エピソード7
新宿方面へと歩を進める真琴の目に、変わり果てた街並みが次々と飛び込んできた。かつて賑わいに満ちていた都市が、今では無機質な廃墟のように成り果てている。ビルのガラスは割れ、道路はひび割れ、灰と煙が空に漂う。どこを見ても、かつての繁華街の面影はもはやない。
街灯は消え、遠くで何かが燃える音だけが静寂を引き裂いていた。そして、真琴が最も冷たく感じたのは、無人の道路だ。普段ならば人々がひっきりなしに行き交い、車が走るはずの場所――そこは、今や人間の存在を拒絶するかのように静まり返っていた。
「こんなこと、あるんだな……」
思わず呟き、真琴は立ち止まる。手のひらに滲む冷や汗を拭うことも忘れ、その荒れ果てた光景をただ見つめる。現実が冷徹に、そして静かに迫ってくる――もしあの爆撃に巻き込まれていたら、今、こうして立っていることすら奇跡だっただろう。
街の端から端まで、すべてが無秩序に破壊されていた。あの一瞬で、人々の命、日常、そして未来までもが奪われた。その事実が、真琴の心に重くのしかかる。
「でも、まだ生きてる――」
その言葉を自分に言い聞かせるように呟く。死が周囲を支配する中で、自分だけが命を繋いでいる。それだけが今の真琴の支えだった。
再び歩き出す。見渡す限り、誰もいない。人々が消えた世界の孤独――それが、これほどまでに重く、冷たいものだと気づかされる。しかし立ち止まってはいけない。後ろを振り返っても何も変わらない。ただ前へ――それだけだ。
歩くたびに、真琴の心には重苦しい孤独が積み重なっていった。世界が崩壊していく中で、自分だけが取り残されたかのような錯覚。遠くから聞こえるかすかな悲鳴や叫び声が、余計にその孤独を際立たせる。
その時、ふと視線の先に、風に揺れる壊れた看板が目に入った。かつての渋谷を象徴する広告が印刷された看板――今ではただの廃墟の残骸にしか見えない。
「こんなもん、今さら何の役に立つんだ……」
呟いた言葉は冷たかったが、その言葉が自分の心に刺さるのを感じた。真琴は看板の下で足を止め、しばらくそれを見つめる。
「俺も、ただの廃墟になっちまうのかな……」
自嘲のような呟きが漏れる。しかし、それでも歩みを止めることはできなかった。立ち止まっていては、終わるのは自分だ――そう思い直し、真琴は足を進める。
その時だった。前方に人影が見えた。最初は幻かと思ったが、目を凝らすとそれは確かに生きている人々だった。
「生きてる……」
その言葉が、真琴の胸に希望の火を灯す。無意識のうちに、彼の足はその集まりへと向かっていた。そして次の瞬間、真琴は走り出していた。
――生きるために。進み続けるために。
たとえ世界が崩れようとも、たとえ一人ぼっちになろうとも、自分だけは生き残る――そう誓いながら。
走りながら、真琴は確かに感じた。希望はまだ残っている、と。少しずつ近づく人々の姿に、真琴の胸の中にわずかな光が差し込み始めた。