表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
架空の書き物  作者: 如月瑠宮
とある怪異に纏わる人々の記
5/6

【太吉の日記】と【雪】

 妻が次女を産んで亡くなった。まだ若く、これから子の成長を見守っていこうと誓い合ったばかりだ。吾らの子はおなごのみ。跡を継ぐ息子を期待されていたがこの家は代々婿養子が跡を継いできた。大きな問題にはならんだろう。不思議な事だ。


 長女である雪が次女の花を虐めていると下女から知らされた。何という事だ。父親だけではやはり苦しいか。子には母が必要なのだろう。


 再婚する事にした。しかし、雪の態度はどうにかならないものか。再婚相手の継母を虐め始めてしまった。雪はまだ八つだというのに、行動はまるで嫉妬に駆られた女ではないか。


 雪を座敷牢に入れる事になってしまった。


 雪を座敷牢から出し、花を座敷牢に入れる事になった。花が化け物になってしまう。これはキサラギヒメだ。


 雪は化け物へと変貌していく花を甲斐甲斐しく世話している。今までの態度が嘘のようだ。花の為に家畜を屠ってまで血を用意している様は勇ましくも感じる。しかし、そろそろ雪には婿を取って貰わなければならない。どうしたものか。


 雪が子を産んだ。おなごであった。やはりこの家は呪われているのだろう。


 なんという事だ。雪が人を花に与えていた。行方知れずになっていた者達は皆、花が喰っていた。最初は継母だったらしい。気付けなかった。これは誰の罪なのだろう。喰ったのは花だ。しかし、与えたのは雪である。そして、気付かなかったのは吾だ。


 花に謝りに行く。化け物として長い時間を過ごす事になってしまったのは娘を殺せなかった父の所為なのだから。吾の命に代えても花を解き放つ。


***


 以上が太吉の日記を抜粋した物である。命の代えてもという言葉の通りに日記はそこで終わっている。太吉の精神は疲弊していたと思われるが、判断は悪くないと思う。しかし、その試みは達成されなかったようだ。

 雪の日記には太吉の動向を探っている様子が見られ、感づいた雪によって彼は斬殺された。太吉の最期は寂しい物だったらしい。遺体は放置され、行方不明扱いとなった。未だに発見には至っていない。


 父親である太吉を雪は何の戸惑いも無く殺しているのが日記に綴られていた。彼女にとって自分を幽閉した父は敵でしかなかったのだ。そして、最初は憎んでいた妹の花だけが座敷牢へと足を運び気遣ってくれる味方だった。花と入れ替わった時、彼女は必ず太吉を殺すと明記している。


***


 遺書


 私に花は殺せない。だから、座敷牢への道を塞ぎなさい。

 多くの命を奪っておきながら、たった一人を殺せない私を貴女は恨むでしょう。存分に恨めばいい。その代わり、花を恨むのは止めなさい。

 貴女に唯一謝りたい事がある。愛せなくて、ごめんなさい。


 (亡くなる一月前の日付だと思われるが掠れて読めない) 雪


***


 これは雪の日記の最後に書きつけられていた。娘に向けてのものだと思われる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ