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色彩の戦争  作者: 君野旬
3/3

謎の男

クレインの全てを込めた一刀は大男の心臓部分に深々と刺さり大男の強靭な肉体の硬さとはまた違う物質によって止まった。

「……はぁはぁはぁ、俺達の勝ちだ」

クレインがそう言った瞬間、大男の体は粉のようなものになって霧散した。

剣を突きさしていた相手が消滅したため重力に従ってクレインの体は地に落ちた。

「……なんだこれ?」

クレインはそう言って隣に落ちていた赤い宝石のようなものに手を伸ばした。更にもう一つ、クレインの近くには大男のシンボルのような猛々しい大角も落ちている。

「……さっき……のやつ……が消えた……時に残った……みたいだね」

ハクアはとうとう口も痺れてきたのか途切れ途切れの声で反応した。

「ってそれどころじゃねえだろ。ハクア、大丈夫か」

クレインはただの鉛と化した脚を使いハクアの隣に座り込んだ。

「だい……じょうぶ。死ぬ……わけじゃ……ない。ただの……麻痺毒」

「ってお前その声絶対大丈夫じゃねえだろ。すぐに村に運ぶからちょっと待ってろ。

クレインは地に突っ伏したハクアの体を同じく鉛と化した両腕で持ち上げようとする。

「……平気……だよ、それに……あんなやつがこの地域に……いや国に……現れた……って話は……ないし……当然……この毒の…………抗体……もない」

「なっ!じゃあお前はずっと痺れたままなのかよ」

「とにかく……このまま……ただの……でくの坊の……僕を連れ……て逃げ……ても狼に捕まる……っておちだよ……だから君は……一回……ここから……村に戻って……援軍を……連れてきてよ」

ハクアは痺れる口を最大限動かしてそう伝えた。

「じゃあお前はどうすんだよ。こんなところに置いてけぼりにするってわけか?出来るわけねえだろ!」

クレインはここに置いてけぼりにされたハクアの末路を想像しそう言った。

「……違う。僕は死ぬつもりなんか……さらさらないし、今ここにはさっきの大男を警戒……して狼はこない」

ハクアの推理に嘘はないが一つ隠している不安要素があった。

(狼は気配を敏感に察知するし、あんなに殺気を出してた存在が消えたことに気付かないわけがない。すぐに僕やいるかもしれない大男の死骸を食い荒らしに来るはず。でも来ないってことは。早くクレインをここから遠ざけないと)

「分かった。行ってくる」

クレインは立ち上がり村の方向へ向いた。その後ろ姿を見たハクアは心の中で安堵した。

「……なんてな。お前なんか隠してるだろ」

ハクアは考えがばれたことで動揺し黙り込んだ。

「あのなぁ俺達何年一緒にいると思ってんだ?お前の次の太刀筋さえ分かっちまうってのに隠し事一つ見抜けねえわけねえだろ」

ハクアの嘘は完璧だった。このやり取りをしているものがクレイン以外ならばうまくいったのだ。ただハクアの魂胆はクレインには通用しない。

「さっ帰るぞ」

だがクレインが今度こそハクアを抱えようとするとそれは突然現れた。ハクアの読みは的中した。

クレインが何かを感じ後ろを見るとそれは先程戦った相手つまり大男二体目の登場だった。

「そう簡単にはいかねえよな。勝負だ、大角!」

クレインは剣の切っ先を大男に向けそう宣言した。宣言を宣戦布告と取った大男はクレインのもとへ歩き出す。

「僕の……言うことを……聞いて……いれば」

ハクアは倒れたままそう言った。

「たらればの話は嫌いなんだろ」

クレインは剣を構える。もう立っているのもやっとなその脚で。でも相手を睨む眼光だけは勢いを失うことはなくより一層強くなる。

「俺がお前を見捨てるわけねえだろ。二人で帰るぞ」

クレインは最後の気力を振り絞り大男のもとに駆け、剣をまっすぐ振り下ろした。

だが当然虫の息のクレインの剣など入るわけもなく大男の左手での払いで剣は吹き飛び、奥の木に突き刺さった。

大男がとどめを刺そうと右腕を振りかぶった瞬間、ハクアも予想できなかったことが起きる。

突然、三人の近くに黒い円のようなものが出現した。

「よいしょっと。時空転移がやっと成功しましたね」

この緊迫した空気とは似つかない気楽な声をあげ白い服を着た男は黒い円から姿を現した。

突如として現れた男を警戒したのか大男は標的をクレインから謎の男に変え、謎の男のもとへ歩き出す。

「オーガですか。それも一本級。この時代はまだこんな小物しか存在していないのでしょうか」

謎の男は迫る大男など恐れるに足らないと判断したのか冷静に大男を見ている。

「おっさん、早く逃げろ」

「逃げろ。ですか、たかがオーガのそれも緑の一本級で。……どうやら時空転移だけではなくその時代の設定も成功したようですね」

謎の男は冷静な口調でそう言うと腰にぶら下げたポーチバッグから一本の注射器を取り出し、目の前に来た大男に注射した。

すると大男は「ウゴォ」と悲痛な叫びをあげ霧散した。

「何もんだ、おっさん」

クレインは一瞬で大男を亡き者へと変えた男に警戒した口調で問う。

「あー別に警戒することはないですよ……うーんあえて言うなら未来からの使者ですかね」

「未来からの使者?」

クレインはそんな素っ頓狂な答えにそう反応した。

「ええ。その考えで間違いはないですよ……ていうかそちらの方オーガの毒にあたってるじゃないですか。……解毒剤は持ち合わせていませんね。仕方ありません。そこの黒髪の方」

謎の男はクレインを見てそう言った。

「えっ俺?」

クレインは自分のことを指さすが謎の男に「あなたしかいませんよ」と言われ「なんですか」と問い返した。

「急いでそこに落ちてる角を食べれる大きさにカットしてください。急がないとたかが痺れ毒でも後遺症が残りますよ」

クレインは「さっ早く」と促され角の先端に剣を振りかざした。

「うん。ちょうどいいでしょう」

謎の男は切り離された先端を拾い体の動かないハクアの口に入れた。

「何を」

クレインは謎の男の行動に解きかけた警戒を入れなおす。

「一分もすればもう自由に動けますよ」

するとハクアは指一本動かせなかった状態からあっさりと立ち上がった。

「本当だ、どこも痺れてない」

「それは何よりです。では話を始めましょうか」

「いやちょっと待ってくれ。さっきのデカブツ二体は何者なんだ。それにあんただって」

クレインは溜まっていた疑問を謎の男にぶつける。

「質問は一つずつにして欲しいのですが。まあいいでしょう。まず一つ目、あれはオーガと呼ばれる存在の最弱種です」

「最弱、あれが?」

あれが最弱?信じられるかといった口調でクレインは驚く。

「ええそうですよ。あれは一本級のグリーンオーガと呼ばれ上位種にはレッドオーガの二本級とか三本級も確認されてますね。そうでした。質問に答えたお礼に私からも一つ。今は西暦何年であれをオーガをみたのは初めてですか?」

「今は西暦XXXX年であのような存在は一度も聞いたことはありません」

ハクアがそう答えると謎の男は顎に手を当て考察を始める。

「……やはり時空転移は成功、時代設定もおおむね成功。これが始まりの年のはず……」

「おい、おっさん。どうした?」

クレインは謎の男が訳の分からないことをぶつぶつ言い始めたためそれを止める。

「……すいません。考え込んでしまいました。二つ目ですね。私は西暦XXXX年つまり未来から来たものです」

「西暦XXXX年て二百年も後じゃねえか」

クレインは本気半分疑い半分の気持ちで聞いていたがハクアはどうやら納得したようだ。

「でも未来から来たなら納得も行かないか?」

「どういうことだよ」

クレインは意味が分からないとあからさまに顔をいぶかしめる。

「僕らが苦戦したそのオーガってやつを一瞬で討伐、更にその時使ったのは剣でもなく注射だ。あいつに対する毒が既に完成してるってこと。それを踏まえて考えても未来から来たって話はあながち間違いじゃないかもよ」

ハクアはそう説得するがクレインは理解していない表情だ。

「まあハクアが言うなら信じるけど」

渋々といった感じだ。

「私が言った時に信じてもらいたかったのですが……まあいいでしょう」

「それであなたはどうしてこの時代に来たのですか?」

「そうですね。本題に入りましょう。まず私の生きていた時代、つまり二百年後はこの時代の魔物達の猛攻で十分の一に人口が減少し、住んでいる場所も追われ、人類は一つの国としてまとまり魔物と戦闘を繰り広げています。まああちらが全力を出せば一瞬で朽ちるのでしょうが」

謎の男は二人が話についてきているのを確認し話を続ける。二人とは言っても望みはハクアだったが。

「私は未来を変えるためにここに来ました。現在、この世界はこれから襲い来るクリーチャーの脅威に備えはおろか人間同士で争っている。私はこの世界を滅亡から止めるためにここに来ました」

「何を言って……」

謎の男がそう言った瞬間、先ほどオーガが朽ち果てた時より遅く、しかし着実に白い粉のようなものが霧散していく。

「やはり過去への干渉は限度がありますね。仕方がありません。…………あなたですかね」

謎の男はまた顎に手を当てクレインとハクアを交互に見たあと、クレインの手を握り、握手のような形をとった。

「握手なんかしてる場合じゃねえだろ。おっさん消えかけてるぞ」

謎の男は体が霧散していくと同時に薄くなっていく。色がというよりは存在がと言った方が正しいだろう。

「あなたは仮に私の言うことが本当だとしてあなたは世界を救うつもりはありますか」

「……当たり前だ。世界の滅亡だろうとなんだろうと俺とこいつで止めてやるよ」

クレインはハクアと肩を組む。

それを見て謎の男は少しだけ驚いたように目を開けると「あなたたちは二人揃って英雄なのかもしれませんね」と言い笑った。すると謎の男の手からクレインの腕を伝って何か暖かいものが流れている感覚にクレインは陥る。しかし、一瞬その暖かさの中に異物が無理矢理押し込まれたような感覚を受ける。

「なんだこの感じ」

「私の能力【譲渡】あなたには世界を救うパズルの一かけらを与えます。ですがこれだけでは全く足りません。信頼できる仲間を作り世界に挑みなさい。……私はあなたにも言っていますよ」

この話をすぐ近くでだが一歩引いたかたちで聞いていたハクアもその言葉で引きずり込まれることになる。

「私が見たところ二人とも強い才能を持っている。その才能はおそらく白軍や黒軍の総長を超えている」

「最後に君は必ず一度…...」

謎の男は最後を言い終えることなく完全に霧散した。

「なんだったんだろうな、あのおっさん」

クレインは謎の男がいたところを見てそう言った。

「……分からないけど彼が僕らの命の恩人であることは変わらないし、あの人の行動と言動には説得力があった」

「謎のな」

クレインはハクアの言葉にそう付け足した。

「俺達もっと強くなんねえとな」

「そうだね」

この日から二人の魔物との戦いの日々が幕を開けた




この作品は二人が主人公です。

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