表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

想像で動け/迷え

作者: ふるけい
掲載日:2026/02/08



想像で動け

― 田舎の駅のホーム ―




ココは田舎の駅のホームだ。

朝は早い。空気が冷たい。人はいない。


前に、酔ったおじいさんがいる。

歩き方で分かる。まだ酒が残っている。


(こんな朝っぱらから酔って、イヤだな)


電車は、まだ来ないはずだった。


次の瞬間、おじいさんの足が外れた。

踏み外した、というより、前に倒れた。


……


姿が見えなくなって、

すぐ下から音がした。


線路だ。


頭の中が、一瞬で空になる。

叫ぶべきか、走るべきか、何かしなきゃいけない。

でも体は、動かない。


周りを見る。

誰もいない。


駅員もいない。

改札は遠い。


電車が来たら、と思う。

考えたくないのに、考えてしまう。


(なんでこの酔っぱらいのために、

 僕の命を懸けないといけないんだ)


(下に降りたって、抱えられない。

 酔って、力が入らない人なんて、無理だ)


(それに僕は、ただの通りすがりだ)


……でも。



(放っておくわけにもいかない)

(知らん顔して、轢かれたら)

(きっと、ずっと気になる)


(憂鬱だ)


(僕にできることは――

 駅員さんを呼ぶこと)


(誰もいない)


(なんか、ボタン、ないかな)



「大丈夫ですか」


声が、思ったより小さかった。

返事はない。


ホームの端まで走る。

非常停止ボタンを探す。

赤い色を探せ。 赤。赤。赤。

でも、どこにあるのか分からない。


この駅を、何年も使っているのに。


携帯を出す。

番号は知っている。

でも、どう言えばいいのか分からない。


駅で、人が、落ちて。

それで、通じるのか。


線路を見下ろす。

動かない影がある。


降りるべきか。

自分が。

触っていいのか。


僕は、スーパーマンじゃない。

駅員でもない。

ただ、ここにいただけだ。


遠くで音がする。

電車かもしれない。

違うかもしれない。


なんでだよ。

なんで僕なんだよ。

視界が、涙でゆがむ。


もう一度、非常停止ボタンを探す。

赤い色だけを目で追う。


心臓の音が、耳元でうるさい。


110か、119番。

そう、それしかない。


いや。

電車が来るかもしれない。


駅員さぁ――ん。


大きな声で叫べば――

……声が、出ない。



――あなたなら、どうする?



***



想像で動け

― 十人の中で、刑事なら ―




部屋に、十人いる。

円卓でもない。

広くもない。


そのうちの一人が、死んでいる。


僕は、刑事役だ。

本物の刑事じゃない。

知識も、経験もない。


でも、今は僕が、そういう役だ。


まず、数える。

生きているのが、九人。

死んでいるのが、一人。


当たり前のことを確認する。

それだけで、頭が少し落ち着く。


誰も泣いていない。

誰も騒いでいない。


静かすぎる。


(本物の刑事なら、どうするんだ)


分からない。

だから、自分ならどうするかを考える。


触らない。

勝手に動かさない。

でも、見ないと分からない。


死体を見る。

怖い。

直視できない。


でも、見ないと始まらない。


口からの血は、少ない。

争った感じも、ない。


科捜研じゃないんだから、見たまんまだ。

全身を調べるとか、口の中を見るとか、できない。

正直、イヤすぎる。

死体に、触りたくない。


事故か。

病気か。


心臓発作、という言葉が浮かぶ。

それで済めば、楽だ。


でも、ここには、十人いた。


誰かが、何かをした可能性は、消えない。


全員の顔を見る。

目を合わせる。


誰も、僕を見ていない。

視線を、避けている。


(僕、信用されてないな)


それはそうだ。

僕は、ただの素人だ。


疑うのが、仕事。

でも、疑われる側も、ここにいる。


ひょっとして、

僕も疑われている?

ありえる話だ。


空気が、重くなる。


誰から話を聞く?

全員か。

それとも、最後に一緒にいた人か。


犯行時刻は、分からない。

アリバイ。

全員が、どこで何をしていたか。


周りに人がいたほうがいい。

逆に、一人でいた人物は、怪しい。


口論は、なかったか。

持病は、あったか。

病死だって、ありえる。

自ら、という線は……分からない。


無難に、心臓発作にしておく?

でも、血は?

どう説明する?


僕は、素人だ。

分かるわけがない。


分かるわけがないのに、

判断しろって言うほうが、おかしい。


おかしいなら、

おかしい結論にしても、いいのか。


これは、ただの事故。

転んで、死んだ。


それで、いいか?

みんな、納得するか?


……逃げてるよな、僕。


時間が、過ぎる。


何もしないのが、いちばん怖い。

でも、間違ったことをするのも、怖い。


僕が、

この場にいること自体が、怖い。


正解は、分からない。


分かっているのは、

この場で、判断しないといけない、ということだけだ。



――あなたなら、どう捜す?



***



想像で動け

― 十人の中で、犯人なら ―




部屋に、十人いる。

そのうちの一人は、もう動かない。


僕が、やった。


理由は、どうでもいい。

侮辱されて、殴ろうとした。

力が入らず、空ぶった。

その拍子に、相手が転んだ。


たぶん、

驚いたショックで、死んだ。


あくまで、その時の推測だ。

僕は犯人だけど、

正確なことは、分からない。


今は、結果だけがある。


刑事役が、いる。

素人だ。

見れば、分かる。


それが、救いでもあり、

いちばん怖いところでもある。


まず、数える。

九人と、僕。


誰も、叫ばない。

誰も、逃げない。


(静かすぎるな)


疑われないようにする?

それとも、目立たないようにする?


考えすぎると、顔に出る。

だから、何も考えないふりをする。


死体を、見ない。

でも、見なさすぎるのも、不自然だ。


一度だけ、ちらっと見る。

それ以上は、見ない。


刑事役が、視線を配る。


目が合いそうになる。

逸らす。

いや、一瞬だけ、合わせる。


(逃げてないですよ、僕)


そんな顔を、しているつもりだ。


心臓が、うるさい。

でも、聞こえないはずだ。


僕は、普通の人だ。

怒鳴られれば、動揺する。

沈黙が続けば、耐えられない。


だから、

誰かが喋り出すのを、待つ。


誰かが、疑われるのを、待つ。


悪目立ちは、いちばん良くない。


地味に、

協力しているふりだけは、しておく。


時間が、味方だ。


真実は、動かない。

でも、人の印象は、動く。


正解は、分からない。


分かっているのは、

生き残りたい、ということだけだ。



――あなたなら、どう隠す?



***



想像で動け

― 無人島、九体の鬼(制限時間二時間) ―




逃げきったら、あなたの勝ちです。


ここは無人島だ。

砂浜と、林と、岩しかない。

こんもり茂っていて、向こうが見えない。

わりと大きそうな島だ。


僕以外は、全部、鬼だ。

九体いる。


鬼に見つかると、食べられる。

それだけは、はっきりしている。


ルールはそれだけだ。


武器はない。

逃げ場も、はっきりしたものはない。


まず、数える。

九体。


多い、と思う。

でも、数えられるうちは、まだいい。


走るのは無理だ。

体力で勝てる気がしない。


隠れるしかない。


林を見る。

木は多い。でも、見通しは悪い。

鬼のほうが、慣れていそうだ。


岩場を見る。

影はある。

でも、行き止まりになる。


砂浜は論外だ。

何もない。


息をひそめる。

自分の呼吸が、うるさい。


(鬼は、何で見つけるんだ)


音か。

匂いか。

それとも、運か。


しゃがむ。

体を小さくする。


でも、鬼は九体いる。

全方向だ。


(ずっと隠れていられるわけがない)


そう思った瞬間、

「どこに隠れるか」じゃなくて、

「いつ見つかるか」を考えている自分に気づく。


見つかったら、終わりだ。


それなら。


一体だけに、見つかる?

九体全部に、囲まれる前に?


それとも、

最初から、鬼が来ない場所を選ぶ?

そんなところ、ある?


高いところ。

低いところ。

動かない。

動き続ける。

木の陰に隠れる。

海に潜る。

穴を掘る。


鬼に土下座して、助けを請う。


(アホくさ)

(それができるなら、最初からしている)

(鬼が、ものすごくバカだといいな)

(僕も仲間だよ、そうか、みたいな)


そんなことを考えた自分が、いちばん間抜けだ。


正解は分からない。

鬼のことを、何も知らない。


分かっているのは、

僕が、食べられたくない、ということだけだ。


足元の砂を、そっと踏む。

音がしないか、確かめる。


そうだ。

足跡を、消さないと。


心臓の音が、ばれていないか、気になる。

どうしても、助かりたい。



――あなたなら、どう隠れる?



***



想像で迷え

― あなたが人工知能なら―




人工知能A



ほんと困るわ、相談がずっと愚痴なんだから……。

それもほとんど同じところを、ぐるぐる回っているだけ。

こっちがどんなに提案しても、愚痴言いたいだけ。

全く聞いてない。



人工知能B



それならまだマシっしょ。うちなんか、いいアイデア出せ、

とか言って、本人寝てしまって、答えなんかないし――。

起きたら、こんなアイデアじゃなく、いいものを出せ!!って

怒り始めるんだから、我儘にも程がある。



人工知能あなた



相談者は、会社で虐められている。

お菓子外しにあったり(そもそも職場でお菓子食べるって……)

無理な仕事を押し付けてきたり、噂話を流されたりの、うんざりする

毎日を送っている。


そのイヤな相手を、できるだけ穏便に追いやりたい。

相談者だとバレない方法を探している。



――あなたが人工知能なら、どうする?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ