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What makes you recognize it

作者: 待咲夢猫

改札口から、一番に見える位置にいようと思った。

別に、深い意味があるわけでもなく、何か考えたわけでもなく、なんとなく。改札口を抜けてすぐ前にある柱に、僕は寄りかかった。

目の前で、改札を抜けた人々がそれぞれの向かう場所へ自由に足を進めている。速足だったり、のんびりしていたり。一人だったり、仲間がいたり。

ただ一人で、柱に寄りかかっている僕は、この中で誰に一番近いんだろう。

構内から少しだけ見える空は、カラカラに晴れていた。青だけど、なんとなく色味がないような、白黒写真と見間違えてしまいそうな、グレイスケイルな世界が広がっていた。

冷たさを捨てきれない、三月の天気。空っぽな昼下がり。

「ひさしぶり」

先輩は、高校の頃とは変わらない、隠れ蓑みたいな、黒くて、長い髪の隙間から、薄く白い肌をのぞかせる。男子高校生が知るよしもなかった“女の人の匂い”は今も変わらなくした。

「あ、」

突然の声に、僕は何も言えなくなった。改札から来る先輩が、一番に見える位置にいたっていうのに。

「どうしたの?」

頬にかかった前髪を、先輩はかき分けて、それから、僕のことを見つめた。僕は目を合わせないように先輩を見た。

「なんでも、ないです。久しぶり……ですね」

「そうだね。それにしても、よく見える位置にいてくれて助かったよ」

僕と先輩との距離は、一メートル。この駅の中で、一人と一人が他人じゃなくなる距離。

先輩は、片手に持っていたハンドバッグを腰の前で両手に持った。そして、その両手を、長い髪を垂らして見つめた後、ほどけたような__世界が緩やかに溶けていくような__笑顔で、先輩は言う。

「おめでとう、だね」



駅を出ると、真冬の痛い冷たさほどではないけれど、寒かった。どこか話せるところに行こうと、僕らは近くのファミレスに向かった。

「春からはどうするの?」

僕の少し前を歩く先輩は、目の前から視線をそらさずに、僕に尋ねた。

「こっちで、暮らします」

「そっか」

「はい」

「じゃあ、同じだ」

思いがけなかった返事に、僕が先輩の方を見ると、先輩はすでに僕のことを見ていたようだった。

「先輩も、下宿してましたっけ?」

「うん、まあ、去年の秋から」

去年の秋、ちょうど、忙しかったときか。いや、つい最近までは、ずっと忙しかった。

「そうだったんですか」

「うん」

僕は、先輩について、知らない事が多すぎる。先輩が高校を卒業してからの二年間、僕らはほとんど会うことがなかった。僕が知る先輩は、本と星座が好きで、髪が長くて、美人で、口数が少ないとういうことだけ。あとは、通っている大学。

だから、今日までの僕に残された二年間の高校生活は、もっぱらその大学に向けて毎日を浪費していくだけだった。

「すいてそうだね」

先輩の目線の先には目指していたファミレスの入り口があった。ランチタイムはゆうに過ぎていたので、店内に人はほとんどいなかった。

「そうですね」

そう言って、僕が扉を開けると、ぬるい風が染み込んできた。うしろで、あったかい、とかすかに聞こえて、僕は少し恥ずかしくなった。

店員は、僕が何かを言う前に駆け寄って、どこか急ぐように、二名様ですね、と声をかける。僕は冷えた体が温まるのを感じながら頷いた。

座席について、僕らはコートをたたむ。先輩は、白いシャツと、ユニクロの黒いカーディガンを着ていた。ひじから袖口にかけて、生地にすこしだけダマが出来ている。先輩は、そういう人だ。

「何頼む?」

先輩は、メニューを広げて僕に渡した。

「そうですね、僕は、ドリンクバーだけでも」

「そっか。実は私、お昼まだだから、食べていい?」

彼女らしい気遣いに、僕は緊張した。

「べつに、大丈夫です」

「ありがとう」

先輩の口調は相変わらず淡々としていた。そうして、僕らが注文を終え、そして先輩が料理を食べ終わるまで、僕らに会話はなかった。


「まさか、またこうして会えるとはね」

飲み物を小鳥のように少しずつすすりながら、早めの晩をしに来る人を横目に眺めていた時、先輩はそう口を開いた。あまりの唐突さに、僕は二秒くらい口ごもって、それから返した。

「だって、約束したじゃないですか」

すこし恥ずかしかった。でも、これが言いたかった。

「そうだね」

どんな時にする表情なのかは未だにわからないけれど、先輩はまた、駅で会った時と同じ笑顔をした。

「あのっ」

僕は、たぶん、次に大事なことを言おうとしている。こめかみにうまく力が入らなくて、頬に熱が走る。ほとんど中身の残っていないグラスが汗をかいて、僕のこぶしに雫が伝った。

「あの、春から、また、こうして会えたりしますか?」

僕はそう言った。すこし、声が大きくなって、気持ち悪く震えてしまったけれど、言えた。

「そう……だと思う」

自分のコップのストローを細い指先でいじりながら、先輩は答えた。他人事のような言葉だったけれど、僕は少しだけ春を、あの生ぬるい暖かさを、楽しみになれた。

僕がそうですか言うと、うん、お昼とか、いままで一人だったしと、先輩は返した。

ふいにあの場所を思い出す。

「懐かしいね」

先輩も、どうやら同じことを考えていたようだった。

僕の、高校一年生の時の春。先輩は、高校三年生だった。思い出したのは、小さな天文部室にたった二人で過ごしていたあの時間。

もしかしたら、あの時からすでに、僕と先輩は他人じゃなかったのかもしれない。

「白雪くんは、変わったよね」

先輩は、僕の視線から逃げながらそう言っているように見えた。

「そうですか?」

「うん、あの時より、大人になった」

ウソだ。

だって、先輩の方が

「先輩の方こそ、もう、大学三年目になるじゃないですか。あと二年で社会人になるし、なによりもうお酒だって」

すると、先輩は、氷だけのグラスをかき混ぜながら、咳き込むように小さく笑った。

「何言ってんの。お酒が飲めれば大人ってわけじゃないよ。しかも、私なんてまだ、このまま学生でいたいとか、思っちゃったりしてるし」

そういうところだ。そういう答え方だ。

僕はもう、あの頃の先輩より歳上だ。けれども、やっぱり先輩は、大人のままだった。他人と他人じゃないほどの距離に近づいても、僕は、やっぱり。

「なに言ってるかはそっちのほうですよ、留年する気ですか?」

「ふふ、冗談。これでも今のところは先生に気に入られてるみたいだし、ちゃんと卒業しないとね」

先輩は、やっぱり、先輩だ。しっかり者で、僕がどうしても、幼く見える。

「すごいですね」

僕は、この言葉の意味をかみ殺して、単なる世辞として吐き出した。

「まあ、私はあんまり、ほかのコトは、得意じゃないし」

ふと顔を上げると、先輩は下を向いていた。グラスの氷が、とうとう互いを支えられなくなって、コロリと音を立てた。


「星」


その小さな音と共に、先輩は、俯いたままそう呟いた。

「金星」

同じように、そう呟き返す。

「一番星」

先輩はさらにそう返して、それから、互いに顔を見合わせた。するとすぐに、たまらなくむず痒い感じがして、僕らはすぐに目をそらした。お互いに、小さく子供みたいな笑みをこぼした。

「覚えて……たんだね」

「忘れるわけ、ないじゃないですか」

「そうだよね、よかった」

先輩は、行き場のない唇で、氷の解けた水をすすった。

「先輩、」

僕は、忘れていた。

「なに?」

確かにここでつながっていたんだ。

「一番星を、見に行きましょう」



西の空の奥底に、熾火がかすかに燃えていた。東の空は、煙みたいに黒かった。

煙の中にパチパチ爆ぜた灰埃みたいな星々。でも、その中に僕たちの一番星はない。

彼方の西の、宵の明星。

それが僕らの一番星。僕が先輩と初めてした会話が、宵の明星についてだった。

「さむ……」

先輩は、両手に息を吹きかけた。小枝のようなその指は、色の気配を見せずに、ただ真っ白に辿々しく震えた。

「急ぎましょう」

僕は、すこし歩調を速めて先輩の前に出た。

「さむい」

振り返ると、先輩は僕から一メートルよりすこし後ろに、ぽつり、一人佇んでいた。

「じゃあ、なおさら__」

「手が、さむい」

先輩は手を伸ばした。きっと僕が手を伸ばせば、ちょうど一メートルちょっとの距離が、ゼロミリになる。そんな間合いだ。

「そう、それが正解」

僕はその声を、後ろ側から聞いた。僕は先輩の視線を避けて、歩調を緩めた。僕の手だって、大分かじかんでいたような気もしたけれど、それよりも先輩の手は冷たかった。すこしでも強く握ったら壊れてしまいそうなほどの、か細い力が指の甲をさする。

「すいません」

カッコ悪い。

「あったかい」

そう言った先輩の顔は、隠れ蓑に身を潜めていた。ただ、すこしだけ、俯いているようにも見えなくはないのかもしれない。

「急ぎましょう」

僕はいったい、何に急いでいるのか分からないけど、そう言った。

ふと空を見上げると、熾火はすっかり燃え尽きていた。



「どうぞ」

僕は自分でさえ開け慣れていないドアを、先輩のために開いた。

「ここが、白雪君の」

駅から十五分、学校までは二十分かかる築十数年のアパート。その二階の一番端が、僕の新しい帰る場所だった。まだ、机とベッドと、いくつかの生活必需品だけしか入れていない。

先輩は、僕の手を放して靴を脱いだ。左の手のひらに残った湿り気が、ぐんぐん冷えていく。先輩に続いて、僕も部屋に上がる。ムートンブーツとスニーカーが並んでいるのを見て、僕はすこしだけくすぐったい気持ちになった。

「お茶、用意するんで、くつろいでいてください」

「ありがとう」

僕は、いつかのために、__というよりは願掛けのような意味が強かったのだけど__買っておいた、自分用じゃない、もう一つのマグカップを、それしか入っていない戸棚から取り出した。ポットからお湯を注ぐと、ティーバッグがぷかぷかと浮いて回る。空が赤い理由を知らなかったあの時とは違って、今はティーバッグがいつも同じ方向に回る理由だって知っている。先輩のいない高校で、僕はいくつもの知らないことを勉強した。だけど、大事なことは、

「先輩?」

振り返ると、先輩は窓の向こう側をじっと眺めていた。

「あ、お茶、ありがとう」

先輩は、振り返っているのか、そうでないのか、微妙な具合でそう言った。

「くつろいでいいって、言ったじゃないですか」

すると、先輩は窓の先を見つめて、こう続けた。

「くつろぐっていっても、この部屋、ベッドと机以外何もないし」

「すいません」

「それに、」

「はい」

「それに、一番星、もうわからなくなったよ」

先輩の声が、低くなった。いつもはほとんど平坦な口調だから、すぐにわかった。

「あの……」

「来ないで」

「……すいません」

「いいよ」

いいよって、どっちだろう。もう僕なんてどうでもいいってことなのだろうか。それとも、これは許しなのか。いや、どっちもかもしれないし、どっちでもないのかもしれない。やっぱり僕は、先輩のことをよく知らない。

でも、

「先輩……先輩は、誰ですか?」

僕は、喉奥から湧き出た言葉を、素直に吐きだした。先輩はすぐに答える。

「私は、神谷祐樹。春から、君の大学の先輩」

そうだ、。やっぱり先輩は先輩で、僕は、後輩だ。

「そう……です、よね。何言ってるんでしょう。はは、馬鹿ですよね、オレ」

僕は両手に持ったお茶を机に置いた。ぽつりとおかれた二つの円が見えたその瞬間、少しだけ、現実のしっぽが見えた。

「君は?」

先輩は、やはりあいまいな素振りで、僕に問いた。

「僕は……」

僕は後輩です。簡単な言葉だ。だけど、だけどどうして、喋れない。

「白雪くん、あのさ__」

「僕は!」

僕は、叫んだ。のどの奥が、かあっと熱くなる。

先輩は肩をびくつかせたあと、ごくわずかに身体を震わせた。部屋は、入ったばかりの時よりも、静まり返ってしまったようだった。あれ。なんだったっけ。なにが言いたいんだったっけ。

「僕は……白雪凛です。先輩の、後輩です」

「そうだね」

カップの中のティーバッグはゆっくりと、回転をやめようとしていた。窓の先には暗闇が広がっていて、中央通りに沿った町の電灯が、天の川みたいに瞬いていた。

「……この部屋、夜景と星が一緒に見えるんです」

別に、ゴキゲンとりをしたかったわけではないけれど、僕はたまらずそう言った。

「うん、綺麗だね。好き、かも。こういうの」

先輩は、窓の先から視線をそらさずに、続けた。

「でも、残酷だね」

その言葉の意味は、わからなかった。どうして言ったのかも、どういうことなのかも。先輩は少しだけ僕の言葉を待った。でも、僕が答えられないのを感じ取ったのか、さらに続けた。

「等級の高い過去の星々が今ではほとんど見えなくなってしまった理由は、知っているよね」

「夜が、明るくなったからです、あっ、」

「そう、私たちの生まれた時代では、大地の星が、夜空の星をほとんど食い尽くしてて、今はもう、想像の中ででしか星座は描けないの。だから点と点を結んだだけの星座を、無理なこじつけなんじゃないか、っていう人もいる」

先輩は、窓に手をついた。外の空気との温度差で、ガラスが曇る。

「でもね、ほんとうは、私たちが生まれるずっと前は、きっともっとたくさんの星があって、ほんもののカニとか、弓矢とか、ライオンが、見えてたのかもしれない。

いや、見えてたと思うの。

きっとそれはほんとうに神様みたいに見えて、きっと、ほんとうにきれいだったんだと思う」

僕は、先輩の言葉に賛同することも、ましてや相づちを打つこともできなかった。それほどその先輩の言葉は、僕にとって軽率に扱えるものではない気がした。だから僕は、いつものように黙って、後ろから、先輩の姿をとらえ続けることしかできなかった。

「白雪くん、今日は、ありがとうね」

先輩の言葉は、気が付くといつも通りの口調になっていた。力が抜けたように、ガラスにかけていた手をおろして、振り返る。からだは僕の方に向いているけど、視線はずっと足元にあった。

「先輩?」

「ごめん、もう、帰るね」

先輩はそうして、謝るように何度も小さく頷きながら、僕の横を通り過ぎた。

フローリングとの足音が、もうずっと遠くに聞こえる。行き場を失った僕の足が、その音を無意識に追いかけた。

先輩は靴を履き終えて、そしてそのまま、僕を見ないように振り返って、そっとドアに手をかけようとしている。

「白雪くん?」

今度は、力いっぱい握った。壊れそうな手を、壊してしまいそうなほどに。

先輩はピクリと肩を動かしてから、動きを止めた。ゼロメートルの先輩は、いつもより小さく見えた。

「いやっ……あの……ほら、お茶が、まだ……」

「ごめん、また今度」

先輩は、僕の事を最後まで見なかった。力いっぱい握っていたはずの手は、花びらが落ちるみたいにするりと抜けて、そのあと、凍える空気がひとりぼっちの玄関に入り込んだ。

僕のからだはその風が止んでも、凍り付いたままだった。

僕は一体、何をすべきだったんだろう。何がしたかったんだろう。

僕は先輩に、どうしてほしかったんだろう。

あの時から僕は、変わっていない。何もかも。

僕はただ、遠い空の金星を見つめているだけ。

そして、見つめることでしか、それを一番星だと認識できない。

もし、綺麗な球体を描くことが金星の完璧な姿だとしたら、僕らはいつも不完全なものしか認識できないことになる。

僕はいつまで、不完全を見つめるつもりなのだろう。


小学校の頃から、靴のかかとを踏んで走ることがよくあった。その度にいつも思っているのが、走りづらいってことと、履き直してる暇はないってこと。駅に向かう坂を駆け下りて、三千年前に消えて行った星々と共に、僕は地上の夜空に飲まれていった。



地上の星は瞬いて、僕らの光を奪っていく。

輝いているから、眩しいから、光れない。

こんなところにいたら、僕はあなたを二度と探し出せなくなる。だからその前に__

「先輩!」

「白雪、くん?」

星の海で見つけた、僕にとっていちばんの星。

「僕が、みせます……っ!」

「何を?」

僕と先輩を一メートルの直線でつないでも。

「星座っ、先輩が……言ってた……!」

それが本当のかたちじゃなくても

「いまはもう、みえなくなった星もっ……!ぜんぶ!」

みえなくなってたって

「僕がっ、これから見せます!見に行きましょう!一緒に探しに行きましょう!本物の星座!本物の空を!」

脚がもつれて、なびく髪。

胸元に、柔らかな重さがのしかかる。先輩の匂いが、かすかにして、僕の身体は熱くなる。こわばった小さな肩を、僕は自分の側に寄せた。先輩の身体は、僕が扱うには軽すぎるくらいで、これもまた、脆く、消えてしまいそうなほどだった。

「うん……いこう……!いこうね……!」

ささやき声と、温かな吐息が、首元にかかってくすぐったい。先輩の声が響いた場所が、じんわりとした熱をもつ。か細くて、柔らかい手が、おそるおそる僕の背中に居場所を探してる。

「せんぱい、なんだか子供みたいですね」

「なにそれ……」

コートの背中側が、強く握りしめられる。押し付けられた頭からは、さっきよりも濃い先輩の匂いと、首元をなぞる吐息の温度で、くらくらした。遠くで静かに立っていたあの先輩の姿は、もうどこにもいなくて、その代わりに、確かな感触がここにある。

「先輩は__


なんか、もっと遠くにいる気がしてました」


言えた。やっと言えた。


「ごめん……わたしは、何もわからなかった。わからなかったの」


先輩は、きっと泣いている。先輩の涙なんて見たことがないけれど、今はなぜか、すぐにそうだとわかる。

「僕も、同じです。遅くなって、すいません」

どうしてか、笑みがこぼれた。うれしいんだろうか。うれしかったら、何がうれしいんだろう。だけれど、とにかく、いまは、このまま____

「そろそろ恥ずかしいからはなして」

というわけにはいかなかった。

「あ、すいません、調子乗りました」

腕の中から先輩が離れると、さっきまでのぬくもりはウソみたいに、夜の寒さが僕らを襲った。けれども、耳の奥は熱いままだった。

ゼロミリから、また一メートルのふたりに戻ったけれど、この一メートルの間には、いくつもの、忘れられた星が瞬いている。

そんな風に見える。そんな気がする。きっとそうだ。

僕たちの一番星は離れすぎては見えないし、近すぎても見えはしない。かといって、見える距離では互いに不完全なかたちをしてしまうから、こうしよう。

「さむ……」

「じゃあ、急いで駅に行きましょう」

「駅までもたない」

「……お茶、淹れ直しますね」

「そう、それが正解」

僕たちは、星をさがしに。



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