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13 よくあるお話だったのですね

ルドルフに抱き上げられた赤子を見たマリアンヌは小さな溜息を吐いた。


(今のルドルフの顔って・・・初めて私を見た時のルーランド伯爵と同じなのでしょうね)


「可愛いでしょう?ルド、早く名前を付けてやって・・・ルド?」


リリベルが不思議そうな顔で戸惑うルドルフを見ている。

マリアンヌは初手を間違えると第二の自分を誕生させてしまうと思い、少し慌てて口を開いた。


「ホントに可愛い赤ちゃんだわ。目元がルドルフにそっくり!」


(少しわざとらしかったかしら・・・)


「そうでしょう?私もそう思うの。ルドはどう思う?」


リリベルにはマリアンヌの焦りが伝わっていない。


「あ・・・ああ・・・そうかな・・・似てる?かな?」


「まあルドったら!照れてるの?本当に愛おしい人。ねぇ早く名前をお願いね」


「ああ、分かったよ・・・私が名付けてもいいのかな・・・」


「ルド?当たり前じゃないの。名付けはお父さんの仕事でしょ?」


「そうか・・・お父さんのね・・・少し時間をくれるかい?それに・・・ああ、そうだ。長旅で汚れているからね。着替えてくるよ」


ルドルフはベビーベッドに赤子を戻し、ふらつきながら部屋を出た。

残されたマリアンヌはリリベルにどう話すべきか考えた。


「どうしたのかしらルドったら。予想していた反応とは違っていたわ。ねえマリアンヌ、旅行中に何かあったの?」


マリアンヌは慌てて返事をする。


「いいえ、旅行中は何もなかったわ。ただ・・・」


「なあに?」


「ごめんねリリベル。大事なことだと思うからはっきり言うね。ルドルフは赤ちゃんの髪の色と目の色に戸惑っているんだと思う・・・」


「色?自分とは違うから?そんなことで?」


「あるのよ。私がそうだったでしょ?」


「あっ!・・・じゃあルドは私の不貞を疑った?まさか・・・」


「それは本人じゃないと判らないけれど・・・その可能性は高いと思う」


「マリアンヌ、それは考えすぎよ。だって私たちはこんなにも愛し合っているのよ?それにあの人は片時も私のそばを離れなかったのよ?不貞を犯す時間なんて・・・」


「そうよね。でも・・・リリベル、これからどんな事があっても心を強く持ってね。私はそういう経験が無いけれど、男の人って実際に妊娠するわけでも産むわけでも無いから、見た目に惑わされるのかもしれない。私の父、ルーランド伯爵のようにね」


「そんな!愛したことも愛されたこともないあなたに何がわかるっていうのよ!妊娠したのはあなたではなく私だわ!」


「そうね、その通りよ」


「あっ・・・ごめんなさい・・・マリアンヌ・・・違うの・・・ごめん・・・ごめん」


「いいのよ、リリベル。私は可能性の話をしただけなの。わたしこそ体が辛いときにこんな言い方しかできなくて・・・ごめんね」


リリベルはベッドの上で顔を覆って泣き出した。

マリアンヌはその背中を優しくなでた。


「夕食の後にでも私からも話してみるね」


泣きじゃくり肩を震わせるリリベルからの返事は無い。

マリアンヌは静かに部屋を出た。

夕食の席にはルドルフもリリベルも来なかった。

広く長いテーブルに一人で座るマリアンヌ。


「これは個別面談が必要な案件ですわね」


黙々とステーキを頬張りながらマリアンヌは鼻の穴を膨らませた。

ガシガシとステーキを切りながらマリアンヌはふと考えた。

そもそもなぜ親と違う色を持った子供が生まれるのだろう。

私と二人の赤ちゃんの共通点から探れば、何か糸口が見つかるかもしれない。

そう考えたマリアンヌは、最も信頼できる友人に手紙を書こうと決心した。


翌日の朝食の席には二人とも顔を出した。

早朝からマリアンヌとマナーハウスの執事長であるマリウスが何度も誘った成果だ。

重苦しい沈黙の中、食器が触れ合う音だけが響く。

二人は会話もなく目も合わせない。

マリアンヌは食器を下げさせて紅茶を頼んだ。

ゆっくりと香りを楽しんだ後、口をつけて唇を湿らせる。

カップをソーサーに戻して大きく息を吸い込んだマリアンヌ。


「私のパターンは珍しいと思っておりましたが、よくある話だったのですね」


二人は驚いてマリアンヌを見た。


「私の髪色をルドルフは神様からの贈り物だと言ってくださいました。覚えておられますか?」


「・・・ああ、君を初めて見た時の言葉だね」


「ええ、ずっとこの髪と目の色のために幽霊として生きてきた私にとって、それはそれは嬉しいお言葉だったのです」


「そうか、喜んでくれていたのか・・・君はなかなか表情が乏しいから余計なことを言ってしまったのかと思っていた」


「私の表情が乏しいのは認めます。でもルドルフ、私がなぜ幽霊として存在せねばならなかったのかはご存じでは?」


「それは・・・伯爵が自分の子ではないと・・・」


「そうです。母の不貞を疑ったのです。ルーランド伯爵は私のことをどこかの馬の骨の子と呼んでおられましたわ。私は一度も名前で呼ばれたことがございません」


「えっ!そこまで?」


「ええ」


「それは・・・もし仮にそうだとしても酷い話だな」


「ええ・・・ルドルフはルーランド伯爵と面識はございますの?」


「一度だけだな。といっても挨拶を交わした程度で、あまり記憶にないのだが。伯爵は必要以外の夜会には出席しない人だったよね。あの時以外で出会ったことは無いはずだ。君との婚姻は友人が持ってきた話だったし、そいつが仲介してくれて、話はすぐに纏まったから、それ以上会う必要も無かったしね」


「なるほど・・・では伯爵ご夫妻の髪色とかは記憶に無いのですね?」


「ああ・・・確か伯爵は私と同じだったような?違う?夫人は確か・・・金髪?」


「まあ!素晴らしい記憶力ですわ!たった一度挨拶を交わしただけなのに。さすがですわ。金髪のご婦人は伯爵の後妻ですわね」


「ははは・・・人の顔と名前を覚えるのは得意なんだ。でも申し訳ないが夫人の顔は記憶にないな。伯爵夫人はどんな方だったの?」


「申し訳ございません。ルーランド伯爵夫人のお顔は存じ上げておりません。一度だけ遠目に垣間見た事がございますが、赤みがかった金髪だったとしか分かりませんわ」


「会ったことないの?そりゃなかなか壮絶だね。でも彼女は会いたがらなかったの?」


「ええ一度も。私を産んだ母はピンクブロンドのブルーアイでしたわ」


マリアンヌの言葉にリリベルがハッと顔を上げて言った。

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