第十三話 氷竜討伐へ
レイク達はエルフの森に来て、一週間経った。レイクは朝から陽が落ちきるまでは『深きの閨』に通い続けていた。いつもネルとメアは一緒で、ノエルは一日の間隔を空けて通うことで、少しずつ強くなっていた。
レイクは様々な強敵と戦い続けて、強くなっていた。今のステータスがこれだ。
ステータス
名称 レイク 12歳
称号、加護:復讐者
レベル168(100)
HP:547/547(750/750)
MP:519/519(600/600)
腕力:287(300)
耐久:252(350)
敏捷:301(250)
魔力:259(300)
魔耐:244(350)
魔法
魔獣魔法Lv2【雷竜】
スキル
剣術Lv2、身体強化Lv2、気配察知Lv2、【雷竜の息吹Lv2】、【雷纏強化Lv2】、【雷瞬激動Lv1】
本当なら、ナイフの技術を学びたかったが、教えて貰おうと思っていたガープと言う男性エルフは自分達をここまで連れて行った後に、何処かへ行ってしまったのだ。メアの話によると、近くにある獣人の集落へ連絡しに行ったとか。連絡内容はもちろん、大国同士の戦争のことだ。
その話を、レイクとメアが話し合っていた。二人はこれから『深きの閨』へ行く所で、ネルが戻ってくるまで待っていた。
「今はまだ大きな戦いになっていないのか?」
「そうね。共和国は相変わらず、本国で篭城の構え。帝国は何故かわからないけど、本国へ向かわずに周りにある村を潰し回っているわ」
「……着実に犠牲が増えていっているところか」
「でも、慌ててもいいことはないわよ? そうね、一週間経ったし、そろそろ貴方の目的を教えてくれる?」
メアはレイクが何をしたいか、何の為に強さを求めているかは知っているが、曖昧なことで詳細をよく知っている訳でもなかった。一週間、『深きの閨』通いに付き合って、その詳細を少しでも知りたいと思っていた。
「目的か、それはもちろん復讐だ」
「国全体に対して?」
メアの問いかけに、レイクは復讐をすると決めたが、国全体に対してと言う、明確な敵はよくわかっていなかった。自分の村を襲った帝国、見捨てた共和国のことは憎いが、そこに住んでいる人の全員を憎んでいるとは違うと考えていた。
「……今は情報が少ないから、判断は出来ない。だが、村を襲った帝国の兵士とその大将は絶対に許せないと思っている」
「……そう。貴方の敵を間違えていなければ、いいわ。これから、氷竜に挑むよね?」
「ああ、倒してその力を自分の物にしてやるさ」
あっさりとレイクの目的の話は終わり、これから狩る標的のことを話す。氷竜は名の通り、氷を操る竜のことでヒドラと同じCランクだが、メアは名前を持った氷竜の存在を知っており、それを狙おうとしていた。名前持ちの氷竜はBランクになり、強力な氷の息吹を吐くと言う。どんな戦闘方法を持っているか、メアから教えて貰い、ネルが来るまで続いていた。
「お、来たか。どうだ?」
「うん! これはとてもいい物だよ!」
そう言って、見せて貰ったのはネルの武器になる鋼鉄製のナックルだ。ネルの戦闘タイプは接近戦で殴りまくるスタイルであるので、この武器は身体能力が高いネルにピッタリだ。エルフに武器を作れる人は少なく、完成するまで時間が掛かったが、さっき出来上がったと報告があって、ネルはそれを取りに行っていた訳だ。
ネルも氷竜討伐に加わり、この三人で挑む予定である。
「では、出発ね」
氷竜の住処があり、前に見つけた所だが、竜はあまり住処を変えることもなく、百年でも住み続けると言う。周りの環境の大きな変化があるか、強敵の魔物が現れない限りは、その住処を変えることはないので、今回の氷竜も前に見つけた住処から変わってないと考えているようだ。そこへ向かう予定になっており、今から出れば夜には着く予定になっている。ネルが発揮出来る時間帯、夜に戦いを挑むと以前から決めていた。
「倒したら、野宿?」
「そうね、荷物は私が持っているから大丈夫よ」
「?」
メアが荷物を持っていると言っても、手には何も無かった。それどころか、武器さえも持っていなかった。不思議そうに見ているレイクとネルに気付いたのか、一瞬で弓を取り出して見せた。
「わぁっ! 何も無い所から現れた!?」
「……この世界にもアイテムボックスみたいのがあるのか」
「この世界? それにアイテムボックスって?」
「あ、いや。それもスキルか?」
「そっちの方が気になるけど……いいわ。『収納』と言うスキルで武器や荷物を異空間に預けられるのよ」
レイクの失言に気に掛かったが、レイクに秘密があるのは前からわかっていたので、無理に聞こうとはしなかった。レイクが前世の記憶を持っていることも誰にも言っておらず、いつも一緒にいた幼馴染でも知らない。
それよりも、『収納』のスキルは便利なので、欲しいと思っていた。
「そのスキルが欲しいのだけど、どうやって手に入れたの?」
「うーん、『収納』のスキルを覚えられるスクロールがあれば、早いけど高いから普通は無理ね。空間魔法が掛かった袋を一年以上は使い続けるのが現実的かな」
「色々と気になる単語が出てきたのだが……まず、スクロールとは?」
言葉の意味は解るが、スクロールと言う物は村では聞いたことはなかった。どんな物か、詳細に教えてもらった。
「簡単に説明すれば、スキルを封印した巻物だと思えばいいわ」
「スキルを封印?」
「えぇ、スキルを封印出来る巻物がこの世にあって、自分のスキルを巻物に封印して、他人に渡せるのよ」
「そんなのがあるのか!?」
それがあれば、簡単に強くなれるじゃないかと考えていたが――--
「でも、巻物に封印したスキルは誰も求めていて、その値段が高くなっているのよ。王族か高位の貴族にしか払えないぐらいの価値らしいよ。それに、自分のスキルを封印して売ろうとする人は少ないから、巻物自体も数があまり無いのよ」
「自分のスキルを封印していたら、弱くなってしまうからなぁ……」
自分のスキルを封印するような人は、余程、お金に困っている人か命知らずの馬鹿だけだ。年寄りが天に召される前に封印すれば一番いいが、何も封印されていない巻物自体だけでも、結構儲かっている人にしか買えないぐらいに高い。つまり、そのスキルが封印された巻物に期待するよりも、賭けになる部分があるといえ、自分で鍛えて手に入れたほうが一番いい。
「……空間魔法が掛かった袋とは? 巻物とは違うのか?」
「違うわね。空間魔法の力を、『魔法付加』と言うスキルで収納が出来る袋があるの。ただし、空間魔法もオリジナル魔法で、『魔法付加』もレベル5になっていないと、出来ない作業なのよ。数は……言わなくても、想像は出来るね?」
「あぁ……どっちも希少なのだな」
「そうね。巻物より袋の方が安いといえ、12歳の貴方が買うのは難しいわね」
確かに、いくらになるかわからない袋を買うまで稼ぐ前に、レイクはやることがあるのだ。出来るかは別として、今は寄り道をしている場合ではない。
ネルは隣で話を大人しく聞いていたが、一つだけおかしな所に気付いた。
「あれ、元は空間魔法からだよね? なのに、『収納』はスキルになっているの?」
「よく気付いたわね。そうよ、私が持っているのは、スキルの『収納』。本来の魔法である空間魔法Lv1の『収納』はスキルの『収納』よりも性能がいいの。簡単に言えば、スキルの『収納』は劣化能力みたいな物になっているわ」
「それはどうして?」
「それはわかっていないわ。いつか解明したいけど、オリジナル魔法の空間魔法を持っている人が今の時代にいるかわからないし、いても会えるか……」
「あー、難しそうだな」
オリジナル魔法は世界で一つだけの魔法となっているので、今の時代に使える人がいても、場所がわからなければ会うのは難しい。それどころか、持っている人が生まれているかもわからない。
「私のことはいいわ。『収納』のスキルが欲しいなら、収納の袋を探すのがいいわよ」
「あー、今はいいや。強くなることが第一だ」
「第一だ――」
後は他愛な話をしながら、氷竜がいる場所へ向かうのだった――--