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TransSexual  作者: 風花
20/22

おまけ「キールルート①分岐」

路地裏から出てきたのは、なんと大人になったジークでした。


俺には話せない重要な仕事を今してるんだと。


はぇ~大変そう。


仕事が終わったら色々と話したいと言われてしまいましたとさ。


……いいけど。

その変化した赤い目とか気になるけど。

俺は気が長いから待ってやろうじゃん?


でもよかった。元気そうで。


ちょっと昔とは違ったからびっくりしたけど。

相変わらずイケメンで、まぁムカつきましたわ。


昨日の出来事を思い出しながら大学の構内を歩き、俺は図書館へと向かっていた。


ジークのことはもちろん気になるが、今は俺なりの目標の達成を目指すべく努力せねば。

そして性転換薬か魔法かを発見し、俺は男に戻りジークを驚かしてやろう。


俺はルンルン気分で図書館へと入って行った。

さすが。全ての知識が揃うと言われる大学である。

ありとあらゆる本が収められていて、目的の本を探すことも困難だ。


しかもこの図書館、あまりにも大きいから迷路みたくもなっているのだ。


「おふ……」


こ、これは骨が折れるぞ~……。


さて、俺は性転換に繋がる書物を見つけられるのだろうか。

とりあえず片っ端から本を開いていくしかないようだ。


この日より、俺は図書館に通い詰めることとなる。


あまりにも常連ぷりに司書さんに顔を覚えられるまでとなった。

しかしコミュ力のない俺が会話をするはずもなく、ペコリと頭を下げるだけで終わる。


……いいんだ。俺ひとり大好きだから。


今日も司書さんに頭を下げながら俺は定位置になりつつあるデスクに座った。

適当に持ってきた伝承モノの本を読んでいると、いつの間にか外が暗くなっていた。

閉館する時刻に差し掛かろうとしていたので俺は本を元の位置に戻していた。


「……ん?」


そこで、俺はどこからか光が一筋差し込んでいるのを発見。


「なに?」


近寄ってみると、その光は少し開けられたドアから漏れているようだ。


「ふむ……」


俺はちょっとだけ、と好奇心がまさりドアを開いた。


「お、お?」


開いたドアの先には古びた書物が並んでいた。

書かれた年代が古いのだろう。古紙の独特の匂いが立ち込めた。


光の出所を見ると壁に小さな穴が開いていて、外の街頭から光が差し込んでいた。


なるほど。っと思いつつ本が気になり部屋の奥に進む。


どうやら表紙を見る限り魔導書が多いようだ。

錬金術の古い本まであるのを見ると、一般公開されていない書物だと思われた。


俺はここになら、性転換なる術もあるのでは?と考えた。


「人体に与える魔法とか錬金術ってもしかして禁術だったりする?」


今に思えばそりゃ、そうだろうなと。

本人の意思に関係せず発動するものだったりしたらどうだ?


それはもう呪いと変わらないのではないか。


……この部屋に入れたのは幸運だったのかもしれない。


一般生徒など立ち入り禁止区域だろうこの部屋はこの機を逃せば二度と入れないだろう。


「ちょっとだけ……」


考えるよりも先に、俺は行動に移していた。

種類別に収められている本を確認し、生物学系の表紙を見ていく。


ざっと見ていたときにふと『ハーツダッツの書』を発見した。


「ハーツダッツってあの?」


俺は導かれるようにその本を手に取った。

ハーツダッツとは俺が生きていた300年前の大錬金術師のことだ。


彼に作れぬ錬金物はないとまで言われた賢者様。


なんの奇跡か、国が更地になったが本は無事だったらしい。


「……うん」


時間はない。その本に性転換の術があることを祈りながら開いた。


「えっと、人体へ影響する……錬金術は」


目次を確認しパラパラとページをめくる。

祈りながらそして焦りながら、俺は無い頭を振り絞って文字を追う。


その記述の中に、人体へ影響を及ぼす錬金術の実験について書かれているものがあった。

これだっと読み進めていると、きぃっとドアが開かれる音が聞こえた。


「……誰かいるの?」


その声はいつも挨拶してくれる女性の司書さんの声。


ま、まずい。

俺まだ読んでないのに……!


ここで見つかれば俺は本の内容を読むことが出来なくなる。


さっと俺は物陰に隠れることにした。

暗い部屋の片隅で身を潜めていると、司書さんが部屋の中に入ってきた。


ひ、ひぇ~どうか見つけないでくれぇ~。


軋む床板。この部屋は意外と奥に続いていて簡単には見つからないだろうが、それでも隅々探せなくもない大きさ。

正直に物申して本を読むべきか、それともこの本を盗むか、いやいやだめだろっ。


思考がぐるぐると回転し頭がパンクしそうな時だった。


本棚の陰に隠れていた俺は、突如と誰かに引きずり込まれた。


「やっ」


咄嗟にでた声は意外と響いていた。


「いるのね?出て来てください」


司書さんが俺の声に気づいて、声をかけたが俺は返事ができなかった。


なぜながら、俺は後ろから誰かの手で口を塞がれていたからだ。


だ、だれ?なんで……。


「っ……~」


ビクビクと震える俺はちょっと涙目だった。

怯えて固まるり俺の口を塞ぐ手を引きはがそうと手をかけたとき。


「フリージア、振り向くな」


聞きなれた、それでも最近知った低い声が俺の耳元で呟いた。


「声を出さず、そのまま下を向いて……いいね?」


こくんと頷くと大きな手は口から離された。

俺は言われたように少し頭を下げると、後ろから大きな体が覆いかぶさった。


「やめ……」

「シィー……いい子にしててくれ」


後ろから抱きしめられて、本棚と挟まれて身体を密着される。


これではまるで、その……うぅ……。


さすがに俺だって、その恥ずかしい格好をしているとわかるぞ……。


全身から汗が噴き出しそうだった。

きっと赤く肌は染め上がっていると感じ、それにまた恥ずかしさが込み上げる。


そうこうしていると、誰かが息を飲む音が聞こえた。


「えっ!?」

「……」


司書さんの驚いた声が響く。

それもそうだろう、大の男が学生服着た少女を後ろから抱きしめ密着してるのだから。


「あ、あの、き、キール先生?」

「……無粋だな」

「はっ?え……なにを」


俺は振り向きたくとも出来なかった。

顔を上げそうになった俺を抑えるように、項にねっとりと唇が弄っていたからだ。


へ?え??や、えっちょ?なに、なになになになに。


「ひ、ぁ……き、る」

「っ……ばか」


キールが小声で俺を怒った。いや怒りたいの俺だからね!?


セクハラだからね!?


そしてちょっと涙目だからな!?

びっくりしすぎてちょっと涙が出ちゃったからな!?


しかし止めてくれる気配がなく、ぢゅっと項を吸われた。


「っぁ、……」

「き、、きーるせ、せんせいっあの、私……ごめんなさいっ」


司書さんが狼狽えたままバタバタと走り去ったような音がした。

静まり返った部屋とキールのほっとしたようなため息を聞いた。


そこで俺はガクガクと震えていた足から力が抜けてしまった。


「フリージアッ」


カクンッと膝が折れた俺を咄嗟にキールが受け止めた。


「きぃーるぅ……」


大きいキールの腕の中で俺はぷるぷると震えている。

キールを突き飛ばし、すこし距離をあけたが体の震えは止まらない。


それは怒りからであり、恥ずかしさからであり、色々な感情が渦巻いていた。


ので、やっぱり俺はこうなってしまう。


「な、泣くなフリージア。やり過ぎたっすまない」

「ばかばかばかばかっ」


ポロポロと涙が勝手に溢れてくるのだ。仕方なかろう。


そうだから俺は思う存分泣くことにしたから、くそっ怖かったとかじゃないからな!?


「ひっく……うぅ、んぅ」

「あー、その、すまない……止められなかった」


なにが。わからん。幼気な少女捕まえてなんつーことしてんだばかっ。


「私がすべて悪い。だから抱きしめてもいいか?」

「……くすん」


手を広げたキールの顔を見て、俺はイラつきながらも勢いよく抱き着いた。


泣かした元凶であるが中々泣き止んでくれないので慰めさせてやる。


「撫でてよっ泣き止むまで!背中撫でてッ」

「そ、そっちか。あ、あぁ」


むぎゅっと力いっぱい抱きしめたのだが、痛くも痒くもないらしい。


くっそー痛がれ嫌がれ、ロリコン変態教師ッ!


びぇ~っと泣きながら泣かされた男の手で背中を摩ってもらったのだった。



しばらくして……。


俺の心と体が落ち着いてきたので、すすっと離れた。


「大丈夫か?」

「はい……」


目元が死ぬほど熱いですが、大丈夫です。


改めてキールを見上げると困り顔でした。

キラキラと光る白い髪はやっぱり幻想的でしたわ。


その尊顔は相変わらず美しく目がつぶれそうです。


……感謝しろよその顔に。

じゃなかったら俺は力の限りその顔を殴ってたぞ。


「……ありがと。誤魔化してくれたのはわかっているわ」


癪だが、しかし俺を庇ってくれたのだ。

きっと関係者以外入れない部屋にいた俺の存在をキールは自分が連れ込んだことにしてくれのだと思う。

だからまずはお礼から、しかし先ほどの償いをしてもらわねば怒りが収まらん。


「でも、さっきのはダメ」

「……あぁ」

「私じゃなかったら傷物にされたって騒ぐところよ」


そうだぞ。普通の女の子だったら責任もって結婚してよ!とか言われるレベル。


「騒いでくれていいんだけどな」

「何言ってるの。馬鹿ね、私がそんなこと言うと思うの?」

「いいや。だから心配でもある」


眉を下げたキールの顔は本気で心配そうだった。

見くびってもらっては困る。俺はこれでも貴族の娘として生きてきたのだ。

防衛方法や切り抜け方は学んでいるし、キールじゃなかったら急所を潰していた。


「あのね?あんなことされる前に、さっさと切り抜けているわ。

 キールはちょっと見くびりすぎなのよっ」

「そうか?」

「えぇ。キールだって気づいたから抵抗しなかったのよ?」


害がないとわかっているからこそである。

そこは間違われてはたまらぬ、俺は淑女である。


ふんっと胸を張っているとキールはクスクスと笑い出した。


「まったく。私の姫はなかなか男前だ」

「ええ?」

「さてフリージア。なぜこの部屋にいた?」


あ、あのー……えっ……と。


目が泳いだ。いや悪いことはしてないよ?うん。


俺はキールから視線を外しながらもごもごと答えた。


「扉が開いてて、気になって入ってぇー……」

「ほう。入った瞬間、この部屋がどういったものかわかったんじゃないか?」


お、おっしゃる通りでございます。


肩を落としつつ視線も床に逃れながらも俺は白状することにした。


「うん。わかってました。

 でも調べたいことがあって、そのまま部屋を出なかったの」

「ふむ。素直でよろしい。

 なるほど、それで何を調べたかったんだ?」


頭を撫でられたので顔を上げると、キールは仕方ないなと苦笑いしていた。


「人体に影響する魔法とか錬金術の本がないか探してた」

「……それは普通の本には載っていない分類のものを探したかったからか?」


あ、はい。

身体強化とか病や傷を緩和させるものではなく、もっと根本から変えてしまうようなもの。


「はい。その、ずっと夢?があって……」


俺はキールに連れ込まれた際に落とした本を見つめた。

ハーツダッツの書は冷たい床に無残にも放置され、その本の中身を俺は今だって読みたいのだ。


「ハーツダッツの書か」

「うん。高名な方の本だったから載ってるかと思って読んでしまったの」

「まったく……この部屋は限られた人物しか閲覧を許されていない」


そうでしょうとも。

まぁ先にキールが中にいたのならドアを閉め忘れたのはキールだと思いますが。


「偶々、私がいたからいいものの下手をすると謹慎することになっていたぞ」


おおう。そんなことに……好奇心は猫をも殺すですな。


気を付けよう。


「反省してます。もう二度としません」

「そうしてくれ心配で夜も寝れそうにない」


こくんと頷いた。

本当にキールが居てくれてよかった。

ほっと胸を撫でおろしているとキールの視線が俺に突き刺さる。


ん?


「なに?」

「それで夢ってなんだ。その為にここに忍び込んだんだろう」

「えぇっと……」


おっふ。どうしよう。

男の身体になりたいから、その魔法や錬金術の術を探していたとは言いずらい。


キールには少女の中身がおっさんだと打ち明けたことはない。


気持ち悪いだろうし、今にして思えばおっさんを慰めたいたことにもなる。


い、言えん。そんなトラウマになりそうなこと言えんぞ。


「な、内緒」

「……いいのか?話せば私は協力は惜しまないが」


な、なにー!?


キラキラ光る金色の瞳はどうすると訴えかけてくる。


う、うう。キールの協力は欲しい。欲しいぞっ!


い、いいかな?話しても。

キールにお願いすれば、ここにある本の内容を教えてくれるだろうし。


しかし、おっさんを抱きしめ慰めた直後に話していい内容ではない。


「えっとあ、明日じゃダメかしら?」


俺は伺うように首を傾げて上目遣いで見つめた。

えへ、えへえへっと愛想笑いのような引き笑いのような表情で問いかける。


「……。……あぁいいぞ」


なんかすっげー間があったけど大丈夫?


「本当に大丈夫??」

「……あぁ。何があろうと大丈夫だ」


え?大丈夫じゃないよねそれ??


俺は心配になってキールの両手を掴んで顔色を伺う。

びくっと驚いたようにキールの身体が反応したが気にしない。


「無理だったら明日じゃなくてもいいの」

「心配するな。たった今、私は明日休みになったんだ」

「そ、そうなの?」


たった今ってなんだろう。

疑問を持ちながら力強くキールは頷くのでそれ以上は俺も聞かなかった。


それにしてもお休みとは。あの忙しいキールが……。


俺は金の瞳を覗き込み、ちょっと嬉しくて笑った。


「ふふよかったねキール。お休み貰えたんだね」


めっちゃ忙しそうなのは見ててわかってたし。

休みなんていつ取ってるんだろうって思ってたんだ。


よかった。キールもちゃんと休めるんだ。

かつて一度だけ故郷に帰った来た時の惨状を知る者として嬉しかった。


にこにこ笑っていると、いつの間にか掴んでいた手はすり抜けていた。


その手は俺の背後へと回りそして、ぽすんと俺は広い胸に導かれていた。


お、おや???


「キール?」


再び抱き込まれて、はて俺は泣き出しそうな顔でもしてただろうか。


むしろニコニコと笑っていたような気がするんだけど??


「はぁ」


近くでキールが重苦しそうに息を吐いた。


「え?どうしたの具合悪いの??」


えっなに?どうしたマジで。

胸の中で狼狽えながらも、俺はよしよーしと広い背中を撫でてあげた。


そうするとむぎゅっと強く抱きしめられてちょっと苦しい感じ。


「んっキール。苦し」

「……辛い」


心底、心の底からの吐露に俺はびっくりした。


「え?どこ、なに風邪でも引いた?熱は???」


しかしおでこに手を当てたくとも抱きしめられては熱も測れん。


大柄なキールを押しのけることも出来ず、俺はただ背中を摩ってあげるしかない。


「大丈夫?キール?ねぇ」

「……大丈夫。落ち着いてきたから」

「ほ、本当?明日お休みなんだしゆっくりしていいからね」


俺との話なんていつでもできるし、キールは休みを満喫するべき!


「私との話なんていつでもできるし、明日はちゃんと休んで」

「いや、大丈夫だ。明日どうする?私が家に行こうか??」


早口でかつ、俺の顔を覗き込みながらキールが聞いてきた。


具合悪いんじゃないのかい。


「でも、キール具合はいいの?」

「あぁ大丈夫だ。問題ない。

 むしろ元気になってきているんだ。心配は無用だ」

「そうなの??う、うんならいいけど……」


本当に大丈夫かよ。

……お、おおそうだいいこと思い付いた。


俺はキールの胸を軽くたたいた。


「離して」

「……あぁ」


短い返事のあと、キツイ抱擁からやっと抜け出すことができた。


息をついて、美しい尊顔を眺めながら口を開いた。


「キールが良かったらなんだけど」

「ん?」

「今夜、私の家にこない?

 もし具合が悪くなったとしても私が看病できるし」


珍しくキールがぽかーん……と呆けていた。


俺はいい考えだと思ったんだけど。

帰国してきた時だって、俺がほとんどキールの元に通って看病してたし。


一応、俺の家には来客用の部屋もあるし快適に過ごせると思うのだけど。


「……やっぱり嫌かしら」


旧知の仲であるが、他人の家は居心地は悪いだろうか?


しゅんっとした気持ちになって俺は少し肩を落とした。


するとハッと覚醒したかのようにキールは俺の肩を掴んだ。


「行く」

「ほ、ほあ?」


行き成り肩を掴まれたんでちょっとびっくりした。


「すこし調べ物が残っているが、一緒に帰ろう」

「き、キールがいいのなら私は構わないけど」


わ、わわ。

綺麗な顔がドアップにあってす、すごい緊張する。


や、やめてぇその顔で嬉しそうな表情を浮かべないでくれ。


俺の開いちゃいけない扉が開きそうになるのぉおおお!


うおおっと全力で視線を逸らしていると、むちゅっとほっぺに柔らかい感触が。


「!?」

「そこの椅子に座って待っててくれ」


ぱっと身体を離したキールは立ち上がり、慌ただしくデスクに向かう。

積み上げられたデスク上にある本をパラパラと開く音が聞こえた。


俺はぼけ~っとしながらハッと覚醒する。


キスされた頬を抑えて、俺は体育座りをして顔を埋めた。


「……ッ……~!?」


混乱と恥ずかしさの中、俺は心臓がバクバクと鼓動を鳴らしていた。


だめだ、だめだ。だめだだめだ。


キュンキュンするんじゃない。


俺は男、俺は男。

あぁそうさ、規格外の顔なんだから混乱しても仕方ない。

キールが美しいから錯覚するのさ、大丈夫。俺は男。お姉さんが大好きです。


落ち着け。オーケー?


「ふ、ふぅ~……」


息を吐き心臓を落ち着かせる。

ちろっとキールの背中を見た。長い髪が揺れている。


キラキラと七色に光る髪は広い背に流れて神秘的だった。


俺はぼんやりとそれを眺めてほっとした。


うん。綺麗。

そこらへんにいる美女やら美少女より綺麗。


俺、正常。


よっこらしょっと立ち上がり俺は置き去りにされたハーツダッツの書を手に取った。


そしてもとにあった場所に戻し、言われたようにキールの近くにある椅子に腰かけた。


カリカリと紙を引っかく音とページをめくる音が部屋に響く。


無意識にキールに視線を向ければ、真剣な顔つきをして書類をまとめる横顔をある。


「やっぱり綺麗」


ぼそっと呟いた。本当に綺麗なのだこの男は。

おとぎ話に出てくる王子様、お姫様より美しくかっこいいのだ。


どうしたらそんな大人になれるのだろうか。


子供気分が抜けない30を過ぎたおっさんな俺はなんなんだろうか。


……自己嫌悪に陥りそうなことは考えないようにしよう。


俺は耳をすませた。

キールが立てる音を聞きながら、何故か穏やかな気持ちになった。


ここから見える小さな窓へ視線を向けた。

沈んだ太陽の代わりに星が、キラキラと瞬いていたのだ。


いつの間にと思いながら、月光が差し込む窓を見つめた。


……こんな日が来るとは思わなかったなぁ。


もし行動しなければ、今も俺は帰ってこない友達を待って屋敷にいたんだろうな。


そしてきっと焦りと不安を抱えたままでいただろう。


よかった。頑張ったな俺。


再び会えた喜びを噛みしめる。

キール。そしてジークにまた会えた。また話が出来た。


俺の大切な、たった二人しかいない友達。


遠く離れた友達と俺はまた過ごせている。

ぶっちゃけ一人暮らしとか心細かったし不安もいっぱいで仕方がなかった。


でも勇気をだしてよかった。


「……よくやったよ俺は」


小さな声で小さな勇気を褒めたたえる。


キールの仕事を待ちながら俺はひとりそっとほほ笑んだのであった。



暇つぶしにどうぞお納めください。

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