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TransSexual  作者: 風花
17/22

09.修羅場?


無事、何事もなく病院を退院しました!


やっぱり外の空気はうまいぜ。


晴れやかな日差しを浴びながら俺は家へと帰る。

久方ぶりの家を見上げていると、見計らったように声をかけられた。


「お姉さま……」


不安そうな顔で俺に声をかけたのはシンシアだった。


「シンシア来てたの?」


そう言えばお見舞いとかにもシンシアは来てなかったなぁ。


いやいや目覚める前に来てくれてたのかも。


俺はいつものように笑顔で言うと、シンシアは目に涙を浮かべた。


「どどど、どうしたのシンシアッ泣かないで」


ポロポロと泣き出したシンシアに俺はどうしたいいのか。


とりあえずよしよしと頭を撫でておいた。

そしたら目元を真っ赤にしながら俺を見て口を開いた。


「怒ってないの?」

「え??……えぇシンシアに怒る理由もないし」


何かしたっけ俺?


首を傾げた俺にシンシアは真ん丸の目をもっと見開いた。


「だって私お姉さまに、嘘を」

「え?あ、あぁ……」


かぁっと顔が赤くなった。

勝手にぶち切れて、そのあとぶっ倒れた奴がここにいるぜ。


大事な妹を泣かしてしまいました。死んで詫びれたら詫びます。


「ご、ごめんね。一人で勝手に怒ってて。

 シンシアは悪くないのはわかっているから」

「お姉さま……ゆるして、くれるの」

「えぇ。それに私も許して欲しい」


同じような紫の瞳を覗き込んだ。


「お姉ちゃんなのに意地悪してごめんね」

「ううんっごめんない。お姉さま……元気になって嬉しい」


にっこりと泣き笑いする天使は可愛かった。

涙を拭いてあげれば、それはもう蕩けるように笑うのだ。


あぁ癒される。


「あ、そうだ。シンシアには言っておかないといけないことがあるの」


実家に帰ることになったことは言ってなかった。

急な話だから今すぐに、とは行かないが近々帰らなければいけない。


「だからもし時間があるなら家に寄って行かない?」

「時間は大丈夫だけど……」


不安そうな顔をするので何か勘違いしているのかも。


「身体のことでもあるけど、深刻な話じゃないわ」

「本当?」

「えぇ。ほらほら入って」


シンシアの背中を押しつつ家に誘導すると。


「エディフィールドさん」


美しい声で誰かが呼んでいた。


「あ、アンジュリーゼ様?」

「どうしてここに……」


姉妹は振り返りその姿を捉える。

金髪碧眼の美少女は俺を見るなり、キッと目を吊り上げた。


「話があるのいい?」

「あ、えぇいいけれど……とりあず入って」


なんだろう敵意すら感じるんだけど。

俺はシンシアと目を合わしながらも、二人を連れて家に帰った。


リビングに案内し、俺は人数分の紅茶の用意。


レイズは俺の荷物を片付けてもらっている。

茶菓子がないが我慢してもらうとして……なんだろう?


俺って別にアンジュリーゼさんとは面識全然ないけど。


あの夜の日以外で見たのって入学式ぐらい。


何かやらかしてたのかな。

それても不正入学の件がバレて……もいいか。

どうせもうすぐ大学は退学するのだし。


いやぁでもなぁあの敵意はなんだろう。


紅茶を用意し俺はリビングに戻った。

二人に紅茶を差し出しながら、アンジュリーゼ嬢の前のソファに座る。

シンシアは俺とアンジュリーゼの間にある一人用のソファに座っていた。


「えっと改めまして、シンシアの姉のフリージアです」

「私のことは知っているわね」

「はい。アンジュリーゼ様。それでご用件とは」


機嫌の悪そうな彼女は俺を睨んでいるようだった。


「貴女。転生者なんでしょう?」

「……は?」


行き成りのことで俺は思わずしかめっ面だった。

その態度が気に入らないのか、さらに目つきが鋭くなる。


「私はこのシナリオを全部クリア済みだから知ってるのよ」


シナリオ?クリア??ってなに。


「貴女は子供の頃に死んでるはずだわ」


がたっとシンシアが怒りの表情で立ち上がっていた。

俺はちらっとシンシアを見て首を振った。

すると我慢するような顔をしてシンシアはまた座る。


「えぇ。私は一度死にかけました。でもなぜ貴女がそれを知っているのでしょう」

「……転生者じゃない?じゃぁどうして」


転生者の下りを無視して話すと、勝手に絶望した顔をした。


なんだってんだおい。

まぁ俺やビィシャ先輩が転生してるから他にもいるとは思ってるけど。


だけど、なんだろう。

全く違うニュアンスに聞こえた。


なんだこの人。ちょっと怖い……。


アンジュリーゼ嬢はその顔に焦りを見せていた。

俺とシンシアは訳が分からないと視線を交わす。

きっと仲がいいと思われるシンシアがアンジュリーゼ嬢に声をかける。


「アンジュ。どういうことなの」

「ジークがいないの」


会話になっとらん。なんじゃこの娘。

深刻そうに顔を伏せる彼女は思い悩んでいるようだ。


「おかしいのよ。どうして私と結ばれないの。

 ここまで上手くいっていたのに。どうして??」

「何を言っているの?アンジュ。

 ジークフリードと付き合っていたの?」


心なしかシンシアは焦ったように追及した。


「そうよ。だってジークのルートに入ってエンディングまで来たの」


えっとエンディング?なになに電波系女子なの??

半笑いの彼女はとても怖く、シンシアを睨んでいた。


「ねぇジークはどこ?私、彼と結婚するの」

「……お姉さま。知ってた?」


知らん。


俺は猛烈に苛立っている。

アンジュリーゼ様がいるのに俺に求婚したんかあの野郎。


殺す。俺の純情な気持ちを……絶対ぶっ殺す。


絶対にだ。


「アンジュリーゼ様。わかりましたジークを探しましょう」

「……なに」

「結婚の約束をしたのに逃げているのでしょう?」


尋ねるとこくんと頷いた。


野郎。ぶっ殺す。締めあげなきゃ(使命感)


「お姉さま!」


あ、あれ?なんかシンシアちゃんが怒ってる。


「ジークフリードが軽々しく結婚を口にするとは思えませんっ」


顔を真っ赤にして立ち上がったシンシアはアンジュリーゼを睨んでいた。


「でたらめを言わないでっ!

 貴女に言うくらいなら、私に……っ」


……。


……えっ。野郎、俺の可愛いシンシアに手を付けやがった?


ビキビキと青筋が立つ。

はぁん?可愛い天使のシンシアに?はぁ??


「殺す。じゃなかった、ジークを探して話を聞くしかないわね」


驚く二人に俺はにっこりと笑った。


おっと心の声が出ていた。やばいやばい。


うら若き彼女達がくそ野郎のせいでいがみ合っている。

クズ野郎のせいで、まったくもって嘆かわしい。


俺は二人を元気づける為に笑う。


「どんな手を使っても探し出して、贖罪させるわ」

「あ、えっと……お姉さま。私はそんな」

「心当たりがあるの?」


戸惑う瞳と、勝気な瞳が同時で俺を見た。


「レイズに頼みましょう。彼なら探し出してくれるわ」


追跡機能付きなんで滞りなく見つけてくれるだろう。


「あの自動人形?」

「えぇ。レイズ来て頂戴」


声をかけると、とてとてとレイズはやってきた。

俺を見上げる可愛い黒ウサギはじぃっと見つめられる。


「ジークが何処にいるかわかるかしら」

「……ジャミングニヨリ失敗」


くそっ上手くかわしやがる!

悔しがっているとレイズが、俺の手を叩く。


「侵入者ヲ感知。フリージアハ速ヤカニ脱出セヨ」

「えっ」


レイズは言うや否や俺を担ぎ出した。


「ちょっと」


家に勝手に侵入したヤツがいるらしい。

緊急脱出を試みようとするレイズを俺は止められないのだ。


レイズの言葉を聞いた彼女たちは直ぐに戦闘態勢に入っていた。


どこから?と固唾を飲んでいると、一人でに窓が開かれた。


ひらりと侵入した黒い塊は暢気にリビングを歩き出した。


そしてレイズに担がれる俺を見て眉間に皺を寄せた。


「離せ」

「直チニ去レ」

「フリージア。俺を登録するように命令しろ」

「……ふん」


ぷいっと顔を背けながら、俺は仕方なくレイズに命令した。


「権限をこの男にあげてレイズ」


不服そうな俺の態度に一瞬レイズは躊躇を見せてがこくんと頷いた。

俺を下ろすと、とてとてとジークの目の前に登録作業を始めた。


「登録完了」


レイズは仕事を済ませると俺を見上げた。


「お仕事に戻っていいわ」

「了解」


部屋の掃除をしようというのか寝室へレイズはいなくなった。


重苦しい空気が流れていた。

そんな空気を読む気はないのか、ジークが俺を見下ろしていた。


「ねぇ普通に玄関から入れないの」

「人に見られる」

「意味わかんない」


イラつく俺の様子にジークが首を傾げる。

てか何しに来たんだこいつ。


「まぁいいわ。ちょっと座りなさい話があるわ」

「……邪魔だったか?」

「いいえ。来てくれて助かったわ」


これで殺せる。


にっこりと笑うとジークは不思議そうな顔をした。

とりあえずソファに移動し、逃げられないように座らせる。


ちらっとシンシアとアンジュリーゼ嬢を見た。

二人とも深刻そうな顔をして頷き、ソファに座りなおした。


俺も空いているソファに座り、じぃっとジークを睨んだ。


「ジーク。貴方、アンジュリーゼ様やシンシアに言うことがあるでしょ?」


聞くとジークは二人と目を合わせていた。

シンシアは顔を赤くして俯き、アンジュリーゼは惚けたように見つめる。


「……いや、心当たりがない」


これにアンジュリーゼ嬢は激怒し怒鳴りつける。


「どうして!?私の何がいけなかったのっ」

「……?」


いや、なんでぽかーんってしてんだ。ジーク。


「私たち、うまく関係を築いてきたじゃない。

 挫けそうな時も、私が傍で慰めて一緒に立ち向かってきたでしょ」


そうなのか。そうか……。


辛いとき、悲しいときに傍にいたのか。


必死の形相のアンジュリーゼ嬢はそれでも綺麗だった。


しかしそれに反しジークの反応は冷めたような態度だ。


「あの時のことは感謝している」

「ならっ」

「だが俺が心を動かすことができるのは、たった一人だけだ」


立ち上がったジークは俺の前にくると、何を思ったのか抱き上げた。


「うにゃ!?」


子供を持ち上げるように抱き上げられると、ジークはそのままソファに座った。

座ったジークの膝には俺ももれなくついてきた。


なに、はぁ!?


「「え?」」


彼女達の疑問に満ちた声が揃って響いた。

俺を膝に置いたまま、ジークは俺の手を取る。


「指輪のサイズを直してきた」


え?あ、指輪って……。


びっくりしてる俺を置き去りにして、ジークは勝手に指輪を俺にはめた。

サイズピッタリに直された赤い宝石が付いた指輪は薬指にあった。


目の前に指輪をかかげた俺は、ぽかーんとジークを見た。


「結婚詐欺師?」

「……は?」


俺から何を巻き上げる気なのだ。この男。


ほら見ろよ。シンシアもアンジュリーゼは絶句してるぜ。


彼女達の方へ視線を向けると、途端に世界は動き出す。


「どろ、泥棒。この淫売がっ」

「!」


ほふぁ!?


アンジュリーゼは俺に平手を振りかぶった。


あ、殴られる。ととっさに身を縮めたが衝撃がくることはなかった。


「なんのつもりだ。アンジュ」


振り上げられ、叩かれるその時にジークが彼女を手を掴んでいた。


「なんなのよその女!!」

「フリージアだ。俺の婚約者だが、お前には関係ないことだ」


俺の視界の端でシンシアが力が抜けたようにしゃがみこんだ。


「は、はぁ!?」

「アンジュ。お前を恋人にした覚えはない。勘違いだ」


そこまで言われて彼女はもう何も言わなかった。

ただ俺を睨みつけて、バタバタと家を出て行った。


……やだ、怖い。


「騒がしいヤツだな。相変わらず……大丈夫か?」


微笑んだジークは何事もなかったように俺の頭を撫でた。


撫でとる場合か。


「あの、アンジュリーゼ様の恋人じゃないの?

 それかシンシアと、その……」

「勘違いだアンジュの件に関しては。

 シンシアは妹のように想ってはいるがな」


う、うん?

疑う眼差しを向ければ、呆れたようなため息をつかれた。


「フリージア、俺はお前に愛していると言ったはずだが?」


や、やめて。そのイケメンな顔を見せつけないで!


赤くなる顔を隠すことも出来ず、俺は口をパクパクと動かすだけだ。


「お、ねえさま」


あ。


ふらふらと立ち上がったシンシアは俺の前に歩いてきた。


「いつからなの……ジークフリードと婚約なんて聞いてない」


言ってませんから。いやだって、夢かもしれんじゃん。

固まる俺の代わりにジークが口を開いた。


「つい先日、俺が婚姻を申し込んだ」

「ジークフリード、が?」

「あぁ」

「お姉さまは、承諾したの、ね」


……は、はい。


妹の顔を見れなくて、俺は頷きました。

すると憤慨するようにシンシアは俯く俺と視線を合わせた。


「さっき、どうして言わなかったの?」

「……プレイボーイだと思いました」

「ジークフリードが?」

「はい……色んな女の子を唆したのだと」


「心外だ」


はい。その文句、謹んで御受け致します。

ちろっとジークを見上げると、呆れてはいないが表情は陰っている。


「信じてもらうには時間がかかりそうだ」

「すみません……」


しゅんとする俺に、またもやよしよし頭を撫でられた。


とりあえず俺はソファに座ろう。

なんでいつまでもジークの膝の上に乗らないといけないのか。


腰を浮かすが、素早くジークの手が腰に回る。


「……あの」

「ある筋からフリージアが自国に帰ると聞いたが?」

「えっ!?」


驚いた声を出したシンシアを見て、なんで言うのかとジークを睨んだ。


「本当なのか」

「…えぇ。でもなんで知ってるのよ」

「内緒」


内緒ばっかりじゃんお前は!


ばしっとジークの手を叩くと、俺は隣のソファーに座りなおした。


シンシアもソファに座り直し、すっかり冷めた紅茶を飲んで落ち着かそうとしている。


「身体が少し弱っているみたいなの」

「そんな、お姉さま」

「あぁ酷いわけじゃないからね?大丈夫よ。

 ただ、少し疲れているのも確かだから国に帰ろうと思って」


二人はほっと胸を撫でおろすが、悲しそうではあった。


「折角、お姉さまと一緒にいられると思っていたのに」

「ごめんね不甲斐ない姉で。

 すぐに帰るわけじゃないけど、日程が決まったら連絡する」

「うん……」


肩を落とすシンシアを抱きしめたくなるが、やめておく。

一生の別れでもないし、いつでも会おうと思えば会えるもの。


「婚約の話は進んでいるからそのつもりでいろ」


えっあの……空気読んで。


「俺もフリージアが自国に着いた頃に、ここを発つ」

「は?大学はどうするの?」

「元々卒業資格は持っている」


やだこの野郎ムカつくわ。

睨みつけた俺の視線を華麗にスルーし笑みを浮かべやがった。


「そんな、ジークフリードまで」

「達者でなシンシア。

 フリージアは自国に帰ったら花嫁道具を用意して待っててくれ」


ふぁ!?


「俺が帰ったら、覚悟を決める前だったとしても」


ジークの浮かべた表情は、まるで悪代官のようだった。


「全部、奪うから」


顔を真っ赤にした姉妹は、黙りこくりました。


俺は顔を覆い、震える事しかできなかった。


やばい。こいつむちゃくちゃだ。


しかし俺も男。

そういいように扱えるとは思うなよ……。

貞操は守ります。だって俺は30過ぎて純潔を貫いた魔法使いなのだから!


ふっふふ。

自国へと向かう道のりで、俺は時間が止まればいいと思った。


……どうやって逃げればいいんだ。


苦悩は続く。




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