エピソード1
渋谷の街は、午後の陽光が滑らかに反射し、若者たちが意気揚々と歩き回る、まさに東京のエネルギーが溢れている瞬間だった。スマートフォンの画面には新しい通知が無数に流れ込む中、真琴は、予定していた飲み会も忘れ、ただひたすらにスクリーンをタップしていた。大学の講義をさっさと終わらせて、今この瞬間を楽しむことだけが、何よりの優先事項だ。
「なんだよ、また連絡来てるじゃん。うるさいなぁ」
真琴は冷めた目でスマホを見つめ、無意識のうちにスワイプを繰り返した。誰が連絡してきているのかも知らない。別に、誰かと会う予定があるわけでもない。ただ、今は、自分の時間を切り開きたかった。
渋谷の繁華街を歩きながら、彼は自分の存在がこの街の一部であるかのように感じていた。派手な服装に身を包んだ人々、活気に溢れる看板、無駄に高いビル群。これが彼の世界だった。常に何かを追いかけ、何かを得ようとしているその感覚が、彼にとっては自然だった。
だが、その瞬間、天を裂くような轟音が耳に届いた。まるで遠くから重たい雷のように、地鳴りのように感じた。その音は、すぐに脳裏に深く刻まれた。真琴は一瞬、何が起こったのか理解できなかった。ただ、直感的に何かが起きていることを悟った。
「……なにこれ?」
目の前にある高層ビルが揺れ、ガラスがヒビ割れて飛び散った。真琴の体は、反射的に地面にしゃがみ込む。周囲の人々が叫び声を上げ、慌てて走り出す中、真琴は一歩も動けなかった。背後から、さらに大きな衝撃波が迫ってくる。
「やべぇ、どうすれば……?」
彼の目の前に広がった光景は、ただの災害を超えていた。見上げると、遠くの空が光り、まるで太陽が爆発したかのような眩い閃光が街を包み込んだ。そして、まるで時間が引き裂かれたような静寂が、急に訪れた。
その瞬間、真琴は気づいた。自分は何をしているのか。この街で、この瞬間で、何をしていたのか。こんな事態に直面して初めて、何もかもが意味をなさなくなるような気がした。