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TransSexual  作者: 風花
18/22

10.エンディング


あれからどれくらい経っただろう。

自国に帰るや否や、ジョバーナー家から正式に婚姻を結ぶ話が飛んできた。


マジなの?


と思いながらも、俺は両親に了承すると伝えた。


それからは早いもので急ピッチで結婚の準備に取り掛かった。


ジークに関しては、自国に帰ってから死ぬほど忙しいらしい。

当初の日程よりも遅く帰国し、婚姻の準備と忙しい。


打ち合わせで顔を合わすがそれだけで言葉を交わす回数も少ない。


俺は不安に思いながらも、粛々と準備へと駆り出されたのであった。



そして、幾分かの月日が流れて今日という日を迎えた。


白いドレスに身を包んだ俺は未だに夢心地だった。


花嫁の控室にトントンとノック音が響く。


「はい?どうぞ」


控室には俺しかいない。

ドレスの準備も出来たし、いったい誰だろうと立ち上がる。


「……フリージア」


扉が開け放たれると、そこには大切な友人であるキールが立っていた。

美しい七色に光る白い髪と両眼の金色がいつも以上に綺麗だった。


「綺麗……」


今日の服装も相まって、俺はうっとりキールを見上げた。


するとキールは苦笑いをしながらも、俺の頬に触れた。


「綺麗なのは貴女だ」

「え?へへ……ありがとう」


照れ臭いが褒められて嬉しくないわけもない。

キールの大きな手は俺の手を握り、金色の瞳は俺を見つめる。


「なぁフリージア。幸せか」


真剣な瞳でそう問われて、俺はちょっとびっくりした。


「うん。たぶん」


きっとこれから小さな幸せを噛み締めながら生きていくのだ。


結婚が人生の終わりではないのだから。

これからきっと、いっぱい嫉妬したり、拗ねたり色々すると思うんだ。


だって俺は、その辺にありふれた一般人なのだから。


特別な容姿も、力もないんだ。

あるのは権力とお金と地位くらいだろうが……。

それも特別なのことではなく、持っている人は持っているものだ。


ジークやシンシア。

キールやビィシャ先輩たちが持つ特別とは程遠いい。


いつだって不安だ。


いつだって心のどこかで羨んでいる。


でも、それでも今……。


「幸せよ」


恥ずかしくも俺は幸せなのだ。


ちょっぴり恥ずかしさを滲ませながら笑うことができた。


キールは俺の顔をじっと見つめて綺麗に笑った。


「じゃぁ辛くて逃げ出したくなったら私の所においで」

「ふふ、まぁキールったらたらし。

 でもキールにだって特別な誰かが出来るでしょう」


金色の瞳を見つめて、俺は笑う。


「私の事なんていいの。

 キールはキールを大切にしてくれる誰かに尽くしてね」


友達として嬉しい言葉ではあるけど。

俺はキールにだって笑って幸せだと言ってほしいなぁ。


俺の言葉にキールは何とも苦い顔をした。


「もうしてるさ。

 一生に出逢えるかどうかわからない、素敵な女性に」

「えっそうなの?」

「あぁ私はその子の一番の理解者でありたい。

 そして彼女が笑っていてくれるなら、それだけで私は幸せなんだ」


それは、でもちょっと悲しいような気がした。


「……キールは本当にそれで幸せ?」

「もちろん、生きている限り幸福は続く。

 いつまでも、いつまでも永遠に」


キールは王子様のように跪いた。

そして恭しくも俺の手を取り、手の甲に口づけた。


「君だけを想う」


まるで、キールの大切な人が俺のようだ。


「もう……嫁入り前の女の子をからかわないで」


意地悪そうにキールは笑って立ち上がった。

そして改めて俺を見下ろして、綺麗な笑みを浮かべた。


「泣きたくなったらおいで。いつだって胸を開けておく」

「だから私、泣き虫じゃないのよ!」


キールの前ではなんでか泣いちゃうけど……。


顔を赤くする俺に軽快にキールは笑い声を立てた。


「はっはは……それじゃぁもう行くよ。

 式場の晴れ舞台に立つフリージアを眺めるとしよう」

「あ、うん」


途端に恥ずかしさが込み上げて、あわあわと落ち着かなくなった。

あと数分もすれば式は始まり……あぁどうなってしまうんだろう。


アワアワしだした俺にクスクスとキールは笑う。


「可愛いな。大丈夫、全部うまくいく」

「う、うん」

「……じゃぁ」


控室の扉を開けるキールの背中を見た。

出ていくのを見送っていると、キールと一瞬視線が交わった。


何か呟いた気がした。けれど俺には聞こえなかった。



『愛してる』



伝わらない言葉は空気に溶けてゆく。


キールはやっぱりどこか寂しそうな瞳で控室を出て行った。




緊張し心臓が破裂しそうでも時間は止まってはくれない。


落ち着かなく部屋を徘徊していると、再びノック音が聞こえてくる。


「は、はい」

「新郎のジークフリード様がお越しになりました」


ごきゅっと唾を飲み込んだ。

俺は慌ててベールで顔を隠すと、入ってと一言伝えた。


ドキドキと心臓が馬鹿みたいに鳴っていた。

白い扉が開かれるのを見つめて、手が少し震えた。


開かれた扉の先で、身なりを整えたジークが立っていた。


案内人は静かにジークを部屋に入れ、そのまま扉をしめた。


「ジーク……」


俺は一歩、一歩とジークに近づき見上げた。

黒い髪は艶を取り戻し美しく整えられている。

屈強な肉体は今や上品で豪華な服に隠れ、野性味を消す。


いつもの、どこか暗い雰囲気は漂わず。

赤い瞳と銀色の瞳は鋭いが、甘さを多分に含んでいた。


「あの、すごいね」


上手く褒めることもできねぇ……。

イケメン過ぎる男を見上げて、男である部分が嫉妬で狂いそうだ。


複雑な心境のまま見上げたせいか、不機嫌そうに顔をしかめられた。


「アレイズ。素直に褒められないのか」


うっ無茶言うなや。

男に嫁ぐってだけで、俺の中でキャパオーバーしてんのに。


「……フリージアよ。名前を間違わないで」


それに俺の中のフリージアが暴れるだろ。

ぷくぅと頬を膨らませ、視線を外せば仕方ないなとため息をつかれる。


「なら、俺が言おうか」

「え?」


何を思ったのか、ジークが俺の両手を掴んだ。


「どんな女よりお前が一番、綺麗だ」

「……えっちょっと」

「ウェディングドレスがここまで似合うのはフリージアが純真だからか」


あの、ジークさん?や、やめて……。


「白い項が色っぽいくてたまらない」

「や、なに、なんなの」

「早く俺のものにしなければ、気が気じゃない」


かぁっと全身が熱く燃え上がるようだった。


「じ、じーくっ」

「フリージア。今日の君は世界一美しい花嫁だ」


赤い瞳と銀色の瞳がほほ笑んだ。

俺はそれを見て、美しさのあまり息を飲むのだ。

顔を赤くする俺にジークは優しく俺を抱きしめた。


「愛してる」


泣きたくなるほどの歓喜が胸に広がる。


どうしたって嬉しい。

男なのに男の愛の言葉はいつだって胸をときめかせるんだ。


まるで少女のように。


「わ、たしも」


腕の中でジークを見上げる。

大好きな優しい顔があって、俺の言葉を待っていた。


「愛してる」


そう言うと驚くほどジークは幸せそうに笑うのだ。


俺の言葉で馬鹿みたいにキラキラと瞳が輝く。

大好きな銀の瞳が、星を散らすように瞬いて俺を映していた。



そして俺、フリージア・エディフィールドは。


ジークフリード・ジョバーナーに嫁ぎました。



誰が想像できただろう。


俺はできなかったよ。恋をするとは思ってなかったんだ。




「ねぇどうして婚姻を急ぐの?」


結婚前に聞いた言葉。


「……逃げ道を閉ざすためだ」


俺の?っと聞いた。

そしたら、違うと首を振られた。


「俺が逃げ出さないために」


自身の手を見つめるジークは痛みに耐えてるようだった。


ジークの過去になにがあったかわからない。

肩代わりすることは出来ないだろう。


でも、だからこそ今はっきりと自覚するのだ。


「じゃぁ逃げたら追いかけるわ」


目を丸くしてジークは驚いていた。


「だって、貴方のことが好きだから」


誰かを幸せにしたいと強く願うのは俺が男だからだろうか。


「だから安心して逃げて。絶対に捕まえるわ」


押し黙ったジークはふと笑みを零した。


「男らしいな」

「えぇだって私……」


少女の姿。中身は30を過ぎたおじさん。



「少女の皮を被った。中身34歳独身の童貞野郎だもの」



そんな女の子と結婚しようとしてる酔狂な男はお前だけだよ。


「まったく、敵わないな」


ジークは楽しそうに笑った。

俺もつられて笑って、ジークを抱きしめてあげた。



さて、俺たちの物語を始めよう。


これから始まる二人の物語はどうなるんだろうな。



未来を想いながら、大好きな人達と一緒に。



人生を謳歌しようじゃないか。



例えそれが短かったとしても。




これが特別じゃない、俺だけの物語らしい。






END


無事、完結となりました。

拙い物語を最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

以下、作品のネタばらしをしようかと思います。

興味ある方は暇つぶしにお読みください。

そしてブックマークや感想、評価して頂きありがとうございました!

お読みいただいた全ての読者の方たちに感謝致します。

それではまたどこかで……


  風花


・・・・・・・・・・・・・・




始めに。この物語の根底にあるのが『乙女ゲーム』です。

フリージアの立場は言わば、主人公が廊下を渡る際に通り過ぎる女の子。

騒動が起きた時に後ろで背景と同化する人物。

ひそひそと噂を立てるだけの役割を持たない女の子です。


そしてそんな特別じゃない女の子が。

選択肢に初めからいないが、明らかに攻略キャラクターであるキール。

複雑なフラグを立てなければ出てこない真の隠しキャラのジークフリード。

両名と出会い、親睦を深め、物語の中核の外側から『転生者』を出し抜いてしまった物語です。

もちろん現代からゲームの世界に転生を果たしたのはアンジュ。

彼女だけが異質であり、シナリオを把握するただ一人の人物となりました。

神様視点のイージーモードな彼女の誤算は、ライバルキャラであるシンシアの姉でした。

おぼろげな顔。はっきりしない顔付きのシナリオでは幼少期に死んだはずの女の子。

という設定でした。

お気づきな読者の方も多くいたのではないでしょうか( *´艸`)


蛇足的な設定を言えば彼女が転生を果たした影響で因果律が狂い、他の転生者を生み出した。

つまりフリージアやビィシャのように死んだ人間が現在に蘇る原因となってしまいました。


はい。という感じでした!

TSの物語をいつか書きたいなっと思っていたので大満足です♪

そして無事に完結できてほっとしてます……いつもプロットを書かずに見切り発車ですので(汗


それでは長くなりましたが終わります。

ブックマーク。メッセージ。感想。評価。ありがとうございました!

小説を書く気力を頂きました。感謝してもしきれません。


ではまた何かの作品でお会いできたら嬉しく思います。

それでは……


風花



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