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黄昏の国

作者: ひとひら

「どうして毎日のように昼休みに現れるんだ」


「つれないことゆうなよ。幼馴染じゃないか」


「向き合って蕎麦をすするのにも飽きた」


「それでも来るって分かってるから、いつも二人前で頼んでるんだろ?」


帝都にも西洋の風が吹き、街ゆく人々の装いにも個性が溢れている。


「なー、考えてくれよ。手詰まりなんだ」


「お前の仕事じゃないか。自分でなんとかしろ」


「なんとかしたくても相手が悪いって分かってんだろう? 下手したら大戦だぞ」


「まったく……」


なんの因果か、適性のない公安なんぞに入った幼馴染は、こうして日頃から泣きついてくる。こっちは午後の診療もあるというのに迷惑千万である。


「本当に、その婦人が運び屋なんだな?」


「ああ。間違いない」


こいつの話では、我が国では違法の薬物を少量ずつ運んでいるということだった。


「それで、持ち物検査が可能なタイミングが家を出てからテニスクラブへ向かう時だけだと」


「ああ」


だが、証拠が出ないらしい。


「持ち物は?」


「着替えの入ったバックとラケットを収めたラケットケースだけだ」


「とうぜん、都度、入念に調べているんだな?」


「もちろんだ」


無駄に胸を張るところが情けない。


「俺がテニス経験者でよかったな」


「そうなのか?」


「かじった程度だがな」


「もしかして、もう何か分かったのか!?」


「可能性でしかないがな」


「教えてくれ!!」


「まず、蕎麦代を払え」


「今月ピンチなんだよ」


「今月も、だろ?」


「……頼む!!」


ふ~、と溜息を吐いた俺は、残りの蕎麦を掻き込み口にした。


「ラケットは調べたのか?」


「あ? ああ……」


「ラケットのグリップは?」


「……あ?」


「エンドキャップっていって分かるか?」


「一番下っていうか、底の部分か?」


「ああ。あそこは開くぞ。そしてグリップの中は空洞だ」


「なっ!?」


「調べてみるんだな」


幼馴染は蕎麦ちょこを握り締めて駆け出した。


「こんな日が続けばいいのだがな」


経済は暁を覚えているというのに、実際は、西の空が朱色に染まる憂いを帯びた黄昏のようだった。

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