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人を異世界へ飛ばす大型トラック美女運転手、今日も元気に残業中!  作者: 酣睡


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異次元からの帰還、お人形にされる日はすぐそこに。

シャワーヘッドから吐き出される生温かい湯が、白石こころの骨張った痩躯を細やかかつ重々しく打ち据えていた。


立ち込める湯気は狭苦しいバスルームを白く霞ませていくが、骨の髄にまで染み付いた疲労と殺伐とした苛立ちまでは洗い流してくれない。


実の妹である白石花の人間離れした狂気じみた追撃を掻い潜り、あまつさえ浅見陸の野郎から不意打ち気味に重い一撃を顔面に喰らったばかりの今、彼女の機嫌は底の底まで冷え切っていた。


こころは手を伸ばし、鏡に張り付いた水滴を乱暴に拭い去った。冷え切ったガラスには、現在の己の無様な姿が映し出されている――目の周りには痛々しい青痣が浮かび、頬骨は微かに腫れ上がり、元より青白くやつれきった病的な相貌と相まって、目も当てられないほど痛々しい。


クソが。こころは奥歯をギリリと噛み締め、心の内で悪態を吐いた。胃の腑から湧き上がる怒りで口の中が酸っぱくなる。


元婚約者を取り戻そうって輩が、相手の面へ真っ向から拳骨を叩き込むなんて真似をどこのどいつがするっていうのか。あの男の脳味噌は腐ってやがるのか?


百歩譲ったとしても、記憶にある限り、浅見陸はあの一之瀬萌乃のために、かつて偉そうに、それこそ待ち望んでいたとばかりに一方的に婚約を破棄してきたはずだ。


あれほどボロ雑巾のように自分を放り出しておきながら、今さら連中は何の狂い咲きを起こして、こうして悪鬼羅刹のごとく執拗に付きまとってくるのか。


熱い湯が張り詰めた背骨を伝い落ちるにつれ、こころの怒りは頭頂部を突き破らんばかりに燃え盛った。だが、その鬱屈が頂点に達したその瞬間、唐突にも、途方もなく荒唐無稽で、それでいて強烈に甘美な思考が脳裏の片隅をかすめた。


待てよ……萌乃、か。


かつて、あの女が理解不能な奇怪な理屈によって、こころから「白石家の次女」としてのあらゆる「存在感」と「運気」を強奪したからこそ、周囲の愛してくれていたはずの人々、護ってくれるはずだった家族は、一夜にして彼女を空気のように無視し、泥沼へと転落する様を冷笑しながら見殺しにしたのではなかったか。


もしもこの「全世界から見落とされ、忘却される」という呪いそのものが、萌乃の最も飢え渇いている略奪の糧なのだとしたら……なら、今はどうだ?


こころは鏡の中の自分をじっと見据えた。その死んだ灰色の瞳の奥に、狡猾で狂暴な光がふっと灯る。


今、己が身に浴びているこの命取りの「執着」など、ただの猛毒でしかない。


あの女が世界の中心気取りで、本来は自分のものであった全てを奪い去るのがそれほどまでに好きだというのなら、もう一度だけ、あの白百合気取りの女に機会を与えてやろうじゃないか。


萌乃にこの忌々しい運気と存在感をそっくりそのまま吸い尽くさせれば、狂犬のように嗅ぎ回ってくる白石花も、独り善がりな純情を拗らせた浅見陸も、標的を自然とそちらへと移し、萌乃を生き地獄の底へと叩き落としてくれるのではないか?


これは卑劣などではない。物尽其用――物の使い様というものだ。


自らが辟易している厄介事を、それを最も欲しがっている相手へ熨斗をつけて叩き返してやる。己の火の粉を払えると同時に、相手の底なしの貪欲さも満たしてやれるのだから、これほど都合のいい取引が他にあるだろうか。


そう思い至った瞬間、こころの全身へ強壮剤でも流し込まれたかのように生気が戻り、顔面の鈍痛すら意識から吹き飛んでいた。


カチリとシャワーを止め、くたびれた白タオルを引っ掴むと、栄養失調でパサついた長い髪を乱雑に拭い上げた。無造作にだぼついた部屋着のバスローブを引っ掛け、サンダルを引きずりながらバスルームを出ると、成仏号のキャンピングキャビンにある冷蔵庫のドアを勢いよく開け放つ。


死線の際から五体満足で逃げ延びてきたのだ、胃袋に極上の餌を放り込んでやらなければ、この安い命に申し訳が立たない。


冷蔵庫のチルド室には、以前の非番時に自らの手で仕込んでおいた高級品が整然と並んでいた――透き通るような光沢を放つ薄造りのトラフグの刺身てっさ、そして黄金色の衣を纏い、ひとたび温めれば暴力的な香気を放つフグの唐揚げ。


プシュッ、と小気味よい音を立てて缶チューハイを開ければ、冷え切った炭酸の泡が喉元でパチパチと弾け、辛辣な爽快感が全身を突き抜ける。


淡白ながらも力強いフグの旨味を咀嚼しながら、こころは片手の手慣れた操作で安物の携帯電話のロックを解除し、迷うことなく一之瀬萌乃のプライベート番号へと発信した。


受話器の向こうから単調な「ツーツー」という呼び出し音が鳴るたび、こころの鼓動は奇妙な高揚感と共に跳ね上がった。今となっては、萌乃が電話越しに自らの存在感を骨の髄まで吸い尽くしてくれることが待ち遠しくてたまらない。


さあ吸え、吸えるだけ吸い尽くせ。でなければ、あの勇者となった妹に裏路地で袋叩きにされて白石の屋敷へと連れ戻され、手足をへし折られて痒いところを掻くことすら叶わない生き人形に仕立て上げられてしまうのだから。


永遠にも思える空白の果て、受話器の向こうで微かな「カチャリ」というクリック音が響いた。


繋がった。


こころの神経が跳ね上がり、探りを入れようと唇を開きかけた――だが、スピーカーの奥から零れ落ちてきたその声は、彼女の全身を巡る熱い血潮を、コンマ数秒のうちに絶対零度の氷塊へと変え果てさせた。


『お姉ちゃんがこの女に連絡を入れるなんて……この女を使って、私の気を逸らそうとでもしているのかしら?』


どこまでも柔らかく、清らかで、まるで初春の雪解け水を思わせる声。


白石花の声だった。


ゴォン、と頭蓋の奥で何かが爆ぜ、こころの思考は一瞬にして純白へと吹き飛んだ。チューハイの缶を握り締めた指の節々は、過剰な力によって血の気を失い青白く強張っている。


椅子の上で全身が金縛りに遭ったかのように硬直硬直し、呼吸という生体機能すら完全に停止していた。


声を発する勇気? 違う、「音を出す」という概念そのものが、あの声を耳にした瞬間に生存本能によって無残に圧殺されていたのだ。


心の底から、地球の特異点と化してしまったあの妹が恐ろしかった。ほんの一言でも言葉を誤り、僅かでも隙を晒せば、次の瞬間にはこの成仏号の装甲板ごとあの妖刀で真っ二つに叩き斬られ、死ぬことすら許されない廃人へのカウントダウンが始まることなど火を見るより明らかだった。


極限の恐怖の果てに、心底から乾いた虚無感が込み上げてくる。


花は今年でまだ十五歳のはずだ。義務教育すら碌に終えていない年齢の小娘が、一体どこの誰から肉親を解体し、幽閉し、私物として弄ぶような歪みきった手口を学んできたというのか。


自分が外の泥濘で野良犬のように這いずり回っていた長い年月、白石家の自称天才を気取った選民どもは、この妹に初歩的な倫理観を教え込むことすら怠っていたというのか。


だが、憤怒を滾らせたところで、圧倒的な絶望の力の差の前には滑稽なほど無力だった。こころの置かれた劣勢は何一つ覆らない――花は本気で、姉を壊してでも傍らに囲い込む腹積もりなのだ。


どれほど無謀な蛮勇をかき集めたところで、あの怪物と真っ向からぶつかり合えるはずもなかった。


通話の向こう側は死のような静寂に包まれていたが、数秒の後、細く、痛々しいまでの哀切を孕んだ咽び泣きが受話器を伝って漏れ聞こえてきた。


『お姉ちゃん、もう私とお話ししてくれないの? ……悲しいな。お姉ちゃん、私……今、胸がすごく、すごく痛いよ……』


その声音は甘く湿り気を帯び、すすり泣きに微かに震え、遊園地で親とはぐれた幼子のように無防備だった。白石家の血筋は酷なまでに美貌を約束されている。


こころは目を伏せるだけで、思春期の入り口に立ち、愛らしい幼さを残しながらも息を呑むほどに美しく育った花の顔が、受話器の向こうで如何に哀れっぽく眉をひそめているかを鮮明に脳裏へ描くことができた。


もしも数十分前、あの娘が平然とした顔で真空の圧殺領域を広げて同僚を挽き肉に変え、歴戦の古株たちを文字通り「異世界バカンス」へ刀一本で送り返した阿鼻叫喚をこの目で見ていなければ――かつての自分なら、この無垢な仮面に易々と騙し抜かれていたに違いない。


こころは唇を血が滲むほど噛み締め、息を潜めたまま、スマートフォンのこちら側で首を激しく、発狂したように横へと振り続けた。


拒絶だ。この吐き気を催す歪んだ執着を、何としてでも跳ね除けなければならない。


だが……本当に、ただ逃げ惑うことしかできないのか?


冷え切ったフグの肉を噛み締めながら、底辺の掃き溜めで研ぎ澄まされてきたこころの冷徹な思惑が、猛烈な回転を始めた。


花が萌乃の傍にいるということは、萌乃は十中八九、すでに花の手に落ちている。


ならば……このまま流れに乗じて、あの狂った妹を扇動し、同じく邪な腹積もりを抱えて擦り寄ってきた浅見陸を完膚なきまでに八つ裂きにさせてやることはできないか? 今、牙を剥いて自分を狙っている毒蛇は、白石花一匹だけではないのだから。


愛だの情だの? そんなもの、路上生活者にとっては尻を拭く紙屑ほどの価値もありはしない。


全世界から存在感を奪い去られ、都市の最も澱んだ排水溝の中で無数の夜を這いずり回ってきた底辺の女にとって、己の命と貞操を守り抜くことだけで、手持ちの運と力はとっくに尽き果てているのだ。


彼女の生存哲学は、無数の裏切りと飢えの中で冷徹に鋳直されていた――生き延びるためなら、卑劣だろうが、陰険だろうが、道を塞ぐ邪魔者は容赦なく崖下へ蹴落とす。そして、理由もなく自分に「善意」を向けてくる輩に対しては、全神経を研ぎ澄まして最大級の防空警報を鳴らし続ける。


その病的なまでの自己防衛は、彼女を冷淡で、血も涙もない不人情な人種へと変貌させていた。


だが、それこそが、虎視眈々と命を狙う魑魅魍魎の渦巻く世界で、今こうして手足を残し、酒を煽り、フグの肉を食んでいられる唯一の矜持だった。


この一線だけは、白石こころという女は死んでも譲る気はない。


この救いようのないクソッタレな世界において、成仏号のエンジンの轟音と、三途の川の淵で軽口を叩き合いながら命を削って有給を取る半魔物の同僚たち以外、彼女は何一つ信じないし、何一つ乞い願う気もなかった。


『いいんだよ、お姉ちゃん。今はお姉ちゃんが私を嫌って、拒絶していること……全部、ちゃんと分かってるから。お姉ちゃんのいるその会社の結界、どうやって壊せばいいか、私がちゃんと見つけてあげる。そうして、私の手で連れ戻してあげるからね。その時は……お姉ちゃんと私、二人きりだよ……』


ガチャリ。


白石花のあの甘ったるく狂気に満ちた戯言が紡ぎ切られるよりも早く、白石こころは無表情のまま無慈悲に通話を切断した。


本当に、底が知れないほどイカれてやがる。こころは胃の底から込み上げる吐き気をねじ伏せ、毒づいた。だが、あの通話から極めて重要な切り札を一つ手に入れることができた――白石花は今現在、転生会社の結界に対して手も足も出ない状態にあるということだ。


それはすなわち、成仏号の中に引きこもり、本社の立体駐車場ブロックの内側に留まっている限り、当面の間は絶対的な安全が保証されていることを意味していた。


彼女はゴミを放り投げるようにスマホを革張りのソファへ放り出し、どさりと深く腰を沈めた。ローテーブルの上に並んだ、透き通るフグの刺身と黄金色の唐揚げを見つめる。


受話器越しに擦り付けられたねっとりとした悪意に生理的な嫌悪が込み上げてくるが、それとこれとは話が別だ。彼女は迷うことなく箸を伸ばした。


胸糞が悪かろうと、腹は満たさねばならない。


泥水をすすって生きてきた人間こそが、空腹の恐怖が幽霊のそれより何万倍も恐ろしいかを熟知している。自分は悲劇に酔ってハンガーストライキを決めるような安っぽいメロドラマのヒロインではない。


かつて白石家で透明人間扱いされていた頃は、残飯の端切れすら奪い合うように貪っていたのだ。清潔な湯で体を洗い、脂の乗ったフグを酒で流し込み、雨風を凌げる鋼鉄の車室で泥のように眠れる――これ以上の至福がどこにあるというのか。


白石家の令嬢へと返り咲き、富貴栄華を享受する? 反吐が出る。あの豪奢極まる屋敷など、黄金で設えられた死体安置所にすぎない。


こころは己が変わり果てたことを痛いほど自覚していた。俗物に堕ち、冷酷で、驚くほど現金な女になったと。だが、そんな今の己を毛ほども嫌悪してはいなかった。


この両の腕でスパナを握り、ハンドルを回して食い扶持を稼ぎ、誰の顔色を窺うこともなく生きる――この泥臭くも確かな自由は、金山を積まれたところで手放す気は毛頭ない。


「ふぅ……ごちそうさま」


最後の唐揚げを胃袋へ収め、冷えたチューハイを喉へと流し込んで飲み干した。口元を拭い、立ち上がって食器をシンクへと運ぶ。


蛇口から勢いよく吐き出される水道水が、陶器の皿にこびりついた油を洗い流し、温かな湯気が立ち上る。洗剤をスポンジに馴染ませながら、こころは密かに皮算用を巡らせていた。


花が本社の結界を破れないのなら、明日の朝一番にワニ頭の人事部長の元へ転がり込み、なりふり構わず超長期の有給休暇をもぎ取るか、あるいは他次元への超長距離輸送任務を請け負って、あの狂人どもの手の届かない彼方へと高飛びしてしまおうか――。


だが、その思考が形を成したまさにその刹那。


『――見つけたわよ』


それは大気の振動による音などではなかった。どこまでも慈悲深く、凛と澄み渡り、それでいて氷の楔のように頭蓋骨の最深部を直接穿つ「魂のテレパシー」だった。


パリンッ。


手から滑り落ちた皿がシンクの底で甲高い音を立てて砕け散った。白石こころの全身の神経が一瞬にして凍りつき、両足の骨を抜かれたかのように激しい脱力感に襲われ、滑り止めのマットの上へ崩れ落ちそうになる。


蛇口を捻って水を止める力すら湧かず、激しく跳ね返る水しぶきがバスローブの裾を無情に濡らしていく。


白石絢香の声だ。


ほんの少し前、自ら成仏号のアクセルを床まで踏み込み、ミンチになるまで轢き潰して「契約先異世界への強制転生完了」とシステムが宣告したはずの――白石家の長女。あの、完璧にして絶対なる姉の声音。


なぜだ? どうして未知の次元へと放逐されたはずの人間の声が、次元の障壁をやすやすと飛び越え、自らの脳内で直接響き渡っているのか。


いくらこのところ常軌を逸した怪異を浴びるほど経験してきたとはいえ、この「絶対安全」であるはずの会社の結界の懐深くで、あの完璧主義の大姉が放つ窒息しそうな執念を叩きつけられれば、魂の底に刻まれた原初の恐怖が津波のように彼女を呑み込んでいく。


それ以上に最悪なのは、萌乃の所在が杳として知れず、おそらくは花に監禁されているという現実だ。萌乃の体を介して「もう一度存在感を吸わせる」という身代わりの退路すら、完全に断たれてしまっていた。

転生会社の最深部に位置する地下立体駐車場の中、こころはシンクの縁を爪が割れるほど強く掴み、激しい水音の中で狂ったように脈打つ自らの心音を聞きながら、脳内を底無しの混沌と冷気で満たされていた。


『これまでの長い年月、飢えを凌ぐためだけにこんな悪辣な企業に身を隠し、微々たる日銭を稼いでいたなんて……本当に、辛い思いばかりしてきたのでしょうね?』


白石絢香の声音は記憶の中にあるがごとく凛冽であったが、かつてのような骨を刺す冷酷な傲慢さは微塵もなく、その代わりにこびりついていたのは――全身の毛穴が粟立つほどに濃密で、甘美で、窒息を覚えるほどの底無しの優しさだった。


その口調は、先ほど電話口で花が聴かせた病的な狂気と、気味が悪いほどに瓜二つだった。


こころはシンクの前で硬直し、全身に鳥肌を立てたまま、肺腑を動かすことすら忘れて立ち尽くす。


『でも、もう安心していいのよ。私は宗一郎と共に、この世界の創世神を討滅したわ』


脳髄に響く伝音は、高次元の神が羽虫を見下ろすかのような淡々とした響きを帯びていたが、それはこころの頭蓋の中でメガトン級の弾頭となって爆発した。


『今の私は、星の軌道を切り裂き、地球へと回帰する権能を完全に掌握したの……その時が来たら、私がこの手でお前を迎えに行ってあげる。良い子で待っているのよ、私の愛しい、こころちゃん』


最後に囁かれた甘ったるい愛称が大気の中へと溶け去り、死に瀕した車室の中には、底無しの絶望に呑み込まれた白石こころだけが残された。


社内規定の極秘ファイルにおいて「足を踏み入れることすら禁忌、生存率は無限にゼロに近い」と指定されていた、あの超SSSランクの特級危険異世界を……この短期間で踏破しただと……?!


創世神を討ち滅ぼした? それが何を意味するのか。


今の白石絢香と長男の宗一郎は、かつてこころにこの「成仏号」を授けた、頭に巨大な角を蓄えたあの創世魔王と同等――あるいはそれ以上の絶対的な権能をその身に宿しているということではないか!


「カハッ……ゲホッ、うッ……!」


こころは激しく気管を詰まらせ、麻痺しかけた肉体へ無理やりに知覚を手繰り寄せた。震える紫色の指先で勢いよく流れ続ける蛇口を力任せに捻り止めると、糸の切れた操り人形のように震える膝を引きずり、這うようにしてソファの傍らへと転がり込んだ。


床に転がっていたスマホを引ったくり、痙攣する指先で液晶を狂ったように連打して、たった今脳内で受信した怪音波と壊滅的な情報を暗号化メッセージに詰め込み、岡田のアカウントへ向けて片っ端から叩きつける。


電話をかけたところで無駄だ。あのシフトに入るたびに柴犬の頭を傾げて警備室か給湯室の隅でいびきをかいてサボっている油まみれのクソ犬が、今この瞬間も夢の世界で遊んでいない保証などどこにもないのだから!


絶望。これまでの人生で味わったことのない純度の絶望が、コンクリートのようにこころの胸腔へと流し込まれていく。


これまでの状況が「地球の特異点を独占した狂犬の妹に退路を塞がれた」だけだったとするなら、今はどうだ?


神殺しを果たして次元の壁を切り裂く力を得た聖女の長女、それに加えて凡人の身でありながら剣技を極限まで研ぎ澄まし山河すら両断する怪物の長男。


白石花ただ一人ですら、転生会社が誇る精鋭の戦闘部門を薙ぎ倒し、辺り一面を死屍累々の惨状に変えてみせたのだ。


そこにあの煉獄から這い上がってきた二柱の魔神が合流したとしたら――白石こころが手足の筋を断ち切られ、あらゆる自由を奪われて黄金の鳥籠の中で生ける人形として飼い殺される日は、文字通り秒読みの段階へと突入したことになる。


何よりも息の詰まる現実は、これが一切の生還を許さない完璧な詰みの布陣チェックメイトであるという点だった。


白石花は元より、対象を強制的に自身の主場へと引きずり込む広域領域封鎖の権能を掌中に収めている。


花が結界を展開してこの座標を絶対隔離してしまえば、脱兎のごとく逃げ出す退路など最初から存在しない。


そしてその逃げ場のない閉鎖牢獄の中で、長女の絢香が振るうのは創世神すら浄化し焼き尽くす至高の「聖力」であり、長男の宗一郎が繰り出すのは神をも屠る純粋な「剣技」の極致なのだ。


封鎖、浄化、斬殺――この三人が揃い踏みした瞬間、そこには一分の隙もない三位一体の処刑機構が完成する。


この次元を超越した属性の絶対天敵と隔絶した暴力の前にあっては、普段は魔力と半魔物化の腕力に物を言わせて暴れ回っている転生会社の無頼漢どもなど、肉の盾にすらなりはしない。


会社そのものが接触した刹那に蒸発させられ、文字通り全滅の憂き目を見ることになるだろう!


そこまで思考を巡らせた瞬間、背骨を突き抜けるような刺すような悪寒がこころの脳天を直撃した。もしもこのブラック企業すらも己を庇いきれないのだとしたら、白石こころはこの世界のどこへ逃げ惑えばいいというのか?


彼女は自らのボサボサの髪を掻き毟り、冷え切った車室の隅で小さく丸まりながら、この理不尽な運命が己を生きたまま貪り食おうとしている現実に、ただただ震え慄くしかなかった。

今朝は韓国のインスタントラーメンをすすっていたんですが、あのモチモチとして噛みごたえのある麺、個人的にめちゃくちゃ大好きなんですよね( *´艸`)


それを食べていたら、ふと昔、大阪の黒門市場で食べたラーメンのことを思い出しました。そこは麺の硬さを「硬め」でオーダーできるお店だったんです。

……あ、でも噂によると、日本の皆さんはラーメンを噛まずに「喉越し」で一気に飲み込むように食べるんですよね?


台湾人の私にはそんな高度な神業は到底真似できなくて、情けないことに一本一本しっかり噛み締めて食べておりました……なんかスミマセン(笑)


それにしても、記憶の中のあの「背脂チャッチャ系で、青ネギが山盛りで、麺はちょっと硬め」なラーメン、本当に美味しかったなぁ……。


大人になってからふと気づいたんですけど、自分の味の好みって、いつの間にか驚くほど固定されてきた気がします。


この後記を読んでくださっている皆さんはどうですか?

「子どもの頃と違って、大人になったら逆にこの食べ物ばっかり延々とリピートしちゃうんだよね!」みたいな、ずっと飽きずに愛し続けている味ってあったりしますか?

もしよかったら、ぜひ教えてくださいね( ´꒳`)ノ


BY 酣睡(hansui) 台湾にて・お食事中 10:42 AM

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