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17 それを言っちゃあおしまいです

それからの数か月間、同じようなことが繰り返された。

故意か偶然か、見事なほどすれ違うかつての相思相愛カップルにマリアンヌはもちろん、使用人たちも戸惑っていた。

最初のひと月はお互いに気まずそうな雰囲気を醸していたが、今では何食わぬ顔で無視することもあるほど拗れてしまっている。

仕事の面白さに目覚めたとはいえ、ルドルフの出張が増えた理由は推して知るべしというところだ。


「困ったわね・・・一番の被害者はアランよね」


執務机に座るマリアンヌの言葉に執事長のロバートが頷いた。


「由緒あるワンド侯爵家のご嫡男であらせられるアラン様の出自を、ご当主本人が疑われるとは・・・前途多難ですな」


「本当に・・・でもアランってルドルフに似てると思わない?」


「ええ、本当に似ておられます。笑ったお顔などご主人様に生き写しですな」


「でもルドルフは認めないのよね?」


「というより、アラン様のお顔をまともに見てはおられませんな」


「赤子の髪を染めるわけにもいかないし・・・」


「対外的に申せば、奥様のお色だったことは僥倖なのですけれどね」


「ああ、確かにそうね。でもそれで二人の仲が壊れたのでは・・・私が嫁いで来た意味が無いわね」


「何をおっしゃいますやら!ワンド侯爵家が上手く回っているのも、ご主人さまがお仕事に目覚められたのも全て奥様のお力ですよ?」


「仕事に関しては・・・そうね、良かったけれど・・・夜会も仕事仲間の三人で行っちゃうし・・・リリベルがかわいそう」


「ああ、ケニー殿とイリーナ様ですね?ケニー殿はもちろんですが、イリーナ様も素晴らしい手腕をお持ちだと、ご主人様が大絶賛されておりました」


「ええ、イリーナは本当に素晴らしい女性よ。決断力もあるし社交術も一級品だし。ケニーがやり手と認める数少ない人だもの。彼女が縫製工房を立ち上げていなければ、今のワンド侯爵家の繫栄は無かったわ」


「その通りでございます。しかしそれも奥様がケニー殿とイリーナ様のご学友だったご縁です。やはり奥様のお陰でございますよ」


「ありがとう。それにしてもリリベルはなぜアランにあまり関わろうとしないのかしら?」


「おそらくそれが愛人という立場を甘受されたリリベル様の覚悟でございましょう」


「覚悟?」


「はい。アラン様は当家のご嫡男でございます。しかしリリベル様を母親だと認めると妾腹となりますからな。継承権は消滅いたします。リリベル様はご主人とご自身の子供を、次期当主にするために覚悟を決められたのだと思います」


「なるほど・・・覚悟ね・・・では私も覚悟を決めなくてはいけないということね?」


「左様でございます」


二人が遠い目をして窓の外を見ていた時、廊下からメイド達の声が聞こえてきた。

仕事中の噂話を注意しようと振り返ったロバートをマリアンヌが止めた。

口の前で人差し指を立て気配を消す二人。


「そうそう・・・昨日も呼んでおられたわ」


「また宝石商でしょう?最近はドレスには見向きもされないわね。宝石ばかり買って」


「夜会に同伴されないのだもの。新しいドレスはいらないでしょう?それにしても、いったいどれくらい使っているのかしら。ご主人様も奥様もよく文句を言われないものだわ」


「それなんだけど、出ていく準備なんじゃないかって噂を聞いたわ」


「出ていく?」


「金目のものを持って出ていく準備だってことよ」


「まさか!あの人って一生愛人で良いからってここに住んでるんでしょう?」


「でもすっかり冷めちゃってるじゃない」


「それにしても・・・アラン様は?」


「そりゃおいていくに決まってるわ。まだ若いもの、次の男を見つけるには邪魔だわ」


「なんだかなぁ〜。いちゃいちゃされるのもウザかったけど、今は・・・なんと言うか・・・痛いのよね」


「うんうん、わかるぅぅ~」


「でもさ、出ていくならやっぱりあの方とじゃない?」


「きゃぁぁぁ〜!あれって本当なの?」


マリアンヌとロバートが顔を見合わせた。

メイド達はおしゃべりの花を咲かせ続ける。


「司書の方でしょ?ヘッセ様。だってリリベル様って字も読めないのに、このところいつも図書室にいるじゃない?怪しいわよね」


「あの方って伯爵家の三男でしょ?爵位は継げないからいずれ平民になるってこと?」


「それにしてもリリベル様の好みって分かり易いわよね~。ヘッセ様も黒髪黒瞳、ご主人様と同い年だし見た目も雰囲気もよく似てるし」


「きゃははは〜。美人は得よね〜。見初めた男は必ず落とせるんだもの」


「ホントホント~」


声が遠ざかっていく。

マリアンヌはどっと疲れを感じた。


「奥様・・・後ほどきつく言っておきますので」


「ああ・・・そうね・・・まあほどほどにね。それにしても信憑性はあるのかしら」


「メイドの戯言でしょう。どうかお気になさらず」


「でも・・・もしリリベルがここを出たいと思っているなら・・・」


「お止めになりますか?」


「どうすればいいのかしら・・・」


「私も気にしておきますので。それより奥様、ケニー殿からの手紙はどのような?」


「ああそうなのよ!それを相談しようと思って来てもらったのに・・・」


マリアンヌは机の引き出しを開けて、今朝届いたケニーからの手紙をロバートに見せた。

内容は新しい商品の提案で、今度は薬草の栽培と薬膳食はどうかと書いてある。

このところ王都では胃痛を訴える患者が多く、薬草が不足しているところに目を付けたのだろう。

すでに数年前から栽培を始めており、すぐにでも商品化できるとのことだ。


「素晴らしい提案ではありませんか?薬草を使った料理とは・・・ケニー殿は多才ですな」


「そうね、着眼点が素晴らしいわね。きっとオスカーを巻き込むつもりだわ」


「その方もご学友ですか?」


「ええ、そうよ。ケニーは社交的だけれど、心から信用した人間でなければ組まないわ。オスカーも数少ないその一人よ」


「それなら大船に乗ったようなものですな」


「そうね、信頼できるわ。でもそうなると忙しくなるわね・・・オーガニックドレスのショップはルドルフに任せることになるから、私が動かなくては」


「それこそ奥様のご希望通りではありませんか」


「そうだけど・・・アランが可哀そうだわ」


「お連れになってはいかがです?専用のメイドと護衛をご用意いたします」


「リリベルが許すかしら?」


「おそらく」


執事長がすました顔で頷いた。

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