プロローグ
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そこは平原の様な景色が広がっていた
「ここは…まさか…」
1人の男がそこに膝立ちで、その風景を見ていた。ノロノロと不気味な動きをして体を寄せ合っている緑の怪物いや、獣だろうか。
今目の前に何度も目にしてきた風景がある。
時にそこで戯れたり、遊んだりして、楽しく、悲しく人生を紡いできた風景。
頭の中でそれと現実を照らし合わせていた。
なんと悲惨なことだろう。
先程まで さっきまで、そこにあったはずなのに。
「あ……ああ……」
あまりに無慈悲だ、あのような獣に、街を埋め尽くされ故郷があった土地に体を丸めて寝てやがるのだ。
「っ!ふざけやがってぇ…」
その光景を目の前にして憎しみに心を支配されていた。今すぐにでも消してやりたい そうだ、ただではすませないあの顔に絶望を刻み込ませてやりたい。今の自分の表情のように。どんな顔を今自分が浮かべているのかはわからないが、悲痛に歪んでいるだろう。
目尻には悔しさと気持ち悪さそして憎しみが詰まった涙を浮かべている。
だが、そんな感情も、今消え去ってゆく。次に来るのは憎しみではなく、家族の安否だ。
最後縋る様にそれを望む。今の現状を目にしてだ。
圧倒的に食い尽くされた人の屍が転がっているのにも関わらず、死地に行く。
家族を探しに行くのだ。後にはひけない今すぐにでも目にしたいもの。ある種の強迫観念だそれが、心を一色に覆う。そして耐えきれず、一人腰にぶら下げてる古い剣一本で大群のいる実家の方向へ向かって行く
まだ。手段があったにも関わらず
「はぁ…はぁ…こりゃひでぇな。これじゃ、お前さんの家族が生きてるか分からんぜ?」
「………」
「分かっとる。お前さんの言いたいことはな、確かに今すぐにでも行きたいのはわかるお前さんの全てが、あそこにあるかもしれねぇからな」
「………」
あれから、どれくらい時間が経っただろうか、今も生きていてくれてるだろうか、そんな不安が、心を蝕んでゆく。俺はあの瞬間不安に負けてそのまま進んだ。緑の獣の群れに覆われている平原を家に一直線にだ。途中までは大した苦労はなかった、まだ浅い道の獣は強くはなかった皮膚は雑草のような物で覆われていたが剣に少し力を入れればすぐに切れたし、多数で襲ってきても、なんとか対応はできた。しかし、街の方に進めば進むほど単体の敵も一際デカくなり、蔦の皮膚も切れにくくなる。そんな中、疲れて動きが鈍くなってきた頃やはり、敵への集中も切れてきた。緑の獣に右腕を食われそうになった時、間一髪で助けてくれたジジイが今のそいつだ。助けてくれたのはいいがさっきから誰にでも言えることを、考えたくないことをグチグチ言ってくる。
「だがよ。今2人でどうすんだ?この数何千匹いると思ってんだーお前さん?」
「………」
「何百匹でも2人じゃなぁ。探せるもんもさがせねぇんじゃねぇか?」
「………」
何を言っているのだろうか。こんな時に、何を心配しているのだろうか、このまま引き返せとでも言うつもりだろうか。一刻を争うって時に引き返すなどと。引き返してる時間にもしも。。そんなことがあるかもしれないのに。しかも、こんな田舎町に引き返し援軍を呼びに行くところなんて近くにはない。あったとしても事務所の方向だ。帰らなきゃいけいない。何時間あると思ってるのか。いや。時間なんてものじゃない日にち単位だ。馬鹿げた話だ
「なぁ…?お前さん聞いてんのかの」
「うるせぇ!!何が言いたいんだアンタは
っ!このまま引き返してなんになんだよ!
まにあわねぇかもしれねぇだろが!」
「そうは言ってもな。現状をみたほうがいいんじゃないかお前さん?ここで2人野垂れ死ぬか生きて探すか。どっちかしかないじゃないか?お前さんの気持ちもわかるが…」
「だから言ってんだろ。生きてるかもしれないんだぞ?。こんなところで引き返すだとふざけるな。そんな余裕があんのはアンタだけだ。」
「………」
吐き出すように、さっきまでの鬱憤を老人に浴びせた。だが、結果心が洗われるなんて事にはならない、なるはずがない。
今目の前にいる、老人には、浴びせた言葉の一つ心に響いてくれてはいない。
老人の面構え、目、態度どれをとっても、協力的な姿勢なんてありはしない。
まだ、逃げることを考えている。
何故かそれが分かる、先程と変わっていないからだ、まるで、変わっていない。
だが、必死な状況だからだろうか。
その変わっていない態度に救いなんてないと確信し交渉の手立てを破棄できるのは。
決して、この時には、冷静さを欠くことはなかった、この老人に限ってはどう頼み込もうと、無駄だと、そう確信できた。
それとも、彼に感じた違和感がそうさせたのか。
どちらにしろ、今の自分には関係がない、そうやって割り切ろうとするが、あの老人には怒りが湧いてくる。一人じゃ助られる可能性も低くなるからだ。今はそれだけが重要だからだ。だが、止まってもいられない。
この老人に構う暇なんて自分にはない。
最後縋るように老人の目を直視した。
やはりか。
ほんの少し期待した自分が馬鹿に見えてくる。このジジイ、本当にふざけてやがる
「………ちくしょっっ!!」
「あーあー。行っちまったのう、。何も引き返すなんていってないんじゃがなぁ。」
「しかし。まぁなんてことかねぇ。空も曇ってきたし。街の方も火がぼーぼーじゃなぁ」
彼の背中を目で追う。自分は行く理由がない、そんなものより自分の方が大事だ。
彼の背中から視線をずらし、まだ残っている街の様子を確認した。はたしてこの状況で生きていられるだろうか。生きていても生きて帰えってこられるのか。そんな事をぼんやり考えていた、その時だ。 少し離れたまだ健全な草原の大地の丘にポツンとなにかが立っていた。
「ん?」
「はて…」
人間にしては小さい。姿身長は幼い子のような。いや、こんな獣の住処のような大地にそんなものは生きてはいないだろう。まさかここまで逃げてこれるわけがない。獣に覆い尽くされる前から監視していたが大人1人逃げてきたところなんて見ていない。幼子なんぞ死を待つことぐらいしかできまい。運良く生きていてもこの獣の数を前に。。
いや、待て、もしかすると………
彼の少しの思案の間に、ある可能性が過ぎる。その思いついた可能性を思考に深く沈めていた。短い時間だった。その思考の末、得心がいったのか彼は普通の笑みとは似つかない奇妙な笑みで、何かに納得するかのうように呟いた
「ふむ…来たか……」
――――――――――――――――――――
俺は今工場で働いている、いつもと同じ作業だ。
車の部品の一部を何かの部品で固定して繋げる。反対側の部品もつなげる
そんな仕事だ。
いつも同じだ。
「ふぅ…これで終わりか。あとは」
帰る前に、担当者の名前を書かなくちゃいけない。これもいつもと同じだ。名前を書き込んだ後更衣室でロッカーに、作業服を仕舞い込んでいた。そこに自分以外に4人いた、この顔ぶれも同じだ。ここのクソども4人には気を遣わないといけない。これもいつもと同じだ
俺「お疲れ様です。」
「はい。お疲れ様です」
「お疲れ様です。はぁ。」
「お疲れ様ぁ」
「………」
俺「すいません。先程は本当にごめんなさい。」
社交辞令だ。相手にどんな事情があれど、自分が下にへりくだっておく。
辞令と言うより、最低限らしい。
だから、今日は俺がミスしたんじゃなく、違う奴がミスをしたんだが、新入りの俺がタイミング悪く現場にいたので、俺の失敗だと言うことになった、なので、班長に思ってもない事を言わなくちゃいけない。
ここで、何を言おうと言い訳にしかならないのだから。
「あのさ。気をつけてね。そんなんじゃどこ行っても通用しないからね」
「はい。ごめんなさい」
「うん。謝るのは誰にでもできるからね」
「はい」
最初はよかった態度がこうなる。
だが、自分にも非があるのは確かだ。
文句を言えるほど失敗がなかったかと言うとそうでもない。
それに。何を言っても無駄なのだ。
あたりはもう暗い 帰り際の月の光と街灯と夜の寒さが癒しだ。あと星もだ。寒いけど何やかんやいって、感傷に浸かれる。
「………何度目だろ」
そうやっていつものように近くの公園のベンチに座って呟いた。何の意味もなくただ呟いた。
そして少しの足の疲れをほぐすように、足をさすった。
しかし、こうやって居づらくなれば、やめての繰り返しだ。
仕事はしたが。
ずっとニートのはずの生活から解放されたと、自分はこれで正しいはずだと思ったらこれだ。
何の意味があるのか。
朝起き、眠い中仕事に行き、帰り、また寝て、普通に仕事してるだけでこんなに辛い。
それならニートの方が良かった。まだ、楽しかった。そういうと、苦情が入りそうな気もするが、今の自分にはそう思うしかなかった。
かといってニートが良かったかと言われれば、そうは思えない。というよりあんな生活になんて戻りたくない。劣等感と将来への焦り自分の気持ちの無視と無力さ、辛い、あんなものは。
「どうすればよかったんだ……」
だが結局どうすればよかったのか。親にも迷惑はかけたくないし、愛想をつかれたくもない。でも、今の状態はいいのか。
「考えても無駄だな。」
堂々巡りだ。そんな辛さは残しつつも、思考を吹っ切り、ベンチから立った。そのまま家に帰ろう。
「はぁ…」
ため息をつきながら少し雲のかかった夜空を見上げた。
そしたらまた、ため息が出そうになる。あんな空のようになれたらどれだけ楽だろうか。そんな事を考えながらそのまま、視線は公園のブランコに移る。そしてまた、嫌な思考が湧いてくる。
「………」
思えば、この人生にどれだけ楽しい思い出があるだろうか。思い出の全てに満足できた思い出がない
心の中に必ずなにかが渦巻いている。
別に変な事件もなかったし、友達も少しだがいた、ある程度モテた時期もあったし、最悪な暗い過去なんてのもない。
才能もなかったわけじゃない。成績も真ん中の上だった。兄と弟がいるが、その中でも成績は一番上だったし、ある程度は、なんでもこなせた。
それにもかかわらずニートになった。
そうだ。ある日を境に学校にいけなくなった
そのころは、結構うまくいってた時期でもあって、調子に乗ってた。中学には、初対面の子たちが多かったし、そこで友達もできた。
特技っていう特技はなかったが、そこそこ、
並にはこなせていたし、顔も平均よりも高くモテた時期だ。そう上手くいっていた。
だが、そういう時期だからだろうか。
ほんの少しの見栄だ。いや、少しではなかった。調子に乗りすぎたのだ。
教室でいじめられてた奴を間に入って仲裁した時だ。いじめの内容はお前のせいで両親に怒られたと。とか、ガキみたいな言いがかりだ。本当はそいつの不注意での自転車事故だった。たまたま居合わせて隠れてことの成り行きを見ていたので知っていたが、それを指摘したら逆に俺の方をジっと見やがるのだ、まるで殺人現場を見るような目で…なんとも言えない目だ。周囲の奴らがだ。おまけにそんな諸悪の根源みたいな奴に笑われる始末。だけですんだらまだ、登校してたが。
「不幸は重なるんだよな…」
そんなことがあった翌日こうも連鎖するとは思ってなかった、またいじめてたのだ。
同じ子をな。しかも、同じ教室でだ。
周囲の奴も俺もそうだが誰もが見てるだけだ。
俺をあんな目で見る筋合いなんてないんじゃなかろうか。それで、また、助けに入ったんだ。目の前で、一度介入したからな。
助けなかったらめんどくさくなるのと同時に優越感に浸かっていた。
そしたら、なぜか俺の裸写真をその場で広げたんだ。それを周囲のヘラヘラしてるバカがお決まりの儀式で、周りに写真を回すのだ。
あんまりだろう。それが校内全体に広がるのに時間なんて意味をなさない。
「はぁ…考えるのは避けてたはずなんだけどな」
先にも言ったが、不幸というのは重なる。
自転車事件も俺が見捨てたっていう噂も流れていた。嘘だという事は主張したが、裸の写真を撒いた 奴に信頼はないのか。
通るわけなかった。
いつのまに俺が撒いたことになってんだろうか。 それが親にも話が回り父にどつき回された。必死に主張したが、通るはずもない
そこで。もう、学校には行く気も失せたが、いけない状況だ。いけないだろう。誰があの状況でいける。無理に決まってるのだ。
「思い出してみても、俺が悪いな…
調子のってたか…はぁ…なんにしてもアホには変わりないし。自分が悪いんだよな」
「結局怖気付いてその場で見てるだけだったしいえることはねぇか」
なんにせよ。もうすぎた事だし、言える事もない。やれることもない。
そしてまた、思考をリセットするよう、ブランコに視線を戻した。
「ブランコには小さい頃よく乗ってたな。
何も考えたくない時に、よくお世話になったな」
「はぁ…帰るか…」
憂うつな帰り道だ。家は落ち着くとよく言われるが、俺はそうは思えない。
帰っても寝るだけだ。帰って寝て起きたら仕事だ。家なんてもう職場の延長だろう。
なんて、思いつつ小さな頃によく乗っていたなと耽りながらブランコを見た。帰ることなんて忘れてこうみてると思い出す、弟と一緒に遊んだ日々、亡くなった祖父に、押して押してと、よく言い合いになったもんだ。
弟は泣き虫で、祖父はそんな弟を慰めるように先に押していた。
「それで…俺も泣いたんだっけ。じいちゃんの気をひく為に…」
「じいちゃん…ごめん……」
そっと、ブランコから目線を外した。
見るのがもう嫌になった。たまに思い出すのは良いが、いつも嫌な気持ちになる、後悔とあの頃の後ろめたさが合わさって惨めになる。祖父には苦労をかけたと思うと余計に。
帰ろう。もう帰ろう。とりあえず寝よう。
寝て忘れよう。こんな嫌な日々でも、寝るのだけは楽しみだ。
寂しく冷たいいつもの帰路。
公園から少し歩いたところにちょっと広いあけたところがある、そこにアパートがいくつか並んでいる。ここにも公園があり、中央の公園のある芝生を囲んでアパートが並んでる形だ。
広く街灯もなく、光源はアパートの電気のみで少々薄暗く、星がよく見える。自分の部屋に着くまでの間見上げていて、虚しくなる。
「俺も空になれたらなぁ…まったく。何がアパートだ。見るたびに鬱陶しくなる…日に日に増してだ…」
「こんなとこ帰る場所なんかじゃない。なんで帰る度に傷つかなくちゃならない」
「はぁ…」
「こりゃ…相当参ってるな…ははは。」
こんな毎日が続くのか、そう思うと、何に対してもムカついてくる。今日も自暴自棄だ。
ムカついててもしょうがないのにな。
このままじゃ、やばい気がする
とりあえず、帰ろう。寒いのはストレスが溜まりやすいらしいからな。ネガティブ思考も少しは軽減されるはずだ
とりあえず部屋の中に入り、ニートの兄に、ただいまの挨拶だ。
いつも、兄は鍵だけは何故かちゃんと閉めている。いつものように、ドアの前に立ち、必ず、インターホンを鳴らさないといけない
そうじゃないと何で鳴らさなかったと喚き。暴走するからな。
いや、なんで、住む家にそんなルールがあるのか。そもそも、こんな湿っぽいアパートにルールなんて設ける意味も価値もないだろ。
帰るのになんで、気を遣わなくちゃいけないのか。
「クソが…!遠慮なんていらないよな兄貴?」
「いや。ダメだろ。今日はダメだな…」
ちょっと疲れがたまってるのか、
些細なことでも気に障る。
というか、なんの決まりなのか。
相変わらずふざけた住居だ。ふざけた兄だ。何が暴走なのか。
いい歳したおっさんが暴れるとは傑作だな。呆れる。俺自身にもだ。
「まぁいいか、後が面倒なのは勘弁しほしいからな、ここは感情に任せず、優しく接しなければ。」
「とりあえず深呼吸!スゥーーゥハァースゥーーゥハァー」
よし、感情の整理もついてきた、これで、お互いキレ散らかすなんてことはないはずだ。
ブチギレても良いことはない、兄がどうしようもなくても、俺が言えたことではない、
ただ、働いてるか、働いていないかの違いなだけだ。それに俺もニートを20年続けたじゃないか。同じ種族なのだよ。
さぁて、最後にまた深呼吸だ。
落ち着けよ。俺
「スゥーーゥ ハァー スゥーーゥ ハァー」
「さて、我が兄よ、愛する弟が帰ってきたぞ!心して出迎えよ。不機嫌で怒鳴り散らかすのやめて、いつものように部屋から出ず無言で迎えておくれ…」
「ガチャ」
「あ…」
ふざけた言葉を並べてインターホンに指を近づけた時だ、出てきたのだ、おっさんが、そう、兄だ。 普段外にすら出られないおっさんがでてきやがったのだ、俺はこの瞬間が嫌いだ。思考の隅にはあった、こう言うこともあるんじゃないかと、だが、だがだ。
生憎考えるまでには至らなかったのだ。
そして、たいていこう言う時は何かの買い出しだ。今はやめてほしい。今は休みたい。
頼む言わないでくれ。そう願っていたが。
「ふ!…」
笑いやがった。このやぁろぉぉ。
「…っ!」
おっと、落ち着け。俺。ここで、喧嘩しても良いことはない。ここはそっとだ。
それが良い、なるべく円満にだ。よし
「ふぅ…よぉ?兄貴…!珍し…」
「いや、分かってる。ちょうど良かった」
「いや。ちょうどよくない今日はやめてくれ」
やっぱりそうかそうだよな。まったく、予想はしてたけど、今日は勘弁してくれ。
「ん?そうじゃねぇよ…ハハハ」
「そうじゃねぇってお前何言ってんだ?
どうせ買い出しだろ?分かってるだが、悪い今日はやめろ」
「だから、そうじゃねぇって、ちょうど良かったんだよ。お前にようがあってな。」
「じゃあ、なんだよ?お前にそれ以外外に出る理由なんてあったのか?」
「ハハハ!そいつは酷いな愛しの弟よ!」
なんなんだろう、こいつは。一体なんでこんなに、明るくなって喋れてるのだろうか、
おかしいな何かあるな。
いつもは無言で返事が部屋から聞こえないが、それが今は目の前に立って喋ってる。
5年ぶりだ。俺がニートをやめたのが35歳で、それから今45だから。
てか、終わってるな。俺。
「まぁ、そうか、兄貴。で?ニート5年勤務はどうだ?てか、久びさだな?太ったなぁ兄貴、マジで絵に描いたようなニートおっさんだ。白いシャツにメガネそれから、剃ってない髭におまけにデブときた……俺とかわらねぇな…」
久々に見た兄の姿だが、俺と大差がないと言う信じられない光景が映っている。
だが、ふと5年前と比べるとすごい違いだ。こうも人は変われるとはある意味感動する。
「やっと気づいたか?お前見た目は対して変わってないよな。今でもザ・ニート君って感じだな!」
「え、えらくご機嫌だな、どうしたんだよ?」
呆れた声で罵倒してきたが、いつもなら、喋る時は大体怒鳴り声で喚き散らかすくせに、今はとてもご機嫌になって会話が成立してる
しかも、喋り方も健全の時そのものだ。
どうしたんだよ。こっちが、本当は呆れたいくらいだ。
「見た目は前見た時と変わってねぇのになぁ」
「なんか言った?」
とぼけた顔で返事もフツーにするくらいだ。
ニートだったよな、コイツ。そう疑ってしまうほど態度が180度変わった。
「いや。なんもないけど。どうしたの?急に」
何はともあれ聞かなくちゃいけない。
一体どんな経緯で変貌してしまったのか。
「してしまったじゃないな…」
こう言ってもなんだが、こうも早くニート克服とはな20年もかかった俺にはちょっと複雑な気分だ。
何せ15年も早いわけだからな。
いや、克服と決まったわけじゃないか、もしかすると何か他の理由があるのか。
まさかアレか、俺のご機嫌とりとかか。
だったらなにが目的なんだ。
俺にこうも機嫌良く振る舞う兄貴。
危ない匂いがするな。きな臭い
「ど…どうした?」
といきなり、キョトンとした顔で目を細めながら聞いてきた、俺が言いたい。
というより、今は俺が質問してたんだがな。
「俺が聞きてぇよ!」
「ああ…すまん!なんかすごい顔で睨んでた からな、つい気になっちまってな。まぁ。なんだ。とりあえず中入れよ!そっちの方が話しやすいしな!」
まるで自分の家のように入れと促してきた。
随分と軽い奴だ。元々か。
最近は軽いんじゃなくて過敏すぎたんだけどな。
「当たり前だろ?俺がなんで外で喋らないといけないんだ?」
「お、おう!」
久しぶりの兄弟での会話を一旦止め。
中に入った。湿っぽいいつもの玄関だが、違和感を感じるのは兄がいるからか、それとも、考えすぎなのか。兄がクロックスを脱ぎ終え、俺も玄関に座って足を下ろし靴を脱いだ。久々に兄と話し合いだ。何やら長くなりそうだ。そう思うと気が重くなる。さっきまではそうじゃなかったが、どうも中に入ると疲れがどっとくる。
奥の畳部屋に行こうと腰を持ち上げるのが、今は苦痛だ。それに今は特に足が重い、兄には悪いが、今は休みたい。
とりあえず寝たい。話は明日にできないだろうか。今は話なんてどうでもいい、兄がどうなろうが知ったことではない。そういう邪念が頭に過る。こうなっては泥沼だ。一度でもそんな思考をしたら、次々に沸いてくる。
今日は話なんてまともに聞けないのではないだろうか。それは兄のためになるのか、だったら、明日のほうがいいのではないか。そうだ、よく考えたらそうだろ。今日は寝て明日だ。
今から後ろにいる兄にそう提案してみてもいいんじゃないか。きっと今の兄なら許してくれるはずだ。
いや。俺はなにを考えているのか、問題はそこじゃない。俺はそれでいいのか。5年ぶりにまともな兄に対して俺はそんな態度で接して良いのか。兄は他人じゃない、数少ない身内だ。そんなぞんざいになるもんじゃないだろ。数少ない大切な存在も、俺にとってはないのか。それでも良いのか。ダメだ。やはり沼だ。最悪な方向に考えてしまう。
「おい。どうした?…あ、そうか。仕事帰りだったな。今日は休むか?そんなに急いで話すもんでもないしな。それに理解できないかもだし、落ち着いてからの方が良いか?」
相変わらず、タイミングの悪い兄だ。
人が葛藤してる時に言ってほしいことを言語化してしまう。
昔から変わらない、損な部分だ。
それだけ相手に気を遣ってるってことだろうか。
家族である自分にもそう接する。
悪い言い方をすれば都合の良い奴だ。
だが、ここで、俺がそれをするかどうかは、
兄がそうだからとかそう言うことじゃない。
俺の少ないプライドだ。まったく下らない、だが無くせない。無くしてしまうと、もう終わってる自分が、完全に終わってしまうような気がするからだ。
せめて、最低限の人間であろう。
「いや、大丈夫だよ。話が理解できないほど重症じゃねぇよ」
そうして、自らの葛藤を押し殺し、強がりな言葉で兄に答えた。それをよそに兄は真剣な眼差しで、 彼を見ていた、遠い記憶を見ているかのような遠い目をしたまま、ずっと。彼を見ていた。
兄が理解できないかもと言った理由は、彼の疲れとは関係のない事の配慮だったと今は知る由もない。
第二話に続く!
ありがとうございます^^