第十一話 エルフの森
村から歩いて、一週間が経った。
大人数に老人も含まれていたので、時間が掛かったが、ようやく目的地に着いたのだった。エルフの森である――――
「着きました。皆さん、少しだけ待ってください」
メアはそう言い、前へ進むとメアの姿が消えた。レイク達には見えないが、結界の境界線がその辺りにあるのだろう。試しに枝を持っていないレイクが手を指し伸ばしてみるが――――
「やっぱり、通れないか。景色は偽者だが、違和感がないな」
見えない壁に当たったように、先へ進めなかった。メアが来るまでは何も出来ないので、大人しく待っているのだった。数分した所で、見えない壁から何人かのエルフが現れ、その中にメアとガープが含まれていた。しかし、結界の中へ連れて行くには一人いれば充分だと聞いているので、これだけのエルフが出てきた事に疑問を浮べていた。
「すまないが、少々の質問の応答と手持ちを確認させて貰いたい。今は大きな国が戦争を起こしているのだから、わかるだろう?」
「あぁ、成る程」
「ごめんね。確認が終わったら、すぐだから」
変な物を持ち込まれては困るのと、戦争を起こした帝国の人は中に入れることが出来ないとの考えで、持ち物を確認されることに。レイク達は村が壊滅し、ほとんどが自分の財産を持っている人はいない。あるといえば、この道中に必要な物や食料ぐらいだ。
「よし、その子はどの種族だ?」
「月狼族だよ―」
「月狼族……?」
ネルが確認をされている時に、種族を聞くとエルフは眼を細めていた。その眼は髪に向かっていた。月狼族の髪色が灰色なのに、ネルは銀色だから疑いを持っているのだろう。ネルはまだ八歳で説明が上手く出来ないので、代わりにレイクが説明をする。
「あ―、ネルは銀狼の加護を持っていて、そのせいで髪が銀色になっているだけで、種族を偽ってはいないぞ」
「そうなのか。髪色が変わる加護って言うのも珍しいな」
あっさりとエルフは信じた。証拠を見せても無いのに、簡単に信じてもいいのかと思っていたが、それが表情に出ていたのか、メアが教えてくれた。
「不思議そうな顔をしているわね。この人は魔法で嘘が無いか確認しているから、わかるのよ。初めて見たから、第三の人物からの言葉も確認していたってところね?」
「メアさん、人の魔法のことを広めないで下さいよ」
「へぇ、そんな魔法もあるんだ」
納得したところで、次々と村人も確認していく。レイクも当然、通過している。一人も怪しい人はおらず、全員が結界の中へ入る許可を貰えた。
「これから、一列になるように手を繋いで貰いたい」
誰かがエルフの一人に触れていれば、繋がっていても入れるようだ。全員が手を繋ぎ、エルフの森がある方向へ進んでいく。途中で、一枚の膜を通ったような感じがあったが、無事に全員が通りきった。
「ほぉっ」
「どう、綺麗でしょ?」
見えない壁を通った先は、綺麗な景色が映っていた。一つの湖を中心に周りの木に家を建てていた。中心にある湖はそこが見通せるぐらいに、水がとても綺麗だった。
その湖の前に、迎えに来た若いエルフと違って歳を取っているエルフが立っていた。
「長老、連れてきました!」
「うむ、ご苦労だった。怪しい人はいなかったかな」
「はい、僕が確認しましたが、一人も疑いのある人はいませんでした」
「なら、宜しい。さて、村人を纏める人は誰かな」
「ここは村長かな」
レイクはそう思って、村長の方へ眼を向けていたが、何故か皆がこっちを見ていた。そこで、ノエルが苦笑しながら、こっちに向かって肩に手を置いていた。
「この子が私達を纏めている子よ」
「はぁっ!?」
「ほぉ、まだ若いのにやるじゃないか」
「ち、ちょっと!?」
いきなり自分が矢面に立たされて、動揺してしまうレイク。
「ここは村長が出るべきじゃないの?」
「うーん、私達はレイク君のお陰で助かった命だもの。それに、レイク君なら私達を纏めていても違和感がないというか――――」
「それは理由になってないと思うけど……」
「レイク殿、このことは皆と話し合って、決めたことなのです。ワシ達の村は魔物の群れに襲われ、捕まっていた所を――レイク殿の案と高い実力を持って、助けて頂いた。戦争が起こってしまった世界では、貴方様のような存在が必要になると思います」
皆の生活を守る為に動くだけなら、村長が皆を引っ張ってやればいいが、今は戦争中だ。エルフの森にも帝国の手が伸びる可能性があるならば、実力が高く皆が頼りになるようなリーダーシップを持った存在が立つのを望ましい。それで、今回はまだ12歳だが、大人のような振る舞いをして実力も一番高いレイクが選ばれた訳だ。
「……はぁ、わかったよ。俺は強くても、まだ12歳の子供だからな。それだけはわかってくれよ?」
「ホホッ、必要なことがあれば、大人のワシらを頼ってくれわい」
溜息を付きつつ、レイクは了承した。しばらくはレイクが村人を纏めるリーダーとして勤める事に決まった。話していた所を待って頂いたエルフの長老と話を始めた。
「信頼されておりますな」
「まぁ、悪い気はしないが……。俺はレイクと言う」
「私はエルフの長老をやっているルーク・エドラスト。戦争が終わるまではここの住居を貸そう」
「ありがとうございます」
この後は問題なく、エルフの案内を下に村人達に住宅を与えられる。結界の外に出るのは枝が無くても出来るが、入れなくなるので、気を付けて下さいと注意があったが。
レイクは自分が住む家を確認した後に、『深きの閨』と言う森へ案内して貰おうとメアを探していく。
「何処に行くの―?」
「ん、強くなる為に『深きの閨』に行くのだよ」
「ネルも一緒に行く!」
「……まぁ、今のネルなら大丈夫か」
「あ、私もいい?」
「ノエルも……?」
話を聞いていたのか、一緒の住宅になったノエルがそう言ってきた。一緒に『深きの閨』へ行きたいと。
「なんで? ピクニックに行くんじゃないぞ?」
「それはわかっているわよ。私も強くなりたいと思ったの」
「……村で戦えなかったことを気にしているのか?」
「うーん、それもあるけど、これからのことも考えているの。私達の村は男の大人が半分以上も死んじゃって、守れる人が少ないの。だから、少しでも戦える私がもっと強くなれば、皆を守れると思って……」
つまり、ノエルはこれからの村の未来を考えており、皆を守れるだけの実力が欲しいと言っているのだ。それなら、連れて行きたいと思うレイクだが、『深きの閨』は強い魔物が多くて、自分だけではノエルを守りきれない可能性が出てくる。今は夜じゃないから、ネルのことも見守って置かないといけないから、その余裕は無かった。
「済まないが――――」
「だったら、私が見守るから大丈夫よ」
何処から話を聞いていたのか、メアが現れて話に入ってきた。ノエルのことはメアが見守るようで、一人で守る必要が無くなった。
「一緒に着いてきてくれるなら、助かる」
「というわけで――――ノエルだったよね?」
「う、うん」
「貴方も弓を使うみたいだから、私が教えてあげるね!」
「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします」
ついでに、師弟関係が出来た。メアを探すのを省けることが出来、すぐ案内してもらう事にした。レイク、ネル、ノエルはメアの案内の下に、『深きの閨』へ向かう。
『深きの閨』は結界を抜けた先、山を一つ越えた所にある。一つの山を越えるのに時間を掛けていられないので、すぐ竜人モードになり、ノエルをおんぶして走り出した。獣人であるネルは身体能力が高いので、大丈夫だがメアは着いて来られるのかと心配していたが――――
「私は大丈夫よ」
メアは問題なく、レイクの横を走っていた。余裕を持っている所から、敏捷はネルにも負けてはいないように感じられた。一応、レベルだけ聞いてみたら――――
「私のレベル? 569はあるわよ」
「569!?」
ノエルは驚いていたが、レイクはあんまり驚いてはいなかった。エルフは長寿で長生き出来る種族なので、長い時間を掛ければそれぐらいのレベルにするのは不可能ではないと考えていたからだ。
「エルフって、魔力が高い種族だったよな?」
「ええ、それに魔耐もよ。私の魔法に期待して貰ってもいいわよ?」
「どんな魔法を使えるか楽しみにしているぞ」
これから魔物を狩りに行くのに、レイクとメアは楽しそうだった。どんな魔物が生息しているか、楽しみにしつつ、『深きの閨』へ向かうのだった――――