4 ギルドという名の酒場
まずは冒険者ギルドがどこにあるのか…だな
俺が近くの人に聞きにいこうとすると
「あ、シロ君私が聞きにいくよ」
と美桜が言ったので俺は少し離れた場所で待っている事にした
どうやら美桜はあそこにいるハゲてるオッサンに聞きにいったようだ
あれ?喧嘩してる?
いつの間にかハゲが美桜に怒鳴っていた、かなり大きい声だったので街を歩く皆が見ている
すると一人の青年がハゲの前に立ち塞がった
その男はかなり美形だった
「おお、あのハゲに立ち向かっていった…勇気あるな」
「ん?兄ちゃん、ソロのクレインを知らないのか?」
「知らん、なにその名前だっさ」
え?このオッサン誰?
「あの人はかなりの実力を持った冒険者なんだぜ」
「へぇ…」
「この街でクレインの事を知らない奴はいねぇよ、なんたって顔良し、性格良し、実力もかなりある男だからな しかし今まで何人もの女がクレインにフラれてる 紳士なんだよクレインは」
「それでな!クレインはなんとAランクの冒険者なんだぜ!」
「ランクA…ちなみにランクは何まであるんだ?」
「え?そんな事も知らないのか?Sだよ 上からたった一つだぜ?しかもこの街の領主の息子でもある」
「それだけ?」
「いーや!まだあるぜ!なんと、ランクAのさらに上位の一部しか知られてない情報まで知ってるって噂だ」
「ほう、ほう、その情報って?」
「そんなの決まってるじゃねえか!冒険者なら誰でも知りたい魔王城の場所だよ!」
「え!?魔王城の場所って皆知らないの?」
「お前はマジで何も知らないんだな、魔王が復活してから魔王城の場所が変わったんだよ 皆、魔王を倒して英雄になろうとしてる そんな馬鹿共を無駄死にさせない為にギルドが魔王城の場所を非公開にしたんだ」
なるほどね、俺は魔王にちょっと会う用事があるのでそれは気になる
「それはランクAになれば誰でも分かるのか?」
「いや違うぜ、ランクAの中でもさらに信用に置ける人物だけだ マジで少ないぜ魔王城の場所を知ってる奴は」
なんとしてでもその情報手に入れたいな
俺はさらなる情報を引き出す為にクレインファンになりきる
「クレイン最高だなっ!おい!」
「おう!やっとお前にも分かったか!?」
―――――――――――――――――――
「お!?クレインの奴今までソロだったのにあの女の子にパーティー勧誘しやがった!」
なに!?これはチャンス
美桜がこちらをチラッと見る
「……………」
頭を必死に振る 伝われぇぇぇぇ!パーティーに入るんだああ!
首が取れそうだ…
美桜がパーティーに入るのを渋っている
なんだと…!?俺の気持ちが伝わらなかったのか美桜!?
「おーおー、あの女の子、かなりの上玉だな しかもクレインのパーティー加入を渋ってるぜ」
くそっ、まずいな あのクレインとかいう偽善野郎は美桜が、最も嫌悪する性格してるからな
美桜!こっち向け!カモーン!おい!
………どうしよう
「ほほー、あの女の子 クレインの顔を知らなかったんだな お前みたいだ… お?またクレインがパーティーに誘ったぞ あれ?あの女の子こっち見てないか?」
「……………」
伝わぇぇぇ!!俺の気持ち!!
痛い、首痛い…
よし、美桜はパーティーに入ってくれた
「おー、あの子パーティーに入ったのか あんなに可愛い女の子もクレインの前では恋する女の子に成り下がっちまうんだな さすがはクレインだぜ」
直接、美桜に理由を話したいな
ていうか能力でいけるんじゃ…
MP30くらい消費でいけるだろ
…よし、できた うわっ50も減ってる、かなり時間が短いかも知れないな
俺は美桜の頭に直接話しかける
(悪い時間がない、とりまそいつのパーティーに入ってくれ それとこれからしばらくの間、俺達は他人って事で それじゃ!)
美桜はこの性格にこの顔だ、すぐに街のアイドル的な存在になるだろう それに加えてクレインのパーティーメンバーだかなり人気者になる
俺が一緒にいれば不自然だし何より俺が動きにくい
「じゃあ俺、そろそろ行くわ」
「おうよ!またどこかで会おうな!」
そう言って俺はギルドへ向かうクレイン達を追いかける
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ギルドは酒場となっていた
その酒場の奥にカウンターがあってそこに美人のネーチャン達が受付をしている
美桜とクレインがちょうど今、受付で何やらしている
周りはそんな二人に興味深々の様子だ
今の内にこのギルドの連中と良い関係を築いておこう
「なぁ、クレインがソロやめてあの女の子と組むって聞いたか?」
まずは最初が肝心だ、こいつらがここにいる理由は酒を飲むっていうのもあるが情報を手に入れる為でもあるのだろう
ならばこいつらの知らない情報を渡す、それが友好の証みたいなもんだろ
こいつらはここでどんちゃん騒ぎしてたから外の騒ぎをまだ知らないはず
「おいおい、冗談だろ?確かにあの子はかなり可愛いけど…」
「本当だぜ、ちょうど今、外で騒ぎになってたんだ あ、ちなみに俺は シロって言うんだけど」
「本当か!?それは大事件だなおい!俺はヤルダンだヤルダで良いぜ」
「よろしくな!ヤルダ」
「おうよ!シロ!」
うむ、こういう仲をどんどん増やしていこう
「じゃあ俺はカウンターに用があるから」
「おう!」
「あ、ちなみにこのギルドで一番可愛い受付嬢は?」
「おおっと!そこを聞くたぁ中々分かる奴じゃねーか ほれ、今男共に絡まれてる一番左の人だよ」
「確かにあれは上玉だな 誰かと付き合ってたりは?」
「当然していない、色んな冒険者から告白されてるが全部お断りだからな」
「はははっ、俺が付き合ったらごめんな」
「はははっ、その時は殺す。」
最後の方がよく聞き取れなかったがまぁいいか
俺は一番左のカウンターへと足を運ぶ、ちなみに美桜達が今いるカウンターは一番右だ
カウンターは三つあるので一つ分しか離れていない
「ザラさん俺と付き合って下さいよぉおお」
「はいはい、お断りします」
「ばぁか!ザラさんは俺の女だああ!」
この受付嬢はザラさんというのか
「あのーこのギルドで一番可愛い受付嬢ってここですか?」
「そうだぜぇ!ザラさんは世界の受付嬢の中でもトップ5に入るくらいだからなぁー」
「確かに美人さんだな 近くで見ると本当に綺麗だな」
「はぁ…全く…ご用件はなんでしょうか?」
この流れは慣れたとばかりにザラさんは用件を聞く
「あーはいはい、冒険者登録で」
「冒険者登録ですね?珍しい… ではこの羊皮紙に血を」
「はいはい、血ね なんか鋭い物ない?」
「あぁ?俺持ってるぞぉー」
「おお、ありがとう」
俺は酔っ払いからナイフを借りて手を切る
自分から手を切るのは久しぶりだ、昔はよく父さんにやれって言われたな
血が指の先を伝って紙に落ちる
その瞬間、なにも書かれていなかった紙に名前とCという文字が浮かびあがった
「はい、貴方のランクはCです 名前はシロトさんですね」
「はい、俺の事はシロって読んで下さい」
「ああ!?馴れ馴れしいぞぉお前ー、俺のザラさんに手を出すのかぁあ?」
「馬鹿野郎!俺のザラさんだぁ!」
「いーや、違うね俺のザラさんだ!」
とりあえず俺もこの酔っ払いのノリにのる
「もう!静かにしてください!」
酔っ払い二人と俺でザラさんを取り合っていると 横から声がした
「はははっ、君達はいつも面白いね」
そこにはなんとクレインと美桜がいた
美桜はザラさんの事を今にも殺しそうな目で見ている
同じ美人としてライバル心を抱いているのか?
「おーう!クレイン!すんごく可愛い女の子連れてるじゃねーかぁ!」
「はははっ、僕が彼女に一目惚れしてしまってね、告白は保留されたけどなんとかパーティーには入って貰えたんだよ」
「お?クレインじゃねーか!遂にお前が惚れる女が現れたのか?」
え?いつのまに告白したの?さっきの騒ぎからギルドに入るまでのあの短い道で?
なんてプレイボーイだ
「あ、クレインさんいつも魔物討伐お疲れ様です」
「あれ!?ザラさん俺達の時と態度違くない!?」
なんだこの態度の差は!?これが格差社会ってやつか
「シロさんは今日この街に来たので知らないかもしれませんが クレインさんはこの街を一度危機から救ったんですよ?」
「へー、あ、ザラさん俺この飲み物注文します」
「え!?そこは何から救ったか聞くんじゃないの!?普通」
「イケメンの自慢話ほど聞いてて耳が痒くなる話はありませんよ全く」
「耳が痒くなるって…」
「まあ、ザラさんが俺に膝枕して耳かきしてくれるなら聞いてあげても良いんだけどね」
「ああー耳が痒いっ!ザラさぁあん!俺も耳かきしてくれええ!」
「奇遇だな俺もだぁ、耳かきしてくれええ!」
「皆さん嘘下手過ぎです…ていうかシロさんはどこまで上から目線なんですか…はい飲み物です」
「どうも、あ、これ美味しいな」
「そうですかっ! それはペルン付近の森でしか取れない果実を…」
この話、絶対長いな
俺はザラさんが話し始めて早々、話題を変える
「へーそりゃ凄いな えぇと、クレインさん?そこの可愛い子はランクいくつだったんだ?」
「あ!話はまだ終わってません!」
ランクカードはその人の血液から総合的な強さをアルファベットで表すカードだ
主にスキル、武術、体術などの総合的な練度でアルファベットは決まる
ちなみに俺は固有スキルで対象を眠らせる能力に変えているからランクがCとなった
それじゃあ美桜は?と思ったから聞いたのだ
「はい、私はAでしたよ」
「ええ!?凄いなぁ、可愛い子ちゃんは」
「フフっ、私の名前は美桜ですよ」
「それじゃあ美桜ちゃんで、俺の事もシロでいいよ」
なるほどAなのか…固有スキル二つ持ちの美桜はSランクはいくと思ったが…AランクとSランクの間にはかなり壁がありそうだな
Sランクってどんだけ強いんだよ
「ひゃああ!!初っ端Aランク!?すげぇ!」
「俺と付き合わないー?ミオちゃーん」
「ちょっと君、僕のパーティーメンバーにちょっかいかけないでくれよ?」
クレインは美桜が絡まれて若干怒っている
「はははっ、流石にかの有名なクレインさんから女を取るなんて真似は俺には到底できませんよ」
「それに俺はザラさん一筋ですから ねー?ザラさん」
「いや、ねー? と言われましても私、人の話を最後まで聞いてくれない人は嫌いです それに私達、今日会ったばかりの初対面ですからね」
「それじゃあもう一回、果物の話してくださいよ聞いてあげますから」
「なんで上から!?私、シロさんより年上ですからね!?」
それからギルドの色々な人と話したり馬鹿騒ぎをしたりした
酔った男共が美桜によって来るのでクレインは美桜を連れて早々とギルドを出て行った
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
俺が冒険者登録をしたその夜
「おいおい、シロォ!今日は俺の奢りだぜ?じゃんじゃん飲めよ!」
「俺、未成年ですから!ていうか服着て下さい!」
「大丈夫だ、ここには男しかいない」
「え!?ザラさん達は!?」
「諦めろシロ、見ろザラさん達のあの顔を」
「既に諦めているっ!?」
昼から夜までこのノリは流石にしんどい…
「ちょっと夜風に当たってきます…酒の匂いだけで酔った…オエッ」
俺は気持ち悪くなりギルドから出る
外の広場は昼間の賑わいとは真逆で静まり帰っていた
各々の家から明かりが漏れているだけだ
「良い街だな」
そう呟き俺はギルドの裏路地へと足を運ぶ
そう、やるべき事は既に決まっている
「オロロロロロ」
吐く事だ