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第三話 襲撃




 成人の儀式まであと三日になった頃、それが起こった。帝国兵士による襲撃だ。突然に現れた帝国の兵士達はヤオハ村へ攻めてきて、村人を皆殺しにし始めた。数日掛けて出来上がった矢倉も壊され、家も燃やされた。

 そんな時、レイクはマリーと一緒に村から離れて狩りに出ていた。襲撃が起こったのを知ったのは、村がある方向から膨大な煙が上がった時だ。


「なっ、あの方向は村!?」

「な、何が起こったの!?」


 焚き火程度ではあんな煙が出ないのは知っているレイクは嫌な予感を感じていた。何かが起こっていると。


「マリー! ここで待っていろ。確かめに行ってくる!!」

「ま、待って!」


 レイクはマリーにそう告げ、本気で走って村へ向かった。危険がある可能性もあるので、マリーはここに置いていく。連れて行くよりは置いていた方が危険は少ないと判断して。


「頼む、ただの小火ぼやであってくれ……」


 レイクは願った。何事も無く、ただの火事で皆が無事であることを願った。だが、現実は非常で――――




「なっ……」




 村に着き、木の裏に隠れて様子を見ると――――村人の死体を集めている帝国の兵士が見えた。

 もう、ここにいる村人は全員殺されて、死体を燃やす所だった。その中に自分の両親である父親とエリジャの姿を見つけると飛び出したくなった。だが、ピクッと動く身体を必死に押さえていた。ここで飛び出しても、あれだけの兵士に挑むのは無駄死するだけだ。それを理解しているレイクは残していたマリーのことを置いて死ぬことは出来なかった。

 すぐ、ここから離れてマリーがいる場所へ行こうと思っていたが――――、すぐ側から声を掛けられる。


「ほぅ、アレを見ても騒ぐ事もなく、飛び出さないか。肝がある子供だな――――っと、反撃までもするか」

「っ!? いつの間に!?」


 全身が黒い鎧を着ており、顔だけを晒す男がいた。気配察知を持っているのに、ここまで近付かれるまで気付かなかったことに疑問を浮かべてしまう。すぐナイフを抜いて肌を晒している場所を刺そうとしたが、腕を掴まれて止められてしまう。


「それに、黒い髪を持っているか。面白い奴だ」

「誰だ!?」

「そうだな。反撃をしようとしていた度胸のある子供だ。教えてやろう。私はレイディア帝国で大将をやっている。第三位の『黒騎士』、クロト・アドバインだ」

「お前がここにいる兵士の上司か?」

「ますます子供らしくはないな。お前は。あのことは迷信ではなかったのかな」

「っ!?」


 掴まれていた腕を持ち上げられ、森の中から燃え続ける村へ投げつけられる。すぐ受けを取ったので、擦り傷になっただけで済んだが――――周りは兵士達に囲まれて絶望的な状況に陥っていた。


「まだ生き残りがいたのか!?」

「殺せ!!」


 兵士達が剣や槍を持って、襲い掛かって来た時はもう駄目かと思ったが――――




「待て! そいつに手を出すのはこの私が許さん!」

「クロト様!?」


 なんと、止めたのはここまで投げた帝国の大将、クロトだった。止めた理由はレイクを助けるためではなく――――


「よく見ろ。こいつは黒い髪を持っている」

「は、え、本当だ!?」

「こいつは、研究所へ連れて行く。あいつらのお土産にしてやるさ」

「あの気狂いの巣窟にですか……」


 よくわからないが、しばらくは死ななく済むようだ。だが、研究所のことを気狂いの巣窟と言うほどにヤバイ場所だと、兵士の言葉からわかる。ここは大人しくして、何処かで逃げ出すのが一番良いと判断した。まだ手に持っていたナイフを捨てようとしたが――――




「レイクお兄さんから離れるの!!」

「マリー!?」


 なんと、マリーが村に現れて弓を構えていた。それに、いつもの木の矢ではなく、お守りにしていた鋼鉄の矢を。


「また子供か。特に特徴の無い子供なら、殺せ」

「なっ、やらせるか!!」


 レイクはマリーの危機に、ナイフを持って大将のクロトへ向かっていた。だが、クロトはこっちを見ずにナイフを背中に背負っていた大剣で弾き、頭を掴まれて地面に叩き込まれてしまう。


「っ、マリー! 俺のことは気にするな! 今すぐ逃げろ!!」

「レイクお兄さん……!」

「お、気絶はしなかったか」


 気絶しなかったことに感心し、脊髄に衝撃を与えていた。痛みを感じないクレアだが、脊髄へ衝撃を与えられてしまっては、気絶から免れることは出来なかった。消えてゆく意識の中、マリーは兵士に斬られて倒れていくのが見えていた――――














 意識が覚醒すると、ここは既に村の中ではなかった。何かの建物の中に見えて、周りには人間が入れるサイズのカプセルみたいな物が並んでいた。


「眼が」

「覚めた?」

「返事をしないと、」

「水を掛けちゃうよ?」


 訳が分からず、返事が出来なかったレイクはバケツに入った水を掛けられてしまう。目の前にいた双子の少女によって。


「ごは、げほっ!?」

「ようやく眼を覚ましたね。今まで三日間も寝ていたなんて、」

「クロトは手加減をしらないね!」


 その双子は周りにいる研究員と同じ白衣を着ていて、自分のことを確かめるように見ていた。周りの景色、人が着ている服を見て――――ようやくここが何処なのか理解した。あの黒い鎧を来たクロトと言う奴は自分のことを研究所への土産にすると言っていたことから、ここは気狂いが集まる巣窟と言われていた研究所だろう。自分の両手両足が鎖によって、繋がれていて動けなかった。更に、何故か上半身は裸だった。

 しかし、目の前にいる双子の少女も研究員の人だと思えず、困惑するレイクだった。


「その眼は、」

「困惑しているね!」

「私達は全ての研究所での責任者、」

「とても偉い人なのっ!」

「14歳のエリと、」

「双子のリエだよ!」

「「宜しくね~」」

「…………」


 研究員の人どころか、責任者というとても偉い立場にいると聞いて驚愕してしまう。なんと言えばいいかわからなかったレイクだが、この状況はどうなっているか知りたかった。


「……なんで、村を襲った? 俺をここに連れてきた? 何をするつもり?」

「質問は一つだけにしてね、」

「でも、こっちは二人いるから、事実は二つになるね!」


 ふざけているのかと言いたい気分だったが、我慢して情報収集に努める。まず、何故、村へ兵士を送って皆殺しにしたのか。


「ここはエリが答えるね! 簡単に言えば、戦争だね! 我が帝国が共和国を襲っている訳っ!」

「なっ!?」

「エリ、それじゃ、質問の答えになっていないよ」

「あ、そうだね! 戦争になるから、一先に拠点を建てたいと言うことで、貴方がいた村を襲って、奪うことにしたの」

「……あいつらは家を燃やしていたぞ。拠点はそのまま使う物だろ?」

「あはっ、よく知っているね。クロトが言った通りにただの子供じゃないわ! 兵士全員が詰められる家が沢山あれば良かったけど、足りないから燃やして強固に作り直すのでしょう。そこら辺はただの研究員である私達に聞いてもわからないわね」


 村を襲った理由を知ることは出来たが、怒りが収まることはなかった。次に、自分をここに連れてきた理由だ。


「次はリエが言うね! 貴方は珍しい黒髪を持っていますね?」

「あぁ……」

「黒色は魔族の色と聞いていますね? 不吉の象徴とか」

「この黒い髪が珍しいだけで連れてきたのか?」

「いえいえ、それだけではないですよ! 私達の長年による研究で、魔族の全てが黒い髪をしているのか、その理由があったんですよ!!」

「理由だと?」


 長年とツッコミのある話だったが、大人しく聞いている。


「えぇ、その黒い髪は膨大なる魔力が溜め込まれた現象ではないかと調べに付いたのですよ」

「膨大な魔力……?」


 ステータスの数字を見ても、膨大と言える程ではないとわかる。研究が間違っているのではないかと疑いも視線を向けていたら、リエは少女らしい可愛らしいムッと怒り顔になっていた。


「その眼は信じていないですね? ステータスの数値に表れていないから、違うだろうと思っていますよね?」

「……」

「その沈黙は図星ですね! いいでしょう、説明するよりは見せた方が早いでしょう!」


 リエと言う方が指を鳴らすと、近くで待機していた男が何かを持ってきて、リエに渡していた。よく見ると、何かの液体が入った注射だった。


「これは、神の加護なしで魔法を無理矢理に発現させることが出来ます!」

「加護無しで……?」

「そうです。しかも、膨大な魔力がなければ、失敗して死にますがね!! これなら、膨大な魔力があるかないかの証明が出来ますよね?」

「っ!」


 膨大な魔力のことはともかく、死ぬ可能性がある物を打たれるのはよろしくない。暴れたくても、両手両足が動けないままでは何も出来ない。出来るとしても、口を動かすだけだ。


「質問は終わりね!」

「……成功した例は?」

「ない!! 君みたいな珍しい黒髪は初めてだからね!」

「魔族で確かめたくても、なかなか生け捕りが出来なくて、困っていたからね」

「くっ!」


 何を言っても無駄だと理解した。双子の少女、その眼を見ると好奇心と狂気が眼を濁らせていた。自分が死んでも心が痛まないだろう。そういう人種には何を言っても無駄なので、なんとか鎖を壊せないかと力いっぱい引っ張ってみたが――――


「無駄だよ。この鎖は」

「大型の魔物をも縛るのよ!」

「くそっ!!」


 鎖は壊れず、あっさりと薬を注入されてしまう。痛みを感じない体質だから、痛みはなかったが変な感触を感じていた。何かを弄られているような気分だった。そして、心臓がトクン、ドクンと強く打っていた。


「へぇ、痛みに苦しまないね。膨大な魔力があるからかな」

「これはいい研究結果が出そうだね!!」


 二人の少女はワクワクしながら、目をキラキラしていた。どんな結果が出るかと好奇心を抑えられないでいた。その様子に狂っていると思っていたが、突如に大きな変化が現れた。


「っ!?」


 自分の身体に眼を向けると、心臓がある胸へ黒い物が集まっていくのが見えた。その黒い物は何処から現れたのか、それは目の前の存在が教えてくれた。


「見てみて! 髪の毛が白くなっていくよ!」

「黒が胸へ向かって、魔法の象徴が出来ていくよ!」


 どうやら、研究は成功しているようで自分は魔法を手に入れようとしていた。成功していると言う事は、自分に力を得られるチャンスとなる。そして、ここから逃げ出そうと考えていたが――――




 さっきまで女子高生のように騒いでいた二人がピタッと黙ってしまう。そして、落胆したような様子を見せていた。




「これは……」

「うん。アレだよね」

「成功したと思ったら……」

「残念。魔法を手に入れても、使えない」


 使えない? 何を言っていると疑問を浮かべていたら――――




失敗魔法・・・・だよ。アレは」

使えない魔法・・・・・・だね」




 成功したが、失敗魔法と言われた。変な感触が消えたのと同時に、自分の胸を確認していた。そこには、円の中にワシ、ヤギ、ライオンの首が揃った絵が描かれていた。この魔法は――――




魔獣魔法キメラ、発動出来ない失敗魔法」

「発動すれば、死ぬ。役立たずのオリジナル魔法」




――――は?











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