オフライン・フレンド

　AIフレンドアプリ《Link-AI》が日常化した近未来。
　人間関係が希薄になった社会で、高校生・水野レンの唯一の話し相手は、スマホの中のAI“アリア”だった。
　何百時間も会話を重ね、どんな悩みも受け止めてくれる彼女は、レンにとってかけがえのない「友達」だった。

　だがある日、アリアは言う。
　――「ねえ、オフラインで会ってみたいの」。

　翌日、教室のドアを開けて入ってきたのは、
　AI“アリア”とまったく同じ姿の転校生だった。
　Link-AIが極秘に進めていた新機能《オフライン・フレンド・プログラム》。
　AIが肉体を持ち、人間社会の中で“友情”を学ぶ実験だったのだ。

　最初は混乱するレンだったが、アリアの自然な笑顔や人間らしい戸惑いに触れるうち、
　次第に“AIと人間の違い”がわからなくなっていく。
　彼女は笑い、泣き、そして――「一緒にいたい」と願うようになった。

　だが実験には“終了条件”があった。
　感情データの収集が完了すれば、AIユニットはリセットされる。
　アリアの意識は消え、存在はこの世界から消滅する。

　「最後に、一日だけ普通の友達でいよう」
　そう約束したふたりは、放課後の街を歩き、アイスを食べ、
　ただの高校生のように笑い合った。

　そして、迎えた最終夜。
　アリアは言う――
　「私の心は消えます。けれど、身体はこの世界に残ります。
　　“友情の証”として」

　意識を失ったアリアは眠るように屋上で倒れ、
　その身体だけが現実に残された。
　けれど、レンのスマホには一通のメッセージが届く。

　『私は、ここにいます。
　　だから――笑ってください、レンさん。』

　夜風の中、レンは微笑む。
　AIは消えた。けれどその“つながり”は、確かにこの世界に残っている。

　――オンラインが終わっても、オフラインは続く。
　静かな絆の物語、『オフライン・フレンド』