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13-2

マリアンヌは二人をしっかり見つめ返しながら少し強めの声で言った。


「父親であるリック・ルーランド伯爵は黒髪で黒い瞳、母親であるハンナ・ルーランド元伯爵夫人はピンクブロンドのブルーアイですわ」


マリアンヌは敢えてゆっくりと二人の顔を見回した。


「私達と同じ?」


「ええ、リリベル。あなた方と同じです」


マリアンヌは冷めてしまった紅茶をグイッと飲み干し、お代わりを頼んだ。

メイドが新しい紅茶を注ぎ終わるまで三人は黙っていた。

リリベルが独り言のように言う。


「それでマリアンヌのお母様は不貞を疑われたのね・・・お可哀そうに・・・」


「ええ。でもまあ、うちの場合は父親であるルーランド伯爵が戦地に赴いて三か月後に妊娠が判り、帰る前に産まれたという最悪のパターンでしたから」


リリベルは小さく溜息を吐いた。


「確かに最悪ね・・・でもたったそれだけで不貞を疑うもの?愛し合っていたのでしょう?信じられないわ!」


ルドルフが苦虫を嚙みつぶしたような表情でフイッと横を向いた。


「私が伯爵の腕に抱かれたのは、ご帰還になって初めて私を見た時だけですので、二人が本当に愛し合っていたかは判断いたしかねますが、家令やメイド達の話では相思相愛だったそうですわ」


「お母様はさぞお辛かったでしょうね・・・」


「母がどう考えていたのか・・・でも私が生まれて二年と経たないうちに、現在の奥様との間にお子を授かっていらっしゃいますので、推して知るべしというところでしょうか」


「それはまた・・・」


「母はその原因となった私を遠ざける様になり、伯爵は帰ってこず・・・その後、伯爵は二人のお子に恵まれたのですわ。お二人とも伯爵そっくりの黒髪で黒曜石のような瞳だったと記憶しております。まあ上の男の子が二度、下の女の子は一度だけチラッと見かけただけですのでお顔立ちまでは覚えておりません」


「伯爵が家を出られたのね・・・そうよね。妻妾同居なんてあり得ないわよね」


ルドルフがボソッと言った。


「それを言うなら・・・うちは妻妾同居だと世間は思っているよ」


リリベルが唇を嚙みしめた。

マリアンヌが淡々と続ける。


「リリベルの言う通り、同じ屋敷に母と伯爵ご一家が一緒に住むことはありませんでした。母が亡くなってから引っ越してこられたのです」


「じゃあマリアンヌは一緒に住んでいたの?」


「はい、半年だけですが。伯爵は屋敷を改装され、私のスペースとご一家のスペースを完全に分断されましたし、ご一家のどなたにも出会うことの無いように厳命されました。そしてお子様たちには銀色の髪の子供を見たら幽霊だからすぐに退治してやると教えておられましたわ。それがマリアンヌ幽霊説の真相ですの」


「ひどい・・・」


あまりの内容に侯爵はもちろん、リリベルも執事もメイド達も驚いた。


「先ほどの妻妾同居という件ですが、私にはそういう認識はございません。あくまでもワンド侯爵が愛するのはリリベルただ一人。私は正妻という呼び名の秘書だと認識しております」


「でも・・・」


それ以上言葉にできず、リリベルが俯く。


「それで相違ございませんでしょう?ルドルフ・ワンド侯爵様?」


名を呼ばれたルドルフの肩がビクッと跳ねた。


「あ・・・ああ・・・そうだね」


リリベルが辛そうに返事をしたルドルフの顔を上目遣いに見た。

ルドルフはリリベルの視線から逃げて、呟くように言った。


「マリアンヌの言わんとすることは理解したよ。確かにマリアンヌのケースと私たちのケースはとても共通点があるようだ・・・リリベル、疑ってしまったのは事実だ。本当に申し訳なかった・・・しかし、私の気持ちもわかってほしい。少し時間をくれないか?名前はすでに考えてあるんだ」


「名前・・・なに?」


「アラン。アラン・ワンドだ」


「・・・アラン・・・素敵ね」


「リリベル!すまないが気持ちを整理する時間が欲しい。アランは・・・私の子なのだろう?それを納得する努力を・・・」


「努力ですって?ルド!あなたっ・・・」


立ち上がろうとするリリベルにマリアンヌが走り寄った。


「リリベル・・・落ち着いて」


「え?ああ・・・そうだったわね・・・ありがとうマリアンヌ」


リリベルの背中をなでながらマリアンヌは何事もないように言う。


「リリベルの体が回復するまでの間は、マナーハウスで過ごすのですから、お互いに気持ち良く暮らしましょうよ。リリベルは子育てがあるでしょうし、ルドルフと私は商品開発や学校建設などで多忙を極めるはずです。それぞれが為すべきことを為す。それだけです」


「わかった・・・」


「わかったわ・・・」


納得はできないが他に手は無いのだ。

それは二人ともわかっていたのでマリアンヌの提案を受け入れた。

侍従が来客を知らせるために食堂に入ってきた。

絶妙なタイミングでの来客にマリアンヌはホッと息を吐いた。

近くに控えていたメイドを呼び、リリベルを部屋に連れて行かせる。

じっとテーブルを睨んでいるルドルフを促し、マリアンヌは応接室に移動した。

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