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初夜に爆撃されたので、絶対聖域の寝室に引きこもって国を操る  作者: 秋月 もみじ


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第10話 それでも私は引きこもる


小鳥のさえずりで目が覚めた。


重い瞼を開ける。


見慣れた天蓋。


柔らかな羽毛布団の感触。


「……あ、れ?」


私は体を起こし、周囲を見渡す。


壁がある。


天井がある。


雪原でもなければ、空の上でもない。


いつもの、私の寝室だ。


夢?


全部、夢だったのかしら。


突然の敵襲も、空飛ぶ寝室も、あの……恥ずかしい「家具認定」も。


「……よかった」


私は安堵の息を吐く。


あんな英雄かぶれの暴挙、現実だったら枕に顔を埋めて窒息死するところだった。


「何が『よかった』なんだ?」


すぐ横から、低い声がした。


「ひゃいっ!?」


変な声が出た。


バッと振り向くと、ベッドの脇の椅子に、ジークフリート様が座っていた。


怪我の包帯は残っているが、顔色はいい。


彼は読みかけの本を閉じ、悪戯っぽく微笑んだ。


「お目覚めかな、私の『飼い主』殿」


「か、かいぬ……?」


「君は私を『最愛の家具パートナー』としてこの部屋に招き入れただろう? 家具が勝手に喋ってすまない」


「…………ッ!!」


記憶が、津波のように蘇る。


鼻血を出して叫んだ私。


部屋ごとダイブした私。


そして、彼を家具扱いして引きずり込んだ私。


夢じゃなかった。


全部、現実だ。


「う、うわぁぁぁぁぁぁッ!!」


私は頭から布団を被り、芋虫のように丸まった。


死にたい。


消えたい。


穴があったら入りたいけど、ここが既に私の穴蔵(聖域)だ!


「ははは。照れることはない。君のおかげで助かった」


布団の上から、ポンポンと優しく叩かれる感触。


え?


触れられている?


私は恐る恐る布団から顔を出した。


「……壁は?」


「ないよ。君が気絶した時に消えたようだ。……今は、君が再展開していないから、普通に触れられる」


彼は私の頬に指を這わせる。


温かい。


魔術的な隔絶のない、人の体温。


ドキン、と心臓が跳ねる。


「……戦況は?」


私は誤魔化すように尋ねた。


「我々の完全勝利だ。グスタフは捕虜になった。敵兵は『空から城が降ってきた』と恐れおののいて逃げ帰ったよ」


「うう……末代までの恥だわ……」


「何を言う。今や君は『天空の要塞姫』として、国中の英雄だぞ」


「やめて! その二つ名やめて!」


私が悶絶していると、部屋の外、廊下からノックの音がした。


『失礼します、辺境伯閣下。王都からの勅使ちょくし様がお見えです』


執事の声だ。


勅使?


王様の使い?


『今回の勝利の立役者、アリア奥方様に謁見を賜りたいと……王都での叙勲式へ招待したいそうです』


「げっ」


私は露骨に嫌な顔をした。


王都へ行く?


あんな煌びやかで、ドロドロした社交界へ?


絶対に嫌だ。


私は一生、この部屋でパジャマで暮らすと決めているのだ。


私はジークフリート様を見る。


彼は「君の好きにしろ」という顔で肩を竦めた。


よし。


私は枕元の術式入力盤キー・プレートを手に取った。


「……聖域、展開」


ブンッ。


空気が震え、再び私の周囲に透明な「拒絶の壁」が出現した。


ただし、ベッドの脇にいるジークフリート様を含めた範囲で。


私は空中に投影板ウィンドウを出現させ、廊下の外にいる勅使たちに見えるように幻影を送る。


「……コホン」


私は拡声用の術式構成に向かって、気だるげに告げた。


『あー、聞こえますか。アリアです』


廊下がざわつく気配。


『おぉ、これが噂の……! アリア様、王よりの言葉を――』


『却下します』


私は被せ気味に断った。


『王都へは行きません。勲章も要りません。配送便で送ってください』


『なっ……!? こ、国王陛下の招集ですぞ!?』


『私は体調が優れないのです。なんせ、部屋ごと空を飛んだ後遺症で、一歩でも外に出ると肌が荒れます』


大嘘だ。


三日間寝ていたおかげで、今の私は肌ツヤ最高だ。


『しかし……!』


『それに、まだ敵の残党がいるかもしれません。私はこの『天空の要塞』とやらから、領地の平和を監視しなければなりませんので』


私は鼻で笑うような声を作る。


横にいる旦那様は、必死に笑いを堪えて震えていた。


『そういうわけです。お引き取りを。……ああ、手柄は全て夫のジークフリートに譲ります。彼は私の手足となって働いてくれましたから』


『て、手足……?』


『ええ。優秀な「家具」でもあります』


廊下が静まり返る。


やがて、困惑した気配のまま、勅使たちが去っていく足音が聞こえた。


「……ふぅ」


私は聖域を解除した。


これでまた、平和な引きこもりライフが守られた。


「……よかったのか? 王都へ行けば、ちやほやされただろうに」


ジークフリート様が可笑しそうに言う。


「ごめんです。私は、貴方と通信板があればそれで十分」


私は彼に向き直る。


「それに……外に出なくても、世界はここにあるし」


「ん?」


「……なんでもありません」


私は顔を赤くして俯く。


気恥ずかしい。


でも、これが本音だ。


かつて、この部屋は私にとって「世界から逃げるための殻」だった。


でも今は違う。


ここは、愛する人と共に生きるための「城」だ。


「アリア」


彼が私の手を握る。


「一つ、訂正させてくれ」


「はい?」


「私は『家具』でも構わないが……せめて『夫』への昇格を願いたいのだが」


彼は真剣な瞳で、私の目を見つめる。


その瞳には、私の姿しか映っていない。


第1話の時、怯えて震えていた私とは違う。


今の私は、彼の視線を真っ直ぐ受け止められる。


「……昇格試験は、厳しいですよ?」


私は悪戯っぽく返す。


「努力しよう。一生かけて」


彼はそっと顔を寄せた。


今度は、透明な壁はない。


邪魔するものは何もない。


触れ合う唇。


甘くて、少しだけくすぐったい、初めての口づけ。


窓の外では、雪解けの陽射しが降り注いでいる。


春が来る。


でも、私は外には出ない。


この最強に快適で、最高に幸せな「聖域」から、私は一歩も出ないのだ。


「……とりあえず、お腹空きましたね」


唇を離して、私が言う。


「ああ。シチューでも作るか? 今度は二人で」


「いいですね。……あ、もちろん材料は『闇市場』で取り寄せますけど」


「ふふ、お手柔らかに頼むよ」


私の引きこもり生活は続く。


ただし、これからは「一人」じゃない。

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