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かつて花だった乙女たちは願いのために華麗に舞う  作者: 紫雲 橙
【火】

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6/12

業火

「気が利かなくて申し訳なかったですわ......お嬢さん、靴も履いていないのに歩きづらいでしょう。戻りたくないから足取りが重いなんて、とんだ勘違いですわ。ほら、乗りなさい。あなたは一応(わたくし)の主なのですから、傷ついてほしくはないですわよ」

 

 【火】は少女を背負おうとしゃがむ。

 靴を履いていない少女の足はすでに汚れてしまっているが、これ以上のものを防ごうと自身の背に乗ってもらうことを考えた。

 しかし、少女は首を横に振る。


「あ、あたし、人にめいわくかけたくないから......それに、やっぱりもどったらめいわくかけちゃうよ......」

「あら、良かったですわね。(わたくし)は人ではないわ。それと、あなたが嫌がる場所に戻っていただきたいのは(わたくし)の怒りをぶつけるためなのだから気にしないでくださる?ほら、分かったら早くお乗りなさい」

「う、うん......」


 少女は戸惑いながらも【火】の背に乗る。

 

「あら、軽いですわね......人間がこんなに軽くていいはずありませんわ。まあ、それは後でどうにかするとして......道案内頼みましたわよ」

「ほんとに行くの?」

「ええ。御安心なさい。あなたには一切手出しさせませんわ。(わたくし)、今なら何でもできそうですの」


 契約したことにより【火】、もといクロユリは新たな力を得ていた。

 彼女の腰に帯が巻かれそれに扇が挟まっている。

 それが彼女武器である。彼女はその使い方についてもすでに察している。


「な、ならこっち......」


 少女は指で方向を伝える。

 

「分かりました、わ!」


 【火】は返事をするよりも先に走り出していた。

 少女の返事を聞くよりも先に準備を済ませていた。心の準備も、力の準備も。


「と、とまって!」


 少女は一分も満たない間にそう言った。

 もうついていたのだ。

 戦花乙女の脚力は人間とは違う。少女を落とさないようにと慎重にしていたとしても早く移動することは可能なのであった。


「あら、もう着きましたのね。案外近かったですわ」

「たぶんちかいんじゃなくて早いんだと思う......」

「そうかもしれませんわね。それにしてもなんて辺鄙なところにあるのかしら。こんなところ人は寄り付かないわ」


 辺りを見渡しても他に建物はない。

 周りを覆っているのは草木。木の上には獲物を狙うかのような目をしているカラスの群れ。

 

「たぶん、気づかれちゃいけないことしてるから......」

「そう......周りを気にしなくていいのは好都合ですわ。では、いきますわよ。華器(かき)解放」


 【火】は扇をとる。扇は【火】が手に取った瞬間に開いた。

 華器とは彼女たち戦花乙女の武器の総称であり、その武器の最大限の力を引き出すための言葉が華器解放というものである。


「ごきげんよう。初めまして。さようなら」


 【火】は建物の扉を開けると同時に炎を放ちそう言った。

 建物の中には白衣を着た人間と泣き叫ぶ少年と少女がいる。


「だ、だれだお前は⁈」

「あらまあお前とはひどいですわあ。あなた方がまだ幼き子に植え付けようとしていた力を持つ人ならざるもの、ですわよ」


 クスクスと【火】は嘲笑する。

 

「なに⁈ではお前が戦花乙女か⁈」

「あら、戦花乙女のことをご存じだったのね。どこから情報が回ったのかは知らないけれど、その情報が回ることはもうないでしょうね」

「どういうことだ⁈」

「まあまあ、察しが悪いのねえ。ご自身が置かれている状況について今一度考えてみるのはいかが?もっとも、幼い子たちを平気で実験体にする外道にそんな脳が残っているかしらね」

「親もいない子どもをどうしようと俺たちの自由だろ」


 白衣を着た一人の男が言うと、頷き賛同する者たちがいた。

  

「その答えは間違いですわよ?そしてたった今あなた方への慈悲はいらないと判断いたしました。ではさようなら」


 【火】の行動はもう終わっていた。

 彼女がさようならと言ったらもう終わっていた。

 彼女は炎を扇に乗せて広範囲を燃やす。その炎は怒り。


「話し合いで解決なんて生ぬるかったですわね。安心なさい。子供たちは全部面倒を見ますわ。(わたくし)は純粋な目をしている方が一番好きなんですの」

「終わった、の?」

「ええ、終わりましたわ。あなたと共に過ごしてきたであろう子たちも保護いたしました」


 【火】は全員抱えて建物内から出ていた。

 幸い、実験が始まる前だったのだ。

 子供たちは解放された嬉しさからか泣いている子もいる。

 

「もし実験途中であろうと、どんな手を使ってでも救っていましたわ」

「ヒーローみたい」

「ヒーロー?そんなのではありませんわ。(わたくし)はただのわがままを通しただけですもの」

「でも助けてくれたよ。あたしも、みんなも、わがままで、救われた。だから、ありがとう」


 少女は笑う。

 心から笑っている。


「ふふっ、その感謝は受け取っておきますわ。可愛い笑顔が見られて嬉しいですもの。そうだ、お名前は?聞いておりませんでしたわ」

「な、まえ?わからない。17番って呼ばれてた……」

「名前さえも奪われたというのね……それなら(わたくし)はアイナと名付けますわ。他の子たちもそうならちゃんと考えなくてはね」

「アイナ……それがあたし?なまえ、嬉しい……」


 アイナと名付けられた少女はまた笑う。

 それが少女が最初にもらった贈り物。

 友人から初めてもらった贈り物。少女はこの日のことを一生忘れないと胸に誓った。


「さて、これから住む場所など全部探していきますわよ。大変でも全てやってみせるのが戦花乙女たる(わたくし)の矜持ですわ!」


 【火】も救った子どもたちに不自由させないことと、全力で愛を教えることを誓うのだった。

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