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スズキくんとカレンちゃんの異世界180秒  作者: ドスキリ
第2話
2/5

召喚されるスズキ

 「チュン、チュン」

 

  雀が鳴く、朝の7時過ぎ

 朝食は軽く済ませ・・ていない

 朝の準備で忙しいときに、

 ゆっくり朝食を楽しむ余裕はなかった

 

  両親がいないわけではない

 父は朝の6時には家を出て、

 片道2時間をかけて会社という戦場に向かう

 普通で在り来たりなサラリーマンだ

 母はそんな父を見送ると起きてこない俺を気にしながら、

 俺の弁当の準備を始める

  

  いつも通りの朝、いつも通りの通学に飽き飽きしている

 

  俺はスズキ

 

  平凡で一般的でノーマルな17才の高校2年生だ

 まず、容姿は普通だと思う

 身長、体重も意識することもなく17才の標準値を維持してる

 通う高校も標準偏差値の私立高校

 勉強も出来るわけでもないし、出来ないわけでもない

  

  ここまで普通だと逆に凄いなと自己分析しながら思ってしまう

 

  そんな俺が朝の7時過ぎに通学路を何もなく歩いている

 閑静な住宅街を抜け、人通りもまだ少ない商店街を通り

 徒歩で30分かけて通う高校、私立洛涼高校に着く

  

  私立と言えば聞こえはいいが、なんのことはない

 母親が教育にハマってた時期があり

 家計的に厳しかったが、無理をして進学した

  

  まぁご近所さんへの体裁もあったのかも知れない

 俺には知る由もないのでここは割愛しよう

  

  そんな高校に向かう為に、いつも通りに何もなく歩く

 当然だ、日常なんだから何もなくて当然だ

 日常を望まないなら通学路を家から全裸で歩けばいい

 たった100メートルで非日常だ

 もっとも俺はそんな非日常はごめんだ

 だから俺は普通に通学路を歩く

 

  そんな俺でも人と違うことが一つある

 異世界に憧れていた、平凡な俺だからこそかも知れない

 いつかこの退屈な日常を異世界が迎えにくる

 それが俺の望む非日常だ

 そんな日を夢みて、妄想という努力をしている

 まぁたぶんそれが俺なんだろ

  

  そんなことを思いながら通学路を歩くと、

 程なくして高校に到着した途端に校門で話かけられる

 

 「よう!スズキ、相変わらず退屈そうな顔してんな」

 

  爽やかに俺に向かって笑いかける

 友人のサトウである、彼もまた平凡な男子高校生だ

 

 「そうだな!」俺はお決まりの台詞を言う

 「今日は帰りに、飯食って帰ろうぜ」

 「そうだな!」俺は真っ直ぐ帰るつもりだ

 「それにしてももうちょい交友関係に花が欲しいよなー」

 「そうだな!」サトウは変わらず笑ってる

 

  そうこうしてる内に教室に到着した

 教室、窓際の俺の席に座るといつも通りに校庭をみる

  

  別に女子の体育を期待してでもないし、

 何か騒動でも起きればいいと思ってるわけでもない

 ただ、ぼーっと校庭を眺めるのが日課だ

  

  そうして、異世界での特殊能力について考える

 これは非常に重要なことだ

  

  定番として女神や神様が現れて、

 特殊能力を選択しろと言われる可能性が高い

 それについて考察することは、

 身体を鍛えたりするよりも重要だ

 何故なら選び直すことは無理な可能性がある

 選び直すのが無理ならば、

 これはもう事前に深く考察する必要がある

 肝心な時に優柔不断に迷う、これは俺の美意識が許さない

  

  そこで与えられる能力について具体的に考える

 時間停止の能力はどうだろうか?

 正否を問われれば、俺の答えは否だ

 停止したところでドラゴンに通じる攻撃がイメージできない

 戦闘でなくてもダンジョンの落とし穴に落ちた場合

 時間停止しても空中でバタバタできるくらいだろう

 そして停止できる時間が過ぎたら自由落下する

 結局のところ、異常な身体能力があってこその時間停止なのだ

  

  では、全てを一撃必殺というのはどうだろうか?

 もちろん、これも否だ

 力だけで解決できるほど異世界は簡単ではないはず

 脳筋異世界だけは勘弁して欲しい

 それにゴリゴリのバトル展開は性格的に向いてない

  

  不死身、強力な魔法能力と色々な案を考えるがまとまらない

 満足する答えに行き着くには、まだまだ考察が足りない

 俺は腕を組みながら目を閉じ再度の考察に没頭する

 

 「スズキ、おい聞いてるか?帰りはラーメン屋でいいか?」

 

  俺が真剣に考えてるときに話かける男、それがサトウ

 悪い奴ではない、悪い奴であれば友達にはならない

 そこそこにいい奴なのだが、空気が読めない

 

 「そうだな!」俺は親指立て気さくに返す

 

  そう、社交性もまた異世界には必要なものだから

 ここ最近は社交性を磨く為に、

 同一の言葉だけでコミュニケーションを取れるか実験している

  

  なんで、そんな馬鹿なことを?と思うかも知れない

 これには理由があるのだ

 それは、異世界で言葉が通じない可能性もある為だ

 わかる言語だけでコミュニケーションを取らねばならない

 いきなりの異世界で取得できる言語には限りがある

 俺の学力では10個ほどで精一杯だろう

 ならば少ない言語でコミュニケーションを取る

 これがいまの俺の課題だ

  

  そんなこんなでサトウは3日間ほど、

 「そうだな!」しか俺の声を聞いてないはず

 

  そして学校が終わり、いつもの日常を繰り返す

 部活には入ってはいない当然の如く帰宅部だ

  

  これが俺の平凡ないつも通りの日常だった

 こんな平凡な日常が続くと感覚は過敏になる

 いつもと違ったこと、そういったことに過敏になるのだ

  

  非日常の始まりとなる、記念すべき日もそうだった

 正確には記念すべきという表現は間違っているかも知れない

 記念するというのはだいたいが幸せな出来事に対して使われる

 不幸な出来事を記念するというのは不謹慎だと俺は思う

 だとすると、この先に何があるかわからない場合

 記念すべきという表現というのは不適切かも知れない

 何にしろ、始まりは始まりだったのだ

 

 「ん、おかしいな?」

 

  唐突に違和感が俺を襲う

  

  今年の4月に高校2年生に無事になり、

 留年というプレミアムケースを考慮しなければ当然のことだが、

 新学期を迎え新しい気持ち、、には俺はならないが

 そんな気持ちを覚えるのが一般的な4月20日だった

 

  朝の7時過ぎ、いつもの通学路、いつもの道

 周りを見渡す、通行人は多いが閑静な住宅街だ

 違和感を説明することは非常に難しい

 強いて言うならゾワッとした悪寒にも似た感覚があった

 

 (・・ス・・ヨ・・)

 

  え!なんか頭に響いた

 俺は、咄嗟に通行人を睨みつける

 通行人は怪訝そうな目をして立ち去る

 どうやら通行人が話かけたようではないようだ

 まぁ話しかけて頭に響くということないか

 

  気のせいかな?と思いかけたが、、

  

 (・・スズキ・・・)

 

  間違いない!スズキと聞こえた

 我が名はジークガイン!我を呼ぶのは誰だ!

 咄嗟に俺の異世界ネームを心の中で叫ぶ

 本当に異世界からの呼びかけであれば、

 スズキと言う名前が定着する前に先手を打たなければならない

 俺は機転の効く男だ

 嫌いな名前ではないが異世界ではインパクトが低いはず

 

  まぁもっとも実際に声にだせたら良いのだが、

 世間体という縛りプレイを強要されている

 この現実世界では厳しい

 

 (・・・けにきて・・)

 

  聞き取れないが、確かに頭に響く声

 周りを再度見渡すが他の人達に聞こえてる様子はない

 テレパシーだよな?そんな考えが頭に浮かぶ


 (・・たすけて!・・)

 

  間違いない助けてと言った!これは確実に聞こえた

 緊急事態なのか?切迫した女性、いや幼い少女の声?


 (・・・これから・・)

 

  これ1時間位続いたらノイローゼになるんじゃないか?

 別の不安を覚えるが、興奮してるのは確かだ

 

  何しろ、確実に憧れてた異世界パターンだった

 まぁ超能力バトル物に巻き込まれる可能性もあるが、

 その場合は辞退も仕方ないと余計な考えが頭を過る

 

  改めて、頭に響く声に集中する

 

 (・・・よぶヨ・・・)

 

  よぶヨ?よぶヨって何だ?と思った瞬間だった

 

  ガクンっと身体全体が沈み込む感触がした後に、

 強烈な目眩と吐き気が俺を襲う

 地面がグルグルと回る、自分が立ってるかすら分からない

 薄っすらと身体の周りには青い靄みたいな物が見えた

 身体から30cmほどを覆うように漂ってる

 ただそれがなんであるかはわからない

 わかるはずもない

 冷静な状況であれば思慮できたかも知れないが、

 いまのこの状況じゃ不可能だ

 とにかく体制を整えようと、吐き気をこらえ踏ん張る

 

 「あっ」次の瞬間、地面に投げ出された

 

  咄嗟に受け身を取るが習ってないので、

 無様に地面に転がった

 柔道でも習えば良かったとは思わなかった

 あまりに突然の出来事に思う余裕すらない、

 

  そもそも非常事態にそんなことを思えるほどの精神力は、

 残念ながら持ち合わせていなかった

 

  吐き気を我慢し慌てて起き上がり周りを見渡す

 明らかに今までの場所ではなかった

  

  広々とした草原、遠くに見える森

 周囲に流麗に響く笛の音

 あるべきはずのビルや住宅は周囲に見えず

 踏みしめる地面もアスファルトから土へと変わっていた

  

  得体の知れない興奮が胸の内から溢れでる

 

  一般人なら恐怖に襲われ気絶するかも知れない

 しかし、常日頃から異世界を意識していた俺は、

 腰を抜かす程度で済んだ

 

 「スズキさまぁ!大丈夫ですかぁ?」

 

  その場に座り込んだ俺に手を伸ばすのは、

 まさにファンタジーの住人だった

 

  胸元の大きく空いた薄い黒のローブをきた女性だった

 

 (すまない!助かったよ!)

  確かに心の中では言ったはずだったが、


 「あわわわわゎ」

 

  実際の一言目は俺の理想とはかけ離れた一言目だった

 あまりの展開にさすがの俺も動揺を隠し切れなかった

 予想していた展開を遥かに超え

 あまりに突然で唐突で急展開だった

 

 「本当に大丈夫ですかぁ?」心配そうに話かけられる

 

  なんとか立ち上がると矢継ぎ早に話しかけられる

 

 「ステラちゃんが笛を吹き終える前に、

  オークを倒しちゃって下さいぃ!」

 

  話すと同時に女性が指で示した方向を見る


  そこには1人の少女が笛を吹いていた、恐らくあれがステラだろう

 周囲に響く笛の音もステラが演奏している音で間違いない

 改めて周りを見ると薄い黒のローブを着た複数の女性

 

  そして、醜悪しゅうあくなモンスターが囲んでいた

 

 「私達はステラちゃんの従者です!オークに襲われましたぁ」

 「スズキさまぁ助けて下さいぃ!笛を吹き終わるまでにぃ!」

 

  簡潔に言えば何を言ってるかわからない

 俺に何を言ってるんだ?

 笛?オーク?がどうしたって?

 頭の中に無数の疑問符が浮かびでる

 場所、状況、話しかけてる従者という女性

 その全てが疑問符だ

 

  ともかく異世界での初めての戦闘は始まったのだ

 

 「えっと、もう1度、説明して?」

 

  その言葉にキョトンとした顔の従者の女性は答える

 

 「んっとですねぇ貴方がいられるのは、

  笛の音の止むまでの間ですぅ」

 

  口元に指を当て、舌ったらずに喋る

 よくよく見ればかなり色気のある女性だ

 

 「ほうほう、笛の音が止まったら?」

 「元の世界に戻りますぅ☆」

 

  従者の女性はニコッと満面の笑みを浮かべて答える

 俺も釣られてニコッと笑顔で返す

 

  そして改めて周囲を見渡すと、オークと呼ばれた

 醜悪しゅうあくなモンスターが変わらず取り囲んでいた

 

  突然と現れた俺に明らかに警戒してるのが分かる

 そうでなければ悠長に質問してる場合ではない

 オークの手に握られた鈍器がこちらを威圧する

 

 「あと、1分がステラちゃんの限界かなぁ?」

 

  ステラの顔に目をやると顔を真っ赤にして限界を訴えている


 「スズキさまぁやっちゃってくださあぃ!」

 

  俺は一息吸うと大きく吐き出した、まずは落ち着こう

  

  オークを見ると体長は2m前後、

 豚を思わせるような顔に屈強な肉体

 武器は棍棒のようなものを其々握り締めている

 現実世界であれば勝ち目はないだろう

 異世界であっても勝てる自信なんか何もない

 なにしろ特殊能力も魔法装備もなにもない

 あえて言うなら学生服に素手、これが装備だ

 

 「え?素手でなにやるの?」思わず声に出た

 

  えっ、なにこれ罰ゲーム?

 

  これでステラや従者の女性達が死んだら

 俺はトラウマだけ抱えて元の世界に戻るのか?

 その前に俺はここで終わるんじゃないか?

 心の中で自問する

 

 「はやくぅ」

 

  そう急かす声が聞こえた瞬間

  

  俺は走りだした

 

  当然だがオークに向かって走りだした

 これで逆方向には走りだし逃げだせるようなら

 俺はもう少し利口なのかも知れない

 まぁ囲まれてるから、その選択肢も存在しなかった

 

  ダメで元々だ、状況に恐怖心が麻痺していた

 足が思ってたよりもスムーズに動きだし

 拳を構えオークに目掛けて突撃した

 

 「うぉぉぉぉ!喰らえぇぇ!」

 

  あ、ちょっとカッコイイかもと思いながら覚悟を決めた

 その瞬間だった

 

  ・・・笛の音が止まった

 

  思わずステラを見ると笛から口を離し、肩で息をしてる

 

 「ごめんヨ、ギブですヨ、、」

 

  顔を赤くしながらステラはそう告げた

 

 「えぇぇぇえ」と思わず声にでる

 

  景色がグルグルと回り、強烈な吐き気が襲ってくる

 気がつくと元の世界の道路に放りだされる 

 ヨロヨロと立ち上がり

 近くの電柱にしがみつきながら

 

 「うぇぇぇぇぇ」嘔吐した

  

  汚れた口元を拭いながら

 

 「な、なんだろうな、んー?」と思わず呟く

 

  ステラやその従者の女性達への心配よりも先に思い

 そして突発的で感情的に叫ぶ

 

 「うぉぉぉおぉ、なんだこれぇ!?!」

 

  何から何までわからない

 時間にして2、3分だろうか?

 俺は確かに異世界にいた?いや、確実にいたはず

 靴についた土だけでは説得力に欠けるのも事実

  

  しかし、俺は異世界に居たのだと思い込む 

 異世界の名前も状況もわからないままだったが、

 あれは紛れもない現実だ、そう信じてる

 

  これが俺の異世界デビューだ

 

 

 次回、「騎士団長ルドルの悩み」に続く

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