闇の中で
気ががつくと、私は道に倒れこんでいた。全身が痛む。それでもゆっくりと体を起こす。
ここはどこだろう。目の前には女の子が着ていた真っ白の服と、私が持ってきたロータスの花が落ちている。私はそれらを拾い上げ、辺りを見渡した。
両端は木々が連なっている。正面は奥に行くほど空が暗くなっており、背面の空は奥に行くほど明るくなっている。
私はこの状況を理解するのに時間がかかった。しかし、恐らく、どちらかに歩いてここから脱出しろということなのだろう。
私は悩んだ。明るい方は現実世界に、暗い方は非現実世界に繋がっているのではないだろうか?
もしそうなら、振り返って明るい方に進むべきだろう。でも、何故か気が進まなかった。
怖くても、あの子のために、暗い方へ進まなくてはいけないと思った。あの子はもっと暗い世界に閉じ込められていたのだ、それに比べれば大したことはない。
私は暗闇の広がる方へつま先を向け、歩き出した。
歩いても歩いても、両端の景色は変わらなかった。ただ、歩けば歩くほどに空の色は変化していった。
真っ暗で空虚な空間に吸い込まれていく。恐れがないわけではない。
しかし、あの女の子のために、絵の前で待つ恋人のために歩き続けた。
休憩してる暇なんてない。空腹を感じている暇なんてない。何があろうと、立ち止まりたくはない。
何日歩き続けたのだろうか。見当もつかない。そしてロータスの花は、見る見る元気を無くしていった。彼女と私の精神を結ぶ束が、日増しに緩んでいく気がした。
日に日に暗くなる世界に自分を失いそうになる。自分の出す呼吸の音さえ、今では煩わしい。しかしそれを抑える術はない。
身体中からは血が滲み出る。肉体的にも、精神的にも追い込まれた。立ち止まって反対方向に進んだり、途中で死にたくなって殺してくれと乞うこともあった。
しかしそのたびにジャスティンの言葉を、レイラの言葉を、そして自分の赤ちゃんになるはずだった女の子の顔を思い出して、更なる暗闇へと歩みを進めた。




