21 契約継続の条件ですか?
一人で拳を握り鼻の穴を膨らませているルドルフを見ながら、マリアンヌが冷静な声で言う。
「では契約内容の変更をしますか?」
再びケニーとイリーナが爆笑した。
「さすがだマリアンヌ・・・君の強さが大好きだ!」
ケニーが涙を指先で拭きながら言った。
「契約ってどのような内容でしたの?」
イリーナが真面目な顔でルドルフの顔を見た。
「う・・・私の黒歴史が・・・暴かれてしまう」
マリアンヌが苦い顔で呟くルドルフをサクッと無視して淡々と応えた。
「とても良い条件だったわ」
マリアンヌがワンド侯爵家に入った日に聞かされた内容をすらすらと述べると、ルドルフの体がどんどん小さくなっていった。
イリーナが真剣に頷きながら聞き終えて言った。
「なるほどね。ホントに良い条件だわね。マリアンヌの希望通りじゃない」
「おいおい・・・イリーナ嬢もそっち側の人間か?」
ルドルフがぽかんとした顔で問う。
ケニーがイリーナの代わりに答えた。
「そうですね、この二人は似た思考回路でしょうね。まあ、僕もそこそこ似てるかな」
「そ・・・そうなのか?なんだか・・・孤独だ」
ルドルフがぽつりと言う。
ケニーが慌ててフォローした。
「大丈夫です!間違いなくルドルフ様の方がノーマルですから。それに、それほど愛する人と出会えたってことですから!あぁぁぁ・・・そんなに落ち込まないで下さい」
「いや・・・無理だ。味方がいない・・・地味に傷つく」
わざとらしく落ち込むルドルフを見て三人が笑った。
イリーナがニコニコしながらマリアンヌに言う。
「契約内容の変更ってことよね?どう変更になるの?」
「具体的な内容はまだ通達されていないわ。でもリリベルに関する項目はマルッと削除になるでしょうし・・・後は特に変更するべき箇所は無いかと思うのだけれど」
「いや!あるぞ!絶対にある!というか、通達とか言わないでくれよマリアンヌ。あまりにビジネスライクだ」
「?・・・ビジネスですが?」
「う・・・だから・・・それを変えようと・・・」
「あら、完全な巻き直しですか?そうですわね・・・後継者問題も解決でしょう?必要な夜会にも同伴されていますし、領地経営も順調ですわよ?どこが問題なのでしょう」
「あるだろう?夫婦としてやり直したいんだから、一番大事なところが」
ルドルフが力説する。
「?????」
マリアンヌは本当に分からないという顔で小首をかしげた。
ケニーはプッと吹き出し、イリーナは呆れた顔をしている。
ルドルフは赤面しながら声高に叫んだ。
「白い結婚っていうところだよ。私はマリアンヌと夫婦になりたい!」
「すでに夫婦ですが?」
「だ・・・だから・・・本当の・・・夫婦」
「本当の?家族にせよ夫婦にせよ、本当とか偽物とか・・・難しいわねぇ」
ケニーがルドルフの背中を再びぽんぽんと摩った。
「ルドルフ様・・・心より哀悼の意を・・・」
「ケニー・・・どうすれば通じるのだろうか」
「そうですねぇ・・・多少時間は必要でしょうね。それより最初からサクッとやり直したほうが早いかもしれません」
「最初から?」
「ええ、まずは告白からですね・・・ぷっ・・・すみません・・・笑ってしまいました」
「ルドルフ様、私も心よりご同情申し上げますわ・・・マリアンヌはもう少し男女の機微を勉強する必要があるわよ?」
「男女の機微ですか・・・」
ケニーが笑いながら顔の前で手をひらひらと振る。
「イリーナ、それ以前だよ。マリアンヌはもう少し他人に興味を持とうね?」
「興味?なるほど・・・確かに興味は無いですね」
ルドルフが目を見開いた。
イリーナがマリアンヌに真面目な顔で言う。
「学院時代を思い出してみれば?私たちはとても濃密な時間を過ごしたんじゃないの?あの頃のあなたは私にもケニーにも心を寄せてくれていたわよ?もちろんダニエルにもララにもオスカーにもね。私たちが困っているとあなたはそれを察して助けてくれた。そういうことよ。私たちは確かに信頼し合い、お互いを尊重し合ったわ」
「なるほど!分かったわ!ありがとう二人とも」
ルドルフがパッと顔を上げた。
その顔は期待で輝いている。
マリアンヌが頬を紅潮させて力強く宣言した。
「ルドルフ!お友達になりましょう!」
ケニーとイリーナはその場で崩れ落ち、ルドルフはソファーからずり落ちた。




