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スズキくんとカレンちゃんの異世界180秒  作者: ドスキリ
第4話
5/5

[第4.5話]フィーネの選択


初めての召喚を受けて、異世界にスズキは訪れた

そこでオークと対峙するが途中で帰還してしまう

ジュリはのちに事の顛末てんまつをスズキに語る

この話は閑話ではあるがジュリ、ステラそしてフィーネ

3人にとっては忘れがたい記憶でもあった


 「ここまで来れば、もう大丈夫だ」

 

  馬上からフィーナは騎士団ー鉄熱の槍ヒートジャベリンにそう告げた

 

  森の中の奥深くに掘られた洞窟のような場所にある祭壇

  

  そこで行われたステラの儀式が滞りなく終了し

 竜の巫女の村までの帰り道を、

 フィーナの乗る先導の馬と二頭のロバにかれた荷馬車

 その周囲をステラ、ジュリ

 そして儀式に参加していた女性達が歩く、

 更に前後左右に前述した騎士団達が散開し護衛している

  

  村まであと1時間ほどで到着しようとしていた

 

 「ここまでの護衛を感謝する」

 

  そう言いながら、フィーネはステラの様子を伺う

 その表情や仕草から疲れてるのが見て取れる

 ただ、その顔は充実感に溢れていた

 

  隣にいたジュリが、

 指を口元に当て、笑顔を浮かべながら言う


 「村も近いですしぃ、折角なんで寄っていただいてもぉ」

 

  その言葉を遮るようにフィーネは騎士団長ルベルに告げる

 

 「失礼かも知れないが物々しい騎士団が、

  村に近寄れば要らぬ不安を村人に与えるかも知れない」

 「警護には感謝するが、ここで充分だ」

 「王国にはこちらから任務は完遂したと報告しよう」

 

  実はフィーネには2つの理由があった、

  

  1つはこの騎士団の良くない噂は、

 辺境の竜巫女の村にも及んでいた

 万が一でも村で騒動があれば、

 騎士団を招き入れた自分達の責任になるのだ

 不安の種は少ない方がいい

 

  そう、フィーネは考え提案したのだった

 

  もう1つは、フィーネは騎士団が好きではなかった

 持ち前の正義感故にフィーネは騎士をこころざしたことがあった

 知識、剣技、馬術とほぼ独学ながら研鑽けんさんしたが、

 辺境の村の出身というハンデは厳しく

 騎士団への門は開かれることはなかった

 

  それゆえにどうしても騎士団をみると劣等感を覚える

 フィーネはそんな自分が嫌いだった

 それを思い出してしまう、騎士団が嫌いだった

 

 「いや、もっともだ」

 「貴女達がそう言うのならばそれに従おう」

 

  フィーネの言葉を聞きルベルはそう言った後に、

 きびすを返して副団長のゼンとリンネに向かい

 王都への帰還命令を指示した後に、

 フィーネ達に向かい直し一礼する

 釣られるように騎士団長達も其々それぞれに頭を下げる

 

 「村まであと1時間ほどとは言え、充分にご注意を」

 

  最後にルベルはそう言うと進行方向を変え、

 王都に向かって騎士団の移動を開始した

  

  その姿を見届けた後に、

 フィーネはステラ、ジュリと同行する女性達に向かい告げる

 

 「さぁ帰ろう、村の皆が待っている」

 

  フィーネは村の方角を愛おしく見つめ、そう告げた

  

  村への道中を再び歩きだして、30分ほど経過したその時だった

 

 「あらぁ?何か匂いがしますよねぇ?」

 

  不意にジュリがそう言う

 少し眉毛をしかめながらの表情からは、

 いい匂いというより、堪え難い匂いという感じだ

 

 「獣臭か?」フィーネは辺りを見渡しながら言う

 「臭いですヨ、、」鼻を手で摘みながらステラも言った

 

  辺りからはザワザワと草が風に吹かれる音が聞こえる

 この匂いは恐らくこの風に乗って運ばれていた

 馬上という高い場所から見渡してみても、

 何もフィーネには捉えることはできなかった

 念の為にローブの下に隠した護身用の短剣にフィーネは手を伸ばす

 「ブオオォォォオ!!」


  不意に大きな雄叫びのような声が響く

 途端に強く匂いを感じる

 

  間違いない何かがこちらに近寄っている

 フィーネはそう感じるとすぐに一団に向かい告げる

 

 「一箇所に固まれ!襲撃だ!」

 「えぇ?モンスター?ですかぁ」

 「隠れるですヨ!」

 

  ジュリそしてステラはそう言うと、

 荷馬車に向かい走り出した

 同じように周囲にいる女性達も荷馬車を中心に集まる


  フィーネの視界の遠くの方から、

 四つん這いで豚のような顔で屈強な身体をした

 数体の醜悪なモンスターが草原を草を踏み締めながら、

 こちらに向かってくるのをフィーネはとらえた

 

  間違いない亜人種である、オークだ

 

  距離にしておよそ、500m位だろうか?

 街道沿い、そして草原が広がるこの場所であったのが幸いした

 まだ時間がある、向かう速度から考えるとそう5分位か?

 そう考えると、フィーネは短剣を抜きローブを脱ぎ捨て、

 少しでも動きやすくする

 

 「この中で戦えるのは私だけ、皆は必ず守る」

 

  決意を固めるフィーネ

 そこに予想もしなかった一言が告げられた

 

 「フーちゃん、弱いヨ!戦うなんて駄目ですヨ!」

 

  ステラが大きな声でハッキリと言った

 それに合わせるように溜息混じりでジュリはつぶや


 「知識や馬術は独学で学べますけどぉ」

 「共に研鑽けんさんできる相手のいない剣術ばっかりはねぇ」

 

  そう、フィーネは村の中では弱い方だった

  

 騎士を目指そうとこころざいた

 11才の頃から入団テストを受ける16才までの間

 5年間だが立ち木を相手に見立て研鑽けんさんした

  

  しかし、実戦訓練をする相手がいなかった

 村では戦う必要がなく、また強くあろうとする者もいない

 お遊びで木の棒を使い戦ったことも数回あったが、

 ただの一度もフィーネは勝ったことがなかった

 そして、本人もそれは理解していた

 

 「だが!私は背中を見せるわけにはいかない!」

 「フーちゃんのバカー!ガンコモノですヨ!」

 

  まるで引く気のないフィーネにステラが叫ぶ

  

  その隣にいたジュリは困ったような表情を浮かべていたが、

 優しい口調でフィーネに問いかける

 

 「でもぉフーちゃん負けちゃったらぁ私達もお終いですよねぇ?」

 「ここはぁ騎士団さんを呼びにいくのはどうでしょうかぁ?」

 

  そんな声を受け、フィーネは考える

 いや考えるにも値しない

 ただ意地になってる、それを指摘された

 このまま戦えば間違いなく敗北するだろう

 敗北すれば、、当然のように私達は全滅する

 それをジュリ姉は気付かせてくれた

  

  フィーネはそう思い決意を固める

 

 「そうだ!言う通りだ!ありがとうジュリ姉!

  私は騎士団を呼びにいく」

 「およそ、3分後にここにオークが到達する!」

 「なんとか耐えてくれ!」

 

  それだけ告げるときびすを返し、矢のように馬を走らせた

  

  これは、自分のミスだ

 余計な判断をした為に限られた時間を使ってしまった

 何故、気付かなかったのだ?

 騎士団に対する私情に囚われていたのか?

 初めからだ、私の責任だ

 騎士団を途中で帰したのも私情が含まれてのこと

 それが、事実なのは間違いない

 フィーネは馬の背に揺られながら自問自答する

  

  悩むフィーネを乗せ、馬は騎士団の元へ走り続ける

 

  その頃の荷馬車では、

 この状況でも相変わらずのんびりとした口調で、

 ジュリがつぶやいた

  

 「ふぅ、さて、どうしましょうかぁ?」

 「やっと助けを呼びに行ってくれたですヨ」

 「そんな言い方しちゃ駄目よぉ

  フーちゃんだって悩んでるんだからぁ」

 「フーちゃんは減点1点ですヨ」

 

  ステラもつい愚痴を溢してしまう

 荷馬車の横に身を隠すようにうずくま

 オークの様子をうかがいながらの会話だった

  

  周囲には同行する女性達も、お互いに身を隠すようにうずくまっている

 

 「フィーネ様、どうか間に合ってください・・」

 

  そんなことを言いながら胸の前で手を組み

 まるで神様に祈るように女性達は一心に願っていた

 

  しかし祈るだけでは状況は解決しないのも事実だった

 オークは若干だが警戒するように速度を緩めつつも

 確実に荷馬車を目指し近付いてくる

 

 「こうなったらアレですヨ!」

 

  身を伏してしたステラが唐突に立ち上がった

 そして、次元の笛を革袋から取出し、大きく掲げる

 

  ジュリが珍しく慌てて言う

 

 「えぇー!呼んじゃう気ですかぁ!」 

 「スズキならなんとかしてくれるですヨ!」

 

  そう言うや否やジュリに了解を求めることもなく

 笛に向かい語りかける

 

 「スズキ、スズキ!助けてですヨ!」

 

  笛からは何の返答もない

 咄嗟とっさにステラは周囲を見渡す

 

  すでにオークは周囲を取り巻きながら

 様子を聞こえたうかがいながら、その範囲をせばめてきていた

  

  もう駄目だ、無理でも呼ぶしかない

 そうステラは判断したのだった

 

 「これから呼ぶヨ!」

 

 周囲にいるジュリや村の女性達に告げるように叫ぶと、

 笛を口元に当てかなでる

 お世話にも上手いとは言えない演奏だが、

 次第に、笛の音は草原に響き渡っていく

  

  その瞬間だった、空間から突如として何かが転がり落ちてきた

  

  それは若者だった、伝承通りであるなら

 これが異世界人のスズキ

 

 「あわわわわぁ」

 

  転移のショックだろうか、明らかに挙動がおかしい

 心配になったジュリが慌てて駆け寄り声をかける

 その声を聞いて少しは落ち着いたと思い、

 ジュリは続けて、現在の状況を簡単に伝える

 

  なにしろ、時間がない

 ステラの様子を伺うと目を閉じ集中して笛を懸命にかなでている

 あと2分位だろうか

 

  ジュリは意を決するとスズキに向かい助けを求めるが、

 戸惑いもあったのだろう

 困惑するスズキはジュリにいくつか質問を投げかけてきた

 急ぎつつも笑顔で答える

  

  ここで不安にさせるわけにはいかなかった

 何しろ私達の命運はこの異世界人のスズキにかかってる

 まだ困惑してると思われる言動も聞こえたが、

 その1分後にはスズキも意を決したのだろう

 

 「うぉぉぉぉ!喰らえぇぇ!」

 

  そう叫びながら、オークに向かい走り込んだ

 

  笛を演奏しながらその声を聞いたステラは、もう限界だった

  

  スズキの叫びの直後、ステラの演奏が止まった

 息絶え絶えに謝罪の言葉を言うステラ

 瞬間的にオークに突撃したスズキが掻き消える

  

  ジュリは唖然としながら、その場に座り込む

 

 「本当にごめんヨ、、」

 

  再度、諦めたかのようにステラがつぶやく 

 さすがのジュリも覚悟していた

 

  まさにその時だった、

 けたたましく馬の蹄の音が聞こえた

 緊迫した状況が災いして、

 オーク以外には注意が向かずその音に気づくのが遅れていた

  

  草原の草を巻き上げながら、

 その蹄の音と共に大きな声が響く

 

 「我が名はゼン!醜悪なオーク共め!一番槍をくれてやるわ!!」

 

  副団長ゼンの言葉に続き、

 騎士団員の其々それぞれが鼓舞するように声を上げる

 

 「俺の活躍をルドル様に!」

 「ルドル様に歯向かうオーク共!消滅させてくれる!」

 

  十数人の騎士が競うように馬を走らせオークに突撃する

 まるで手柄は俺が取るとばかりに競い合う

 限度を逸していた、ぶつかり合う騎士同士の馬

 数名の騎士が馬上から転がり落ちる

 

  その熱気と対象に向かい一本の槍のように突撃する様は、

 さながら騎士団名の鉄熱の槍ヒートジャベリンごとくであった

 

  辛うじて落ちなかった騎士達がオークに突撃する

 落馬した騎士も歯を食いしばりながら、

 馬を捨てて、狂人のごとくオークへと向かう

 戦いは一方的な蹂躙となり、決着した

 

  包囲の一部を完全に撃破されたオーク達は散り散りに逃げ

 更にそれを騎士達が追撃していた

 

  呆然としているジュリとステラ、そして村の女性達

  

  そこに馬上から声をかける騎士がいた

 副団長の1人、リンネだった

 

 「いやーうちの馬鹿達も、

  オーク相手に怪我を負うわけないんだけどさ」

 

  少し困ったような表情を浮かべ鼻を掻きながら言う

 

 「ルドルがいるから張り切っちゃて、驚かせてごめんねー」

 「まぁ私もルドルから言われたら張り切りるけどさ、

  あっ!これは関係ないか」

 

  リンネは照れ隠しのように冗談っぽく笑う

  

  窮地きゅうちを脱したばかりでまだ恐怖心が残ってる

 ジュリとステラそれに村の女性達を和ませようとしてくれてた

 

 「本当に無事で良かった・・」

 

  ジュリとステラの背後から、

 心底、安堵したような声が聞こえた

  

  振り返るとそこには馬に乗ったままのフィーネがいた

 ステラの瞳から不意に涙が溢れる

 

 「うわわゎぁ、怖かったですヨ・ョ・・」

 

  ペタリと座り込んだまま、

 両手で顔を覆い泣きながらそう言う

 気丈に振る舞っていても12才の少女

 安心感から緊張の糸が切れたようだった

  

  ジュリはそんなステラを優しく抱き締める


 「本当に間に合ってぇ、良かったですぅ」

 

  こんな事になったのは私の責任だ、そう思ったのか

 フィーネは2人を申し訳なさそうに一瞥いちべつすると、

  

  戦闘を終え、怪我人、、もっとも落馬による怪我だが、

 それらに対して忙しそうに救護指示を行うルドルに対して

 感謝を込め、無言で一礼した

  

  そして馬上から降り、

 ジュリと共にステラを抱きしめながら考える


 (私の選択は間違いばかりだ)

(このままでいいのか?)


  舌唇を強く噛み締め、

 今日の出来事を反芻はんすうして更に思う

 

 (私はもっと強く賢くありたい)

(その為なら私はどんなことにも耐えよう)

(それが私の選択だ)

 

  決意を新たにし、更に強くステラを抱き締めた


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