第1章 第1話「剣士の誕生」
千葉県の百山市にある百山市立秋花の丘小学校では、入学式が行われていた。この学校に入学することになった光浦楓は入学式が終わったあと、一人で学校探検をすることにしたのだが…
2010年 4月1日 火曜日
〈光浦家 午前8:20〉
「もう準備できた?忘れ物は無い?あ、スリッパ入れたかしら?」
玄関でママが忙しそうにしている。仕事行くときには毎日いつもこんな感じだけど、今日はいつにも増して確認している。
「ママ!だから準備できたって何回も言ってるじゃん!」
「でも、入学式始まったらもう家には戻ってこれないのよ。何回も確認した方が楓も安心するでしょ?」
それも何回も聞いた。小学校に通い始めたら毎日こうなってしまうのか。
「ママ、そろそろ行かないと間に合わないよ」
「もうそんな時間!?」
このやりとりも何回したかわからない。でも、正直僕もママに何回も聞くほど緊張していた。今日は秋花の丘小学校の入学式の日。すごい楽しみでワクワクしてたけど、いざ今日になったら緊張して何も探す物もないのにずっと家の中を歩き回っている。もしかしたら、ママはそんな僕を見て安心させるために何回も話しかけてくれたのかもしれない。
「ほら、ママは準備終わったわよ!いつまで忘れ物確認してるの。早く行くわよ!」
やっぱり、ママが準備終わってなかっただけだったのかもしれない。
〈百山市立秋花の丘小学校 正門前 午前9:00〉
結局学校に着いたのは入学式の20分前だった。
「楓、もっと笑顔!」
校門前で写真を撮るのは嬉しいけど、もう少し小さな声で撮ってほしい。周りの目線が恥ずかしくて何か顔が引きつっちゃう。
「だから、笑顔!」
言われれば言われるほど口がいろんな方向に曲がる感じがする。
「あ、みっちゃん!」
「誰だ?」って思ったけど、声と呼び方で一瞬で誰かわかった。
「フーくん!」
幼稚園の時に仲良くなって、小学校も同じになった藤野康太くん。みんなは「こうくん」って呼んでたけど、僕はみんなより藤野くんと仲良くなりたいと思って「フーくん」って呼び始めた。だけど、みんな真似し始めたから「こうくん」って呼んでる人は去年から絶滅したっぽい。
「俺、みっちゃんと同じクラスの3組だった!体育館の壁に貼ってあったから一緒に見に行こうぜ!」
「ホントに!?見に行く見に行く!」
できれば自分の目で初めて知りたかったけど、フーくんと同じクラスで嬉しい感情が勝った。
「ママ、じゃあ先に体育館行ってるね!」
「じゃあ入学式後ろから見てるから、頑張ってね!」
「うん!」
〈百山市立秋花の丘小学校 体育館 午前9:26〉
「…皆さんが小学校に入る時に桜の木が見えたと思います。あの桜はこの学校が建てられたと同時に埋められた桜です。あの桜の様に皆さんにも今日から卒業するまでに立派な人に成長してほしいと思います。秋の花には〔大切な思い出・美しい変化〕という意味があります。皆さんにとってこれからの学校の思い出が大切な思い出となることを願います。最後に…」
まだ、最後じゃなかったのか。というか、桜の様な春の花になってほしいのか秋の花になってほしいのかあんまりよくわからなかった。僕なりに考えてみたけど、一瞬頭がクラっとしてすぐに諦めた。隣で寝てるフーくんの眠気が移ってきたのかもしれない。にしても、周りにいるたくさんの先生からの鋭い目線があるなかで良く寝れるな。
「ん?」
ふと体育館の二階にある窓の外を見た時に、一瞬カラスにしては大きい影が見えた。
隣で寝ているフーくんの膝を少しつねって無理やり起こした。
「今窓の外にでっかいカラスいなかった?」
「なんだ、校長先生の話まだ終わってないじゃん」
もっと強くつねってやればよかった。というか、起こす約束もした覚えもない。
「続いては、クラスの担任の先生の発表です。」
「あの先生キレイ!」「厳しい先生だったらどうしよう」「真ん中にいる先生厳しそうじゃない?」
四人の先生が前に立った途端いきなり体育館がざわざわしてきた。
「お!やっと先生の発表だな」
でっかいカラスのことについて聞かれたことは何も覚えてないらしい。けど、僕もでっかいカラスのことより担任の先生の方が気になっていた。
〈百山市立秋花の丘小学校 1年3組教室 午前10:05〉
「『みんなのお勉強を教える柳田香住です。好きな食べ物は焼きそば。趣味はお菓子を作ることです!これからよろしくお願いします!』
このように皆さんも名前・好きなもの・趣味を紹介してみましょう!」
柳田先生は明るくてとても優しそう先生で、担任の先生がどんな先生になるのかずっと心配だったから発表されたときはフーくんとホッとした。
「…次に藤野康太君。お願いします。」
「はい…」
後ろの席にいるフーくんがゆっくりと席を立った。
「藤野康太です。好きな食べ物は唐揚げ。趣味は外で遊ぶことです。お願い、します」
最初から最後までずっと声が震えていた。よく見たら足まで震えている。こんなに緊張しているフーくんを初めて見た。サッカーが好きなはずなのにだいぶ趣味がわかりにくくなっている。
「…次に光浦楓君。お願いします。」
「はい」
せっかく担任の先生が優しそうで安心したのに、フーくんの様子を見てなぜか緊張してきてしまった。
「光浦楓っていいます。好きな食べ物はお寿司。趣味はゲームをすることです!幼稚園の時から『みっちゃん』って呼ばれているので、みんなも『みっちゃん』って呼んでください!お願いします。」
〈百山市立秋花の丘小学校 正門前 午後14:24〉
「もう友達できた?」
それを聞くのは学校の勉強が始まってから聞いてほしい。
「まだ早いでしょ!でも、後ろの席にフーくんいるし、柳田先生も優しそうで安心した。」
「あら、よかったわねー。フーくんと写真も撮ったしそろそろ帰る?」
「いや、フーくんと一緒に帰る。」
さっき、教室でフーくんと約束したし、ちゃんと家に帰れることもママに自慢したい。
「じゃあママは先帰ってるから寄り道しないで帰るのよ。あと、変な人にはついてっちゃダメよ。それに…」
「フーくんもいるから大丈夫!」
正直フーくんの方が寄り道したり、変な人についていきそうで怖い。
「それじゃ、家で待ってるからねー!」
ママはそう言ってフーくんのママと一緒に学校から離れていった。
「やべ、教室にお花忘れてきた。」
「うそー…そういえばフーくん自己紹介の前に机の引き出しに入れてなかったけ?早く取りに行こう」
「いや、みっちゃん先帰ってていいよ。みっちゃん家ここから20分くらいかかるから。」
「わかった。じゃあ来週から頑張ろうねー!バイバイ」
「バイバイー!」
でも、フーくんよく気になった公園見つけたら家帰ること忘れて遊んじゃうし、っていうか入学式の日から教室に忘れ物してるし、一人で帰れるかな。
「1、2! 1、2!」
その時、きっと4年生か5年生の人たちの掛け声が聞こえてきた。校庭を見に行くと陸上部の人たちが走って運動していた。他にもいろんな所から楽器の音や、ボールの音が聞こえる。フーくん一人で帰れるか心配だし、フーくんが正門に来る前に1年3組の他にどんな教室があるか気になるから学校探検することにした。
〈百山市立秋花の丘小学校 体育館前 午後14:55〉
そろそろフーくんが正門を来るかなと思い上履きから靴に履き替えて正門に向かった。たくさん教室を探検するつもりだったけど、音楽室も美術室も屋上もどこにも入れなかった。しかも屋上にいたっては、階段上った先が机とかイスが散らかっていて、屋上には入れるドアにも近づけなかった。ママだったらきっと「散らかしっぱなしでどこかに行くなんて。私もご飯作りとか洗濯物もたたまないで、家事何にもしないでどっかステーキでも食べに行こうかなー?」と僕とかパパに言うみたいに怒ってただろうな。
「あ、ごめん!」
急に声をかけられてびっくりしたが、ユニフォームを着た男の子が少し遠い所から話しかけてきた。
「サッカーボールが体育館の中に入っちゃったから取ってもらっていい?」
ちょうどパトカーが通ってあまり声が聞こえなかったけど、その男の子が指さしてる方を見ると体育館の中にサッカーボールが転がっているのが見えた。
「ちょっと待ってて」
体育館の中に入ってボールを取って、その後その少年に向けてサッカーボールを蹴った。
「ありがとう!」
男の子は笑顔で手を振ってまたサッカーの練習を始めた。フーくんもきっと4年生になったらサッカー部に入るのかなと考えると同時に体育館の時計を見ると、フーくんが花を探しに行ってからもう30分経ってることに気づいた。
「フーくん遅いな…先帰っちゃったのかな。もう15時だし帰ろ」
そう思って体育館から出ようとした時、
【つ、つる…】
「ん?誰かいるの?」
確かに誰かの声が聞こえた。その声と同時にさっきまでとは違う違和感を感じた。
【剣を、ぬい…】
だんだん頭がクラクラしてきた。
剣ってあのアニメとかに出てくる剣?
抜くとしてもどこにあるの?
気になる事が多すぎるからか、部活をしてる人たちやパトカーの音がどんどん遠ざかっていく気がする。
その代わり誰かの声が体育館じゃなくて頭の中で鮮明に聞こえてくる。
【剣を、抜いて。あなた…】
そして、はっきり聞こえた。
【あなたが、楓ならば】
聞こえた途端、体育館の中で凄まじい風が吹き始めた。急いでドアを開けようとしてもなぜか鍵が閉まっている。
「誰か!助けて!」
叫んでも誰も来ない。二階の窓から助けを呼ぼうと階段の方へ向かおうとしたら、体育館の真ん中にさっきまで無かった何かが床に突き刺さっていた。風に逆らいながら真ん中へ向かうとそこだけ風も吹いていなく、さっきまでゴーゴーと吹いていた風の音も一切聞こえなくなった。
「もしかして、さっき誰かが言ってた剣ってこれのこと?」
そこには確かに剣らしきものが突き刺さっていた。剣を抜くかどうか迷っている間になぜか自然と剣の方へ足が進んでいる。いや、もしかしたら僕が剣の魅力に惹かれて無意識に近づいてるのかもしれない。
「この剣、本当に抜けるのかな」
恐る恐る剣に触れると、まるで剣と僕の身体が一つになったかのように自然と剣を引き抜くことができた。すると、剣が透明な珠となり、宙を浮いて、僕の胸の中に入ってきた。
【光浦楓:剣術 ー伝説の剣士が使用していた剣を振り回し相手を討つー】
〈百山市立秋花の丘小学校 体育館 午後19:56〉
「ぉぃ、おぃ、おい!」
ハッとして目が覚めたら目の前に男の人が立っていた。
「もう20時になるぞ!こんな時間まで何してるんだ!」
「え!?」
二階の窓を見ると真っ暗だった。この男の人もよく見ると警備員さんだった。
あの剣を抜いた後のことをなんも覚えてない。だが、胸の中で何かがじんじんしている。夢にしてはあの声のこととか、風が強かったこととかいろいろ覚えてる。
「ねぇ、ここらへんに剣落ちてなかった?」
「寝言言ってないで早く家に帰りなさい。」
確かに僕でも急にこんなこと聞かれたら同じ反応するかもしれない。とりあえず、ママとパパが心配してるだろうから早く家に帰らないと。警備員さんに何回も謝って、急いで学校を出た。
入学式からこんな遅くに家帰るなんてどれだけ怒られるのかな。フーくんの心配ばっかしてたけど、あの時正門でおとなしく待ってたらこんなに帰り遅くならなかったな。そういえば、フーくんはお花ちゃんと見つけられたのかな。剣は結局どこに行っちゃのかな。あの声は誰?あのでっかいカラスはどこ行ったんだろ?っていうか、ママとパパは僕がこんなに遅くまで帰らなかったのに探しに来なかったのかな?
入学式から気になる事が多すぎるけど、なぜかすごくドキドキしてた。
もし、本当に僕が剣に選ばれたのなら、僕は剣士だ。
「来週の月曜日から授業が始まるから、誰よりも早く登校して剣を見つけよ!」
心の中でそう決めた。正直、警備員さんに起こされてから現実か夢かあんまりわからない。だけど、剣士になれるなんてアニメとかゲームの中だけだと思ってた。
「夢じゃありませんように」
そう呟きながら僕は家に帰った。
〈光浦家前 午後20:35〉
「…光浦さんは朝会ったらいつも元気よく挨拶してきて下さって」
「楓くん?だったかしら。あの子も元気があって良い子だったわよね」
家に近づくにつれて、だんだん騒がしい音と赤い光が大きくなっていく。
「何かあったんですか?」
いろんな人に話を聞いてるお姉さんに聞いた。
「(もしかして…)きみ、名前なんていうの?」
「かえ…」
名前を言い切る前に、周りにいたたくさんの大人が一気に近づいてきた。
「ママとは仲良かった?」
「お母さんとお父さんはよくケンカしてたかな?」
「今日どのような会話をしましたか?」
20人くらいの人がいろんな質問を一斉にしてきた。誰が何を言っているかは全く聞き取れなかった。
無理やり進んで家に帰ろうとしたとき、急に腕をつかまれた。そして僕の耳元で囁いた。
「お母さんとお父さんが死んじゃったけど、今はどんなお気持ちですか?」
「!」
何にも言葉が出てこなかった。そんなわけがない。
だって今日の朝からママと話して、ママと忘れ物無いか確認して、ママと登校して、ママに写真を撮ってもらって、それで…
パパも会社で仕事をしていたはずだ。今日来てるかっこいい服もお父さんが選んで買ってくれたものだ。
「嘘に決まってる。」
心の中でそう決めた。だけど、その約束は目の前で簡単にやぶられた。夜の空と同じくらい真っ暗な家が建っていた。朝までは、太陽くらい明るい色だったはずなのに。
「夢なら、さめて…」
僕はそう呟きながら気を失った。
~続く~
最後まで読んでいただきありがとうございました。
この『楓日記』は僕が初めて書いた小説となります。
物語の題材としては、子供の頃に「もし、自分が主人公とかヒーローだったら」と何回か夢見たことかがある人が多いと思います。そんな夢がもし現実に起こったら?というのをベースに書いてみました。そのため、異世界・・・ではなくこの現実世界で事件、様々な人間模様、バトルが起こるファンタジー作品です!
そして、第1章で1年生、第2章で2年生のように章が進むと同時に、楓が年齢を重ねる設定を予定しています。
読みにくい部分、内容が伝わりにくい部分などたくさんの不備があると思いますが、ぜひ続きもお読み下さい!