2 殺人鬼がいる街
「はい次の方ー」
俺達の番か
今、俺達はペルンに入る為に検問を受けていた
「ええと、身分を証明出来る物は?」
身分を証明?できる訳ないだろ とか言ったら入れないだろうし…
まあ、こういう事には美桜が打って付けだろう
「身分を証明…ですか?」
「っ!は、はい ランクカードか、通行証、どちらをお持ちでしょうか」
今、こいつ美桜の事 顔、胸、顔の順番で見たな
「すみません…私達、ランクカードという物も通行証も持っていなくて…」
「そうですか!それでは通行証を発行しますのでこちらに… おい、お前ここの検問変わってくれ」
おいおい、信用も出来ない奴にその場で発行してくれるのか?
それだと検問の意味なくない?
そういうのって自分が生まれた国や都市で発行するもんじゃ…ま、いっか
発行してくれるんならそれに越した事はないし
そうして門の横にある小屋の中へ案内された、その小屋はペルンの外壁と接していたので
おそらく門番は門から都市へ出入りするのではなく、この小屋から都市に入ったり出たりするのだと思われる
「こちらになります」
小屋だと思ったが結構広いな もしかして外壁の中なのか?
「ここって外壁の中ですよね これってもうペルンに入ってる事になるんじゃないですか?」
「確かに、入ってますよ」
「えぇ!?通行証を発行する為とはいえ、都市に入れちゃうんですね」
「ははは、そんな事は普通はしないんですけどね」
「え?どういうことですか?」
「普通は門番が通行証なんて作らないんですよ そんな権限ありませんしねぇ」
「え?じゃあなんでここに…」
「ああ、それはですね オラッ!」
「グハッ、」
いった…! そういうことか…
「おい、お前らそこのガキ取り押さえとけ」
「「へい」」
俺は門番に腹を殴られ、いつのまにか後ろにいた二人組の男の一人に取り押さえられた
美桜がこちらに駆け寄るが
「おっと、嬢ちゃんは俺が食ってやるから安心しな」
俺達をここまで案内した男に行く手を阻まれた
「あ!アニキィ!後から俺にも楽しませて下さいね!」
「ああいいぞ、お前らが相手する頃には既に壊れてるかも知れないがな」
「俺はイキイキしてる女の子が好きなんすけど…」
「やめとけって、アニキが女を壊しちゃうのはいつもの事だろ」
はぁ…この世界にもこんなゴミばっかって事を忘れてた
「へへへ、こんな美人久しぶりだぜ いや、ここまでのレベルは初めてか?」
男の手が美桜に触れようとした時
________ボト
「あ?」
それは男の手が地面に落ちた音だった
「いでええええ!!俺、俺の、俺の手がああ!!」
「うるさいなぁ」
美桜はそのまま男の喉を斬る
「クガッ、あ、ぁ、」
血を吐いたかと思うと男の声は段々小さくか細くなっていく
俺を押さえている男は何が起こったのかまだ理解が追いついていない様子だった
返り血を浴びて血まみれの少女が血で赤く染まった剣を地面に引きずりながらこちらに近づいて来る
その光景はさながらホラーだ
俺の後ろにいる男達に向かっているので俺の方に近づいて来るように感じてしまう
ガガガガ という剣を引きずる音だけが部屋に響き渡っている 石で出来た床には剣を引きずって出来た血の跡が伸びいている
え?俺の後ろの人を殺すんだよね?
俺じゃないよね?
美桜は血が点々とついた顔を歪ませ、ニコォ と笑った 歪んでいるがとても綺麗だと感じてしまう
その顔には不思議と見た者を引き付けてしまう魅力があった
少女は笑った瞬間こちらに走り、剣を突き出す
剣は俺の顔の真横にいた男の顔面に突き刺さった 横から飛び散る血が俺の顔にかかる
やべぇ、耳に血が入った
少女は俺を取り押さえていた男の顔から剣を抜くとずっと黙っていた口を開き、最後の一人に話しかける
「ねえ」
「ヒィ!」
「死にたくないでしょ?」
「は、はい!はいぃ!」
男は必死に返事をする
すると美桜はいつも通りの声のトーンに戻り、ニコッと笑う
「そっかぁ、じゃあ通行証とランクカードについて色々と教えてくれないかな?」
先程の姿とあまりに違う姿、そこには一人の天真爛漫な少女がいた ただし少女の顔には血がべっとりとついていたが
…これがクラスのオタク達が騒いでいたギャップ燃えという奴だろうか
なにが燃えているのかは分からないがさっきの様子と今の様子でらギャップが凄い
男は様子が違いすぎる美桜を見て混乱しているようだ しかし、さっきの恐怖は抜けていない模様
「つ、通行証は名前などが書かれていないから身分は証明出来ないが持っていれば人間の国、都市ならどこでも入れます ランクカードは冒険者登録をした者だけに渡されるカードです、名前と自分のランクが書いてあるので身分が証明できるうえ、通行証と同じ働きをします」
男は恐怖で早口になっていたが結構分かり易い説明だった
「へー、そっかありがとう!」
そういって美桜は剣を鞘にしまった
俺はてっきり、情報聞き出してから殺すのかと思っていたので少し驚いた
「ん?どうしたの?もう行っていいよ」
美桜の言葉と共に男は緊張感が一気に解けて肩を下ろす そして急いでこの部屋から出ようとした
「あ、待って」
美桜が一言喋っただけで 男は体をビクリと震わせ、こちらを振り向く その顔は恐怖で怯えている
「この事は秘密だよ?」
「はいぃぃぃ!」
男はそう言ったかと思うとダッシュで逃げていった
それを見届けると美桜がこちらを振り向き俺に謝罪をしてきた
「ごめんなさい…シロ君 私のせいで…」
「いや、大丈夫だよ殴られるのは子供の時から慣れてるしね」
美桜を安心させる為に俺はブラックジョークをかます
「本当に?」
そう言って美桜は殴られたお腹をさすってくる
少しくすぐったい
「大丈夫だって」
確かに殴られた事はさほど気にしていない
どちらかと言うと血が耳に入った事の方が気になって仕方がない
「それより、ほら 全身血でベトベトだろ?」
俺は商人のオッサンから盗った服を渡す
「ありがとう、シロ君」
美桜は全身をくまなく拭いていく
「…………………」
落ち着いて考えれば しばらく会わない内に美桜は綺麗になった、さすが三大美女と言われるだけはある
俺からすれば、中学三年生の夏から高校二年生の終わりまでの2年間程会っていないのだ
記憶を失っていなければ8ヶ月程度で会えたのだが…
今のようにじっと美桜を見つめていると確かに思わず目を奪われてしまう程の美少女だという事に気付く
「そ、そんなに見つめられたら恥ずかしいよ…」
俺に見られている事に気付いた美桜は頬を赤く染めて照れている
「いやぁ、しばらく見ない内に美人になったなって思ってさ」
「ふえ!?そ、そうかな?」
今度は顔まで真っ赤になっている
「なんか、自分の娘が知らない内に成長していた時の父親みたいな気持ちだ 危うく美桜を襲ってしまいそうだ」
これは美桜が昔、父親に襲われそうになった事をもとにした かなりどぎついブラックジョークだ こんなに酷い冗談は俺と美桜の間だからこそ言えるものなのだが
あれ?俺って普通のジョークは言えないのか?
「襲っ!?」
「え?あれ、おーい」
美桜は軽く放心状態に入ってしまった
普段から男を手玉に取ってるような感じがしていたが以外と純粋なんだな
美桜が我に帰った後、念の為殺した男から通行証を奪っておく 個人情報は書いてないから俺達が持っていても使えるはずだ
俺達がこの部屋に入って来た時とは逆側の位置にある扉を開ける
するとそこにはペルンの街が広がっていた
「案外、賑やかで良い街だな」
「そうだねシロ君」
「とりあえず冒険者登録しに行くとしますか」
こうして二人の殺人鬼が都市ペルンへと侵入したのだった