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パッション溢れてる

はじけ飛ぶ服にトラウマがある方は見ない方が良いと思います。

「いらっしゃいませ~」

朗々とした声で客を呼び込む店員。少し歩くと鍛冶屋があり、その目の前にはアイテムショップが並んでいる。

僕はワクワクとした気持ちを抱えて街を見回した。


「ここが冒険者の町ガラドか…!」

先程ギルドに登録してきたばかりで気持ちが沸き立っている。僕は田舎出身で、あまり裕福な家の子ではなかったので、昔から一攫千金が狙える冒険者になりたかったのだ。

父も母も僕が小さい頃は渋っていたが、弟が生まれた辺りで諦めてくれた。最近もしかしたら家の跡継ぎ候補の弟が生まれたから、僕が居なくなってもまぁいいかという感じになったのでは?とも思ったが、お陰で夢が叶ったので万々歳だ。


先程貰ったぴかぴかのブロンズ色のカードを胸に仕舞い、服の上から撫でてまた足を進める。

今日は町に着いたばかりだから郊外で野宿して、それから明日朝から改めて依頼を受けに行こう。

テントなど一通りの野宿グッズを背中に背負い町から出ようとすると、突然路地裏に引きずり込まれてしまった。

目の前にはガタイのいいならず者。なんということだ。町に来て速攻で悪意の洗礼を浴びることになるとは。


「げへへ…お前荷物重そうだなぁ。少し持ってやるから置いてけよ」

テンプレのような笑い声と親切な申し出を受けた。

「あっそうでしたか。これはご親切にどうも」

意外といい人だったようなので、ここ数日で溜め込んだ生ごみや獣の骨を詰めた袋を手渡すと流れるように床に投げつけられる。


「ゴミ渡してどうすんだ!!!!!その背負ってる荷物をよこせって言ってんだよ!!!」

親切な人だと思ったら窃盗目当てだったようだ。それならそうと言ってほしい。遠回しの会話はお互いに齟齬が生まれやすいからお勧めしないって近所のモル爺さんが言っていた。

でも今投げたものをゴミと一概に言わないで欲しい。野菜の屑だって細かくして乾燥させて土に撒けばちゃんと肥料になるのだ。

と、言っている時間もなく。あんまりにも突然なことで固まっていると、目の前のならず者が拳を振り上げた。

ああ~ダメです殴られてしまいます。別に整った容姿という訳でもないけれど、ボコボコに腫れた顔よりはマシだと思うのでできれば優しくボディを殴ってほしいです。

思わず目を瞑ってしまい体を固くするが、想像していた痛みは振ってこなかった。

恐る恐る目を開けると、目の前には黒いマントを翻し、これまた黒い髪をなびかせた男性が僕を庇うようにして立っていた。

彼の背中でよく見えないが、ならず者の暴力を止めてくれたようだ。


「次は無い」

彼の牽制した声が響く。何と、性格までカッコいいのかと思っていたら声まで良い。これで顔も良かったらパーフェクトにおモテになられるだろう。


明らかに強そうな気配にならず者も危険を察知したのか、覚えてろよ~!と幼児用のお話しでしか聞かないような捨て台詞を吐いてどこかに行ってしまった。


「君、大丈夫かい」

くるりとこちらを向いた恩人は、顔も良かった。神は二物を与えないというが一体その言葉を作ったやつはどこのどいつだ。めちゃくちゃ面白いくしゃみをするとかじゃないと釣り合いが取れない気がする。


「あっありがとうございます!」

恩人は落ちている僕のゴミ袋を拾ってくれて渡してくれた。ゴミだと知っていても拾ってくれる器の広さよ。絶対ただ者ではない。

恩人はふと僕の背中の大荷物を見て首を傾げた。


「君は商人か何かかい?」

「いえ、今日冒険者になったばかりで…。本当は自分で対処しなきゃいけなかったんだと思うんですけど…」

「…そうだね」

反省。ド田舎からのおのぼりさんであることに間違いないが、冒険者としては致命的だ。これからはもっと気を付けよう。


「でも今日冒険者になったばかりなら、少しづつ覚えられればいいと思う。初めは一番下の薬草取り辺りから始まるだろうから、そこで弱い魔物や動物たちとの距離を学んだり、時には他の冒険者とぶつかって危険な人とかも判断できるようになるはずだ」

「…もしかして、あなたも冒険者なんですか?」

「ああ、一応」

決めました。僕こんな人になりたいです。

余りにもいい人過ぎて後光が見えます。


「僕あなたみたいな人目指したいです!よろしければお名前教えていただけませんでしょうか!僕の名前はマルクです!」

感極まって畳みかけてしまった言葉に若干引かれながらも恩人は自らの名前をクロードと名乗って去っていった。


「…ヤバイ、いい人過ぎて禿げそう」

もちろん比喩である。


その日はめちゃくちゃいい夢を見られたし、翌日もやる気に満ち溢れて目を覚ました。

朝一でギルドに行き。意気揚々と最下位ランクの仕事のチケットをもぎって受付に。


「はい、ではこの依頼は本日の夕方までにギバ草を10本とポポンの実を5個持ってきていただければ達成です。何か質問はありますか?」

「依頼についてではないんですがあります!あの、冒険者のクロードさんってご存じですか?」

「クロードさんというと…黒いマントと黒髪が特徴のあのクロードさんですかね?」

そうです!!!と叫びたい気持ちを押し殺して深く頷くと、ギルドの受付員さんの顔がほころんだ。

「ええ、存じ上げております。勇者と名高いクロード・フォガーさんですね」

「勇者!?」


勇者というのは簡単に言えば肩書みたいなものである。例えるなら王様みたいな。いやうまく例えられてないな。

優れた剣聖の頂点に立つ、選ばれし者が勇者を冠すると聞いたことがある。

強くて、カッコよくて、性格もいい。勇者ってやっぱりああいう人じゃないとなれないのかな。

というか勇者と言われる人の事も知らずに名前を聞いて世間知らずだなとか思われたのではないだろうか。うわ、恥ずかしい。


「…あの、マルクさん大丈夫ですか?」

「すみません。昨日助けてもらって挙句名前を聞いてしまったのですが、クロードさんが勇者と知り、今自分の無知さに心が折れかけています」

受付員さんに可哀そうな者を見る目をされた。


「クロードさんはあまり人と関わらない一匹狼タイプなんですが、優しい方なのでそれで怒るという事は無いと思いますよ」

そう優しく諭されて僕は依頼に送り出された。


むしむしと必要な草を毟り、実をもぎる。依頼で出されている数は最低数なので、多少多めに持って行くと依頼者からの心証が良くなるとか。

ギバの葉もポポンの実も初級ポーションの材料になるレベルなので比較的お手軽に入手できるが、わざわざこうやって初心者用の依頼に出しているのは大人の事情とのこと。

まぁ、本来であれば畑などで安定生産して作るべきだと思うが、前提としてポーションというのは冒険者がよく購入する商品だから、初心者用の依頼として融通して欲しいとかそういった事情があったのだろう。


えっさかほいさか駆けずり回り、ギバの葉を20枚、ポポンの実を10個麻袋に丁寧に詰め込んだ。

「こんなもんかな」

田舎育ちのお陰か、植物の種類にはそこそこ詳しいのが幸いした。想定した時間よりも早く依頼達成できそうだと立ち上がった瞬間、突然後ろから寒気を伴う気配を感じる。


「…」

明確な殺意。それは例えば森の中で飢えた熊に会った時のような。


ゆっくりとソレを刺激しないように振り向くと、図鑑でしか見たことのない生き物がこちらを見ていた。

レッドボアベアー。

中級冒険者が狩るレベルの魔物で、その真っ赤な毛皮が特徴。ちなみに毛皮は大層温かいので、北国では服にされるらしい。まぁとにかく間違ってもこんなお花畑が広がってそうな草原に居ていい魔物じゃない。こんなのが居たらお花を摘みに行ったご婦人が現場に辿り着けないでしょうが。


レッドボアベアーはこちらを襲うタイミングを狙っているようで、姿勢を低くしていた。

どうする。武器はまだショートソードが1本。鎧だって皮だから牙なんて防げない。

デカい体躯と素早い動きが特徴のレッドボアベアーから脚力で逃げることも無理。

これは、もしかして死ぬというやつなのでは?殺されるなら是非一矢報いてから死にたいお気持ちです。

放たれる殺気に冷や汗をかきながらゆっくりと剣の柄を握り構えた。

息を殺す。体勢を低くする。全身を使って相手の動きを探れ。


数秒の沈黙後、レッドボアベアーが駆けだした。一瞬で目の前に巨体が現れ、鉄みたいに硬そうな爪が振り下ろされる。


ああ~死んだ。一矢報いられず死にそう。

走馬灯なのかゆっくりと落ちてくる爪をぼんやり見つめていたら、突然救世主が現れた。

それは昨日僕を助けてくれた黒いマントの人であり、勇者と名高いクロードさんである。


流れるように彼の持つ剣で爪を弾き、そのまま足を踏み込んでレッドボアベアーの胴体を切り裂いた。


「すごい…」


そしてレッドボアベアーが崩れ落ちる瞬間、なぜかクロードさんの衣服が全て弾け飛ぶ。


「?」

今僕の目の前には上半身と下半身が泣き別れになったレッドボアベアーと、あらゆる衣服を身にまとわぬ勇者クロードが立っている。


「??」

一体、何が起こっているのか。いま、レッドボアベアーが倒されて、クロードさんの服が綺麗に弾け飛んだな。

つまり…

「スッポンポン!!!!!」

僕の叫びに振り返ったクロードさんにはポークビッツがついていた。


自分が見たい服がはじけ飛ぶ話を書きました。

魔界村とは違うシステムで弾けます。

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