サンタ志望は突然に
「はい、じゃあえ~っと、入ってきてくれる?」
そこは木造の建物の中だった。木造といっても板張りではなく丸太を積み上げてできたロッジのような木造建築だ。
よりイメージを固めるならアルプスの少女ハ○ジに出てくる人が住む小屋のようなものだ。パチパチと暖炉が燃え部屋の温度を心地よく温めてくれている。
その部屋の真ん中。木造のテーブルに肘をついて木造の椅子に座っている赤い服を着た一人の男性が誰かを招くかのようなセリフを言う。
「はい! 失礼するっす!」
セリフに食い気味に聞こえてきたと思ったら表へ出るこれまた木造の扉が勢いよく開いた。
そこから現れたのは外ハネが目立つ茶髪ボブカットの少女だった。
年齢は中学生くらい。身長はおそらく一四〇と一五〇のあいだくらい。
服装は特に目立つようなところがない普通の恰好、厚手の上着を着て入ってきたが、室内に入るとともに脱ぐ。その中は上下赤色のジャージだった。服のせいか胸が大きく見える。
ニコニコと聞こえてきそうな表情で真っ直ぐ歩いてくると机と少し離れたところにある椅子に座った。
「えっと、じゃあ簡単な自己紹介を」
「はいっす! 自分は赤花戸仲居って言います! サンタクロースになりたいのでよろしくお願いするっす!」
赤花戸と名乗った少女は元気いっぱいで手を挙げて答えた。
「あぁ、赤、花戸さん?」
「みんなに言いにくいってよく言われます! 仲居でいいっすよ!」
「ありがとう。じゃあ仲居ちゃん、いくつか質問させてもらってもいいかな?」
「どんと来いっす!」
「じゃあ……まずどうしてここがサンタのいるところだと分かった? 見つからないように森の奥深くで一番近い街でも軽く二十㎞はあるこの建物に?」
「あぁ、それは森でフライパン片手にウサギ追いかけて遊んでたらぼろぼろのこの建物を見つけたんすよ」
「それも大概おかしいが問題はなぜここがサンタの住んでいる家だと分かった?」
「それはですね、不思議に思い家を見ているとこれが干してあったっす!」
仲居はポケットから赤い布を取り出した。それは形からして男性物のパンツに間違いはない。
「あ! それ俺のパンツじゃねぇか!」
「えぇ! ベランダにこれだけあったので思わずひったくってきちゃったっす! で、赤パンだから、あぁここにはサンタが住んでいるのかと……」
「解決が早すぎる! なにその感か推理かわからない思考感覚!? えぇいとにかく返せぃ!」
男は机に身を乗り出してパンツを奪う。
「ったく、道理で一枚足りないと思った……で? 仲居ちゃんはサンタになりたいからわざわざ履歴書も書いてもう一度ここにきてこんな面接のようなことを今やっているわけだな?」
「その通りっす! 経緯説明までしてもらって感謝感激雨あられっす!」
「はぁ……お前が最初ドアを開けて入ってきたときはついに警察に見つかったかと思ったぞ」
頭をぼりぼり掻きながら目の前の少女を見る。元気なのは分かるがどことなくアホっぽそうな雰囲気もなくもない。いやあるだろう。
「じゃあま、一応俺も自己紹介をしようか……俺の名前は黒須三太。知ってのとおりサンタクロースをやっている」
「えっと、はい! サンタさん!」
「出会って数分であだ名で呼ばれるとは思わなかったが間違ってないからいい。はい仲居ちゃん」
「おひとりでやっているのですか?」
「あぁ一人だ。このご時世、サンタクロースをやりたいと思う酔狂なやつは俺だけだと思っていたがな」
「そんな! 照れるじゃないっすか!」
「うん、貶してもなければ褒めてもないぞ仲居ちゃん」
この屋敷のある森を抜けたところにある街、スノードームは森で採れる木や農業を中心に発展した商業都市だ。木や農業で発展したといっても森も農地は町の外にあるので街自体は建物がたくさんあり現代的だ。
そしてその街の最大の特徴が卓越した建築技術によって生み出された建築物至上主義だ。
昔からこのスノードームは木材が多くとれたため建築が盛んに行われていた。
そのおかげでよその街を寄せ付けないほどの技術を手に入れ、時代が積み重なってくるうちにこの街では建物こそ最も価値もあるものという価値観が普遍的なものとなった。
それに伴って法もそちらに傾き、建物に関する処罰が極端に厳しくなった。
器物破損と同じように建築物破損罪がありその罪は器物破損の三倍は重い。建物の壁に落書きしようものなら牢屋から出ることは永劫にない、終身刑だ。
では不法侵入をすればどうなるか? 極刑だ。家の人が不法侵入者を殺害しても正当防衛で何の罪にも問われない。むしろ周りの人からは褒められるくらいである。
これほどサンタクロースにとって悪条件が揃った街なのである。
「お前もあの街の現状は知っているはずだ。それでもやりたいっていうのか?」
「はいっす!」
迷いのない清々しい返事が返ってきた。アホっぽく見えるがそれでもあの街の事を理解していないわけではない。
「……じゃあ他の質問だ。足腰に自信は?」
「え!? そんな、初対面でいきなりベッドインだなんて、自分そんな経験ありませんよ!」
仲居が顔を赤らめて両手を頬にやりくねくねしている。
「どんだけ深読みしたらそうなるんだ!? ただの身体的特徴を聞いてるんだよ!」
「あぁそっちですか! 自分てっきり一目ぼれされちゃったかと思いましたよ」
「どれだけぶっとんだ頭をしてるんだこいつは……」
「自分足腰はちょっと自信がありますよ! 人間相手なら負けませんよ!」
「まぁそこまでいうなら大丈夫かな。じゃあ次は隣の部屋に行ってプレゼントの箱を取ってきてくれ。これ鍵だから」
「これはあれっすね? 試験ってやつすね! 一筋縄じゃいかないやつでしょう!?」
「それが分かってればいいだろう。いっといで」
「うっす! 頑張ります!」
仲居が腕をぐるぐる回して部屋に扉に向かう。隣の部屋には簡単なトラップが複数用意してある。そして音声だけ拾えるようにマイクが設置してあるので部屋に入らずとも大体の状況は把握できる。
仲居が部屋のカギを開けて中に入る。さてどうなるか……
『あ! あの箱ですね!? なぁんだすぐそこにぐわあぁぁぁぁ足が動かないぃ! 粘着床だぁ! あ、ちょっとぐぼぉぉ! パイがどこからともなくぅ! く! 靴を脱げばここから……出られたぁ! ああぁぁぁ落とし穴がぁぁぁ! 底にはまたクリームがぁ! なんのこれしき! よいしょっと! さぁもう箱はすぐそこ、あれ? 何でしょうこの縄? (グイ)引っ張っても何も起きないわあぁぁ! 天井からねずみがぁ! あ、服の中に入ったっす! く、くすっぐったいですが先に箱を取ってしまってぇぇぇ!? 足元にあった網が上がって宙吊りにぃぃぃ!』
「……知能は低い、か」
叫び声が聞こえるマイクの電源を切って隣の部屋に向かう。
すでに開いている扉に入ると水揚げされた魚のように捕獲された全身生クリームだらけの仲居がなにやらもぞもぞしていた。
「おい、大丈夫か?」
「ううぅ……不覚でした」
「よくもまぁトラップを余すことなくひっかかれるな。野生の動物でももう少し警戒して動くぞ」
「く、もうちょっと……よし! 取れたっす!」
何やら服の中に手を突っ込んでいると思ったらその手にはネズミが握られていた。トラップにはまったのと今しがた服の中を弄繰り回したのでジャージが乱れてあられもない姿になっている。パンツは見えてるわ胸元は空いてるわで教育上大変よろしくない。
「降りる前に可愛らしいパンツとそこそこ大きいお胸を隠しなさい」
「きゃーえっちー」
「すまんな、俺熟女にしか興味ないんだ」
「カウンターパンチが鋭いっすね!? てか降ろして欲しいっす~」
「自分で出られんのか?」
「これ以上動くと色んな意味で十八禁になっちゃいますよ!」
「ぜひとも見たくないからすぐに降ろすぞ」
黒須は床にあるスイッチを足で踏むと天井から紐が外れた。
「ぎゃふん!」
当然仲居はお尻を床にぶつけることになる。
「いたた……も、もっとソフトに扱ってほしいっす……」
「警察の皆さんはこんなにやさしく扱ってくれないぞ。奥に風呂場と洗濯機があるから洗ってこい」
「はいっす。あ、覗かないでくださいよ?」
「小娘が。もっと熟してから出直してこい」
「辛辣さが半端ないっすぅ!」
仲居が小走りで洗面所に駆けていく。さて上がってくるまで今日配るプレゼントの確認をしてくるか。
~サービスシーン~
「いいお湯でした~」
「面接に来た身で湯船まではってがっつり入浴するとは思わなかったぞ……」
仲居は顔が赤くなってホカホカと少し湯気が出ている。服はこっちが用意していた白シャツとジーパンだ。男用だからだぼだぼだが。
仲居が椅子に座ってから離し始める。
「とりあえずお疲れ様。とりあえず面接はこれくらいか」
「どうっすか!? 自分サンタクロースなれそうですか!?」
「う~~~ん……どうするかな……」
足腰が自慢だと言っているがおつむがこれだと何も意味がない。しかしここまで来た彼女を不採用とか言って追い返すとこの場所を告げ口するかもしれない、それもなさそうな気がするが。
しかし用心に越したことはない。なにより目の前で眩しいくらいのキラキラした眼差しを見ると心のどこかに罪悪感が出てくる。
「よし、じゃあ採用ってわけじゃないけれども今日俺のプレゼント配りについてきてもらおうか」
「ほ、ほんとっすか!?」
「あぁ、でも遅かったら容赦なくおいていくからな」
「大丈夫っす! 自分サンタクロースらしく頑張ります!」
「いやいや違う違う。仲居ちゃんはこっちだ」
黒須は懐からカチューシャのようなものを取り出すとそれを仲居の頭に着けた。それは
「これ、トナカイの角じゃないっすか~!」
「サンタクロースの見習いって言ったらこれだろ。簡単にサンタ帽をかぶれると思うなよ」
「そんな~。熱血系野球部の新入部員いびりみたいなこと言わないでかぶらせてくださいよ~」
「今日の働き次第だな。さぁそろそろプレゼントを運ぶ準備をするぞ」
「う~っす……」
若干肩を落としながらも黙々とプレゼントを袋に詰めていってくれた。黒須が見た感じ、やる気はあるみたいだからさして邪魔にもならないように思えた。
毎年行う重大な大仕事。今年は思いもしなかった見習いを連れてサンタクロースは夜の街に繰り出した。