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第四話 魔獣魔法(キメラ)




 双子の少女は落胆したまま、この部屋から消えた。不穏な言葉を残してだ。


「失敗魔法の魔獣魔法キメラ

「これでは洗脳する必要は無し」

「しばらくは経過観察をして」

「何も無かったら、処分して」


 ――――と。研究そのものは成功したが、失敗魔法と言われているオリジナル魔法、魔獣魔法キメラは少女にとってはいい結果ではなかったようだ。何故、失敗魔法だとわかるかは、おそらく先人に発現した人がいて、発動した後に死んだと知っているからだろう。もし、少女の思っていた良い結果だったら、自分は洗脳されて帝国の兵隊にでもされていたようだ。

 少女達が出て行った後、自分で魔獣魔法キメラのことを調べていた。まだ生きることを諦めてはいなかった。もしかしたら、何かの方法があるかもしれないと信じて――――






「だ、駄目だ……」


 レイクは絶望していた。魔法の効果は強力だと思えた。しかし、この条件が今の状況では出来ない事に絶望していた。魔獣魔法キメラの能力とは――――


魔獣魔法キメラLv1

 魔物を倒し、自分の力にする能力。ストック数は1。

 ストックされている魔物を自分自身に付加させ、強力な身体能力と魔法を使えるようになる。ステータスの数値は本来の数値に魔物のステータス半分を足す計算となる。


 強い魔物を倒せば、それだけで強くなれるチートな魔法だが――――、ここには強い魔物どころか、ゴブリン一体さえもいない。発動すれば死ぬ理由はわからないが、これでは魔法を使えない状況であり、絶望なのは変わりにならない。


 このまま、絶望な状況から一日が経ち、処分される日が近付いてくる。それを何も出来ず、ただ時間が過ぎていくのを待つしか出来ないレイクだったが――――




 それが起こった。




 この研究所に大きな地震が襲ってきた。部屋中に警告の赤ランプが鳴り響いて、部屋にいた研究員の全員がこっちのことを忘れたように急いで部屋から出て行った。

 何が起こったのかわからないレイクは呆気に取られ、また強い振動が来たと思ったら――――天井が吹き抜けて何かが落ちてきた。




 落ちてきたのは雷を迸る竜だった。




「な、何が!?」


 目の前に竜が落ちてくるのは初めての経験で、驚愕の表情で状況を必死に理解しようとしていた。


『グガァ、ここまでか……』

「喋った!?」

『ここにも人間がいたのか!? ――――む?』


 敵意を向けていた竜はレイクを繋ぎ止めている鎖を見て、眼を細める。何かに納得したのか、敵意を消して話をしてきた。


『お主も同じか。何処から捕まえられたのか?』

「……」

『安心しろ、お主には敵意はない。あるのはここの関係者だけだ』


 竜はそう言い、爪でレイクを縛っていた鎖を引き裂いていた。ようやく自由になったレイクは驚きながらも、何故、助けるのかと聞いてみると……


『自分も同じだ。奴らに捕まって、ここに連れてこられただけだ。逃げるなら、今だ――――「地下だ! 早く抑えろ!!」チッ、動きが早い』

「逃げろって……」


 この部屋から出る扉は一つだけ。さっきの声から、竜を押さえに来た者が現れるなら、そこの扉しかない。これでは、逃げられないと思っていた。他に出口はないか探していたが、先に扉が破られて、兵士が入ってくる。一人だけが胸に軍の勲章を付けた人物がいた。


「中尉殿! 竜は生け捕りですか?」

「いや、本部からは処分しても構わないといっている」

「了解です!!」


 この場に現れたのは、兵士が五人と勲章を付けた指揮者が一人だけだった。竜の相手にこの人数だけでやれるのかと思っていたが、竜の方は顔を歪めていた。こっちが不利だと言っているように見えた。


「その人数なら勝てるんじゃないのか?」

『グルル、無理だ。全快の時ならともかく、今は傷を付き過ぎている』


 よく見れば、竜の身体は傷だらけで流血が酷かった。


「この傷はあいつらが付けたのか……?」


 大きな切り傷があり、それを付けた武器を持っているようには見えなかった。


「おや、竜の後ろに誰かがいますね。もしかして、新しい実験体の人でしょうかな」

「どうしますか?」

「そうですね……ん、あの胸にある紋章は――――ふはっ、あははははは!!」

「ち、中尉殿?」


 こっちの紋章を見て、中尉の指揮者は急に笑い始めたのだ。


「まさか、それはオリジナル魔法の魔獣魔法キメラではありませんか! あの失敗魔法の!」

「失敗魔法ですか?」

「ええ、魔法を発動すると凄さ増しい痛みに襲われます。それで、使おうと思っても使えない魔法なのです。先人に使って死んだ者もいました」

「なら、アレは失敗実験体でしょうかな。では、アレも処分で?」

「そうですね」


 魔獣魔法キメラによる副作用はわかったのはいいが、こっちに向かってくる兵士達に無手で挑むのは不利すぎる。竜は最後の力を振り絞ったのか、口から雷の息吹が放たれていた。前に出ていた大盾を持った兵士の二人が防いでいたから、大きなダメージにはなってはいないだろう。しかし、砂煙が出来て視界を遮られており、足音が止まったことから、向こうは砂煙が落ち着くまで待機するようだ。


『すまない、もう限界のようだ』

「……一つだけ方法がある。しかし、助かるのは俺だけになるが」

『……聞こう』


 砂煙が舞っている間に、簡潔に自分の魔法のことを説明した。こちら側がやれることは一つだけあり、その方法は竜が生き残る可能性はゼロだ。しかし、その説明を聞いていた竜は――――




『いいだろう。一人だけでも生き残れる可能性があるなら、自分の身はお主にやろうじゃないか』

「いいのか……?」

『構わん。もう限界が近いから、さっさとやれ』

「済まない」


 話が付き、レイクは魔獣魔法キメラを使う事に決めた。その為に、自分の手で助けてくれた竜を殺す。


『武器はこれを使え。これで額にある魔石を壊せ。それで自分は簡単に死ぬ』

「わかった。その前に、お前に名前があったら教えてくれ。俺はレイクだ」

『雷竜のゼルムだ。この力を役立てろよ』

「ありがとう」


 魔物に名前があると言うことは、高位種族の魔物になる。高位種族は冒険者のランク付けになれば、Bランク以上が殆どである。冒険者ギルドで決められている魔物のランクは最高がSSSランクで、最低がFランクとなる。

 雷竜は言葉を話せない者もいるので、Cランクと定義されているが、言葉を話せる知能があり、名前もあるからBランク相当となる。

 そんな魔物が生け捕りにされているなんて、一体誰がやったことなのか気に掛かったが、レイクは割れた竜の爪で額にある魔石を破壊する。

 雷竜のゼルムは死、魔獣魔法が発動される。ストックしますかと聞かれたが、すぐイエスと答えた。あっという間に巨体だったゼルムの身体はレイクへ吸収された。




 しばらくして、煙が晴れると再び、兵士達が距離を縮めてきた。


「おや、竜がいなくなっていますね。飛んで逃げていたら、煙は晴れていますし――――もしかして、貴方が殺して吸収しました?」

「……そうだよ」

「うはははっ!! 魔獣魔法キメラを発動するつもりですか!? いいでしょう、自殺をしたいなら殺す手間が省けます。どうぞ、発動しても構いませんよ」

「ち、中尉殿、万一に何かがあれば……」

「大丈夫だ。どうせ、成功はしない。発動した瞬間に痛みで気絶しているか、死んでいるだろ」


 向こうの指揮者が馬鹿で良かった。初めて魔法を使うので、発動にどれくらいの時間が掛かるかわからなかったから、助かった。向こうがわざわざ待ってくれるようで、レイクはすぐ発動を開始した。




「ぐっ!?」




 無痛症なので、痛みは感じないが変な感触を味わっていた。この感触は自分の身体を作り変えられており、本来なら死ぬ程の痛みが襲ってきているのだろう。その変異は数秒で終わった。雷竜の特徴である黄色い一本角、強固なる翼、身体中に輝く鱗、鋭い爪を備えた両手両足。


「……えっ? な、なんで?」

「ち、中尉殿!?」


 発動した筈が、レイクは生きていてこちらを睨んでいた。聞いていたのと違うと困惑する指揮者だったが、こうなっては放っておけないと攻撃を命じた。


「やれ!! 初めて使う魔法だ! 使い慣れていない力に恐れることは無い!!」


 レイクが手に入れた力は巨大であり、指揮者が言うように使い慣れていないのは確かだ。だが――――




「それぐらいなら、身体能力だけで圧倒できる!」

「なっ!?」

「盾が!?」


 前方にいた鋼鉄の盾を持った兵士へ鋭い爪を食らわせ、鋼鉄の盾を両断していた。今のレイクは、雷竜のゼルムの力を半分も受け継いでいる状態なので、鋼鉄程度の盾では防げない。

 ゼルムの力を使った今のレイクのステータスはこうなっていた。



ステータス

名称 レイク 12歳

称号、加護:なし

レベル8(100)

HP:83/83(750/750)

MP:64/64(600/600)

腕力:37(300)

耐久:29(350)

敏捷:48(250)

魔力:33(300)

魔耐:27(350)

魔法

魔獣魔法キメラLv1【雷竜】

スキル

剣術Lv2、身体強化Lv1、気配察知Lv2、【雷竜の息吹Lv1】、【雷纏強化Lv1】



 この()にある数値は、雷竜のゼルムが元々持っていたステータスの半分になる。レベルは200もあったようで、結構強い部類に入る。


「早く殺せ!」

「うおおおっ!!」


 盾の兵士に隠れていた銀製の斧を持つ兵士が力いっぱい叩きつけるように振るってきた。向こう側の力がわからないまま、受けるには危険だと思って避けていたが、突然に脇腹へ矢が当たった。刺さってはいなかったが。


「硬い!?」

「弓を使う兵士もいるのか」


 様々な武器を持っている兵士のパーティだなと思うレイクだった。帝国の兵士は武器を統一しておらず、目の前の兵士は盾、盾、剣、斧、槍、弓とバランスを保っていた。指揮者は何も持っていなかったから、指示を出すだけかと思っていたら――――


「『炎豪』!」


 指揮者が杖を懐から出して、魔法を放ってきた。エリジャが使う火魔法より強い威力が出ていた。距離もあったので、ぎりぎり避けることが出来た。指揮者は魔法を主体に戦う魔術師だったようだ。


「ちっ、次は槍か」

「はぁぁぁっ!!」


 レイクは強力な力を持っていても、戦闘の経験は浅い。しかも、魔物との戦いは一度だけで人間とは戦った事もなかった。兵士達の連携に勝る経験を持たないレイクは慣れない身体能力で無理やりに攻撃を避けていく。

 このままではこっちが追い詰められるだけだと思い、賭けに出ることに決めた。大きく距離を取るバックステップをし、雷竜のスキルを使う。




「は、はぁぁぁぁぁ――――――――!!」

「っ、何をするつもりだ! 早く止めろ!!」


 初めての経験だが、口に魔力を集めることが出来た。これから使おうとしているスキルは『雷竜の息吹』だ。一度だけ見たことがあるのを真似ているだけだが、思ったより上手く出来ている様な気がした。その魔力を飲み込んで吐き出すイメージで、雷に変換された魔力が放流となって兵士達へ向けられる。




「ゴガァァァァァ――――!!」

「っ、ぼうぎ――――」


 指揮者が最後まで言い切る前に雷竜の息吹が放たれた――――









今日はここまでです。明日も投稿するので、また読みに来てくださいねー。

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