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架空の書き物  作者: 如月瑠宮
異世界食事情三種
2/9

メークインの渡来に関して

 グレアム王国では主食をメークインとしている。しかし、この食物はグレアム王国で忽然と現れたのである。初代グレアム王であるアルベルトが自ら植えたとされるそれは神が彼に与えた恩恵なのではと言い伝えられていた。


 それは果たして本当か?


 数多くの書を記してきた魔術師はとある魔術を生み出した。それは失われた物を復活させる魔術である。

 そして、失われた初代グレアム王の手記は魔術師の手の中に現れた。火災によって燃え尽きた手記には何が記されているのだろうと魔術師は意気揚々と頁を捲る。


***


 我が国の食料事情は最悪の一言に尽きる。ろくに育たぬ作物は最早どうにもならないのだろう。この国の大地はもう枯れ果ててしまったという事か。何も出来ずに民を飢えさせなければならないのが口惜しい。

 神よ、グレアムに慈悲を。


***


 神は我々を見捨てたのか。


***


 神は我々に救いの手を差し伸べて下さった。

 それが現れたのは寝室にある隠し部屋の姿見鏡の中である。それはぱちくりと大きな黒い眼を瞬かせていた。それは癖の無い真っ直ぐな長い黒髪の女性であったのだ。不思議そうにしている女性は我々とは違い過ぎた。人種、いや、向こうに見える部屋の様子から世界そのものが違うように感じる。

 この現象はあちらにとっても突然の事だったのだろう。なんとか身振り手振りで意思疎通を図った。鏡には姿が映し出されているだけで音までは届かなかったのである。もしも、彼女と話せていたなら我はどうなっていたのだろうか。

 数日かけて彼女にグレアムの状況を伝える事が出来た。それがグレアムにとって最良の結果を齎したのだ。意思疎通の過程でこの鏡が生きている物は無理だがそれ以外なら鏡の範囲内に収まる物は通せるのは知っている。彼女は首を傾げてから何処かへと向かった。何かを取りに行ったのだ。その何かこそ、グレアムを救ってくれた。

 あぁ、神とは彼女だったのか。


***


 彼女からの言葉を下にあの日受け取った物をグレアムの枯れた大地に植えた。それは枯れた大地で実ったのである。彼女はそれをメークインと呼んでいた。メークインはグレアムの主食となった。

 食料事情が解決したグレアムは飛躍する事が出来た。とても、喜ばしい。

 唯一、残念なのはこの飛躍を彼女に伝える事が叶わないのだ。メークインを受け取り、育てている最中は多忙により以前ほど隠し部屋に来れなかった為、正確には分からないが彼女という存在は映らなくなっていった。そして、今では彼女を映す事は無い。

 我は悲しかった。


***


 孫も誕生した事により我は退位した。久方振りに隠し部屋を訪れ、鏡の前に立った。そこで我は再び神と顔を合わせたのだ。彼女にも深い皺が刻まれ、時の流れを感じた。

 そして、我が鏡の前に立つ事は二度と無いだろう。

 この日記もこれで終いだ。

 グレアムの栄光を願う。


***


 メークインが神の恩恵だと理解した魔術師は手記を燃やした。自己満足の為に生み出した魔術も失わせる事を決めながら。

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