聖夜の終わり
「最後の最後でやってくれたなお前ぇ!!」
「ご、ごめんなさいっす~!!」
二人は町中の路地裏を走っていた。
あの爆音があった後。黒須は急いでプレゼントを置き仲居を抱えて窓に飛び出した。しかし窓の下はすぐに崖。何とか屋敷の壁につかまりそこからお荷物(仲居)を背負ったまま横移動のロッククライミングをする羽目になった。吊り天井もあって黒須の筋肉はズタボロである。
「なんであの場面でくしゃみができるんだよ!」
「き、緊張してしまったんすよ~! 許して欲しいっす~!」
二人は街頭に照らされていない真っ暗な道を選んで走っている。
すると黒須が仲居に問いかけた。
「そいえば。ダンスホールの時、なんでお前はあぁまでして取りに戻ったんだ?」
「え?」
「いや、え? じゃないだろ。あと少しで抜けられるところだったのにわざわざ危険を冒してまで取りに戻っただろ?」
「あぁ……それは、プレゼントだったからっす」
仲居が話し始めた辺りで二人は足を止めた。
「自分、幼いころ両親を亡くして孤児院に住んでいたんすよ。ですがその孤児院はお世辞にもいいこところではなかったんす。監督役の男の人も冷たい態度ばかりとって、ご飯も囚人みたいなものでした」
黒須は黙って聞く。
「そんなだから当然プレゼントなんて貰えず、いつも街に出てはサンタさんに貰ったおもちゃや人形を持っている同い年の子供を羨ましがってたっす」
仲居は淡々と語る。
「そんな環境が嫌だったから、自分はその孤児院を飛び出て一人で生きてきました。だからこれはサンタさんからもらった人生で初めてのプレゼント……それを手放すはずがないっすよ」
仲居はあたまのトナカイカチューシャを外して胸の辺りに持っていき愛しむように抱きしめた。
「でも、もうこれを付ける資格はないっす」
仲居は黒須に手渡すようにカチューシャを突きだした。
「あれだけヘマしてサンタクロースにしてくれなんて図々しいことは言わないっす。今日は連れて行ってくれてありがとうございました」
黒須は仲居の気持ちを聞き届け、そのカチューシャを受け取った。
「そうだな。お前はサンタクロースにしてはちょっと、いや大いにバカだし鈍臭い……だから」
黒須は仲居の頭に再びトナカイカチューシャを着けてやった。
「あ……」
「お前は当分トナカイだ。次のクリスマスまでに鍛え上げてやる。お前がやりたいというならな」
「サンタさん……ありがとうっす!」
仲居はタックルするように抱きついた。その目には涙が溢れているが顔は満面の笑みだ。
「自分頑張るっす! 頑張ってサンタさんみたいなサンタクロースになるっすよ!!」
「は、俺のようにか。いったいいつまでかかるやら」
黒須が仲居の頭を撫でている時だった。
「あ、貴様ら! その姿はサンタクロースか!?」
「あ、見つかっちゃったっす!」
「やべぇな逃げるぞ!」
二人は路地の奥に逃げる。路地を出たらそこはゴミ捨て場だった。
「サンタさん! あそこにまだ使えそうなソリが捨ててありますよ!」
「よし頼むぞ! これで最後だ、ヘマするんじゃねぇぞ!」
「はいっす!」
黒須はソリに乗り込み仲居は先頭についている紐を子供が縄跳びでやる電車ごっこのように腰に当てた。
「さぁ帰るぞ! 進め!」
「はいっす! しっかり捕まっててくださいよ!」
真夜中の街の中をサンタクロースとトナカイ走る。二人の走った軌跡を描くように後ろからは怒号と笛を騒がして警察が追いかけてくる。
一年に一度の大仕事。それをやりきった二人の顔に疲れが見えることもなく二人は笑顔で笑いながら逃走を繰り広げている。
俺はサンタクロース。子供たちに夢を届けることが俺の仕事だ!!
了