至福の時
疲れきって、気がついたら既に朝だった。そこには母親もジョンも帰っていて、私は心底安心した。その反動からタジン鍋を腹がいっぱいになるまで食べた。
エジプトの砂漠で足が引っこ抜けなくなっていたら大変だ、と家族の安否を本気で心配していたのだ。それに、これで出国審査にも支障が出なくて済む。
今日を含めてエジプトにいられるのはあと二日。そして、母親の提案でこの日は別行動をとることになった。皆それを了承し、ホテルを出た。
私はジャスティンと一緒だった。というより、彼が勝手についてきたのだが。
ジャスティンが「今日は何処にいく?」と聞いてきた。私は悩んだ。もうエジプトに来ることはないかもしれない。だから私は未来の自分と交信してみることにした。
「未来の私は、エジプトの何処に行きたい?」
すると未来の私は「スフィンクス」と応えた気がした。私は一瞬考えてジャスティンに言った。
「その辺をブラブラしたい!」
今の私はスフィンクスなんて見たくない。旅行先でがっかりするのはタイで見たマーライオンだけで充分だ。
私はもう一度この目であの博物館の絵を見たかった。だけどそれだけでは物足りないから、ジャスティンにお願いした。「何か買って!」と、何度も何度も。
すると優しいジャスティンはそれに応えてくれた。変な服や、変な文字が打てる携帯。変な文字が打てると大笑いしてたら店員がにらめつけてきたから、私はその人とにらめっこした。
かけがえのない時間。お土産をいっぱい買って、いっぱい遊んで、最後にあの博物館の前についた。夕焼けに染まった博物館の壁の色は、やっぱり奇妙な色だった。