黒い影
私はずっと、遠くの方から視線を感じていた。ジャスティンもそれに気がついているようだった。
気になった私は、バレないように横目でその視線の正体を確認しようとした。
ジャスティンは視野が狭いからか、正面を向いて睨めつけた。これが今流行りのガン見だ。
段々、その人が私たちの方にゆっくり向かってくるのが分かった。それからその人は、私たちの正面で止まった。
全身を黒い布で覆った、綺麗な青色の目をした女性だった。その人は突然「こんにちは」と言った。若そうな声だったから、きっと20代前半だと思った。何故なら、20代後半にはない声の艶があったからだ。
私は一瞬怪しげな顔をしてから、こんにちは、と返事をした。ジャスティンはまだ睨み続けている。
その女性は重々しく言った。
「この絵は特別よ」
私はすぐに勘ぐった。この人、この絵について何か知ってるかもしれない。でも私は基本的に疑り深い性格だし、小さい頃から母親に知らない人の言うことは聞かないように教えこまれていたし、例えもしそれが優しそうな人でも信用してはダメと言われてたし、その辺だけはちゃんと理解して育ったいい子であったから、すぐには信用できなかった。
しかし、次にその女性が言った「ついてきたら秘密を教える」という釣り針にまんまと引っかかってしまった。まるでブルーギルのように。
三人はある建物の前についた。年季が入っていて、一階建ての古ぼけた建物だった。素人目から見ても築1000年は経っていた。
私とジャスティンは謎の女性に導かれて、建物の門をくぐった。家の中はいくつもの蝋燭に火が灯っていて、電気はないのに暗く感じなかった。
しかし、黒色のカーテンで部屋の窓を覆っていたから、少し薄暗いくらいだった。
しばらくして、女性は紅茶を出してくれた。中東の香りがした。
私がその紅茶を二口飲んだところで、女性は話し始めた。
「女の人は私の名前はレイラ・シラフ。レイラが名前、シラフはお酒を飲んでいないってことよ。私は頭がおかしくてあなたたちをここに連れてきたんじゃない。ちゃんとした理由があるの」
レイラはそう言ったあと、頭から纏ったスカーフを脱ぎ始めた。少しずつ露わになるレイラの顔に、私は息をするのも忘れて見入っていた。
彼女はとても美しかった。典型的な中東美人だ。眉毛は真っ黒で、鼻筋が通っていて、頬が痩せていた。そして、黒色の髪が青色の瞳をより一層際立たせている。




