エピソード2
真琴の足音が空気を切り裂くように響く中、彼は自分が進むべき道を見つけることに必死だった。目の前には崩れたビルや倒れた車、ガラス片が散乱し、周囲はまるで異世界のように感じられた。人々の叫び声も遠くに感じ、どこかで他人の痛みや恐怖を無視しているような感覚に囚われる。
「でも、やらなきゃ…」
真琴は、自分の中で何度もその言葉を繰り返していた。自分だけが生き残るために、何もかもを見捨てるわけにはいかない。けれど、今は何もできない。自分の足を一歩一歩進めることだけが、唯一、できることだった。
渋谷の街を抜けると、だんだんと周囲の風景も変わり、少しずつ静けさが戻ってきたように感じられた。しかし、その静けさはただの空白でしかない。真琴の心はますます沈み込み、呼吸が乱れてくる。
ふと、前方に動く人影を見つけた。真琴は無意識にその方向を向き、そして足を速める。近づいてみると、それは一人の女性だった。髪を乱し、顔には恐怖と混乱の色が浮かんでいる。足元は不安定で、歩くたびに体がよろけていた。
「おい、大丈夫か?」
真琴は思わず声をかけていた。その女性は、真琴を見てはっきりとした表情を浮かべたものの、すぐにまた不安そうな表情に戻り、答えを返すことなく歩みを止めた。
「助けを求めるより…生きることだけが大事だよ。」
それが、真琴の心の中に浮かんだ言葉だった。彼は、もう一度深呼吸をして、その女性から目を背けると、再び前へと進むことにした。彼の歩みは、ますますゆっくりと、しかし確実に進んでいた。
無意識に後ろを振り返ると、女性の姿はもはや見えなかった。彼が助けられると信じていた誰かが、もう、視界から消えてしまったのだ。
「どうしよう…」
目の前の現実がどんどん無力感を与えてくる。電気が通っていない、道路は荒れている、街は壊滅的だ。無数の人々の命が、瞬時にして奪われたように感じた。しかし、それでも真琴は一歩、また一歩と歩を進めるしかなかった。
真琴は、自分に問いかけるように呟いた。
「生きて…帰れるのか?」
その問いに答えがないことを、彼はひしひしと感じていた。けれど、今はただ、前に進むことしかできなかった。