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26 そういう意味だったのね?

翌日の試食会は大成功だった。

同級だったオスカーはオーナーシェフの威厳など投げ捨てて、マリアンヌと抱き合いぴょんぴょん飛び跳ねて再会を喜んだ。

二日酔いの胃にも優しい薬膳料理は全員に大好評で、早くも出店計画の話が進んでいく。

薬膳レストランの運営はダニエル・ブロワー子爵が受託し、オスカーが総料理長として料理人の育成を担当することはすぐに決まった。

資金はワンド侯爵が全面的な支援を約束した。


ケニーは新しい商品開発と販路拡大、イリーナはドレスシリーズを今まで通り担当する。

統括するのはマリアンヌと体制は万全だ。


「私は今まで通り営業担当として頑張るからさ。アンはやりたいことを存分にね」


そう言ってルドルフは笑っていた。

試食旅行から以降、ルドルフからのウザい愛の告白は鳴りを潜めた。

毎日忙しくて楽しいとマリアンヌは満足していた。

アランはすくすくと育ち、添い寝をするマリアンヌがベッドから落とされることもある。


「ねえアン。そろそろアランにも個室を与えないと教育上良くないと思わない?」


「そうかしら・・・」


「家庭教師も付けなきゃだし。私としてはもう一人か二人子供も欲しいし」


「子供ですか?」


「うん。だってダニエルのところの女の子、めちゃくちゃ可愛かったじゃない」


「確かに・・・あの子はきっととんでもない美人さんになると思うわ」


「次の子供だって絶対美人だと思うんだ」


「次って・・・ルフ?好きな方でもできたのかしら?」


「えっ!はぁぁ〜まだそこで止まってるの?これだけアプローチしても?言葉で理解するのではなく、心で感じてって言ってるでしょ?まだ足りない?」


「いえいえ、ルフの愛には胸やけしてるけど・・・でも私はまだ恋に落ちてはいないというか・・・恋を経験していないというか?・・・」


「恋?だったら僕と恋をしようよ。なんならいますぐ告白させて!そうしたら真面目に考えてくれるかな?」


「告白ですか・・・されたことは無いですね」


「いやいや・・・気づいてないだけで、私だけでも百回はしたけどね」


ルドルフは徐に跪いてマリアンヌの手を握った。


「何度も何度も言ってきたけど、大好きだよマリアンヌ。心から愛しているんだ。君がいない人生なんて無味無臭だ。どうか私の手を取って、この愛に応えてくれないか?絶対に後悔はさせないと誓うよ」


「あら!私・・・いま少しだけドキドキしましたわ」


「そう?嬉しいな。じゃあ続けるね。アンが欲しいものはなんでも手に入れて見せる。君が望むなら夜空の星さえね。君のすべての指を皇后だって持っていないほど大きなダイヤで飾ることもできるよ。行きたいところならどこでも連れていく。ドレスだって王都中の店を・・・あれ?マリアンヌ?」


「あらあら・・・どうしたのかしら。顔が赤くなってきましたわ・・・それに心臓が・・・やっぱり不整脈かしら・・・それとも食あたり?」


「どう?少しは響いた?」


「・・・・どうでしょう?響いては・・・ない?」


「じゃあどうして顔を赤らめたのさ」


「あまりにもあからさまで、聞いていて恥ずかしかったっていうのが一番近いかしら」


「照れたのかな?」


「そうかもしれません?」


「でも僕の愛は響いてない・・・」


「申し訳ございませんが」


「いや・・・いいんだ・・・当然の結果さ・・・これで次に進めるよ」


「どういう意味ですの?」


「彼らと・・・子爵邸でケニーとダニエルと一晩中話しただろ?用意してもらった肴を摘まみながら、たくさん吞んでたくさん話した。あんなにしゃべったのは初めての経験だったよ。彼らが持っている君への想いは、私では比にならないほど深いって思い知ったんだ。彼らは本当に君を大切に思っている。もちろん彼女たちもね」


「そうですか・・・そんなことが・・・」


「君は愛されているね。羨ましいと思ったよ」


「ありがたいですわ」


「そこで男同士の約束をしたんだ。もう一度だけ心からの告白をするって。それでダメならきっぱり諦める。受け入れられるまでは絶対に手は出さない。それを彼らは許してくれたんだ・・・あんな酷いことをして、君に愛をささやく資格なんて無いのに・・・彼らは許してくれたんだよ」


「そこまで酷いことをされた自覚は無いのですが?」


「世間的には万死をもって償うほどの鬼畜の所業だよ。君だから流してくれただけ」


「なるほど・・・」


「ずっと前に愛は沁みるものだって言ったの覚えてる?」


「ええ、もちろん」


「ケニーがね、君に愛は沁みないって言ったんだ」


「私には?」


「うん。彼が言うにはね、君はあまりにも辛い経験を経て心をコーティングしたんだろうって。石に水は沁み込まないだろう?だから石を潤すためには、水を流し続けるしかないんだって・・・雨だれは石を穿つだけだって言われたよ」


「なるほど・・・」


「動けない石は気まぐれに落ちてくる水滴に晒されて穴が開いていく。果たして石がそれを良しとするだろうかってね・・・ケニーは凄いね」


「そうですわね。雨だれでは石を傷つけているだけですわ」


「うん。それを彼らは根気よく説いてくれた。でも諦めきれないって言ったら・・・撃沈してこいって。思う存分口説いてダメなら諦めてくれと頼まれた。しかもチャンスは一回だ」


「ラストチャンスが先ほどの?」


「そういうこと。もしこの約束を違えたら、私はオスカーに毒を盛られ、ダニエルに刺されて、ケニーに海に捨てられる運命だってさ!でも彼らは本気だったからね」


「恐ろしい会話ですわ」


「でも本気には本気で応えないと・・・だから私は約束を守る。君を諦める。でも・・・ひとつだけ・・・お願いがあるんだ」


「なんですの?」


「友達のままではいてほしい」


「ええ、もちろん。あなたは今までも、これからもずっと私のお友達ですわ」


「ありがとうマリアンヌ。改めてこれからもよろしく頼むよ」


「こちらこそ・・・でも、アランの母は続けてもよろしくて?」


「願ったり叶ったりだね!でも、もしもこの先、君が愛する人と出会ったら言ってね?」


「ええ、その時にはご相談申し上げますわ。それにしても・・・そんなお話をなさっていたのなら、この前おっしゃった新しい扉ってなんですの?」


「ははは!あれはわざと言ったんだ。面白かった?ウケると思ったんだけど・・・あれはね、男と女は友達のままでいられるかって話になってね。最初私は無理だと言ったんだけど、彼らと話すうちに可能かもしれないって思えた。それが私にとっての新しい扉だね。だって友人になれる対象が一気に倍になったんだよ?すごいと思わない?」


「なんだか・・・違うことを想像して・・・違う意味で不安になりましたわ・・・」


「ごめんごめん!でもそれくらい私にとっては衝撃的なことだった。開眼した気分だな」


「そうですか。それで?新しい扉を開いたご感想は?」


「うん。なんと言うか・・・清々しいかな。でもまだ・・・今はちょっと辛い」


「そうですか・・・」


「でも大丈夫だ。時間が解決するよ。失恋から立ち直るには、恋愛したのと同じ時間が必要だって教えてもらった。それから・・・これからのことだけど、君の希望を最優先したいと思う。マリアンヌ、君はどういう立ち位置を望んでいるの?」


「私は今のままが一番です。とても居心地が良いですわ。まあ、保険として今のところはという一言もつけさせていただきますが」


「なるほど。では今まで通り仲の良い夫婦でいようか。まさに君が言った夫婦ごっこだね。これはこれで、なかなかに心地よいし。もちろんもう口説いたりしないし」


「お仕事的にもその方がよろしいですわ。でも私はアランの母親役はごっこではありませんの。そこはご理解くださいませね?」


「本当にありがたいよ」


「そろそろ家庭教師を付けなくてはいけませんね。探してみますわ」


「うん。頼むよ。さあ、君が出ていきたくなるその日まで、私たちは仲良し夫婦だ。そして君とアランは生涯親子で、私は生涯の友だ。それでいいね?」


マリアンヌは満面の笑みで頷いた。

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― 新着の感想 ―
ふう。やっとルドルフ劇場が終幕か。 どうしてもヤツの口説きが気持ち悪くて苦痛だったので。。。
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