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色彩の戦争  作者: 君野旬
2/3

大男との闘争

初の戦闘です。

現在、クレインの首元には剣先が突き付けられている。それもぴったりと。あと少しでも相手が力を入れれば首に刺さるような針一本分の間隔。クレインは緊張で溜まった唾液をゆっくりと奥に流し込む。

「はい、3035勝目。ほんとにクレインは脳がないね。あんな分かりやすい隙を僕が作り出すわけがないだろ」

そう言って剣を鞘に戻したのはハクアだ。剣が離れたことで一気に恐怖心から解放されたクレインは止まっていた呼吸の分を取り戻すように息を吸った。

「はぁはぁ……その作戦ごとぶっ壊してやろうと思ったんだよ。」

クレインは地面にそのまま倒れ込んだ。

「受け流しなんてずるいだろうが。反則だ反則」

「クレインだって一瞬めっちゃ速くなる技持ってるだろ。おあいこだよ」

ハクアは仰向けで倒れ込んだクレインの横に座った。現在二人は森から少し離れたいつもの場所でいつものように訓練をしていた。

「だからー、あれはやった後の反動が半端じゃないの。足はガックガクになってしばらく動かねえし」

「まあ最初の頃の僕に負ぶってもらって帰ってた時よりはましかもね」

「・・・・・・それは言わないで」

クレインは羞恥で赤く染まった顔を手で覆う。

「あーあ、俺も魔法が使えたらなぁー」

「どうしたの急に」

ハクアがクレインの方を見ると顔の赤みは収まっており、クレインも話を続けた。

「いや、今日都市から来た商人が言ってたんだよ。魔法師は雷を落としたり炎の弾をだしたりするって」

「それほんとなの?たまにそういう話よそから来た人から聞くけど全部浮世離れしてるっていうか嘘っぽいっていうかさ」

「俺は信じてみたいけどな。だっておもしれえじゃん、人が火の玉だせんだぜ」

「そりゃ僕も信じたいけどさ」

「つーかそもそもどうやったら使えるんだろうな。使える奴はいるって話は聞いても実際に使えるやつは俺みたことねえし」

少なくともクレインとハクアがいる間に魔法が使える人がこの村に来たことはない。

「限られた人にしか使えないのかもね」

ハクアは今まで一度も魔法を使える者を見たことがないためそう推理した。ハクアは夢物語を並べるクレインと違い圧倒的に現実主義者だった。

その後、二人はしばらくくだらない話を続けたあと村に戻った。

二人が村に戻ると何やら村長が村の男たちと険しい顔で話しているのが見えた。

「ただいま、エリーナおばさん」

「ただいま」

クレインの後にハクアもそう言った。二人には親がいない。そんな二人を引き取ってくれたのがエリーナだった。

「おかえり二人とも」

エリーナは読んでいた本を閉じ二人と目を合わせた。

「村長たちがなんか険しい顔で話してたんだけど何かあったの?」

クレインは何気なくそう尋ねた。

「うーん、私も詳しく聞いたわけじゃないんだけどね。最近この近くの森に獣が大量に住み着いたから木こりの人達が困ってるらしいわよ」

「そうなんだ。俺ちょっと行ってくるわ、ハクアも行くぞ」

クレインはそう言って家を出ていく。

「じゃあ僕も行ってくるよ。全くせわしない」

そう言って家を出ていこうとするハクアをエリーナはほほえましそうに眺めていた。

「ハクア、あなた達二人は何があっても助け合っていくのよ。たまに喧嘩とかで仲違いしてもいいけどそうすれば何でも乗り越えられるわ」

エリーナは力強い口調でそう言った。ハクアは「分かってるよ」とだけ言って家を出て行った。

家を出てすぐクレインは村長のもとに向かった。

「なんかあったんですか?」

「おお、クレイン君。……実はね最近どうも森に狼やら熊やらが住み着いてしまったらしくてね。全く、以前は安全に木が取れていたのに」

「その問題……俺たちが解決しますよ」

遅れて隣にやってきたハクアと無理矢理肩を組んだ。

「どうします、村長」

「確かに都市から兵士を雇えばかなりの費用がかかるしたとえ雇うとしても兵士たちがくるのに二週間はかかる……すまないが二人に頼めないだろうか」

村長はそう結論付けた。

「任せてください、それでどこの森ですか?」

そう言ってクレインは男から地図を見せてもらい位置を覚えた。

「ここから北にまっすぐ行ったところだ」

「了解です。行くぞ、ハクア」

クレインはすぐにハクアを連れて出発しようとする。

「ちょっと待ってくれ、お前たちあれを持ってきてくれ」

村長がそう言うと男二人が村長の家から鎧と剣を二つずつ持ってきてクレインとハクアに渡した。

「これは……

「受け取って欲しい。なあにこの安全な村では使ったことは数回しかないほぼ新品だよ」

「「ありがとうございます」」

二人はその場で鎧を着る。

「おーこれ着るとなんか本当の兵士になった気がするぜ」

「そういうのいいから」

そう言うハクアもどこか嬉しそうだった。

二人が着替え終わると剣が渡される。

「すげえ、刃こぼれ一つねえ」

クレインは剣を空にかざす。

「二人がいつも訓練しとるのは知っとったからな。気に入ってくれるといいんだが」

「はい。もう最高です」

クレインが左手で元使っていた剣を抜く。

「……今までありがとな」

「こんな剣をありがとうございます」

ハクアは頭を下げる。

「なあに気にすることじゃないよ。この村にはあまるものだったからね」

村長は笑顔を見せた。

「……じゃあそろそろ行くか」

「頑張って来いよ、お前ら」

そう言って木こりの男が二人の肩をたたく。

「「はい!」」

二人は今まで使っていた剣を片付けるため家に戻っていた。

「行くのかい」

二人が家に戻ると開口一番にエリーナは口を開いた。

「うん。行ってくるよ」

クレインは力強い口調で返答する。

「行ってきます」

「絶対に二人で帰ってくること。いいね」

エリーナは念を押す。

「分かってる。俺がハクアは守ってやるからよ」

「僕がクレインは守るから心配しなくていいよ」

「はぁ?」とハクアを見る。

「エリーナおばさん、これ持っててもらえるかな」

ハクアは以前使っていた剣をエリーナに渡した。クレインもそれに続く。

「……これはずいぶん長いこと使ったねえ。私があげた時はもっと綺麗だったのに」

エリーナは使い込まれた剣をいたわるように優しく眺めた。

「そうだね。それ一本でやってきたからね」

「……そうかい。じゃあ二人とも気を付けて行ってらっしゃい」

「行ってきます」

二人は家を出て北の森を目指し歩き出した。

「でもどうして急に獣たちがこの森に現れたんだろう」

ハクアは冷静にその原因を突き止めようとして物思いにふける。

「さあな、元居た所にもっと強い奴でも現れたんだろ」

「それが一番有力かな」

ハクアもその線が有力だとは踏んでいたのだ。仮に元居た住処で食料が減り始めたのなら徐々に数が増えていくはずだが木こりの話によればここ数日で急に群れが現れたそうだ。

「でも狼たちが住処を追われるような獣なんているのかな」

(考えられるのは熊ぐらいだが熊が群れたとしてもせいぜい五体ほど、一斉に狼が移り住むほどの脅威とは到底考えにくい)

ハクアの推理は森に着くまで続いたが結論がでることはなかった。

「大体、狼がいっぱいってどれくらいの数なんだ?十匹とかそんくらいか?」

ハクアは木こりの話を思い出す。

「確か、森で木を切り倒してたら狼が数匹出てきて全力で逃げる時に後ろをみたらそれくらいの数って言ってたよね」

(でも人間が数人逃げるのを狼が追いかけられないはずがない。明らかに何か別の脅威が現れて得物を逃さざるをえなかったと考えるのが妥当だ。でも狼が脅威に感じるものってなんだ)

ハクアが思い悩むのも当然だった。この地域で狼と同等の獣と言えば熊ぐらいしか存在しない。更に、熊は雑食で食べ物の争奪で狼と競う割合は低い。

「よし、ここだな。森に入るぞ」

二人は満を持して森に入った。


「なんだよこの数はーーー!!!」

そう言ったのは首元めがけ飛び掛かってきた狼に剣を振り下ろしたクレインだ。既にクレインの周りは狼の死体とそれ以上の数の狼に包囲されている。

「僕が聞きたいくらいだよ!」

ハクアは狼の首を一突きし絶命させると切り落とし、すぐに飛び掛かってくる狼の首を的確に斬っていく。

森に入って早々に二人は狼に包囲され、クレインの十匹という予想は大外れ、さらにハクアの想定したスケールの中でも最上位の状況だった。そんな中二人はかれこれ二十分程命を狙う刺客と命の削り合いをしている。

唯一の救いは二人がよく森で自給自足の生活をしていて狼との戦闘も初めてではなかったことと偶然にもこの数とは比べ物にならないが狼が住処にしていた洞窟に入り込み疑似体験をしていた点だろう。それでも圧倒的不利は変わりなかった。二人の利き腕は捌ききれなかった狼に噛まれ血が垂れ、鎧がなければとっくに戦闘不能になっていだであろう爪痕が幾度となく刻まれ、その何回かは上手く鎧の接合部に入ったのか腹のあたりからも血があふれ出ていた。

「はぁはぁ……どんくらいやった」

また一匹横なぎに狼を切り倒しクレインは近くで同じく狼を絶命させたハクアに問いかける。

「……これで四分の一ってところかな」

「これをもう三回……上等だよ。全部斬る」

そう言い放ったクレインだがこの圧倒的不利な試合はクレインにとっては思わぬ形、ハクアにとっては予想の最悪の形で終結することになる。

「……何か……来る。…………左だハクア!」

ハクアは長年共に死闘を繰り広げた男の痛恨の叫びにもはや反射的に左に剣を突き出した。

「……なんだこいつ」

ハクアが意識したのは凄まじいスピードでハクアの剣に突き刺さった狼ではなくその奥で五mはあろう木をその剛腕で振り回し、狼を撲殺していく大男だった。一振りで五匹ほどその命を散らしていく狼はもはや赤子同然だった。いやそれは大男ではない。人ではない。その緑色の巨体をを返り血で赤く染め、額には鋭利にとがった大角を付ける獣、化け物だった。

「……こいつは一体何者だよ」

幸いなことに狼はそいつが姿を現した瞬間に一目散に逃げだしたため数の点では一転して二人が有利になっていたが

「狼の群れなんてレベルじゃねえぞ。こいつはやべえ」

そう言うクレインの足は震え、立っているのがやっとのようだった。

「……確かに、こいつはやばいね。じゃあしっぽ巻いて逃げる?へっぴり腰君」

「はぁ?俺が逃げるわけねえだろ。こんなんが村に現われでもしたら一瞬であんな村ぶっ壊れちまう。別にお前は勝手に逃げれば?俺はこいつを倒した英雄になって帰るからよ」

「こいつなんか僕一人で十分だね」

そんなやり取りで二人の恐怖はある程度収まっていた。

「……でもどうする。ただ闇雲に戦って勝てる相手じゃねえだろあれは」

「そうだね。まずは」

ハクアは瞬時にそいつと向き合う状態から丸太の射程範囲外を素早く移動し背後を取ると作戦を告げる。

「まずは二人で攻めてみる。それで弱点が見つかればそこを徹底的に叩く」

「結局シンプルだな。でも了解、参謀」

「参謀呼びは余計だよ!」

二人は一気に距離を詰め同時に襲い掛かる。

「何!?」

すぐに正面から来たクレインの剣を丸太で防御した大男だが当然背後からの攻撃は深々と入り込むはずだったが全力で振ったハクアの一撃は大男の体に刺さることはなくハクアの剣に薄く血が付いた程度だった。ハクアが驚いたのも束の間クレインが大男の一撃を横腹に受け吹き飛ぶと木にぶつかり止まった。

ハクアもこのまま近くにいては不利だと判断し丸太の範囲外に出る。

「大丈夫か、クレイン!」

「なんとかな。剣で咄嗟に止めなかったらやばかった」

クレインはあの一撃を剣一本分受け止めることで軽減していた。

「でもあばらは何本かいったわ」

「……まだいけるか?」

「当たり前だろ」

クレインは口から血を吐きながら剣を支えにしゆっくりと立ち上がった。

「……もうあれしかない。あれでけりを付ける」

クレインは立つのもやっとな自分を無理矢理奮い立たせ心臓から流れている何かを両腕に流し込む。

「てことは僕が時間を稼ぐしかないわけだ。てゆうかもう始めてるし。分かった。代わりに絶対にとどめを刺してよ」

「任せろ」

大男は立ち上がったクレインに何か違和感を覚えたのかクレインに向かって歩き出す。

「ちょっと待てよ。今うちの相棒は使い勝手の悪い切り札を使う準備をしてるんだ。簡単にとどめを刺されちゃ困るなぁ」

大男はすぐに丸太を振りかざすもそれが当たることはなかった。上、左、右と幾度も振っても攻撃が紙一重の差で当たらないのだ。

「君の攻撃は単調すぎる。クレイン以下だね」

大男は幾度も攻撃をかわされたことにいら立ったのか「グオォォー」と咆哮を上げて丸太を横に振る。

(一番力がこもっている振り。今だ)

ちょうどさっきクレインがくらった攻撃だ。その剛腕で丸太を凄まじいスピードで振る。ハクアはそれをリンボーの要領で紙一重でかわすとすぐに態勢を直し、一撃で仕留める予定だったのだろう反動の大きい一撃は易々とハクアの剣が届く距離に踏み込ませる。ハクアはそのまま右足の腱に剣を突き刺した。

これにはさすがの大男も耐えきれなかったようで絶叫した。右足を崩した状態での精彩を欠いた一振りを易々とかわし今度は左足の腱めがけ剣を突こうとするも突然相手の顔を狙った左腕での攻撃をまたも紙一重でかわすがそこを丸太での追撃。

(これはかわし切れないな)

そう踏んだハクアは剣を丸太の方に合わせ少しずつ上向きにすることで攻撃を受け流した。

そのままハクアは一歩前に踏み出し、再び腱めがけ剣を突き立てようとする。

だが突如としてハクアの上から何か粘着質な液体が降りかかった。

(体が動かない。しまった、麻痺毒か)

一瞬にして訪れる痺れになすすべなくハクアはその場に倒れ込んだ。

大男はゆっくりと立ち上がり、ハクアを屠ろうと丸太を構える。

そんな万事休すの時、ハクアは笑っていた。それは諦めから出る笑いではない。

「全く遅いんだよ。決めちまえ」

ハクアはかろうじて動く口でそう言った。

そこからは一瞬だった。もう立ち上がれないほどの重傷を負ったクレインは大男のもとに走る。大男は走り出したクレインに恐怖を感じたのか得物である丸太を全力でクレインめがけ投擲した。

「うおおお!!」

それをクレインは全力の跳躍で回避そしてそのまま一気に突き刺した。


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