表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おれんじふぁーむ徒然日記。  作者: はなうた
おれんじふぁーむの毎日。
16/22

ヘタに集うものたち

久々に農園作業のお話です。


 実りの秋。

 九月の半ばにもなると、「おれんじふぁーむ」でも柿の収穫作業が始まる。


 去年の経験をフルに活かして、俺は手際よく専用のハサミで柿を獲っていく……


「おいバイト。そこ終わったら、こっちの色きてる柿獲っていけよ」

「は、はいっ」

「はなくん、ちょっと軸が高いから、もうちょっとヘタの付け根で切ってね」

「は、はいっ、すみませんっ」


 ……たった一年の経験では、そうそう手際よくはいかないようでした。

 今日も、農主さんや由愛さんの作業に食らいついていくのが現実。

 ……頑張ろ。


 ちなみに、たった今由愛さんから指摘を受けた"軸"について。


 柿の枝と果実と繋ぐ部分……その部分は正式には『果梗(かこう)』という。

 そこをハサミで摘んでいくわけなのだが、収穫時は、なるべくヘタのギリギリを摘むのがポイントなのだ。


 柿は、収穫時、コンテナの中にいくつもの柿を積み入れる。

 その中で、果実に果梗が長く残った状態だと、すぐ横の柿に果梗部分が当たって果実に傷がついてしまう。

 それだけで、出荷時の柿の値段が下がってしまうらしい。


 一年の時間をかけて育ててきた柿の値段が、少しのことで下がってしまうのはとても痛い。

 次からはもっと気をつけねば……。


「ん?」


 気を取り直して、次の枝に取り掛かろうとした時。


「んん? この懐かしいようなニオイは………………うげっ!」


 く、クセえっ!

 これは間違いない……カメムシだ!

 俺が今持った柿のヘタ部分にいたみたいだ。


 まるで苦味のような独特なニオイが鼻を苛む。

 そういえば、昔「このニオイを嗅ぐのが癒やしになるんだよ」とか言う変態なヤツがいたなぁ、と、どうでもいいことを思い出したが、本当にどうでもいいな。


「カメムシ、まだおったか。……今から消毒するのもなぁ。獲ってまう方が早いか……」


 農主さんが作業しながら悩んでいらっしゃる。


 めつみ作業の合間とか収穫までの時間に、農主さんは何度か害虫対策の消毒をしている。

 が、相手も生き物。

 危険を察知すると、その場から逃げるのは至極当然のことだ。


 今のカメムシも、違う畑から逃げてきたのかもしれない。


「悩ましい問題だよなぁ…………ん?」


 次に手にした柿のヘタにも何か違和感があった。


 またカメムシか? と思ったが、さっきとは少し違う。

 なんかこう……ウネっとした……。


「わっ」


 そのウネっとしたものは、俺の手に乗ったかと思うと、その細長い身体を勢い良くくねらせてボトリと地面へと落ちていった。


 ……そして、俺の手の甲に残ったのは、


「ぎょ、ぎょえぇぇぇっ!?」


 尻尾だった。

 さっきまでいたウネっとしたものの正体は、トカゲだったのだ。


「尻尾……! 尻尾が……!」


 身体から離れたはずなのにまだ元気よく蠢いとる!

 気持ち悪ぅっ!


「あはは、トカゲやったんやぁ。ヘタのところにけっこういるんやでぇ。たまに尻尾取れたりして、ビックリするねんなぁ」


 ちょっと離れたところで、ほのぼのと話す由愛さん。

 はい、まさに今、俺の手の上で尻尾が切り離されました。




「……いやぁ、柿のヘタには、色んなものが潜んでるんですねぇ」

「そうやでぇ」


 小休憩中。

 トカゲの尻尾への恐怖も収まり、由愛さんに貰った缶コーヒーをちびちびと飲んでいる。


「まさか、トカゲまでいるとは思いませんでした」

「ふふふ。たしかに、意外かもねぇ。でも、他にももっと色んなのがあるんやで? 露の多い日とかは、ナメクジとかもいっぱい乗ってるし」

「うげぇ、ナメクジですか」


 あのヌメ感がキモいあれかぁ……。


「それにな、バイト。枝にも、たまにカエルが刺さってたりするんやぞ。百舌(もず)早贄(はやにえ)ってやつや」

「げげぇ」


 あの謎の現象か。

 ここで作業してると、現実にお目にかかる日が来るかもしれないのか……。

 ……嫌だなぁ。


「それに、去年なんか、すっごい怖いのがあったやんね」

「ああ、そうやったな。たしか、熟した柿の上に、なんでかスズメの頭だけが乗っかってたんや」

「うぇぇ……」


 なんでスズメ……しかも頭だけって。

 それこそホラーじゃないか。


 ……てか、休憩中の食べたり飲んだりしてる時に、そんなグロい話しするのもうよしませんか?


 俺は顔をしかめながら、缶コーヒーをすすった。

 いつもよりちょっと苦めなその味に、さっきのカメムシのニオイを思い出して、さらに顔にシワが寄った。


 柿って……こわい。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ