第九話 意外なお客
キングオークを消し炭にした夜、村人は半分ほど減ってしまったが、壊された村へ戻った後に感謝の宴を開いてくれた。半分も死んでしまったのは、悲しいことだが、助けてくれた旅人を無視することは出来ないと言うこと。レイクは遠慮したが、村長が是非、やらせて欲しいと頼み込んできたからだ。悲しい事があったことを払拭したいのもあるだろう。
「レイク殿、ネル殿、村長として感謝を申し上げます。魔物から助けて頂き、ありがとうございます」
「私からも感謝をするよ! 二人だけであの魔物の群れを倒せるとは思っていなかったけど、やってくれた。皆も感謝しているよ」
一緒に戦ったノエルも笑顔を浮かべていた。いや、無理に笑顔を浮かべているように見えた。やはり、半分の村人が死んだ事に堪えているのだろう。
「そうか。すぐここを出て共和国へ向かうか、他の避難出来る場所に向かうといいぞ」
「それは、どういうことですか?」
「今は共和国と帝国が戦争中だからな。いつか、ここに帝国の兵士が攻めてくる可能性があるぞ」
戦争していることを知らなかったのか、村長は驚いていた。
「なんですと!? 本国から連絡が来てないのですが……」
「俺はヤオハ村で暮らしていたが、五日前に帝国の兵士が攻めてきて滅ぼされた。本国からの連絡は一つも来なかった」
ここの村にも連絡が一つも来てなかったことから、意図的に連絡をせずに見捨てたとしか思えなかった。そのことを聞く為に、早く共和国へ向かって聞きたい所だ。
「俺は明日の朝、すぐここを出て共和国へ向かう」
「なっ!? 貴方は怪我をしているでしょ!?」
「怪我?」
「キングオークに殴られた時だよ~」
「あぁ……」
今、言われて気付いた。痛みを感じないからわからなかったが、背中は痣が出来ていた。HPに付いては竜人モードだったので、雷竜の方が肩代わりして貰っているので、痣が出来ただけで痛みは全く感じていない。一晩寝れば、痣も消えているのだろうから――――
「でも、一日だけは休んだほうがいいよ?」
「急がなくては駄目なのだが――――」
「疲れはすぐ取れないよ?」
「だから……」
「無理しているように見えるよ?」
「…………はぁっ」
ネルの眼差しに見詰められて、レイクは手を上げて降参した。
「わかった、わかった。一日だけだ」
「うん!」
よく考えてみれば、ネルは獣人族で身体能力が高くても、まだ八歳なのだから無理させてしまっているかもしれない。戦闘の後は身体も精神も疲れている筈なので、一日ぐらいは休んでいた方がいいだろう。どうせ、ネルはここの村人と一緒に避難をせずに、自分と一緒に来るだろうとわかっているし。
「済まないが、明日もお世話になるが、いいか?」
「大歓迎です! ゆっくりと休むと良いでしょう!」
避難の為にすぐここを出るには、準備が足りないので明日一日はここにいるのだろう。帝国の兵士が明日に来る可能性も捨てきれないが、ここは山の淵にあり、帝国の兵士がぞろぞろと攻めてきたらすぐわかるので見つけてから逃げ出しても問題はないだろう。オーク達は百ちょっとだったので、森の中に隠れて上手く攻めることが出来たが、鉄の鎧を着ている兵士はそう簡単にいかないだろう。自分の村に攻めてきた時も、百程度ではない結構な数で来たのだから、ここを攻める時もだいたい同じ数で来る筈だ。
それをレイクは見逃すつもりはなかった。
「もう今日は休ませて貰うぞ」
「ネルも~」
「ネル、別に一緒に寝なくたっていいぞ?」
「ねぇ、私と一緒に寝ない?」
ノエルがネルを一緒に寝ないかと誘ったが、銀色の尻尾をピンと立ててガルル……と威嚇されていた。
「ええっ!? 私と一緒は嫌!?」
「やっ! レイクお兄さんと一緒がいい!!」
「え~、残念だけど、諦めるしかないね……」
「はぁ、わかった。一緒に寝るか」
「うん!!」
さっきと打ち変わって、尻尾に喜びの感情を乗せて、フリフリと振っていた。いつの間にか、それだけ懐かれたのかなと思えば、嫌な気はしなかった。
「仲の良い兄妹みたいね」
「本当の兄妹じゃないけどな」
「それぐらいは知っているわよ」
種族が違うので、兄妹ではないのはすぐわかる。でも、ネルの懐きようを見れば、兄妹と見間違いそうだ。感謝の宴も終幕に至り、皆が夜を越していく。その夜は帝国の兵士が来る事も無かった――――
帝国の兵士は来なかったが、別のお客が朝早くに訪れてきた。その伝えを聞いて、レイクは今更、共和国からの通達が来たのかと思っていたが――――――――来たのはエルフの二人だった。しかも、レイクが知っている人物だった。
「メアとガープ!?」
「あれ、私のことを知っている? なんとな――く、見た覚えがあるような?」
「む、あの二人組じゃないのか? 似ているようだが……」
こっちを見ても、エルフの二人は誰かわからないようだ。それはそうだ、レイクは黒髪から白髪になっているし、ネルはマリーに似ているが、他人の空似であるから。
「あー、俺はレイクだ。森で援護をしてくれただろ? 鋼鉄の矢で」
「ああっ!? でも、髪が……」
「少女に至っては、金色じゃないし、耳が生えているよな?」
「実は――――……」
今までのことを説明した。帝国の兵士がヤオハ村に攻めてきて、自分は帝国の研究所に連れ去れたこと。ネルは自分と同じように誘拐されて、なんとなく一緒に行動する事になった。これから共和国へ向かおうとしていたとか、簡潔に話した。
「そんなことがあったのか……クソ、帝国はそこまで腐ったのか!」
「帝国だけではなく、共和国も!!」
「共和国も? やっぱり、共和国は――――」
「ええ、共和国は周辺の村へ助けや通達を届けることもなく、見捨てたわ」
その可能性を考えたこともあったが、他の人にきっぱりと言われると悲しくなる。もし、援軍が来てくれば……せめて、通達でもしてくれば、家族とマリーは助かったかもしれないと考えれば――――怒りが沸く。帝国は許せないと思っていたが、同時に共和国へも怒りが沸きあがっていく。
拳を力いっぱい握っていた為、手から血がポタポタと流れていた。
「共和国の冒険者ギルドで通達があったわ。帝国と戦争が起こるから、共和国から出るのは禁止。待機して、戦争へ向けての準備をせよと」
「ふざけているぜ。人間と戦いたくない人もいたのに、強制に戦わせるつもりだぞ。共和国の上層部は!!」
「あれ、お二人は、共和国を出ていますよね?」
一緒にいたノエルが疑問を浮かべていた。確かに、共和国から出るのを禁止されているなら、二人も出られないはずだ。
「あぁ、俺達は共和国に付いていけなくて、自分の森に帰るつもりだったさ。秘密の抜け道を使って出た訳だ」
「その前に、近くの村だけでも教えてあげようと思って」
それで二人は自分の森、エルフの森へ帰ろうとしたが、その前に近くの村だけは戦争の事を教えてあげようと、ここに立ち寄っていたのだ。
「村がボロボロだったから、もう攻められたと思っていたが……」
「ここは魔物の群れに攻め込まれたの」
「このレイク殿とネル殿のお陰で、ワシ達は生きていられたのだ」
「え、二人が?」
「まぁ、ノエルに頼まれたしな」
「勝ったよ―」
ノエルから二人の活躍を話して、エルフの二人は驚いていた。まだ子供の二人がキングオーク、ジェネラルオーク、オークの群れを倒したと聞いても簡単に信じられないだろう。
「でも、この前はゴブリン相手になんとか勝てたばかりだよね……?」
「そうだな。これのお陰で強くなったな」
自分の魔法、紋章が刻まれている所を見せると、メアは驚いて凝視していた。メアは魔獣魔法のことを知っていたようだ。
「魔獣魔法!? それを使ったの!? なんで生きているの!?」
「お、落ち着けよ。一気に質問しては、答えられないだろ?」
「あ、ゴメン……」
メアは魔法についての研究が好きで、オリジナル魔法でどの魔法がどんな効果を持っているか、それを調べていた。レイクは簡潔に、魔獣魔法が持つデメリット、自分の体質のことを話してやった。
「成る程、貴方は無痛症と言う病気が、魔獣魔法による痛みを消していた訳ね。こんな組み合わせ、今まで無かったわよ。運が良かったとしか、言えないわね……」
「そうだな。あと、雷竜のゼルムが助けてくれたのもあるな」
「名前を持つ魔物から助けられたのか。雷竜といえば、C……名前持ちだから、Bランクの強さを持っているな。その雷竜も帝国に捕らえられていたとはな――――」
それだけの力を持つ者が帝国にいることは宜しくない情報だった。レイクは必ず、帝国へ復讐すると決めているので、もっと強くならなければならないと思っていた。
「あと、魔物の群れが攻めてきたね、魔族の関与を疑ってしまうわ」
「魔族? まさか、魔王が動き始めたか?」
「多分ね。共和国と帝国が戦争をし始めたのと同時に、動き始めたのかもしれないわ。詳しくはエルフの森に帰らないとわからないわね」
メアとガープの会話に不穏な言葉が混じっていたことに気付く。
――――魔王? この世界に魔王という存在もいるのか……。
魔王といい、ステータスがあることからまるで、漫画やアニメみたいな世界だなと思うレイクだった。
「貴方達はどうするの? 何処か避難する場所はあるかしら? 言っておくけど、共和国は受け入れる準備をしていないから、向かおうとしても無駄よ」
「そんな……共和国しか当てがありませんぞ」
「……ガープ、エルフの森に余った住居はあったかしら?」
「先に長老の許可が必要だ。俺が先に向かって、許可を取ってくる。お前は村人と一緒に後から来るのがいいだろう」
「そうね。良かったら、エルフの村に来る?」
戦争が終わるまでは、ここにいる者達をエルフの森で匿うようだ。長老は知らない森へ行くのは不安があったが、ここにいれば必ず戦争に巻き込まれるのは間違いない。少し迷ったが、命に変えられないのでエルフの森へ向かうことに決めた。
「決まりね。レイク君はどうする?」
「……共和国へ向かっても、入れないよな?」
「ええ」
「なら、一緒に行く。今はまだ強くならなければならないからな。エルフの森に強い魔物はいるか?」
「エルフの森を越えた所にある『深きの閨』という森なら、うじゃうじゃといるわ」
「なら、行く」
「レイクお兄さんと一緒に行く~」
レイク達も強くなる為に、メア達と一緒にエルフの森へ向かうことにするのだった――――