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繰り返しの人生 終わりと再生

すいません。少し間が空いてしまいました。続きをどうぞお楽しみください^^



 

 座った状態から、すぐ後ろにいる兄貴に向かって返事をした。

 兄はこちらの様子を伺っているように見える、俺の方を顔から腰までを眺めるように観察していた。

 俺の身を案じているのか。

 まるで、ニートになる前の兄だ。

 本当に何があったのか。

 少し興味が湧いてきた、兄のこの変わりよう。疑っていたが悪気なんて物は微塵も感じない。まさか俺はだまされているのか、もしかしてこれは演技なのか。

 このまま、良いように話が持ってかれて、俺が損をするのか。


「ぁ……」


「どうした?本当に大丈夫か?無理して話すほどじゃないからいいぜ?」


 自分には失望する、兄をまるで信用してない。戻ってくれた兄に、一切嬉しい気持ちがない。

 こんな時にも損得思考で、考えてしまう。 騙されるとかそんな問題じゃない。


「はぁ…悪いなちょっと、疲れが溜まってるみたいだな。話ぐらいは聞けるから、大丈夫だよ。」


「おいおい、いいぜ、疲れてんなら、明日聞けよ。俺はそっちの方が助かるけどなー。結構イかれた話なんだよな」


 何が「イかれた話」なのか、とりあえず明日は仕事が長引くなんて嘘でもつこうかな。

 今は休みたい気分にはなれない。


「いや、明日じゃダメだ。班長を怒らせちゃったからな、少しでも長くいなくちゃめんどくさい、だから今日の方が良い。あと結構重要な話なんだろ?早い方が良い。」


「ま、重要っちゃ重要だな。」


「なら話そう。向こうで待ってろ」


 自分の中にまだ渦巻いてるものを今は頭の中に押しとどめ、兄に奥の畳部屋へと、誘導した。

 正直めんどくさいが、茶ぐらいはだそうか。

 そうした方が兄も話しやすいだろうし、会話も弾むはずだ。そう思い考え込んで脱げてなかった靴を今度は手早く脱いだ。重たい腰を上げ、立ち上がり、後ろを向いたのだが。


「どうした? あにき?」


何故か兄が立ちっぱなしだった。


「奥で待ってろよ。 突っ立ってないで」


「なぁ、お前さ、最近夢とか見たことないか? ってか、夢見てないか?」


 なんの話だろうか、夢なんて、見る時もあればない時もあるが、一体何に繋がるのか。

 やはりニートの妄想の後遺症だろうか、

 俺にもそう言う事があったな。

 空想の世界と現実が混ざり合ってしまう。

 俺の場合は、寝込むほど異常な妄想だったが。兄もそれに似たものなのか。

 そうだとしても、この神妙な顔からして、かなり重症だな。

 でも、話ぐらいは聞いてやるか。


「なに?ゆめ?」


「そう。ないか…?」


「夢か…まぁ、見る時もあるけど…夢がどうした?」


「夢みたのか!!どんな夢だった?何か変じゃなかったかっ!異常に現実味を帯びてる感じの、なんて言うんだ……」


 夢を見たと言ったら、何故か慌てた様子だ。掘り下げてみるか。


「はいはい、落ち着けよ。夢がどうしたんだ?」


「いや、大した事じゃないんだが…」と前置きを入れながら。呼吸を整えていた。

 頑張って落ち着こうとしているが、それも

追いついていないのが、横で見ても分かる。


「おいおい…」


「ああ、すまんな…」


「まぁ、ゆっくり話せよ。とりあえず、向こうに座れ」


「あ…ああ」


 落ち着くのに精一杯なのが明白だった。

壁にもたれかかり、すぐ隣の壁を直視している腑抜け同然の顔を曝け出していた。それでも、無理矢理話そうとして、余計に話せなくなっているのだが、それを隠そうと必死なのは何故なのか。

 元々そんな性格だっただろうか、さきから妙だな。

いや、ダメだ。そんなふうに考えるな。


 まだ、決まった訳じゃない。


「さて、茶沸かすか。」


 これじゃ、まともになるのも時間がかかるだろう。念のため出しておくか。

 水でも良いんだが、今日は気温が低い。肌寒いし、かえって話がまとまらないかもしれない。台所に移動して、お湯を沸かす段階に入った時、たたみべやからうるさい声が響いた。


「おーい!どした!!こっち来いよ!!」


「落ち着けって、茶沸かしてんだよ。そんなんじゃ喋れねぇだろ」


「茶はいいよ。落ち着いたから、早く来てくれ。確認したい事がある。」


 なんだか様子が段違いに変わったのがわかる。さっきまではかなりおっとりしていた態度をとっていたはずだ。なのに、急にせかす言動が多くなってきていた。


 やはり、妄想なのか。妄想なら、少々面倒だ。訂正しなくてはいけなくなる。

 妄想なんて、どれほど訂正が難しいし時間がかかるか。それは俺が一番よくわかっている。あれは本当に周りが見えなくなる。現実が妄想しか見えなくなる。それを訂正か。めんどくさい。


 冗談じゃない「はぁ…」


「はぁ…ちょっと待ってろ」


「……悪い。」


お茶は放置し、少し苛立った感情のまま、たたみ部屋へと移動した。


「はーあ、まぁ、良いよ、で?なに?」


「怒ってるか…?」


「……怒ってねぇよ。」


 怒ってる?


 そんな兄の一言で、脳内の血管が切れるような、頭に血が上る感覚が、スローに湧き上がる。その言葉が自分を言い当ててる事を、自覚しても、脳内に言い訳が脳に巡る、必死に言葉繋ぎを深めてるのを見ている自分がまた怒りの自覚を響かせる。

 兄のせいではないのは自分がよく分かってるはずなのに、態度に出てしまう。

 こんな小さな事に。


「……話せよ、早く。」


「……良いのか?」


「呼んだのお前だろ!」


「いや、そうだけどさ…。いや、悪かった」


兄が言葉にする、謝罪の言葉が更に俺のしょうもない怒りを拡大させる。

そもそも兄が悪い訳じゃないのは分かっているのだ。

そんな状態で、謝られると、逆に俺が悪かったように聞こえてくるのだ。

実際俺のせいなのだが、それを認めたくないのか、その自覚をすると怒りが増す。


「やめてくれ……」


「……すまん、今日は……」


「ちげぇよ。早く話したい事話せよ……」


 めんどくさい。正直切り上げたい。だが、兄の変貌理由には少し興味がある、聞いてみたい。聞いてたら、自然に怒りも鎮まるだろうか。

 そうなら、早く話してほしいのだが、肝心な本人がグズグズしている。それにもまた、腹が立ってくる。


 聞かないわけにはいかない事にムカついてくる。


「わかった…だけど、今話す事ってさ、めちゃくちゃな話なんだよな、しかも、今の俺からこの話を聞くとなると、マジでイカれたやつに見えると思う… それでも、できれば、真剣に聞いてほしい。俺も自分でイカれてるのか、わからないんだ。でも……」


「….…」



 兄がこちらの様子を伺うように、言葉止めていた。それを俺は無言で答え、次を促した。


「そうか…ありがとう… なんで俺がお前にさっきの質問をしたのかってのも、繋がってくるんだが。もう一度確認する、お前変な夢を見なかったか?」


「特にはな。夢といってもリアルな夢が多い同僚が出てくる夢だな。変っちゃ変か?」


「そうか…ここまで、聞いても出てこないなら、見てないんだな。」


「お前の言う変な夢ってのはなんなんだ?」



妙に安心した顔をする兄、この会話のどこに安心する要素があるのか。

まったくもって、先が読めない会話だ。

そのまま兄は以前と同じ穏やかな口調で喋り始めた。


「そうだな。夢かと言われると夢なのかは分からない。だが、変な夢としか言えない。やけに何というか、意識がかなりはっきりしてて感覚もかなり妙な感じで、まるで、そこに最初からいた。ってそんな感じだ…。」


「ん…?つまり、やけにリアルなんだな?」


「いや、リアルすぎるんだ。というか、リアルって言葉じゃ再現なんて無理だ。あれは現実だ!そんな感覚。意識の覚醒の質が違う、今の意識よりはっきりしてた自覚がある。まぁ、そんな感覚の夢なのかな?まぁ、そんな状態だった。」



 夢の内容を話している時の兄の表情は、どこか複雑そうだった。

 思い出だそうにも出せない記憶を引っ張り出そうとしている。そんな雰囲気だ。

 だが、そんなことは誰にでもあることだ。

 俺も思い出せない時このような顔をしてるのだろうか、やけに真剣な顔だ。

 そんな面を横目に、夢の内容というものに、違和感を抱いた。


 今の意識よりはっきりしてる。


 なんだろうか、どんな感覚なのか。

 夢でそのような感覚再現可能だろうか。

 それともやはり、そうなのだろうか。

 というより、夢の話なのだ。

 そう。夢の話となれば察してやるべきだろう。

 最初から期待なんて薄かったはずだ。


 訂正決定だろうか



「はぁ…で? 状態だけの夢か?」


「いや、それだけじゃねぇな。ただ、そんな感じってだけだ。覚えてはいるんだが、なんというか、それでも、引き出しにくいんだ…………」


「……….」


「ぁ……」


 夢の内容とやらを説明しようと本題に入りそうな兄だったが。その兄が突然目を見開き、驚いたような顔をして俯いた。何があったのか、冷汗も今の数秒にしてはかなりの量だ。やはり、重度の現実逃避ってやつか。


「そうか、これが夢かどうか___どう____」


 突然兄が目を見開いたまま、聞こえるような聞こえないような音量で、何かを呟き初めていた。確定だろうか。


「おい?なんだって?」


「いや。」


「どうしたんだよ?」と問いかけるのと同時兄が突然立ち出した。

 兄は表情も変わり、雰囲気も変わっていた。本当に先から変化の多い兄だ。

 そうやって、まだ、呆れ果てている俺に兄の瞳が真っ直ぐ俺を捉えていた。目と目が、合ったその瞬間今まで苦しめていたはずの呆れと怒りが、静まり返った。

 一瞬の視線の交錯に深い何かを感じた、それほどまで力強い眼差しだった、不思議な不思議な感覚だ。

 人の目にはこれほどまでに感情が篭るのか、本当に本当に、どうしたんだ。


一体なんなんだ。


「兄貴……?」


「なぁ。お前。本当に覚えてないのか?」


「……」


「……」


 呆気にとられてる中、少し問いただす勢いで、そんな質問をしてきた。

 一瞬の出来事で、感情の整理が追いついていなかった俺は、その質問にすぐには答えられなかった。思考も、止まっていた。

 なぜか固まった状態なのを、無理矢理に解き、質問の意図を頭に巡らせたが。


「覚えてるもなにも、さきからなんだよ?碌な話もしてないだろ?今。」


「やっぱり、覚えてないみたいだな。まぁ、それはいいとして、話は確かにめちゃくちゃな状態だな。俺自身も、さっきまでは曖昧な状態でな、何を話せば良いか正直わからなかったんだが……夢の内容は大したことじゃないし、話すようなことでもなかったんだ。 お前が帰ってきた時は混乱してたけどな。」


 何を訳の分からない事を言っているのか、夢の内容が大したことがない。

 だったら、話したい事というのはなんだったのか。


「は? 何言ってんだ、お前。」


「あー、そう怒るな。怒りたい気持ちも、確かに分かるけどな。でも、一貫してお前に言いたいことは同じだ。さっきは要領を得なかったけど。話したいことは同じなんだよ。」


「だったら早く話せよ!」


「ああ。なら単刀直入に聞く、お前今どうだ?今の生活、今の心境、今のお前の現状。全部ひっくるめて満足か?というかお前、なんで、全てにおいて正解を選ぼうとする?お前は一体、なんで、そんなに苦しもうとする?」


 一瞬、兄の言っている事が分からなかった。なんて言ったんだ。


「お前……さ」


 今俺はコイツに何を聞かされているのだろうか。ニートのコイツに、何を聞かされているのか。「なんでそんなに苦しもうとする」だと、俺が好きで苦しんでるように見えていたのか、コイツは俺を毎日そんな目で見てやがったのか。

 俺はコイツになんの同情をしていたのか。

 ニートの気持ちはよく分かるし、分かってるからこそ、罵ったり捨てたりすることはなかった。のにもかかわらず、全て知ったような気でいやがったのか。

 これが話したい事だと。そんな人間を。いや、コイツは兄と呼べるのか。

 怒りを通り越し心から呆れがはしる。

 子を捨てる親の気持ちが、今になってよくわかる。ゴミだ。コイツは。

 さっさと、捨てた方が良かったかもしれない。


「今のお前からしたら、俺に言われんのは心外だっただろうな。だけど……うーん、ま、すぐにわかる事だし良いか。お前が言ったんだぜ?きっと、今は俺の事を殺したいくらいの気持ちになったか、呆れてるか、色々あるが、絶対に良い気分じゃねぇだろうよ。」


呆れか怒りか、それとも失望なのか今の感情の行き所がなく、あまりの思いで両手で目を覆う。そんな姿勢で彼と向き合っていた、そんな弟に彼は、だがな。と前置きをし弟の目の前でしゃがみ、切なそうに呟いた。


「お前は、今知る時が来たんだ。何事も終わる時は苦痛を伴うもんなんだ。向き合えとはいわない。だが、逃げながらでも良い。一瞬でも良い、今の耳障りな言葉を思い出せ。それだけで良い。って、お前がいってたんだ。」


「なんてな。そんな事言っても通じるわけがない。でも、十分かな……。」


 意味が分からない。

 何を言ってるのだろうか。

 コイツはニートで俺が一人で働いて食費も俺が稼いでいた。

 そんな奴が今俺に説教。

 あげくに、開き直った態度。


 コイツだけは許せない。

 何が十分なのか。許せる訳がない。

 とりあえず目の前から消えてほしい気分だ。


「うるせぇよ!!お前に…何が…分かるんだ…よ」


 胸ぐらを掴み、壁に押し倒す体勢で今にも叫びたかった声を目前で浴びせた。その瞬間。感情が爆発した。


 怒りの感情。いや、そんなものじゃない憎い。今コイツを、殺したって構わない。そうだそうだ、この際どうなっても良い。コイツが悪いんだ。俺は我慢してきたんだ。

 いつもいつも同情心や、共感なんかりよ鬱陶しさが勝っていた。

 それを耐えて、耐えて。

 クタクタになりながら、コイツみたいな、どうしようもない人間の面倒を見てきたんだ。帰るたびに。痛めつけられた心を隠しながらだ。


 俺を否定するだと。


 あり得ない


「お前の気持ちが良く分かるよ」


「……何が…」


「……」


「……」


怒りの感情に身を任せたはずの彼はそれ以上の言葉を紡ぐ事はできなかった。


何故か。


見透かされていた自覚が彼にはあっただろう。これ以上ないくらいの怒りのせいでもあるだろう。だが、根本の部分はそうではなかった……

読んでくれて、本当にありがとうございます!!

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― 新着の感想 ―
兄弟の心理戦が迫真で、夢と現実の曖昧さが不穏な空気を生む。弟の怒りと葛藤がリアルで、兄の変化が物語の核心を匂わせ、続きが気になります。
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