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カシカ2 エジプトの朝  作者: 丸三角死角
12/20

愛情

Riotous(ライオタス)な二人はついに奇妙な塗り壁の博物館の前に立った。


私が彼の手をそっと握った時、彼は優しく言った。


「心配するな」


そんな彼の手には私が食べたホットケーキのカスがしっかりとついた。そして私は言った。


「幸せは分かち合うものだよね?」


彼はそうだね、と言って頷いた。でも本当は、ジャスティンが分かち合った幸せというのは接触で感じられる愛情のことじゃなくって、油のベタベタのことであった。


ジャスティンは馬鹿だから気づいておらず、多分手を握ったことを言ってるんだと思っていて「僕は幸せだよ」とかなんとか言っている。


私は、全然気付いてない彼を見て、笑いを堪えるのに必死だった。


入館する時、私はジャスティンのおかげですっかり綺麗になった右手で入場券を受け取った。


でもジャスティンはベトベトな左手で受け取った。「吾輩はレフティーである、名前はジャスティン」って雰囲気を醸し出しながら。


でもこの子猫は飼い殺されていることに気づいていない。私にはそんな彼が可哀想に見えたから、教えてあげた。


「汚いから手洗ってきなよ」


すると彼は「吾輩はこれで読心術を心得ている」と言って、私の綺麗な右手を汚れた左手で握ってきた。


おかげで私の手はベトベトだ。


「意味わかないし、何するの?」


その時点で彼の言ってることを理解するのはロゼッタストーンを解読するよりも難しかった。でも彼は続けた。


「読心術だよ、僕には君のしていることが愛情表現の裏返しだって分かる、だからすごく幸せなんだ」


否定はできなかった、確かにそうかもしれないと感じたから。


それからジャスティンは急に私の手をとって「こっち!」って言って走り出した。


私は「痛い!」と叫んで、ブーティで挫きながら連れていかれた。その時やっと、ブライダルカーに引きずられる空き缶の気持ちが分かった気がした。


彼は博物館のある場所で立ち止まって、私が息を切らしながら顔をあげると、そこにはなんと、盗難されたかもと思っていたあの絵があった。


ジャスティンは幸せを感じた時に勘が鋭くなる。だから簡単に見つけ出してしまった。


もし彼がゴールデンレトリーバーだったら、優秀すぎてジャーキーあげいるところだった。


私がジャスティンの頭をよしよし、と撫でたら彼はハスキングし始めた。流石の私もこの時ばかりは引いた。


「ボール投げてくれ、ご主人様!」と叫ぶ彼を無視して私は絵を眺めた。


やっぱり何だか懐かしい。何と例えたらいいのだろう。それは、小さい頃に使っていたブランケットの匂いを嗅ぐと心が温かくなる感覚に似ていた。


私は小声で呟いた。


「心がポカポカする」


するとジャスティンは「俺はシコシコする」と言った。


私は、あまりに衝撃的な発言で言葉が見当たらず、慌てふためいた。エジプトでこの人何するつもりなんだろう、と思い目を見開いて横を見ると、彼は何かを噛んでいた。


「そっちのシコシコするか!歯ごたえのする方か!」


私は自分の勘違いを恥じた。


「何食べてるの?」


「分かんない」


私はまた慌てふためいて、口の中の物を急いで吐かせた。そして問い詰めた。


「これは何!?」


「さっき拾った」


私は彼の世話にすっかり疲れてしまい、手に吐かせた得体の知れない物体を彼の口に押し込んで絵に集中することにした。

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