堵の言葉が降り注ぐ。

なんや?と視線を上げればイケメンの笑顔にぶち当たる。


「避けるから、さっきの出来事は僕が妄想したものかと思った」

「……いつも白昼夢でも見てるの?」


やべぇヤツじゃん早く離れたい。

うわぁっと顔を歪めた俺に可笑しそうにジークフリードは笑った。


「くく……いや、ふふ」

「笑いすぎです」

「だって、そうズバズバと言うご令嬢もいなくてね」


しまった淑女でした俺。

貴族の娘たるもの、裏と表を使いこなせねばやってられん。


母の猫のかぶりかたを覚えねば……。


俺はとびっきり笑顔を貼り付けておほほと笑う。


「さっきの発言はお忘れください」

「ん?ふふそうだね忘れてもいいけど……僕が泣いてたこと誰にも言わないならね」


……俺、そこまで外道じゃねぇぞ?


「馬鹿にしないで、私はそんなことしません」

「……そう?」


疑われているだと?

親切にも色々と教えてやったこの俺に???


カーッ恩を仇で返すか小僧!


俺は睨みつけながら憤慨する。


「家名にかけて誓いますわ」


これならどうよ?

俺はふんぞり返る気持ちでジークフリードを見る。心なしか怒りで顔が火照ってる気がする。


「ありがとうフリージア」

「いいの。わかってくれたのね」


この俺の正しさを!ふふんと気分がいい。

鼻歌でも歌えたらさらに良かったんだけどなぁ。

まぁいいわそろそろ音楽も佳境。この苦行は終わりを迎える。


「フリージア。お願いがあるんだ」

「え?嫌です」

「……僕じゃなかったら心が折れているところだよ。

 大げさなお願いじゃないから、ね?」


いや何だが嫌な予感がすんでね。へへ。


「嫌です」

「そう言わずにって、ん??」


最後のダンスを踊りながら俺は何故か視界がぼやけていた。


あれ?あれ??酔った???

ジークフリードのリードのおかげでダンスは踊れているが……。


「フリージア?」


声が遠いいような……どうしたんだ?


じゃんっと音楽は止まった。

会場から一斉に拍手が起こり、俺の社交界デビューは終えたのだ。


あれ?可笑しいな……ダンスは終わったんだよね?

それなのにどうして俺は揺れているの??


「ハァ……」


吐く息が熱い。ぼーっと視界は曇って見づらいな。

そんなクラクラの俺の眼前にジークフリードの顔があった。


「え?」

「フリージアどうした……あ、顔が赤い」


ぴたりと冷たいジークフリードの手が頬を撫でた。

っと俺はぐらりと体が傾いた。


「っ!?」


地面と激突するよりも早く俺はジークフリードに支えられる。


しかしジークフリードも少年だ。

支えたはいいが抱き上げることも出来ずに一緒に地面にへたり込んだ。


俺は遠くで母や父の声を聞いた。

悲鳴のような叫び声と、妹の顔が歪み泣いている姿も見た気がした。


「フリージア!」


一番近くに居たジークフリードを視界にいれたまま俺は目を閉じた。

冷たい手の感触だけが俺の世界を作っていた……。




ぐったりと僕の腕の中でフリージアは目を覚まさない。

熱い体は燃えるようで彼女の白い肌は赤く火照っていた。


「フリージアっ」


何度、声をかけても彼女はピクリとも動かない。

ただ僕は抱きかかえるしかなく茫然としているしかなかった。


会場は阿鼻叫喚。

彼女の両親が慌てて駆け出してきた。

美しいご婦人は縋り付くようにフリージアの手を握る。


「あぁフリージアっ目を開けて……」

「お姉さま」


そのすぐ隣で妹のシンシアが泣き崩れるようにへたり込んでいた。

そんな彼女を抱き上げる男性は僕を安心させるようにほほ笑んだ。


「ありがとう。君のおかげで娘が怪我を負うことはなかった」

「でもフリージアが……」

「大丈夫。少しフリージアは身体が弱いだけさ。

 それにお医者さんも呼んだ。大事には至らないよ」


彼女の父は無理にフリージアを動かそうとはせず、その傍で待機していた。


「すまないが、そのままフリージアを動かさないでほしい」

「はい。それは大丈夫ですが……」

「熱が出ているだけだとは思うんだがね、万が一もあるから」


心配そうな彼女の父に僕は頷いた。

腕の中に納まる彼女を僕は抱きかかえたまま医者がくるのを待った。

バタバタと複数の足跡が近づいているのには気づいた。


フリージア……可哀そうに。

辛いよね、少しでも君の苦しみが和らげばいいのに。


真っ赤にした頬を僕は撫でる。

彼女の身体は熱くて、僕の手が逆に冷たく感じるだろう。

僕が触ると少しだけ眉間に寄った皺が緩むのが見えた。


治れ。治ってくれ。


フリージア。僕はもっと君と話したいよ。


君をもっと知りたいんだ。

知って、言葉を交わして、そして友達になろう。


だからフリージア。

元気になって僕と一緒に遊ぼう?


強く、僕は願った。

苦しむ彼女を見たくなくて。

そして何もできない僕の歯痒さを痛感しながら。


するとポケットに入れていた宝珠が熱を発した。

僕は彼女の言葉を思い出した。


『強く、願いを思い浮かべて。宝珠は奇跡の塊』


ポケットから僕は紫色の宝珠を取り出した。

そしてそっと彼女の額に押し付けて、僕は願う。


強く。


フリージアを助けて、と。


宝珠はいつの間にか僕の手から消えていた。

消滅した宝珠と、激しい呼吸を繰り返していた彼女が眠るように安堵の表情を浮かべているのに気付いた。


「フリージア?」

「すぅ……すぅ」


彼女は少しだけ赤らんだ顔をしながら静かに眠っていた。

そこにお医者さんが到着。大人たちに彼女を引き渡しバタバタといなくなった。


僕は彼女が見えなくなるまで、その姿を見つめた。


「……無力だな僕は」


幼い彼女一人も救えない。


フリージアは僕の能力をギフトと呼んでくれた。


「今度会うときはもっと強くなってるから」


再び会える時、僕は君を驚かすことがきっと出来る。

その時は、あの取ってつけたような笑顔ではなく本当の君を見せてほしい。


ジークフリード少年、この時11歳の出来事であった。






「あり?ここは……」


目覚めたらそこは自分の寝室。

身体は熱く、気分も最悪だった。

幼い子供の俺は緊張と夜風に当たりすぎたせいで熱を出したらしい。


またもやベッドの住人となり数日を過ごしてしまった。

両親は心配性でなかなか元気になっても外に出させてはくれなかったし。


そうして2週間が経ち、俺はようやく自由を手にした。



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