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おれんじふぁーむ徒然日記。  作者: はなうた
おれんじふぁーむの毎日。
8/22

麻実の相談事(前篇)

※エクスカリバー:乙葉さんちの犬。強面で、一部の人間に凶暴。

 前野麻実:乙葉さんのご近所さん、柿農園『前野もんもんぱーしもん』農主の孫娘。


 その日は農主さんの都合もあって、午前中に作業が終わった。

 時間も時間、乙葉家にて昼食をとらせてもらうことになったのだが。


「おーしおしおし。お前はいつもヘナヘナだなぁ」

「あう~ん、あう~ん」


 食後。日向ぼっこついでに玄関前に出ていると、姉ちゃんが乙葉家の看板犬(?)エクスカリバーと戯れはじめた。

 ちなみに、今日は姉ちゃんも農園の手伝いに来ている。


「てか、すげぇな姉ちゃん。よくそいつ触れるよ」

「んん? だって、この子ずっとひっくり返ってるだけだろ?」

「いや、それがな……」


 俺が近づいたら、眼光ギラつかせて吠えかかってくるんだなぁコレが。


 最初は俺だけがそうなのかと思ったのだが、実はあの保科もよく吠えられる。

 つまり、この犬にとっては「(おとこ)子どもに用はない」って感じなのか。まったく、このエロ犬め……。


「……アアン?!」

「ひぃ……っ」


 睨まれた!

 そしてコイツは、たまに俺の思考さえも読み取るのだ。……さすが聖犬。恐ろしき生き物よ。


「あ、もしもし、麻実ちゃん? どないしたん? ……うん……え……そうなん? へ~……」


 ふと、玄関の向こう側から由愛さんの声が聞こえてくる。

 どうやら通話中のようだ。


 そういや、この聖犬。由愛さんには全く吠えないな。概ね姉ちゃんと同じ反応だ。

 まぁ飼い主だから当然なのだろうけど……もしかすると、由愛さんの本質を見抜いている可能性も無きにしもあらず……。

 つまり由愛さんが「見た目は子ども、心は大人のおねいさん」ということをわかって……聖犬さん、よくわかってらっしゃる。


「お~お~、賢いねぇエクスカリバーちゃんは~」

「あひ~ん」


 ところで、この「エクスカリバー」って、何度聞いても凄まじい名前だな……。一体誰が、こんなケッタイな名前つけたのやら。



「はなちゃん、はなくん。ちょっとこれから出かけるんやけど」


 通話を終えたのか、由愛さんが玄関からひょっこり顔を出す。


「おお由愛。それならあたし達はそろそろお(いとま)するよ」

「いや、そのことなんやけど、二人とも午後は時間空いてる? よかったらついてきてほしいんやけど……」



 * * *



 ということで。

 俺と姉ちゃん、由愛さんの三人で向かったのは、近所の前野さん宅。

 乙葉さんと同じく柿農家で、『前野もんもんぱーしもん』を経営しているお家だ。


「こんにちはー」

「あ、由愛ちゃん! いらっしゃい! それと、草太さんたちも……いらっしゃいませ……」

「こんにちは、麻実(まみ)ちゃん」


 こちらの主人である前野歳三(としぞう)さんの孫娘、麻実ちゃんが出迎えてくれる。お辞儀と同時にサイドポニーで結った髪が揺れる。

 人見知りで、俺や姉ちゃんにはまだ少し身構え気味なのだが、礼儀正しい良い子である。


 ところで、今回由愛さんをお招きしたのは麻実ちゃんだそうで。

 なにやら相談事があるらしい。


「ささ、あがってあがって~」

『おじゃましまーす』


 和風玄関の中央に広がる廊下をまっすぐ進み、突き当りにある部屋に案内される。シンプルながらも、所々に可愛らしい小物が置かれた畳の部屋だった。


「すぐ連れてくるから、ちょっと待っててね」


 敷いてくれた座布団に腰を下ろすと、麻実ちゃんは急ぎ足で部屋を出ていった。

 そして、数分もしないうちに戻ってくる。


「この子やねんけど……」


 麻実ちゃんが運んできたのは、大きめなゲージ。

 中には、水の入った容器に、もこもこした布。そしてノソノソとうごめく……


「あ、うさぎだ」


 うさぎだった。


 まだ子どもなのだろうか。手のひらにも乗せられそうなサイズの子どものうさぎ。遠目で見るとまるで毛玉みたいだ。


「この子。友達の(うち)から引き取ってんけど……」

「わぁ、かわいいねぇ!」

「せやろー? たまに耳ぴょこぴょこさせて、それがまたかわいいねん~」


 麻実ちゃんと由愛さんはすっかりメロメロの様子。

 ふ……そんな由愛さんに、俺はメロメロですぜ……。


「草太。今、アホなこと考えただろ。アホさが顔に出てるぞ?」

「う、うるせぇやいっ!」


 アホアホ言うんじゃねぇ!

 姉ちゃんに言われなくても自分でも今のはないって思ったよ!


 ……ごほん。

 ところで、この子ウサギ。訳あって、前野さんちが一匹引き取ったそうだ。


「ところで、相談事ってなんなの? この子の事なのはなんとなくわかるんだけど……」


 姉ちゃんが尋ねる。由愛さんはさっきの電話で内容を知っていそうだけど、俺と姉ちゃんはまだ何も知らないのだ。


「うん。それやねんけど……一緒に、この子の名前を考えてほしいねん」


 おっと。

 これはなかなか重大な相談事だぞ?





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