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1994年8月4日

もう、夏休みになった日のこと。


 何だか世間は騒がしく夏の日差しらしい狂暴さが私の心も傷付ける。


 音楽を再生して目を瞑る。


 今、この世界だけが私を誰も傷付けるような世界ではないことを信じたい。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん」


 誰かが私を揺すり起こそうとする。


「誰?」


「それはこっちが言いたいよ!」


 目を開けると家ではないところにいた。


「私は、工藤明美」


 どうやら原っぱの上に寝ていたようだ。


「勝蔵!何してるんだ?」


「久人兄ちゃん、お姉ちゃんが倒れてて」


 はてはて、子供を見た時はこれといって違和感を感じなかったがこの人は…


「女の子がそんな格好で駄目じゃないか」


「あっ…あぁ、失礼」


 私は慌てて駆け出した。


 あれは、国民服だ。


 そうなるとここは1945年とかそこら辺になる。しかもまだ、第二次世界大戦中の日本。


 ひっそりと隠れるようにして人を見てみると女の子はもんぺだし、万歳する家もある。


 これ、家に帰れるのかな?そもそも、もとの時代に帰れるのかな?いったい、何がどうなってこうなったの?


 日頃の行いが悪いせい?


「あーもう!」


「明美!煩いわよ!」


 力一杯叫んだ、と思ったら部屋に戻っていた。


「…ごめん」


 あれは夢だったのかな?


「終わってる」


 カチッと再生機のスイッチを切った。


「おばあちゃん」


「どうしたんだい?」


 その日の内に私はおばあちゃんの家に行った。


「70年前のここら辺はどうだったの?」


 おばあちゃんにお土産の飲み物を渡す。


「ここら辺は今でこそ家や店やら多いけど昔は原っぱも多くてね」


 おばあちゃんは懐かしむように目を細める。


「家の庭には防空壕を掘ってたのよ」


「おばあちゃんは何をしていたの?」


 おばあちゃんはアルバムを引っ張り出した。


「特別なときしかとれなかったけどね、これが女学生の時の写真だよ」


「もんぺだね」


 若かりし頃のおばあちゃんはもんぺでおさげの女の子だった。


「あの頃はスカートなんて履かなかったからね」


「そうなんだ」


 だから、私は怒られたのだろう。


「もんぺは今もあるの?」


「あるよ、何だか捨てられなくてね」


 おばあちゃんは押し入れからもんぺを取り出した。


「ズボンみたいだね」


「ズボンなんて言ったら憲兵さんに怒られるけどねぇ」


 敵性語だものね。


「懐かしいねぇ」


 グラスの中の氷がからんっと音を立てた。


「靖国に連れていってほしいんだ」


 おばあちゃんが言う。


「靖国…神社?」


 こくりとおばあちゃんがうなずく。


「今となってあそこは戦争神社だの色々と言われているけれどね」


「そう」


 靖国神社。


 彼処にはA級戦犯を初めてさまざまな戦死者たちが祀られている。


 海外からの呼び名は、war shrine。戦争神社。


「あそこにはお父さんがいるんだよ」


「ひいおじいちゃんが?」


 私は複雑な感情を抱えてうつ向いてしまった。


「忙しくなければね」


 何とかそう絞り出してそう言うとおばあちゃんの家から飛び出した。


 部屋に入り曲を再生させる。


 8月15日がテーマの曲。


 私の心を傷付ける要因。


 今、ネットの世界はこの曲を中心に荒れている。


 8月15日は終戦記念日である。知ってるよ、習ったのだもの。


 でも、この曲の日でもあると思う。


 不謹慎なんだって。良くわからない。確かに終戦記念日であることを愚弄してこの曲の日であること言うのは不謹慎かもしれない。でも、この曲のキャッチフレーズを言うことは不謹慎なのか?


 わからない。


 たまたま手に取ったスマホでツイートをみる。まぁ、騒がしい。


「だから!戦争の正当性を考えてる人を中傷するのは関係ないでしょ!」


 投げてしまったスマホの安否を確認して私はそっとベッドにスマホを置く。

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