スズキは異世界を知る
「あれは結局は夢だったのか?」
朝の起きがけに昨日も何もなかったことを思い出し
呟きを漏らしながら、俺は考える
異世界に召喚された日から、今日で3日目だが何も起きない
また平凡な日常へと帰ってきていた
そもそも冷静に考えると、
幻覚の可能性が高いとすら思ってしまう
あの強烈な吐き気や目眩
何かの突発的な病気で幻覚をみてしまったのか?
状況証拠も靴の裏の土だけでは、あまりに弱い
急ぎ登校の準備を整えながら、
チャンスを逃したような後悔だけが押し寄せる
「あー本当にどうなってるんだ??」
正直、登校する気分にはなれないが
まぁそんなわけには行かない
勉強は学生の本分だとかは言う気は無いが、
まぁとりあえずは、行かないとならない
登校中もずっと3日前の出来事が頭を過る
「よぉ!スズキどうした?凹んだような顔して?」
「そうだな!」俺は即答で返す
校門ではいつも通りにサトウが笑顔で話かけてくる
こいつ案外と鋭いよな
俺はそう思いながら校門を通り教室に入り
いつも通りに自分の席から校庭を見ると違う光景があった
数台の重機が校庭にあり、どうやら工事が始まるらしい
重機には(株)サトウ土木と書かれている
「あーあれか校庭の改修工事だわ」
「地質がどうとかでうちで引き受けたみたいなんだわ」
不意にサトウがそう言う
そういえば、こいつの家は土建屋だったな
そんなことを思いだした
騒々しくなるな、色々と考えることがあるのに・・
まぁ悪いときには悪いことが重なるもんだ
溜息を1つ零して、
いつも通りに妄想の時間に入ろうかと、
そう思ってた矢先だった
唐突なことは唐突に起こる、そんな感じだった
「スズキ?聞こえるかですヨ?」
???なんだ!えらいハッキリと聞こえた
いや、聞こえたと言うより前回と同じく頭に響いた
マジか!本当に夢や幻覚じゃなかったのか!
これでサトウのイタズラだったら殴るしかない
まぁあり得ない、明らかに少女と思わしき声だった
とは言え、いまは授業中だ
心の中で返答しようと試みる
(もしもし、スズキ・・いやジークガインだ)
2回目だからだろうか、冷静過ぎて
電話のような応対になってしまった
「スズキ?聞こえたら返事をくださいですヨ!」
あ、これ全く通じてないな
となると、まさか本当に喋らなければ通じないのか?
そう言えば過去に声が聞こえたときも一方通行だったな
それにしてもタイミングが悪い、前述した通りに授業中だ
そんな状況でいきなり異世界トークを始めるのは、
あまりにアバンギャルド過ぎる
「駄目か、やはりあの召喚は奇跡だったのか・・」
別の女性の声だろうか?こちらもハッキリ聞こえる
しかも、なんか諦めムードが漂う口調
諦めんなよ!そう心で叫んだ、諦められたら、
もう異世界への道は閉ざされる、それは駄目だ!
俺は意を決して、教室を飛び出した
腹を抑えもう限界ですという顔しながら
「すいません!便秘で腹が痛くてトイレ!トイレ!」
と教師に告げて教室を飛び出す
もう、クラスの印象なんかどうでもいい
それどころではない、
俺の将来がそして異世界の未来がかかってるのだ
あと、もう1つ理由があった
また突然の召喚もあり得る為、教室にいることはできなかった
突然と消えたらそれはもう大騒ぎだろう
トイレの個室に滑り込む、幸いにも授業中であり
他に利用者はいないのは分かっていた
「聞こえてるぞ!俺はスズキだ」
明確に自分がスズキであるとこを告げる
異世界ネームを口にしたら、
またややこしいことになりそうなので止めた
「あっ!通じたですヨ!でもトイレってなんですヨ?」
「それは気にするな」
続けて俺は実際に口にしながら言う
「では、要件を聞こうか?」
どっかの殺し屋の漫画みたいだなと
自分自身でも思ったが、
まぁいい本当にどんな要件だかわからないんだから
「えっとですね、まずは目を閉じて欲しいですヨ」
「ん?目を閉じる?」
まぁいいか、目を閉じるだけならリスクなくできる
そう思い、ゆっくりと目を閉じる
暗い、、普通に暗い
と思ってると暗い中に光?が見えた
その光に意識を集中すると明らかに何かが、、
景色、、そう田舎のようなのどかな景色が映る
広がる草原、暖かな光がその草原を更に綺麗に写す
それは次第に大きく広がり、
完全に目を開けている状態と同じように鮮明に映った
まさか?異世界なのか?
「見えた!なんだこれ、そっちの世界なのか?」
咄嗟に声がでる
その声に応じるように返答がある
「ですヨ!いま、スズキに見えるのはこちらの世界ですヨ!」
「そう、エデンという世界ですヨ!」
誇らしげに無い胸を大きく張り仰け反るように喋る少女
そう以前に笛を吹いていた少女、ステラが映った
隣には、こちらも以前にみた色気のある女性
そして更に凛々しい目付きの女性がいる
「私はステラ、こっちはジュリでこっちはフィーネですヨ」
そう言いながら、其々を指差す
どうやら色気のある女性がジュリ
そして、もう1人の女性はフィーネと言うらしい
愛想良くジュリがニコニコと両手を振っているのが見える
フィーネと言う女性は胸の前で腕組みをし仁王立ちしてる
「さては!混乱してますヨね?ですヨね?」
何故かこちらに顔を突き出し人差し指を立てながら言う
若干だがイラッとした
「何もわからないスズキに質問コーナーですヨ!
質問に答えましョう!」
そう言うとステラは再び無い胸を張り、
エッヘンといった感じでまた仰け反った
まぁ確かに何もかもわからないので教えてくれるのは助かる
ただ、その態度に俺はまたイラッとした
「んじゃまずは、どうなってるんだ?これは?」
「なんで俺はそっちの世界が見えてる?声が聞こえる?」
召喚されてないのになんでコミュニケーションが可能なんだ?
気になっていたことをそのまま告げた
「スズキの意識は、こちらの世界と繋がっているのだ」
「次元の笛を介して、感覚のみがこちらの世界にもある」
「召喚前はまだ繋がりが薄かったが1回召喚したのだ、
繋がりが強くなって当然だろう」
フィーネは相変わらず胸の前で腕組みしたまま即答した
答えるタイミングを見失ったステラがオロオロしてる
会話の内容について思う、ん?ん?どういうことだ?
「身体をこちらの世界に送るには、
竜巫女による次元の笛の演奏が必要だが」
「感覚のみなら契約の儀式により常時繋がってる状態だ」
異世界トーク難しいな
まぁ要するに身体を召喚するのは大変だが、
感覚のみなら常に異世界にいると言うことか
つまり、視覚、聴覚そして喋ることが可能なのか
確かに景色も見えるし、声も聞こえる
もちろん、こちらが話してることも伝わっているようだ
頭部だけがそっちの世界にあるような感じと認識した
「なるほどな」さも理解したかのように俺は言う
「そっちからもこっちは見えるのか?」
常に監視カメラで監視されてる状態なのは嫌だ
ここはきっちりと確認する
「いや、こちらからはそちらは見えない」
「そちらの世界では人の目を覗きこめば、
見ている景色が見えるのか?」
「感覚のみ、こちらにあると言うのはそういうことだ」
3回目か?イラッとした
あまりに強い口調の言い方に焦ったのだろう
オロオロとしながらジュリそしてステラが続けて喋る
「スズキさまぁ他に質問はありますかぁ?」
「そうそう、なんでも聞くですヨ!」
俺は最も聞きたいことを聞く
「これは本題だ、どうして召喚した?」
「いや、以前に召喚されたときはピンチだったのは察しがつく」
「無事なところを見ると、
俺が居なくなった後に無事に乗り越えたんだよな?」
実は夢や幻覚じゃないか?と疑いつつも、
もし本当だったら、
オークに囲まれてた女性達がどうなったか気にはなっていた
まぁ俺があのまま討伐できたとも思えないけど、
やはり良心だろうか、関わった以上は安否は心配していた
オークに囲まれた女性達の安否
そう思うと下世話な展開を想像しそうになる
「あーフーちゃんがまたやらかしたですヨ」
「なっ!」
ステラの発言にビックリしたフィーネが思わず口にする
「まぁその後に騎士団の皆様を呼んでくれたのも、
フーちゃんですしぃ」
「チャラということで宜しいんじゃないでしょうかぁ」
ジュリはそう言った後に簡単に事の顛末を教えてくれた
その内容は俺が召喚され元の世界に帰還した後に、
フィーネが呼びに行ってた騎士団が間に合って討伐したらしい
そう言えばあの時には、居なかったなと思う
その原因もフィーネらしいのだが、まぁ無事で何よりだ
「それじゃ今回のこれは?なんだ?」
ステラが俺の視界にかなり近寄って人差し指を立てて、
大きくハッキリした声で言う
「魔王を倒して、この世界を救うのですよヨ!」
「よし、引き受けた!」
もう完全な即答だった
イラッとはしていたが、まさに即答だった
これが王道だ、魔王倒す!非常に分かり易い
シンプル・イズ・ザ・ベストだ!素晴らしい!
常人なら恐らく思案するだろう
しかしだ、俺の日々の異世界妄想のこれが結果だ
一切の戸惑いはなかった
ただ、他にも確認すべきことがあるのは事実
憧れの特殊な能力だ
これが無いのに戦うすべは無い
以前に遭遇したオークですら倒すのは不可能だろう
さぁここからが本番だ
「倒す為の能力が俺にはあるのか?それとも与えられるのか?」
かなりドキドキしながら問いかける
するとフィーネが徐ろに目を静かに閉じ恭しく語りだす
「次元の竜ダグ・ドラグの伝承」
「その偉大なる竜の双牙より生まれし次元の笛」
「次元を超え、異世界より世界を救うべき者を呼びだすだろう」
「その者は世界の理に対して無敵の力を発する」
「人々の思い束ねて伝説となるだろう」
一気に言い切るとゆっくりと目を開ける
「これが私が解読した伝承の一文だ、分かったか?スズキよ」
マジか!異世界での俺Tueeeeeかこれはいいぞ!
無敵の力か、実際の使い勝手はわからないのが不安だが
まぁわけのわからない能力よりはよっぽどいい
感動に身体が震える
これが武者震いかと勝手に思う
さっきからステラとフィーネが呼び捨てなのが気になるが、
そんなのもうどうでもいい
「そこでだ、我々としてもその力を試さねばならない」
「こちらの世界で手合わせ願いたい人物を呼んでいる」
「何しろ次元の笛を吹けるのは3分が限度だ、
どの程度の強さか知る必要がある」
ああ、そういや、そんなこと言ってたな
3分・・・180秒の時間制限
あまりに短過ぎる、たった180秒の滞在時間制限
それが過ぎると元の世界に強制的に帰還する
以前にも体験し解っていたことだったが・・・
なんか少し冷静になってきた
「その相手というのは?」
正直言えば俺もこの間のようにいきなり実戦は御免だ
例え、無敵といってもどういう無敵なんだか不明だし、
もしお約束通りなら弱点があってもおかしくない
この申し出は俺としても有難かった
「王宮魔術師マーリン・マリンステン、我が村出身の天才だ」
「この者と対峙し圧倒できるようであれば、
魔王軍とも言えど問題ないはず」
多少だが自慢っぽくフィーネは言った
恐らく小さい村なんだろう、そこから王宮魔術師に抜擢された
これは同じ村の出身として誇りなんだろう
そんな感じが確かに伝わった
「まぁ本来なら我が村にいるもので試すのがいいのだが・・」
先程から黙って話を聞いていた
ジュリとステラが声をかける
「なにしろ、女性しかいない村ですしぃ」
「戦闘できる人なんかいないですヨ」
まさかのハーレムの要素もここで加わるのか
素晴らしい!ってか女性しかいない村の出身ってことは、
その王宮魔術師も女性か!
時間制限の話を思い出して、少し冷めてた感情に再び火が灯る
そういや、ここまで異世界でみたのはオークと女性だけだ!
これは異世界チーレムだ!間違いない!万歳!
「上手く手加減できるかの方が問題だが、期待に答えてみせるさ」
髪の毛に手を当て、俺はそんな台詞を言う
もっとも異世界の3人からは見えてないのだが、
ここがトイレだってことを忘れる位の爽やかさだったと思う
まぁ目の前にいるのが変な喋り方のお子様、
生意気そうな女、お色気姉さんと、
全て俺のタイプではないが問題ない
これからだ、これから出会えばいいだけの話だ
愛に生きる英雄というのも悪くない
「あっとそれから俺の名前はジーク、ジークガイン」
「そう呼んでくれ」
その言葉を受けて3人は次々に言う
「笛に刻まれてるのは、スズキですヨ」
「あとですねぇーその名前は、
私達の村のあるバルクス王国の国王の名前ですよぉ」
「呼べるわけないだろ、スズキ」
名前をすでに取られていた
しかも、よりによって国王に取られていた
ジーク・バルクス・ガインそれが国王の名前らしい
確かにこの名前を呼ばれるのはまずい
俺が活躍すればするほど国王の名声が上がる気がする
何しろ実際にその場にいた人間以外は、
俺の活躍を噂でしか聞けないのだから
知らない間に、国王Tueeeeeは本当に勘弁だ
まぁあと3人が心配してるのは不敬なこともあるんだろ
そっちは俺には関係ない話だ
「わかった、わかった、もうスズキでいい」
投げやり気味に言い放った
3人は軽く何を言ってるんだという顔をしてるのが見えた
俺の複雑な精神はこの3人にはわからないだろう
「じゃあ、呼ぶヨ」
ステラがそう言う
俺はすかさず「待て」と言いかけた時だった
目の前が歪む、胃の奥から押し上げるような吐き気もある
ああっこれはあれだ、異世界への転移だ
前回と同じように転がりながら
先程までみていた、草原に転移した
慌てて起き上がると目の前にはステラとは違う少女
それが俺に顔を近づけていた
「・・マリちゃんですよ・・」
身長は140cm位でステラより更に小柄で、
三角帽子に幻想的なローブを纏い
これでもかと魔法使いアピールの強い格好をしている、
眠たそうな目をした少女はぼっーとした喋り方でそう言った
まぁこいつが王宮魔術師なんだろうな
「・・こっちはゴリアテくんです・・・」
そう言うマリの指差す方向をみてみると、
そこには威圧感しかないような人?がいた
身長、いや、身の丈2mを超え褐色の傷だらけの肌
そしてボロ布のような服
全身がギチギチに詰まった筋肉の塊
その頭部にはホラー映画にでもでてきそうな
革袋を逆さに被り目の場所に穴を開けただけのマスク
口元からは涎?が垂れ、
地面に落ちるとジュという音を立てて蒸発した
そんな人・・ではないな、化物がそこにはいた
慌てて化物から視線を外し周囲を見渡した、
そのマリとゴリアテのかなり後方にあの3人がいた
ステラは笛を吹いているが、構わず俺は叫ぶ
「ふざけんな!余裕をくれ!」
心の中であの3人にはじっくり話す必要があると、
本気でそう思った
マリはそんな俺をみて
「・・ゴリアテくんは、
この戦闘に関わりませんのでご安心を・・」
いや、ゴリアテくんも怖いけどあの3人も怖いよ
そんなことを思いながら、
もう明らかに瞳を輝かせワクワクとした眼差しを送る3人を見る
「では、時間もないのでいきますよー・・」
「・・連続火球・・」
マリの頭上に赤い熱の塊のような物質が現れる
威嚇も兼ねてだろうか、
俺に向かっての直接の攻撃では無かった
赤い塊から野球ボール位の火弾が打ち出されると、
それは俺の左側3mほど離れた地面に当たり爆散した
地面は深く抉れシューシューと蒸発したような音を立てている
しかも、1発だけではなくそれが3発、4発と地面を抉る
「・・・覚悟はできましたか?・・・」
「いや、できてない」
俺はキッパリと言い切った
少なくても喰らえば無傷で済むような攻撃ではない
地面が抉れた跡をみて、
手足位は簡単に吹き飛ぶのが分かった
「・・・では本番いきますよ・・・」
こいつは耳が詰まってるのだろうか?
完全に話を聞いてない
咄嗟に両腕を顔の前で構えて目を閉じる
まぁ無駄な足掻きだ、喰らえば間違いなく
ただでは済まないのは分かっている
俺が信じるのはあの伝承のみ
本気で祈る、無敵であってくれ!
「うぉぉぉぉ、もぅどうにでもなれ!」
ドォオォン!!ドォォォン!!!
まるで笛の音を掻き消すような爆音な響く、
先程とは違い今度は足元の地面が抉れていた
土埃が舞い上がり呼気に混じり喉を刺激する
ただ・・それだけだ、それ以外は痛みもなにもない
ゆっくりと顔を伏したまま目を開け、
足元を見れば抉れた後がある
俺のいる場所に直撃したのだろう
抉れた跡から考えれば数発は直撃してるはず
本当に無傷だ、どこも痛くも痒くもない
顔を上げてマリを見据える
もう、明らかに動揺しながら、呟いている
「・・・嘘ですよね、嘘、嘘・・・」
違う魔法を行使しようとしているのだろう
マリが大きく両手を天に突き上げると、
そこには紫色の巨大な球体が浮かび上がる
「・・死の行進・・」
紫の球体からガスのような紫雲が噴出され、
俺の周囲がその紫雲で覆い尽くされる
その紫雲に触れたのは俺以外にも草原に生えた草があった
それは次々に萎れて、枯れ草のカーペットが出来上がる
間違いない、確実に即死魔法だ
これテストなのに即死魔法とか有りなのかよ
こんなに冷静なのは理由があった
まるでなんともない、本当に何もないのだ
「・・物理魔法には強くても精神魔法なら・・」
冷静ゆえなのか、マリがそう呟くのも聞こえた
紫雲はすぐに消滅し、完全に消えた
無傷で立つ俺をみて、またも驚いた表情を浮かべる
ん?目元をみると少し涙目になっているのか?
年端もいかない少女を虐める趣味はない
「そこまでだ!俺には全てが無駄だ!」
そう言い放ってみた
こんな短時間でこんなに強気になれる自分が怖い
「・・遠慮しないで攻撃したらどうですか?・・」
「・・私には防御魔法が掛けられてます、心配無用です・・」
俺はマリに向かい胸の前で腕を組みながらゆっくりと歩きだす
「・・・我が召喚に応じよ、無双なる双璧よ!・・」
「・・双璧の守護者!・・」
凄まじい砂煙が巻き起こりマリの前に3mを超える
巨大なゴーレムが2体立ち上がる
輝くような砂でできた身体でこちらを威圧する
すげぇファンタジーだなと思わず感想がでる
そんな眼前に迫る俺に対してゴーレムは、
容赦のないパンチを繰り出した
俺に触れるや否やゴーレムの右腕、それは霧散した
まるで砂のように儚く風に飛ばされる
もう片方のゴーレムもほぼ同時に左腕で殴りかかる
結果は同じだった、霧散したのだった
「ハッハハ、無駄だと言っただろう?」
これ、完全に悪役だな演技を間違えたかも知れない
片腕を失ったゴーレム達は立ち尽くす
術者の精神状況に影響されてるのだろうか?
マリは必死に涙を我慢している、そんな状況だ
俺は簡単にマリの前まで到達した
当然、ここで本気の攻撃をするはずもない
軽くチョップでもして終わりにしよう
「さぁテストはこれで終了だな」
そう言いながら、マリの頭に優しくチョップをする
「・・そんな防御魔法まで・ぇ・・」
明らかに泣き声になりつつマリは言った
どうやら、防御魔法もすり抜けたようだ
それにすら気付かないほど抵抗がなかった
「・・うわぁぁぁあん!・・」
感極まったんだろう、突然に大きな泣き声を上げる
この声を切っ掛けに、
奥にいたジュリとフィーネが走り寄ってくる
「スズキさまぁーさすがですぅ」
「やはり、伝承は本当だったか!」
おし、あいつ等は殴ろう
許されるはずだ、許されないとおかしい
伝承が本当じゃなかったら確実に死んでたんだ
俺にはその権利がある
そう思った矢先だった、低い呟きのような声が聞こえる
「マリサマ・ナカス・ユルサナイ・ユルサナイ」
マリの共に連れてたゴリアテだった
あのゴーレムから比べるとまだ可愛い存在にいまなら思える
まぁ外見的には可愛くはないんだけどな
心に余裕があった、なにしろ無敵だ
しかも実証済みで何の攻撃も俺には効かない
「あー悪かった、泣かすつもりはなかっ・・」
と言いかけた時だった
ゴリアテがその筋肉の塊のような腕を振りかぶり
俺の胴体を目掛けて、
ラリアットのように腕全体を思い切り叩きつける
ドォォォン!!!
あれ?おかしい?
骨が軋む音がハッキリと聞こえる
というより完全に折れている音
バキィ!ベキィイ!と身体の中で嫌な音が響く
それに滅茶苦茶に痛い、呼吸が止まるほど痛い
足を踏ん張るどころではない
空中に糸の切れた操り人形のように放りだされる
2、3回滑るように地面をバウンドした後に、
無防備な状態でゴミのように転がる
「ッ・・ツ・・・ハッ・・・」
もう呼吸すら厳しい
明らかに意識が遠のくのを感じる
「早く回復魔法を!ジュリ姉頼む!」
「もう、やってますぅ、なんで効かないのぉ」
完全に意識が閉じていくのを感じる
駆け寄った2人を見るどころじゃない、声すら遠くに感じる
あ、これ、、死んだかな
異世界での仲間内でのテスト中に死ぬとは思わなかったよ
そんな朦朧とする意識の中で、再び目眩が始まる
目眩とか吐き気とかどーでもいい状態であったが、
俺はまた元の世界に戻ったという感覚があった
この日、俺は異世界のことを知った
そして死ぬほどの痛みを知ったのだった
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
サトウは戦慄してた
滅茶苦茶になった制服、低い呻き声を発するスズキ
授業が終わった後も、スズキが戻らない
腹が痛くて閉じこもってるはずのトイレの個室に向かう
何度、呼びかけても一切の返事がなかった
サトウは意を決して個室のドアを無理矢理に開けると、
スズキは便器に顔を突っ伏して、
前述の状態で動かなくなっていた
「お前の便秘はどうなってるんだ!?」
サトウはすぐに先生に連絡を取り、
救急車が呼ばれて搬送された
これはスズキが知らない、その後のお話
次回、「召喚されるカレン」に続く