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TransSexual  作者: 風花
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おまけ「キールルート②密会ちゅう」



キールが仕事を終えたので、俺の家に向かうことになる。


図書館を出た時に、顔見知りの司書さんと目が合った。


お互いに無言で視線をそらしたぜ……はは。


ともかく、キールを連れて俺の家にやってきた。


「ただいまぁ。レイズちょっと来て~」


玄関先でレイズを呼ぶ。

てくてくとやってきた黒ウサギのマリオネットは俺を見上げた。


「オカエリ。フリージア」

「ねぇレイズ。キールに家の出入りの許可を出して頂戴」

「了解。登録スル」


レイズはキールの前に行くと登録作業を始めた。

キールは登録作業中、なんだが首を傾げていた。


「……まぁいいか」


ぼそりとキールは呟いていた。

俺も首を傾げたが、それ以上に何か言うつもりはないようだ。


レイズの登録作業が終わると、改めてキールを招いた。


「キールどうぞ入って」

「お邪魔します」

「はーい」


リビングにキールを案内し、近くのソファに腰かけてもらう。


「キールはここで待っててね。今から私、晩ごはん作るから食べてって」

「フリージアが作るのか?」

「えぇ。口に合えばいいのだけど……」


何せ庶民舌ですから俺。

シェフが作った料理は俺には作れないし……。


台所にエプロンを付けながら向かい、さて何を作ろうかと考える。


「うーん」


凝ったものは今からじゃごはん遅くなるし。


「うん。シチューにしよう」


牛乳もあるし。クリームシチューにしよ。

そうと決まれば俺は冷蔵庫から食材を取り出していく。


必要なものを取り出して、俺は肉や野菜を切っていく。


俺の作業音が響く中、キールが感心したように近づいてきた。


「手際が良い」


手元を覗き込んだキールは珍しそうにしていた。


「毎日、自炊だもの」

「そうか。私も手伝おうか?」

「ううん大丈夫よ。任せて」

「……それじゃぁ私は食器でも出しておくよ」


にっこりと笑ったキールは食器棚からスプーンやらお皿を取り出す。


「えっキールはお客様だからいいいのっ」

「気にするな。私がしたくてしているんだ」

「でも」


手を止めてキールの方へ視線を向けると、何故かじっと見られていた。


「え、あの?」

「……いいな」


な、なにがですか?

なんだがキールの視線が俺を下から上まで見ているよう。


大学の制服の上から白いエプロンを着ているだけなのだが?


「報酬分は働くものだろう?」

「う、うん?」

「いいもの見せてもらった。

 フリージア、この食器でいいかな?」

「あ、はい」


やめよう。何も考えるな俺。

身の危険を感じたような気がしたが、気のせいだきっと。


さて作業に戻るとしよう。

キールのことは気にしないで、俺はシチュー作りに没頭する。


視線がずっとこちらを向いているような気がするが気にするな俺っ。


そうこうしているうちにシチューは出来上がっていた。


……夢中で気づかなかったぜ。


「できたのかな?」

「うん。キールは座って待っててよ?」

「わかった」


シチューをよそってもらうわけにもいかん。

俺はさっさと台所からキールを追い出して、シチューを盛りつけた。

そして朝かってあったパンも暖かくしておいた。


おぼんにパンとシチューを乗せ、ダイニングテーブルに座ったキールの前に配膳する。


「口に合えばいいんだけど」

「フリージアが作ったものなら、なんだって美味しい」

「ええ?もう食べてから言って」


俺も自分の席に座り、二人向かい合った。


「では頂います」

「はい。私も頂きます」


二人同時に食べ始めた。

味見もしっかりしているから美味しいとは思うんだけど……。


シチューを口に運ぶ様をじっと見てしまった。

以外にも男らしく食べるキールにちょっと面食らったが。


もぐもぐと咀嚼をし飲み込むまで固唾を飲んで見ていた。


「く、くく……」


そうしてたら楽しそうにキールは声をもらす。


「フリージア。そんなに見るんじゃない食べづらいだろ?」

「はっ!?そ、そうね。ごめんなさい」

「いや、くく……」


気になって見つめてしまっていたことに恥ずかしくなった。


う、うおー……だって身内以外に食べさせたことなかったから。


お菓子とかなら決められた分量で作れば美味しく作れるけど、料理って好みだし。


濃いとか薄いとかあるだろ?そもそも。

大丈夫かなぁって心配で。うぅ……そりゃ食べづらいわ見られてたら。


俯いていた俺に、キールは笑うのをやめて優しく声をかけてきた。


「美味しいよ」

「ほ、ほんとう?」

「嘘言ってどうする。毎日食べたいくらいだ」


そう言ってぱくっとまたシチューを食べた。

そしてキールは俺に向かってほほ笑んでくれた。


「うん。よかった」


ほっと笑顔がこぼれた。

安心した俺は自分の分のシチューを食べてほっこりとお腹を満たした。


穏やかな夕食となり一人じゃない食事は楽しかった。


片付けもキールは手伝ってくれて洗ったものを拭いてくれている。


「キールっていい旦那さんになるわね」

「……そうかな」

「えぇ。お嫁さんになる方は幸せね」


イケメンでお金持ってて、優しいんだぞ?

そんな男を旦那に出来た女性は、誰よりも幸せに決まっている。


もし俺が男に戻れても、フツメンでお金と地位だけある童貞野郎になるだけである。


ひ、ひでぇ。目も当てられねぇ。


今生も俺は独り身だな。と一人遠くを見つめる。

胸に小さな痛みが走った所で隣から大きなため息をが聞こえた。


「ん?」

「いつになったら意識してくれるのか」

「はい?」


なにを?なにが??主語ください。

頭に疑問符を浮かべる俺に対し、キールは首を振った。


「近いうちに教える」

「う、うん?」


腑に落ちないが、まぁいいかと流した。


洗い物も終わった頃にレイズがお風呂を沸かしておいてくれたようだ。


「フリージア。オ風呂湧カシタ」

「ありがとうレイズ」


わしわしと可愛い頭を撫で終わると、レイズとはとてとてと離れる。

ソファで寛いでいたキールの肩を叩き振り向かせた。


「お風呂入って」

「……。……あぁ」


寝ぼけているのだろうか。返事が遅い。


「眠いの?」

「いや、はぁ……入ってくる」


のっそりと動き出したキールは自身の手に持つから着替えを取り出していた。

そしてこちらを振り返ることもなく風呂場へと向かっていった。


「変なこと言ったかなぁ?」


大きな背中を見送った俺は一人、首を傾げたのだ。

その後、お風呂から帰ってきたキールは無言でお水を一杯飲むと客間へ行ってしまった。


あ、あれ?やっぱりなにか変なことしてた??


思考を巡らせたが、結局わからなかった。

しかたないので俺もお風呂を入ることにしたのだ。


お風呂から上がってもキールの姿はなく、もしかして具合が悪くなったのでは?と考えた。


なので俺は客室をこっそりと訪問してみた。


「キール」


返事はない。中で気絶してんじゃないだろうな??


失礼だとは思ったが俺はそのまま部屋の中に入ることにした。

ベッドがもっこりしているので寝てはいるらしい。


顔を覗き込むとすやすやと寝ているようだ。

そっとおでこに手を当てて熱がないか確かめる。


うん。大丈夫そう。

じゃぁ疲れたのかな?まぁ毎日忙しそうだもんな。


俺はキールの寝顔を眺めながら、荒れた髪を撫でた。


「お疲れ様。ゆっくり休んでね」


母親が子供にするように、俺はキールのおでこに軽くキスをした。


「おやすみなさい。キール」


起こさないように囁いて部屋を後にした。


ドスンッ


「……?」


客間から音がしたがそれから物音はしない。

なんだろう?とは思ったがモノが落ちただけだろうと思って無視することにした。


さて俺も寝よ。ふぁあ……ねむい。


今日は色々あったな。

寝室に向かう俺に付いてくるようにレイズが後ろにいる。


「レイズも寝よっか」


俺はレイズを抱き上げて寝室に入った。

もふもふのレイズを抱きしめながらベッドに乗り上げる。


シーツの冷たさが心地よく、眠い身体は自然と重くなる。


「おや、すみ……」

「オヤスミ。フリージア」


うとうととした思考の中でレイズが頭を撫でてくれたような気がした。




次の日。いつものようにレイズが起こしてくれた。


もふもふの手で顔をぽふぽふされるのは気持ちいい。


「うううん……おはよー」

「オハヨウ」


レイズを抱きしめたままの俺は、そっと開放する。

するとぴょんっとベッドを降りたレイズは寝室を出て行った。


ベッドから俺は抜け出し、いつものように顔を洗いに行く。


「ふぅ」


意識がしゃっきりしたところで、私服に着替えてゆく。


「今日は、学校いかなし……ラフなやつでいいか」


外に出る予定もないしと、簡素なワンピースを着用。

薄いベージュ色で細かな刺繍が施されているが派手ではない。


俺がワンピースを好む理由はまず楽だからだ。

一瞬で着替えられて身動きもしやすいし、ロングスカートは落ち着く。


若い子は短いスカートを履くようだけど。

フツメンなフリージアには似合わない様な気がした。


着替え終わった俺は髪はどうしようかと考えた。


「うーん」


腰まである長い髪は邪魔だ。

しかしどこも出かけないのに結うのも億劫だ。


しかし少し考えて、俺はサイドの髪だけを後ろに縛った。


最後にはやっぱりキールから貰ったリボンを結ぶ。


「今日は茶色」


準備を整えた俺は台所へと赴き朝食を作り始めた。


パンとフルーツと野菜スープでいいだろう。

軽い食事をパパッと作り終えたあと、起きてこないキールの様子を伺うことにした。


客室の扉を叩く……返事がない。

具合が悪くなったりとかしてないよな?


「キール。入るわよ?」


やはり返事はない。俺は部屋に入ることにした。

中に入るとやっぱりベッドがもっこりしているので寝ているみたい。


キールに近寄ってみると、髪はあちこちと弄られていた。


「あらあら……妖精さん?」


魔眼を使うまでもなく妖精の仕業だろう。

悪戯がバレたからなのか、見えない妖精はキールの髪を弄るのをやめたようだ。


ベッドに近寄りキールの頭を直してやる。


「キール。おはよう起きて」


う、うーん。お疲れなのか起きる気配はなし。

仰向けに寝ているキールの身体をゆするが、しかし起きない。


寝起きが悪いタイプか。


「もう……っ」


俺だって寝たいのにっ起きて朝ごはん作ってるんだぞ!


何がなんでも起こしたくなって俺は勢いよく布団を引っぺがした。

っと同時に手首を握られて引っ張られるままベッドにダイブした。


「わっ!」


どすんっとけっして軽いわけじゃない身体を仰向けのキール上に乗り上げた。

すぐに起き上がろうとしたが、がっちりと背中に回った腕に拒まれる。


「き、キールッ大丈夫なの?痛くない??」

「フリージア」


あれこれと言う俺にキールはハッキリとした声が放たれた。


真剣な金色の瞳が見つめ、色っぽく唇を濡らした。


「もう限界だ」


そう言ったキールは俺を抱いたまま起き上がった。


「えっ」


キールに乗り上げたままの俺の顔を両手で挟み……。


「き……」


名前を呼ぼうとし、口を開けていた俺の唇に柔らかいモノが当たった。


それが口づけであると認識したのは、何度目かのキスの後。


「っ!?」


ちゅっとリップ音が響き開放された俺は茫然とキールを見つめた。


キールは俺の顔を見て、心底困ったような顔した。


「言っておくが、初めてじゃない」


な、なにが……。


「フリージアとキスしたのはコレが初めてじゃない」


鋭いキールの瞳が俺を射抜き、心臓がどくっとなり始めた。


「愛しているよ。昔からずっと」


カっと熱くなる頬を押さえた俺にキールは美しく笑う。


「やっと意識したか」


心底、安心したように呟いていた。


俺は頭の中が真っ白になった。



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