エピソード3
真琴は携帯電話を握りしめたまま、しばらく動けなかった。彼女からのメッセージが、何とも言えない重さで胸に響く。あの時、別れた理由やその後の空白が一気に思い出される。だが、今はその感情に浸る暇もなかった。状況があまりにも切迫しているからだ。
「…どうしよう。」
心の中で繰り返し、何度もその言葉が浮かぶ。彼女は、大丈夫だと信じているのだろうか。真琴も、何とかしてあげたいという気持ちが湧き上がった。だが、現実はそれを許さなかった。今、目の前にあるのは、彼の命を守ることだけだった。
「…いや、まずは俺が生き延びないと。」
何とか冷静を保ち、携帯をポケットにしまうと、再び足を進める。心臓はまだ激しく打ち、冷たい汗が額を伝う。周囲の破壊された街並みを見つめながら、彼は進むべき道を探し続けた。街はもはや、彼が知っていた渋谷の面影をほとんど残していない。建物が崩れ、車が倒れ、人々は何をすべきかも分からずにただただ動いていた。
真琴は、自分の家までの道のりを頭の中で繰り返しながら、もう一度深く息を吸った。少しでも冷静さを保つために。その時、目の前の道が再び崩れ、揺れが大きくなった。彼は足を止め、立ち尽くす。
「…いや、今は進むしかない。」
その言葉と共に、真琴は再び足を踏み出した。彼はもう、何もかもが自分一人の手のひらに載せられたような気がしていた。彼女からのメッセージが心に残る中で、どこか自分を見失いそうになっていたが、それでも進み続けるしかなかった。
「誰かが俺を待ってるかもしれない。」
彼は、そう信じたかった。自分の足が進む先に、少なくとも何か希望が待っていると。渋谷の街を抜けて、家までたどり着くその瞬間が、彼にとっての救いになると。
心臓が高鳴り、手が震えながらも、真琴は前へと進んだ。どんなに街が崩れても、どんなに恐怖が迫っても、彼は決して止まらない。その一歩一歩が、ただの逃避ではなく、未来への希望に繋がっていると信じていた。
そして、再び足音だけが響き渡り、真琴の進むべき道が少しずつ見えてきた。