インナー・シュピーゲル 発生 「記憶:性質」
今日も、一日お疲れ様です!
「お前ばかか!なんでサボってたんだよ?」
「いや、さぼってないよ!!」
咄嗟に出た言葉だった。
なんて虚言だろう。じゃあ、この場所はなんなのか……
まずい……
「これはあれなんだよ!許可が降りたんだよ!少し休んでこいって言ってたからここにいるだけさ……」
バレバレな嘘だが…誤魔化せないだろうか…
頼む神よ……こんなところを弟に見せたくない…
無事に終わってくれ。
「……うそだろ?」
全身があつく緊張の嵐が襲い、汗が滲み出る、
これでは汗でバレる……
「うそじゃないって!なら、聞いてみればい!あの、社長さんだよ…」
「まぁさ……分かったけどさぁ……父さんが呼んでるぞ……何してんだよ……」
「…え?うそ?」
終わった。
うちの父さんは僕が働いてる会社の社長だ。
僕が働いてるのはその会社の研究所だ、その研究所のリーダーと父さんは良く会って話してると聞く、それは職場でもと噂だ。
しかしらそれなりにデカい、国家を揺るがしかねない深海の新生物の研究を任されているのだ、しかもミクロの、危険かどうかまだ、見当も つかないものをだ…
わかりきっている情報が巡回する、どれだけやばいかを分からせるように……
そもそも僕は、同僚にまかせっきりだった、過去のデータとの比較や、対象の比較方法など、考えられる危険性など、
地形の形や周囲の分子は何が多く検出されてるのかなど、色々あるが、僕が携わったものはあまりない、というよりいないものとされていた、それもそうだ、判断力や頭の回転の速さが周りと比較にならないほどに遅い、
注意されなくとも、その差は自然とわかったし、周りの目や態度をみれば、自分が邪魔者なのもはっきりと分かる。
そうわかれば、次に来るのは恐怖だった
周りに対する恐怖だ。
果たして何もできない自分がここにいていいのか……
いても邪魔になるくらいなら、いない方がいいのではないか?
そんなふうに思ったんだ、だから一度サボることにしてみた。
そしたらどうだろうか、ものすごい解放感があった、いままで、自分を責めていたが、こうしてみると、どうでも良く感じたんだ…めんどい事は後だって。ふざけた思考なのは分かるが、それさえも考えれなくなっていった、
「それで癖になったんだよな…」
いままではうまくいっていたが、今回はタイミング悪かった……
「お前……絶縁とかいわれるぞ……多分……てか大事なようだったのに……もうちょっと考えないの?」
「そうだよな。」
後ろにいる彼女はどう思ってるのだろうか、
考えると羞恥心が募る。
やってしまった…いつものように遅い後悔だ
結局その後悔にはなんの意味もないことを悟る、未来なんて分かりきってる、この繰り返しだ。
ずっとこの繰り返しだと思うとなんとも言えない恐怖も感じる。
「はぁ……やってしまったな」
今の感情も彼女に対しての後悔が強い…
ダメなのを分かっていてここで休んでいたのだ、少ない会話だったがそれを悟るには十分だろう。終わりだ。
絶対に良いことはない。彼女はとても優しいんだ、だから許してくれるのだろうが、信頼はないに等しい。おわった。
その優しさも、いまは心を傷つける。
「……結局…僕はなにも反省してないという……」
問題そのものではなく、どう思われるか
その事を気にしている自分に嫌気がさす
人にどう思われるかを心配するのは反省とはよばないだろう。
見て見ぬ振りは得意なのに、今はできない。
心の自害をひきずりながら、うちの車が目に入る。
「…あーあーきちゃったぞー」
帰り用の車がそこに止めてあった
胸騒ぎがひどくなる
「はらいたいな……」
車を眺めることしかできない。
あのドアから、果たして誰が出てくるだろうか、父さんならどうすれば正解だろう…出てきて欲しくないな…
対面する事には変わりないのに出てこない事を祈るなんて、子供みたいだな。
なんて思ってるとドアが開く、その隙間から出てくる影に祈りを込める、自分、
見てて情けないが、そうする他紛らわす方法なんてない。
まるで親じゃないような見方だよな…
「自分のせいなのに、その責任感すらないなんて……」
出てきたのはおばあちゃんだった。
一瞬安心するが、結果が変わるわけではないので心はまた動揺を残す、。
「良い歳しても器小さいんだな…僕は……」
ゆっくりだが、焦る眼差しで、こちらに近づいてくる、おばあちゃん。
「なにしたんよ……」
僕の前まで近づいてきて、心配そうにそう言った、自分のせいなのに、お叱りの言葉ではなく、身を案じる言葉をかけてくれた
その言葉に被害者面をしてしまいたくなる。
だが彼女の前でそんな姿みせられない……
「ははっ!ばあちゃん。僕はクソ野郎だ」
*
家にむかう車の中、移りゆく景色を見ていた、今はゆっくりと見てはいられない心境のはずだが、ひどく落ち着いている。
今だけなのだろうな。
頬をつけることもせずに、ただ静かに窓の景色を見る。
少し疲れ気味でぼーっとする意識の中
ほんの少し前の事を思い起こす。
僕は、おばあちゃんに半分言い訳に近い事を主張したのだ、同情を誘おうと、被害者面をしてしまった。
「なにをしたんや……なんで…こうなったん…」
「おばあちゃん!ごめん、本当は悪い事だと分かってたよ」
「うん…」
「でも、僕の存在なんていらないような、そんな目で見てくるんだよ?」
「うん……そやな……おちついてはなし……」
「なんで、なんで僕だけが悪いって事になるの?」
「わかっとるよ……悪気はなかったんやな……」
「なんでなんだよ……なんで……できない僕を邪魔者にして……いなくなったらなったで……せめてくるんだよ!!」
「落ち着きぃ……な?」
「……」
「ええか……その事を父さんに伝えなさい……」
「でも……」
「全部正直話したら、きっと許してくれるからな…」
「……」
「大丈夫やからな……えらいことなったな……ばあちゃん行ったるから一緒に謝ろう」
「ふぅ……」
涙こそ見せなかったが、よくも、あんな話し方ができたものだと、感心する。
下手な演技だったし、事情を知ってるおばあちゃんだ。
僕の責任の重さは理解してるだろう。
だけど、自分の言う事を否定せず、味方でいてくれたおばあちゃんは、本当に僕を愛してくれている。いや、甘やかしてるって言うのが正解かな。
きっとおばあちゃんは僕を責めれないんだ。
孫の可愛さには勝てないのか、あんな酷い言い分を建てたのに、失望せず、静かに聞いていた。
いや 聞いてくれたか…
「とうとう腐ったな俺も……」
おばあちゃんの良心を弱みに捉え、しかも、他人目線で考えるとはな……
「車に乗る前、彼女に振り向かなくて正解だな」
無言で振り向かずに乗らなかったら、彼女が汚れるところだった。
こんなやつとはもうかかわらない方が良い。
きっとその方が良い。
心が静寂だからそんな事を思ってしまうのだろう。
車の中で落ち着いてるほど、僕のヤバさは重い
だが、このまま彼女と離れた方が良い。
その意思を固めたままでいたい。
「着いたぞ、にーちゃん。」
早いのだろうか長かったのだろうか。
どちらでもないように感じるのは不思議だ。
そんな呑気な事を考えてる場合じゃないのに……
いや、もう俺に失望するのはやめよう
とりあえず今は
「体が重いけど。行くしかないか」
「にーちゃん」
「……」
「頑張れよ」
「ほな、いこうな、一緒におるからな」
「…ありがとう」
*
「お前を責めたりはしない、そこに座ってくれ、冷静に話がしたい」
「……」
意外だ。こんなにも大人しい口調で話しかけてくるとは。
少し心に余裕ができる、いや、甘えてんだろうな、とりあえず俯いたまま話を聞こう、余裕はできても緊張感はきえないままだから。
「大きな責任が伴う仕事だったはずだ。人に送る情報だ。」
「……」
「そこに少しの間違いがあり、それがお前が仕事を放棄したのが原因だということになれば」
「……」
「世間の評価はどうでもいい。責められるだけで済むならな、だが、会社が責任を取らされるし、今後の信用にも影響が出る。」
「……」
「ここまでだけなら俺も別に何も思わない。」
「……」
「だがな、この研究は家族全員の病気の救命に繋がる研究なんだ。認識はあったよな?」
「……」
その言葉から少し無言の時間が続いた。
重い緊張感……怒鳴られて怒られるのとはまた別の緊張感……次何が来るのか何を言われるのかわからない……この怖さ……目だけを動かしおばあちゃんの方を見る。
おばあちゃんは何も言わずに隣にいてくれているが、いまはそれも、意味がない。
拭うことができない怖さのまま俯いていた。
「ある神話に予言がある事を知っているか」
そういうと立ち上がり、ある本棚に歩いていく。
「人は時には逃げたくなるものだ……だが……お前は……家族の言うことすら聞かずに逃げたな…」
その言葉にある一つの心当たりがあった。
「はぁ……完全に忘れてた……」
本棚から、出される一冊の本に、小さい頃からずっと言われていた注意事項を思い出す。
パタン
黒い木製の机に乾いた音と共に、
その本が置かれた。
「さて。はなしはここからだ。」
黒が濃い茶色の表紙と掘られた、金色の文字に、後悔とその遅さを訴えてくるのだった……
お読みいただき本当に有難うございます!!




