第一話 レイク
12歳までは何事もなく、すくすくと元気に育ったレイク。そのレイクは黒い髪で不吉の象徴とされているが、小さな村であるヤオハ村に住まう村人達はそんな迷信を信じておらず、誰からも可愛がられて優しくしてもらっていた。もちろん、両親もそんな迷信を信じてはいない。
第二人生でハードな生活に追われなく済むのは嬉しいことだったが、それでも問題はまだあった。
「……痛くは無いな」
レイクは自分の部屋で刺繍用の針を指に刺していたが、痛みは全くなかった。前世の記憶から探ってみれば、この症状は無痛症だと考えられた。
そんな症状が自分にあるのかは、少しだけ心当たりがあった。
それは、前世でサラリーマンだった時、自分は35歳に過労で死んだ。その時は仕事が終わって、身体に苦痛が襲ってきて倒れた。その苦痛に苦しみ、痛みがなければいいなと願ったのを覚えている。
それが叶えられたからなのかわからないが、心当たりはそれしかなかった。
「気にしても仕方が無いか」
「遊びに来たよ――!!」
前世のことを思い出していたら、外から声が聞こえてきた。いつものことなので、誰なのかすぐわかった。幼馴染のマリーが遊びに来ており、準備をすぐ始める。
「はいよ! 待っていろよ!」
ナイフが刺さっているホルダーを腰に付け、扉を開くと自分より一つ年下の女の子がいた。綺麗な金髪をポニーテールにして結んでおり、可愛らしい笑顔を浮かべていた。
「レイクお兄さん! 今日も一緒に狩りに行こうよ!」
「やっぱりか。ナイフも持ったから行こうか」
「うん!」
マリーは弓と矢を抱えており、食料にする小動物を狩りに行こうと誘ってきた。マリーにとって、狩りは遊びであり、いつもレイクはそれに付き合わされている。12歳である今は狩りや血に抵抗もなく、ゆうゆうと狩りを行っていた。
「おっ、坊主とお嬢ちゃんは狩りか!」
「はい。小動物を狩ってきます」
「奥には入らないように気をつけろよ! 魔物に会ったら、すぐに逃げろよ!」
「はーい!!」
これから狩りに行こうとする二人に次々と村人から声を掛けられる。誰一人も黒髪に嫌悪を浮かべる事もなく、笑顔で見送ってくれる。前世では、ずっとサラリーマンとして仕事をしている時は、パソコンに向かい合って周りとの交流もあんまり無かった。ほぼ一人だったことから、今の状況はとても嬉しく思っていた。
「レイクお兄さん?」
「あ、いや。なんでもないよ」
笑みを浮かべていたのを見られていたのか、マリーはハテナを浮かべていた。いつも言い慣れていたことに笑みを浮かべていたことに気に掛かったのだろう。
「早くしないと、置いていくぞ?」
「ま、待ってよ―! 早いよ!?」
レイクとマリーは一つの歳の差があるといえ、身体能力はそんなに離れてはないのだ。――――普通ならば。
この世界にはゲームのようにステータスがあり、自分の身体能力を現す数字が出ている。
これが、レイクのステータスだ。
ステータス
名称 レイク 12歳
称号、加護:なし
レベル7
HP:67/67
MP:58/58
腕力:35
耐久:27
敏捷:46
魔力:31
魔耐:25
魔法
なし
スキル
剣術Lv2、身体強化Lv1、気配察知Lv2
次にマリーのステータス。
ステータス
名称 マリー 11歳
称号、加護:なし
レベル3
HP:31/31
MP:25/25
腕力:17
耐久:14
敏捷:21
魔力:22
魔耐:15
魔法
なし
スキル
弓術Lv1、身体強化Lv1
これだけの差があった。何故、違うのかはレイクが今までやってきた鍛錬がこの差を作り出していた。自分の身体能力が数字となって強化されていくのが楽しくて、暇な時間があれば鍛錬をしていた。
レベルは生物を殺したら、上がっていくシステムになっており、今までの狩りではレイクがトドメを刺す事が多かったからレイクのレベルがマリーより高くなっていた。
いつものように、村の周辺で小動物を探していく。小動物程度なら、マリーと二人でやればすぐ獲物を手に入れることが出来る。最初にレイクが『気配察知』で引っ掛かった小動物を見つけ出し、マリーの弓で足止めをする。そして、足を止めた小動物へナイフでトドメを刺すレイク。この黄金パターンで小動物を狩ってきていた。
「ん、木の上に鳥がいるぞ。羽を狙えるか?」
「うん、大丈夫!」
三年も弓を使い慣れており、木の上に止まっていた鳥が羽を広げた瞬間に矢が突き刺さる。
「よし、上手いぞ!」
「えへへっ」
矢を受けて落ちてくる鳥をナイフで首辺りを斬っていた。血抜きがしやすいようにと、いつも首を狙って殺していた。
「この調子で、あと四体は欲しいな」
「うん、近くにはいない?」
「ちょっと待ってな。う~ん」
周りに何かいないか、気配を探ってみる。まだスキルのレベルが低いから狭い範囲でしか探れないが、持っていないマリーよりは見つけるのが早い。歩きながら、周りを探っていたら――――
「うん、結構大きい動物? がいるな」
「シカ? ウマ?」
「これは、少し人に近いけど……」
子供に近い大きさだと感じられたが、自分達より小さい子供なんて、ヤオハ村にはいない筈だ。他の村が近くに出来たのかなと思い、気配を感じる場所に向かってみた。もし、迷子だったら保護しなければならないと思って――――
そこにいたのは、一体のゴブリンだった。
「げっ、魔物だ……」
「初めて見た。森の奥から来たのかな?」
二人は木の影から隠れて、様子を伺ってみたが一体だけで仲間がいるようには見えなかった。大人からは魔物を見たら逃げるようにと言われていたので、ここから立ち去ることにする。しかし、マリーが踏んだ木の枝が大きな音を立てて、こちらに気付かれてしまう。
「あっ!?」
「ご、ゴメン!!」
「逃げるぞ!」
「ゴブゥゥゥゥゥ――――!!」
ゴブリンから逃げようと、村に向かって走っていくが……マリーより早く走れるようで、少しずつ距離が縮まっていく。レイクなら本気を出せば逃げ切れるが、マリーを置いてはいけない。いつも一緒にいる妹のような子なので、置いていく選択は初めから無かった。
「仕方ない! 相手をするから、マリーは少し離れて援護を!」
「う、うん!」
魔物とは初めて戦うレイクはナイフを構えて、棍棒を持つゴブリンを待ち構える。マリーは少し離れて、弓でレイクを援護する。
「さぁ、来い!」
戦う覚悟を決めていた所に――――、ゴブリンがいた横から鋼鉄の矢が飛んできた。矢は棍棒を持っていた手を貫き、痛みで叫ぶゴブリン。今がチャンスだと思い、ゴブリンの首を狙って刺した。
「ご、ゴブッ!?」
「はぁっ!!」
刺すだけではすぐ死ななかったので、捻じ切るようにナイフを動かして出血を増やした。しばらく暴れた後、ゴブリンは息を引き取った。
「凄い―!」
「倒せたか。しかし、この矢は……?」
「素晴らしい動きだったわ」
「だ、誰!?」
声を掛けてきたのは、さっきの矢で援護をしてくれた人だった。いや、耳が尖っていることから、エルフだとすぐわかった。ここにエルフがいるとは珍しくて、ポカーンと見ていた。マリーは始めてみる人に緊張しつつ、レイクの背に隠れた。
「あら、エルフを見るのは初めてかしら?」
「そりゃ、ここら辺にはエルフはいないだろうな。エルフの森から結構離れているし」
弓を持っている女性のエルフの後ろからは、男性のエルフが現れた。手には槍を持っており、装備が本で見たのと似ていることで、正体がわかった。
「もしかして、冒険者ですか?」
「ぼうけんしゃ?」
「マリーは知らないのか」
冒険者は魔物を狩る仕事でお金を得られる職業のこと。小さな村で共和国からも結構離れているから、冒険者が来る事はあまり無いので、マリーは冒険者のことを知らなかった。レイクは前世の記憶もあり、数少ない本を読んで冒険者と言う職業があることを知っていた。
「ええ、私達は冒険者よ。共和国で依頼を受けて、森の奥にいる魔物を狩りに来たのよ」
「自己紹介を忘れているぞ。俺はガープ。こいつはメアだ。坊主、さっきの戦いは良くやったぞ」
「あ、俺はレイク。この子はマリーね。援護をして頂き、助かりました」
レイクなら棍棒で殴られても、無痛症で痛みを感じないので倒すことは問題なかったが、援護があって軽傷も負うことは無かったので、助かっている。
「近くに村があるのかな? 森の奥に行かないように気をつけてね」
「俺らはまだ依頼が終わっていないから、すぐ行くな」
「はい、ありがとうございます」
依頼がまだ終わっていないので、ここで冒険者のエルフ達と別れることになった。レイクも引き止めることもなく、お礼を言って見送った。二人が去っていくと、さっきまで黙っていたマリーが話しかけてきた。
「はぅ―、冒険者って、凄い人なのね。この矢も重いのに正確だった」
「ん、忘れていったのか。まぁ、いいか」
マリーの手には鋼鉄の矢があり、それなりの重さがあった。これを離れた場所から射って、ゴブリンの手に当てたのは凄い技術と腕力があってのことだ。
二人も次の獲物を探しに歩き始めるのだった――――